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縦走・月山
渡辺 智世

山行日 2017年6月17日~18日
メンバー (L)高木、飯塚、内田、渡辺(智)

 どんよりとした空模様の関東地方を抜け出し、梅雨入り前の月山へ、女子4名で向かった。この時期の月山は夏スキーの聖地として知られているが、東北有数の花の宝庫でもある。今年は殊のほか残雪が多く、雪解け直後の短い期間にしか見ることのできない花々と存分に戯れ、採れたての山菜に舌鼓を打つことのできた至福の山行になった。

 前夜21時30分、東川口駅に集合。一路、東北自動車道を走り、深夜24時40分、国見SAに到着。3名はテントにて仮眠。リーダーの高木さんは、今回の山行を最後に手放すことになったナディアに車中泊。20年もの長きに渡って山行を共にされた愛車との数々の思い出を胸に一夜をすごされたに違いない。

【6月17日(土) 晴れ】
見ごろを迎えたサンカヨウ(山荷葉)の花  まぶしい朝日に照らされて5時30分起床。6時00分、国見SAを出発。山形自動車道西川ICを降り、途中で朝食を調達して7時45分に本道寺登山口のある口之宮湯殿山神社駐車場に到着。8時05分、神社で登山の安全を祈って歩き始めた。
 やさしいピンク色のタニウツギの花咲く林道をしばらく進み小さな指導標に従って山道に入ると、早速、リーダーの足が止まった。ミツバだ。摘み採ると良い香りがする。早くもザックに、ひとつ目の袋がぶら下がった。そして、近くにはズダヤクシュの花も咲いている。これから先、さまざまな花に出会えそうな予感で心が高鳴った。
 登山道を囲むブナの森は、とても美しく豊かだ。期待どおり、コケイラン、オオバキスミレ、サンカヨウ、ギンラン、チゴユリ、クルマムグラ、ホウチャクソウ、ユキザサ、エンレイソウ、ミヤマカタバミなど、次々に可憐な花が姿を見せ、中低木のサラサドウダンやオオカメノキも花盛りだった。
ヤマウドを見つけてニッコリ!  そして、ネマガリタケ、ヤマウド、タラの芽、コシアブラ、ヤマブドウの若芽、ニワトコ、コゴミ、ユキザサなど山菜はもちろん、エノキダケ、ヌメリツバタケと茸も現れ、行程の三分の一も進まないうちに4人のザックには複数の袋が揺れることになった。
今年は残雪が多いようでした  標高1,000mを超えると藪のあちこちに残雪が見え始めた。すると突然、大きく厚い雪渓が私たちの行く手を阻んだ。一体どこを通れば安全なのだろう。ここで足を滑らせようものなら深い谷底に真っ逆さまだ。でも進むしかない。軽アイゼンを装着した。
 まずリーダーが、雪の急斜面に取り付いてステップを切ってくれた。残雪は硬い部分やグズグズした箇所が混ざりあって、なかなか厄介だ。谷側をのぞき込んだら足が竦んで動けなくなりそうだったので、視線を進行方向と足元に集中させ慎重に歩いた。既に時刻は12時。ようやく行程の半分に差しかかったところだった。これから更に残雪は増えるだろう。この調子で果たして小屋に辿り着けるのだろうか。この時、リーダーの脳裏には、ビバークの四文字も浮かんでいたそうだ。
 そんなヒヤヒヤ、ドキドキのトラバースが、その後も何度かあったが、断続する緊張のあい間に花や山菜が現れ、ホッと気持ちを和ませてくれた。
優雅なシラネアオイ(白根葵)の花  標高が上がると植物の種類も一変。足の踏み場がないほど登山道にあふれ咲くカタクリ、シラネアオイ、ショウジョウバカマ、ツバメオモト、ミツバオウレン、ツクバネソウ、アカモノ、マイヅルソウ、ハクサンチドリ、ツマトリソウ、イワカガミ、ミズバショウ。花が現れる度に「熊鈴いらないね!」と言われるほど高い歓声を上げたのは言うまでもない(私だけ?)。
 そして、ギョウジャニンニクの群生も発見。あるある、いっぱいある。あっちにも、こっちにも。時間が押していることもすっかり忘れ荷物を放りだして収穫した(4人とも)。
 重さの増したザックを背に、その後も雪たっぷりの斜面を登り続けた。スリリングなトラバースがなくなると景色を楽しむ余裕も生まれ、残雪で描き出された斑模様や遠くの峰々に目を遊ばせた。

折り重なる山々を眺める谷底までつづく深い残雪

清川行人小屋が見えました  16時30分、標高1,450m、森林限界に近い分岐をすぎると、ようやく清川行人小屋の屋根が見えた。よかった。何とか明るいうちに到着できそうだ。最後のトラバース。気を抜かずに進んだ。
 清川行人小屋(1,387.4m)は内部に炊事場とトイレが完備された、石積み暖炉のある二階建ての山小屋だ。シーズン前で炊事場の蛇口は使えなかったものの小屋の脇には冷たく美味しい水が豊富に出ていた。早速、その水で山菜を洗い、飲み物を冷やし、夕食の準備に取りかかった。
 リーダーが慣れた手さばきで最初にふるまってくれたのは、ヤマウドの刺身。酢味噌でいただいた。歯ごたえ、香り、甘み、瑞々しさが混ざりあって、まるで果物のようだ。次はユキザサとベーコンのソテー。トウモロコシのような良い香り。続いてギョウジャニンニクのソテー。強い芳香が食欲をそそる。そして、いよいよ初めて体験する山上での天ぷらだ。まずはネマガリタケ。う~ん美味しい。サクサクほくほくだ。続いてヤマウド。火を通すと食感が変わり、これまた美味。そして、コシアブラ。もう止まらない。同宿になった山スキーのソロ男性もお誘いし、賑やかに語らいながら次々に揚がる天ぷらをほおばり、山菜炒飯で豪華フルコースは締めとなった。
 その夜、空を見上げれば満天の星。大自然に抱かれている幸せ。流れ星に翌日の無事登頂を祈ってシュラフに潜りこんだ。

【6月18日(日) 晴れ】
一晩お世話になった清川行人小屋  5時00分起床。小屋備え付けの毛布を借りてポカポカ暖かく熟睡できたためか良い目覚めだ。前夜、星空の覗いていた高窓は少しずつ明るさを増していった。
 朝食は前日収穫したエノキダケ、ヌメリツバタケの雑炊だ。青味にたっぷりミツバを投入し、山の恵みいっぱいの食事を楽しんだ。そして、片付けと掃除をすませ、地元の方々の尽力により維持管理されている快適な山小屋に感謝し、管理協力費を納めて、7時17分に出発した。
向かい側の山々を望む  最初は雪の急斜面を直登。標高1,450m辺りから少しトラバース気味に進み、標高1,500mを越えた地点からは、再び真っ直ぐに山頂を目指した。
 小屋を出てから小一時間ほど経った緩斜面で小休憩。ふと、ようこちゃんの足元に目をやると、入手したばかりの四本爪アイゼンが両足共に明後日の方を向いている。本人曰く「効き目が良く分からないと思っていたら、案の定、こんなことになっていたのね。これならツボ足で充分」と早々に取り外していた。

残雪の斜面を快調に登る残雪の斜面を快調に登る

可憐なハクサンイチゲ(白山一華)  その後、更に1時間ほど登りつづけただろうか。突然、視界が開け、そこはハクサンイチゲとミヤマキンポウゲ、ミネズオウの広大な花畑だった。そして、その奥には山頂の月山神社本宮も見えていた。
 10時00分、開山前ではあったが月山神社を参拝。山頂からは雲海に浮かぶ鳥海山、神室山、朝日連峰など東北の名峰を眺めることができた。
山頂からは360度の大展望を楽しみました  大展望の広がる山頂を立ち去るのは名残り惜しかったが、姥沢口から本数の限られた西川町営の路線バスに乗らなければならないので、10時15分下山を開始。ここからはリフトで登って来た多くの登山客やスキーヤーとすれ違った。
 標高1,750m付近から尾根筋を離れ、雪の大斜面をぐんぐん下った。樹林帯まで辿り着き、雪の下から木道が所どころ現れるようになると、沢の浅瀬にリュウキンカの花も顔を見せていた。
雪の大斜面を下りました  しばらく足元の悪いトラバースを繰り返し、木立を出たり入ったりしながら高度を下げてゆくと建物が垣間見えた。姥沢口は間もなくだ。ここまで来たら何としても12時20分発のバスに乗りたい。これを逃すと次の便は2時間後になってしまう。腕時計に目をやると残り時間は僅か。ここで若いゆうきちゃんがトップに躍り出た。そして、バス停までラストスパート。発車2分前、ダッシュした甲斐あって、四人揃って無事バスに乗り込むことができた。そして、約30分の道のりを揺れるシートに身を任せ、スタート地点の口之宮湯殿山神社駐車場へと戻った。
無事ストックを回収しウイニングラン!  この後すぐに、ゆうきちゃんがバスのなかにストックを置き忘れたことに気づき、取り戻すために、バス折り返し地点のインターチェンジで町営バスを待ち伏せするという騒動も起こったが、見事に回収でき一安心。最後に西川町老人福祉センター内の海味(かいしゅう)温泉うなぎ湯にて汗を流し、帰京の途についた。

 こうして、夢のような山旅は終わった。三峰最強の女子3名と共に過ごした二日間は心強く安心感いっぱいで、身も心も踊るように楽しかった。そして、東北の山の豊かさに改めて魅了された。
 素晴らしいメンバー、そして、素敵な山に感謝。

〈コースタイム〉
【6月17日】 本道寺口之宮湯殿山神社(08:05) → 姥像(10:43) → 清川行人小屋(16:51)
【6月18日】 清川行人小屋(07:17) → 月山神社本宮(10:00-10:18) → 牛首下(11:07) → 姥沢口(12:18)

〈参考〉
清川行人小屋 宿泊協力金 一人1,000円
海味(かいしゅう)温泉うなぎ湯 200円
山形県西村山郡西川町海味437-2
西川町老人福祉センター内


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