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沢登り・尿前川本沢
内田 優生

山行日 2017年7月15日~17日
メンバー (L)内田、金子、荻原、紺野、永岡、津田、成田

 ここ数年、7月の連休は普段の土日の2日間だけでは行けない山にチャレンジしているが、梅雨明け直前で大抵天気に恵まれたことがない。むしろ3日間降り続けてくれれば諦めもつくのだが、大抵下山日や帰京する日に快晴という歯がゆいパターンが続いている気がする。とはいうものの僅かな望みにかけて今年も遠方、東北の沢にチャレンジすることになった。尿前沢の話は箭内さんから聞いていていつか行ってみたいと思っていた。焼石岳にも登ってみたかったので調度いいと思い例会にしてみると、人数制限をかけていなかったこともあり、あれよという間にメンバー7名が集まった。結果的にはそんなに易しい沢ではなかったので、本来なら2-3人でスピーディに抜けるのが定石なのだろう。

 金曜の夜は車を2台に分け、国見SAで仮眠をした。翌朝さらに3時間近く走り、中沼登山口から入山した。登山口までの尿前林道は道もガタガタで、どこまで行くの?というくらい長く感じたが実際には20分程度しか走ってはいなかったと思う。駐車場につくと車の数に驚いてしまった。我々が駐車場に着いたのは8時半を過ぎているので無理もない。ここで準備をして9時過ぎに出発した。45分ほど登山道を歩くと、尿前沢にぶつかり10時にようやく入渓となった。天気はいつ崩れてもおかしくない予報だったが、なんとかもってくれて時おり青空も顔を覗かせていた。40分ほど歩くとフロ沢が左から流れ込み、その直後万円沢を右に分け、目指す尿前沢本沢に足を踏み入れた。
フロ沢出合。右岸には焚き火のあと。  6mの小滝を念のためロープを出して水流右壁を登る。その後も小滝や釜が連続するが軽快に歩くことができた。12時頃、1つ目の関門である三ツ折り滝に到着した。パッと見は左岸のスラブを登って行けそうに見えるが、このルートを取ると最後のトラバースで進退窮まるという記録を事前に目にしていたので、先人の記録に従い少し戻り右岸を高巻く。なるべく小さく巻こうと決めていて、少し登っては落ち口を探るが、どうにも降りられそうにない。結局さらに高巻いて緩やかな落ち口を探しながらロープを出さずに降りられるとこまで降りてみる。これ以上は懸垂じゃないと厳しいというポイントで荻原さんが30メートルのロープ1本で懸垂で降りていった。ロープはギリギリ届いていた。絶妙な距離での懸垂下降はさすがベテラン! この高巻きにおよそ1時間を要した。
 その直後に現れた右に折れた10mの滝は左岸から巻いた。4名は10m滝の落ち口まで手前の数メートルと滝の右岸壁をよじ登り、その後10m滝の左岸を巻いて行き、残り3名はだいぶ手前の左岸をロープを出して一気に巻いて登っていった。最後は合流し樹林に入り滝の落ち口ジャストに降りることができた。
 ゴルジュを抜けたところで1本取り、また気を取り直し歩きはじめるとすぐに第二関門の大滝が目の前に現れた。想像通りの迫力だ。

10mの滝は左岸を高巻く迫力の大滝

大滝トラバース  時計は既に14時をまわっていた。ここは右岸のガレ場を登って行く。石を落とさないように気を付けてはいるものの、まぁ見事にガレガレなのでほぼ不可能に近い。「ラーク!」の声がこだまする中、なんとか高度を上げ適当なところでトラバースポイントを探す。荻原さんに「どうする?うっちーリードする?」と聞かれたが自分の実力を鑑みて素直に辞退させて頂いた。そしてここのトラバースでやっぱり素直に50mロープ持って来ればよかったな~と後悔することになった。ロープを繋げたものの結び目が支点を通らず、リードが最終ポイントに到着する前に、2番手が出発し結び目を通さなくてはロープが伸びないというちょっとマヌケな事態に陥ってしまった。反省。全員がトラバースを終えたところで、30mロープを2本繋いで懸垂で滝の落ち口ジャストに降りた。
堰堤のような滝の奥に見える東焼岳  その真上にある10mの滝は見た目よりホールドが豊富でロープを出さずに登ることができた。この大滝の高巻きに約2時間を費やしてしまった。7人いるのでまあ仕方ないでしょう。沢はその後再度小滝や釜が連続するゴルジュ帯となり、1日目の睡眠不足の疲れた身体には、小さな高巻きですらジワジワとボディブローのように効いてくる。日もいよいよ傾き始め、そろそろ濡れたくないなと誰もが感じ始めた頃、釜のへつりで今回唯一のフェルト靴を履いた紺ちゃんがドボンした。チーン。フェルトの宿命ですね。時計も17時をまわり、いい幕場があれば是非行動終了としたいが、この沢はなかなか幕場となる場所が少ない。その後も滑滝が出てきたりと全く休ませてくれない。8mの堰堤のような滝は右から巻いた。
 その手前に高台があり、遠目からは幕場となり得る地形に見えたが、上って見ると微妙に湿地帯で、寝ている間の浸水は免れそうにないのでNGとする。一部メンバーに明らかな疲れが見え始め、浸水してもいいからここで休みたい!というクレージーな意見も出た。しかし、どうせ今日中に夫婦滝は越えられないのだから、あと進むにしても1時間程度なので、その間で1番ベストな幕場を選びたいというリーダー判断で、再び全員でゾンビのように幕場探しの遡行を再開する。18時直前に夫婦滝のすぐ手前の左岸に狭いが割と平な場所を発見。水面1m上がった草付で、これを皆で踏んで寝かせるとフカフカでいい幕場となった。となると後の心配は焚き火のみ。とにかく岸というものがないので、今宵の焚き火はほぼ諦めかけていたが、なーんだ、中州があるじゃないか~という事で急きょ大滑の中州は暖炉付きダイニングルームと変貌を遂げた。三峰の、というか人間の火を求める欲求ってスゴイと素直に感動。

夫婦滝と右から釜を持った滝が出合う夫婦滝手前の幕場と中州の宴会場

 中州はさえぎるものがないので、快晴ならば満点の星が楽しめるが、ほろ酔い状態の疲れた身体で寝床の岸までの渡渉を考えると、もちろんおススメはできない。ましてや焚き火の横でウトウトした人を取り残していくなんて厳禁です。

夫婦滝水流の左壁を登る荻原さん  翌朝、天気は下り坂。6時に幕場を出発。すぐに夫婦滝に取りつく。明け方からのシトシト雨ですっかり岩肌は濡れている。記録にある通り、水流の左壁を登るが最初の5mくらいが厳しい。荻原さんがハーケンを1枚打ち、さらにその上にある残置されたハーケンで気休めの支点を取り、左壁にある滝の落ち口から1m下の強固な支点までロープを伸ばす。30mロープでギリギリの距離だった。その後全員登り切るまでに2時間を要した。
 その後40mの大滑を越えると、二俣手前の9mのくの字の滝が現れる。直登の記録もあったがどうみても水量が平水時より多いので、左岸からロープを出して高巻いた。

夫婦滝の後の滑滝二俣手前の最後の滝

 高巻きを終えて再び沢に戻ると上部から上は雪渓に覆われていた。軽アイゼンやチェーンスパイクを付けて雪渓の上を歩く。二俣もこの時期は雪渓に覆われていた。二俣を左に入り沢筋がどんどんと細くなり、細枝のアーチに覆われ始めて歩きづらくなったころ、突如一般登山道に合流した。11時半頃登山道で沢装備を解き、荻原さんと私のみ焼石岳頂上を目指し、残りメンバーは一足先に下山した。山頂は展望ゼロの大荒れで顔にあたる雨つぶが小石のように感じた。晴天で是非この景色を眺めたかったが、それはまた今度の機会とする。先行メンバーを待たせているので、下山は飛ぶように降りたが、銀名水小屋は一応チェックして銀名水も一口頂いた。上沼や中沼の風景も素晴らしかった。また晴れている時に再訪したい。中沼登山口には14時に到着した。その後焼石クアパークひめかゆのお風呂に浸かり、つぶ沼キャンプ場のバンガローで盛大に宴会をした。自分の中では計画・実行を含め、リーダーとして反省点は多いが、いいメンバーに恵まれ最高の沢登りができた事に心から感謝したい。

〈コースタイム〉
【7月15日】 中沼登山口発(9:05) → 尿前沢入渓(10:00) → フロ沢出合(10:40) → 三ツ折り滝着(11:55~13:00) → 大滝(14:10~16:20) → 夫婦滝手前の幕場(17:50)
【7月16日】 夫婦滝(6:00~8:20) → 滑滝(9:00) → 二俣(10:40) → 登山道(11:30) → 中沼登山口(14:00)

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