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山スキー・日本オートルート(立山~薬師岳~双六岳~槍ヶ岳)
荻原 健一

山行日 2017年4月30日~5月6日
メンバー (L)荻原、永岡、古屋

 2013年のGWは薬師岳周辺の山スキー、2014年GWは双六岳周辺スキー、2015年GWは剱岳周辺スキー、そしてちょっと強引だが2004年は北鎌尾根から槍ヶ岳(もちろんツボ足)を登った。これらの山域を全部繋いで一度にやってしまおうというのが日本版オートルートで雪山技術、スキー技術、そしてなんと言っても体力が必要な総合力が問われる上級山岳スキールートだ。また以前と違って五色ヶ原の小屋も双六の小屋(冬期小屋は開放)もやっていないのでテント装備は必携でハードルは更に高くなった。4月の越後駒ヶ岳での訓練スキー山行ではメンバーにツエルトビバーク体験をして貰い軽量化の方法も探ったが、過去の経験からGWの北アルプスは最低一度はブリザードのような天候に見舞われるので、その日とツエルトビバークの日が重なるとちょっと大変なことになるなと考え直しテントも持っていくことにした。後から思えば、この判断が今回のルート完登成功に繋がるポイントであった。

【4月30日】晴れ終日西風強し
 室堂より一ノ越へ向かう。一ノ越山荘付近は人だらけだ。大半の人が東一ノ越からタンボ平への滑降または御山谷から黒部ダムまでの滑降の人達でオートルート方面へ向かうのは我々の他は単独スキーヤー1名のみだ。まずは我々も御山谷を2,500m付近まで滑降し龍王岳と鬼岳のコルまでシールで登り返す。ここは龍王岳からの雪崩が怖いところだが、前日(29日)に降った新雪が歩いている間にも流れてくる始末。状態はすこぶる悪い。そそくさと通過しコルから鬼岳への山頂を目指す。山頂から標高で20mくらい低い所をスキーで横切ろうとすると既に雪崩れた後である。山頂には人が数名おりデブリの下にも人がいる。先頭の人が山頂から滑降した際に雪崩を誘発。そのまま人ごと流されたようだが幸い埋まらず二番目以降はもう大丈夫ということで雪崩れた場所を滑っている。彼らはそのまま御前谷へと滑って行った。室堂から直接鬼岳に登り御前谷経由黒部ダムへと降りる日帰り組のようだ。我々もここをさっさと通過し獅子岳の登りに入る。ここはクトーだと滑落しそうだったのでスキーを背負いアイゼンで登る。西風がものすごく強い。獅子岳山頂からはザラ峠に向けて一気にスキー滑降ができるところだが私が先頭で滑り出すと幅30mくらい長さ200m以上の雪崩を誘発してしまう。今日は本当に雪の状態が悪い。怖くなって登山道沿いに戻りツボ足で降りる。ザラ峠まで降りると先ほどツボ足で降りたところが今度は自然誘発で雪崩れていた。ザラ峠からは少々のシール登行で五色が原だ。山荘(営業していない。冬期小屋の開放もなし)の横にテントを張らせて貰い本日は終了となる。

【5月1日】終日吹雪
 早朝より終日吹雪となり沈殿。

【5月2日】晴れ
 昨夜は天候の回復が遅れて心配したが、本日未明から天気は回復。2時過ぎに起きて外に出ると満天の星空で一安心。4時には出られる状態だったが明るくなる4時半を待って出発する。
夜明けの五色ヶ原  鳶山をシールで登り山頂からはスキー滑降。コルからまたシールを張り直し越中沢岳へシールで登り返し。山頂からはしばらく滑れるがやがて岩稜帯となりスキーを担いでアイゼンで下降する。オートルートは登降スタイルがどんどん変わるのでその準備だけでもとにかく忙しい。スゴの頭の手前のコルからはスゴ乗越へ向けてトラバース気味に滑る記録をよく見かけるが、ラインが分からず嵌まると大変なことになるのでそのままスキーを担いでスゴの頭へ登り返す。頭を越えて少し降りると南側がおいしい斜面になっているのでスキーを降ろして南側から西側へ回り込むように滑り込みスゴ乗越へ。本日一番の滑走であった。ここからスゴ乗越小屋までは1時間ほどかかる。アップダウンや細い尾根の通過に思った以上に時間がかかってしまう。スゴ乗越小屋から間山までは緩やかだが長い長い登りとなる。気温も上がって来て全員暑さでバテ気味だ。水も足りなくなり途中で雪に火をかけて補給する。間山から北薬師岳までもまだまだ遠い。この登りで参ってしまった記録をたくさん見たが、我々もご多分に漏れずヘロヘロになりながら登っていく。北薬師岳にようやく着くも疲れた体と心に薬師岳は遥か遠くに見える。
 夏のコースタイムの倍以上をかけて薬師岳に辿り着く。時間は18時、もたもたしていると太郎平小屋に着く前に暗くなってしまう。っていうか確実に暗くなる。せめて薬師峠まで明るいうちに滑ればシールの登りはヘッデンでも大丈夫!ということで急いで滑走の準備に入る。残念なことに薬師平付近で暗くなってしまうが、このあたりの地形はある程度頭に入っているので問題なく薬師峠に滑り降りる。ここから少々の登り返しでようやく太郎平小屋に到着。時間はなんと20時だった。本日の行程は夏コースでたっぷり2日分だがスキーでもやっぱり長い。

薬師岳への最後の登りようやく辿り着いた薬師岳山頂

【5月3日】晴れ
 今日も天気は終日良い予報なので本来なら黒部五郎岳、双六岳を越えて双六小屋まで行きたいところだが、昨日の疲れもあるのでここで無理をして槍ヶ岳をあきらめるようなことだけは避けたいと思い持久戦に切り替える。在京のコボさんに最終下山日を一日遅らせる連絡を入れる。と、いうことで今日は黒部五郎小屋までなので楽チンだ。朝もゆっくり出発し北ノ俣岳までシールでのんびり上がる。今日も景色は最高!昨日と違い時間に追われることもないので最高のGW山行を満喫する。トラバース滑走を終えて黒部五郎岳への登りにかかる頃にトラブル発生。KGのビンディングが壊れてしまい踵が固定できないとのこと。滑走時に支障はあるものの続行不能なトラブルとまでは言えないので気を取り直して進むことにする。山頂直下で傾斜がきつくなったのでアイゼン歩行に切り替える。山頂直下の肩からカールに飛び込むのだが、その前に私と古屋さんは山頂を往復して来る。KGはツボ足での下降となるので一足先にカールの下降に入る。その間に別の3人パーティーがKGと我々2名の間に入る。今日も雪の状態が不安定だ。KGが下降中に別パーティーの先頭から滑走しても良いかと声がかかるが、スキーで上を横切るのは危険な状態だったため、KGが待ってくれと返答する。それに対し「ではしばらく待ってます」とのやりとりがあったが、数分すると我慢できなくなったらしく滑り始めてしまう。我々から見えるところではなかったが、滑走直後に先頭の人が「やばい、流された」と大きい声を上げ一瞬頭が真っ白になる。先頭メンバーと2,3番手のメンバーが無線でやりとりをしてすぐにKGの無事を伝えてきたので少し安心したが早くKGの顔が見たい。ようやく順番が回ってきてカールに飛び込み傾斜の落ちたところでKGに再会する。自分の目で無事を確認できてようやく心から安堵する。幸い怪我もなかったがポールの片方やサングラス、手袋なども紛失。聞いたところでは最低50mは流されたとのこと。デブリの端っこに巻き込まれたため埋まらなかったが、少しでも位置がずれていたらとても助からなかっただろう。下に人がいる時にスキーで横切るのがタブーなのは基本中の基本。ましてや雪の状態が不安定で下の人が待ってくれと言っているのに待たないのは言語道断。先方の誠意が伝わったのとこちらも怪我がなかったのでその場限りとしたが、十分気をつけて貰いたい。
 その後はカールの底をトラバース気味に滑って黒部五郎小屋へ。途中、小屋からも雪崩で人が流された様子が見えたようで心配して向ってきてくれた方がおり、人の温かさに感謝する。

黒部五郎カールの雪崩跡

【5月4日】晴れ
 今日も楽勝行程というかほとんど休養日に近いので朝はゆっくり。昨日の今日なので結果的にもこの予定で良かった。三俣蓮華岳、双六岳からの雄大な景色を満喫しながら楽しい会話が尽きない。KGは片方が木のポール、ビンディングも片方が固定できない状態だったが、シール登りやスキー滑走への支障はそれほどでも無く明日以降の目途も立ち収穫の多い日であった。

【5月5日】晴れ
 今日はこの山行の雌雄を決する勝負の日だ。天気は下り坂(6日は最悪とのこと)で午前中までしか持たないとの情報もあったことから夜明けとなる4時半出発とする。昨日はたっぷり休んでいるので全員元気いっぱいだ。西鎌尾根は雪の付き方によっては簡単な雪稜くらいだと思っていた方が良いとの記録もあったが、雪の状態はすこぶる良く特に難所となる場所もなく順調に通過していく。
 アップダウンを繰り返し、やがて千丈乗越に到着し最後の急登へ。ここも傾斜の強いところは踏み跡がバケツ状態で安心して登って行ける。槍ヶ岳山荘でザックを降ろし、ついに感動のフィナーレとなる槍ヶ岳山頂に到着。

夜明けの西鎌尾根感動のフィナーレとなる槍ヶ岳山頂

 ここまで長かった。トラブルもいろいろあった。でも仲間と天気に助けられて初志貫徹、日本オートルートの完全踏破を成し遂げることができた。一人じゃ無理だった。仲間と協力して時には助けられて成し遂げられたというのが最近はとても嬉しいのだ。年をとったのかな?
 山頂での握手会を終え、槍沢からのちょっと重い雪と気の抜けないデブリランドを通過して槍沢ロッヂ小屋へ。

槍沢の滑降

【5月6日】雨
 今日は予報通り、朝から雨。でもここまでくればもう大丈夫。横尾、徳沢、上高地ともう何度通ったか数え切れないいつもの道を通ってこの素晴らしい山行も終了となる。

〈コースタイム〉
【4月30日】 室堂(9:30) → 五色ヶ原(16:30)
【5月1日】 停滞
【5月2日】 幕場(4:30) → 薬師岳(18:00) → 太郎平小屋(20:00)
【5月3日】 小屋(7:30) → 黒部五郎岳(13:30) → 黒部五郎小屋(15:00)
【5月4日】 小屋(7:00) → 三俣蓮華岳(9:30) → 途中大休止あり → 双六小屋(12:00)
【5月5日】 小屋(4:30) → 槍ヶ岳(11:50) → 槍沢ロッヂ(14:45)
【5月6日】 小屋 → 上高地(記録なし)

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