トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ354号目次

雪洞訓練・谷川岳
内田 優生
山行日 2017年3月11日~12日
メンバー (L)内田、金子、小幡、青木、竹中、千葉(朋)、別所、高木、澤野、佐藤、天城、権、(Cheさん)、(Leeさん)

 会に所属して8年になるが、雪洞訓練は1度しか経験がなかった。自身の風邪でドタキャンしたり、東日本大震災で中止になったりで、結局は1度だけ武能岳の麓で雪洞を掘ったきりになっていた。ここ1~2年で入った会員に参加してもらいたくて例会として出したところ、意外にもベテラン会員の参加率が高く、さらには韓国から3名が参加となり、結果老若男女で掘って掘って掘りまくる山行になった。通常韓国隊との交流登山は10月に行われていたが、雪洞訓練に参加したいという希望が先方からあったようで、急きょ雪洞訓練が交流登山を兼ねることになった。

 土曜の朝、9時前に水上駅に集合した。私は韓国隊の3名と共に青春18きっぷで水上を目指した。ほぼ始発だったので、前日到着したばかりの韓国隊の皆さんは疲れも取れず非常に眠そうだった。さらにこの先待ち受けているのは春麗らかな稜線歩きではなく、風雪の中の過酷な肉体労働なのだ。本当にこれでいいの?と言いたくなるがもう遅い。全員集合してバスで谷川岳ロープウェイ駅に向かう。
 到着したロビーは人で溢れかえっていた。ロープウェイの切符を買い求める長蛇の列に代表してKGが並びようやく20分後、チケットを入手した。荷物券を同時に購入することを忘れたり、人によっては片道切符のところ、往復になったりと若干の混乱はあったものの、10時半にはロープウェイに乗り、天神平に到着した。天神平はスキーヤーとスノーボーダーで溢れかえっていた。こんなに人気のコースだったとは・・・この山では山屋がマイノリティだ。人ごみから脱出すべく我々はアイゼンを着けて熊穴沢避難小屋を目指した。アキラさん、KGと千葉ちゃんはスキーを履き「雪洞ができたころに合流するよ~」と勝手な事を言って白銀の世界に消えていった。
 12時前には熊穴沢避難小屋に到着した。そのころには天気が微妙に下り坂に変わってきていた。小屋はほぼ雪に埋没していた。雪洞は急坂じゃないとダメなんだという金子さんの助言のもと、小屋の南の急斜面を10メートルほど下ったいわお新道の東側に当たりをつけ、皆でいっせいにザクザク掘り始めた。かなりの急斜面なので、まず自分が掘っている間に落ちないように足場を掘り固めて安定させる。雪洞は2つ掘ることにした。雪はたんまりあるので、大きめの雪洞2つでも崩落の心配はないと判断した。30~40分ほど堀り進め、ようやく穴の先端に1人収まるくらいのスペースができたところで、ブルーシート登場。
掘った雪をブルーシートに乗せていくのがコツ  ここからは掘った雪をブルーシートに乗せ、後続がブルーシートの雪を運び出し、斜面の下に投げすてるという作業が始まった。1時間ほど経ったところで、先端には2人ほど作業ができるスペースができた。そして2時間も経つころには3人でも悠々と中で作業ができるほどのスペースができ上がった。自分の担当した雪洞では、スノーソーとスコップでひたすら切り込んで行く掘削隊と、後ろでブルーシートの雪を処理する搬出隊をローテーションでまわしたが、隣の男組(なぜか男女別れてしまった!)は掘削隊(澤野、竹中、小幡、権)は1度入ったら永遠に洞窟からから出してもらえず?搬出隊の金子隊長が、雪洞の入口で脱走する掘削労働者がいないか終始監視していた。「ローテしないんですか?」と聞いてみると、「うちは先発が最後まで完投するスタイルだから」と訳の分からない事を言っていた。
 作業を始めて4時間ほど経ったころ、女性組&KG,Cheさん&Leeさんの雪洞は完成した。隣の男組の雪洞は我々のものより大きく立派で完成しているように見えたが、それでも作業をやめることなく、国家プロジェクトを背負った労働者のように?皆憑りつかれて作業をしていた。あちらの雪洞を担当しなくてよかったと心底思い、早速チビチビと宴会を始めた。外は吹雪いていたが中に入ると静かで暖かかった。とは言え入口付近は雪が吹き込んでくるので、2つの雪洞を中でつなげて、片方の入口は外からブロックで固めてしまった。後で聞いたところ、隣の入り口が開いたままの雪洞はやはり寒かったらしい。火を焚いて少しあったまりホッとしたころ、CheさんとLeeさんから雪洞が当初考えていたよりはるかに大変だったという感想が漏れた。もっと簡単に掘れるかまくらのようなロマンティックなものを想像していたのかな? まさかここにきて炭鉱労働者の扱いを受けるとは思っていなかったのかもしれない。しかし苦楽を共にした労働者同士で同じ釜の飯を食べ酒を酌み交わすと、今日もいい日だったな~としみじみと充実感に浸ることができた。

4時間の労働後ようやく一息つく、奥は隣の雪洞キャンドルスタンドもつけてほっこり

韓国隊との記念撮影  翌朝、雪洞をバックに日韓交流の記念撮影をしてそれぞれ出発した。3名はスキーで下降。数名は谷川岳を登頂することなく、天神平へと来た道を下っていった。ただ穴掘りのためだけに来てくれたのだ。ご苦労様でした。
 残りメンバーで谷川岳へ向かった。途中スキーヤーやボーダーも続々と上がっていくのが見えた。この山はすっかりBC(バックカントリー)スキーヤ―やボーダーの場所になったなと感じたが、それでも危険であることにかわりはない。 前日、雪洞を掘っているときも、ヘリコプターがすぐ上を旋回していた。BCの人数が増えた分、きっと事故も多いのだろう。
 オキノ耳に登頂したのが9時半。頂上からは東尾根に張り付いている雪稜隊が見えた。最後の稜線に上る直前の雪庇が絵のように見えた。そこを切り崩して稜線に一人があがり、後続が列をなして続々と急登をラッセルして上がっている。圧巻だった。あー。来年行きたいな~。ひとしきり写真を撮り景色を堪能した後、西黒尾根を下っていった。下り始めてすぐマチガ沢に綺麗なシュプールが見えた。こんな急な斜面をスキーで!? まさにエクストリーム系だ。正気の沙汰とは思えない。でも見てみたい!と思ったが残念ながらドロップポイントに猛者はおらず跡しか残っていなかった。 西黒尾根はところどころ急で雪山に不慣れな韓国隊2名にはちと厳しかったと思う。よく頑張って歩いてくれました。
 久々の雪洞訓練は雪洞堀の大変さと雪山歩きの楽しさ両方をみっちり堪能した山行となった。

西黒尾根を下る面々
〈コースタイム〉
【3月11日】 天神平(10:30) → 熊穴沢避難小屋(11:50) → 雪洞堀(12:00~16:00)
【3月12日】 雪洞(8:00) → 谷川岳頂上(トマノ耳)(9:30~9:45) → 谷川岳ロープウェイ駅(13:30)

トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ354号目次