トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ355号目次

集中山行・谷川岳
その3 沢登り&縦走・仙ノ倉谷東ゼン
内田 優生

山行日 2017年9月23日~24日
メンバー (L)内田、齊藤(慈)、津田

 前夜土合駅に到着すると既に三峰隊数パーティがちゃぶ台まで持ち込みひっそりと宴会していた。隣で仮眠していた男性に3回うるさいと注意され、ようやく2時頃就寝。

【9月23日】
 翌朝下りの始発8時34分に乗り、土樽駅で下車して9時前から歩き始めた。平標新道のアプローチは長く退屈で早々に飽きてしまった。群大ヒュッテの正面にある石橋で1回休憩を取り、大根下シ沢に着いたのは11時20分頃だった。歩き始めたときは小さな青空が覗いていたが、入渓の頃には天気は下り坂に変わっていた。あまり時間に余裕がないことは初めからわかっていたので、のんびりせずサクサクと歩き始める。1時間ほどで西ゼン出合に到着。
 その後右に屈曲する15メートルの滝が現れる。遡行図によると「右壁の外傾したバンドを斜上」とあるが、事前に読んだ記録では滝のすぐそばまで行き直登するか、滝をくぐり右岸側のガレを登る方が簡単らしい。ただこの頃から霧も漂い始め激しいシャワークライムは極力避けたかったので、遡行図にある通りバンドを斜上するルートを選択する。最初の数メートルは手掛かりが乏しく緊張を強いられる。

右から中ゼンが出合う奥に60m大滝を望む

 ここは無事突破して、間もなく60メートル大滝にたどり着いた。ここがこの沢の核心である。まずロープが30mということもあり、安全に上れるところまで右壁を上がる。傾斜が急になったところで、ロープを出して流芯に向かって斜上していく。上がりきると大きな門柱のようなのっぺりした岩に阻まれる。門柱を直登するか右の灌木帯方向に3mほど外傾して濡れたバンドをトラバースして上がるか散々迷う。手がかりは門柱の方がありそうだが、間違いなくヘビーシャワークライムだ。右側の灌木帯は手がかりがあるのかわからず、30mのロープが屈曲して足りなくなることが心配だった。どちらのルートを取るか踏ん切りがつかず、かの有名なヒロタさんがブログでここが核心だったと書いていた外傾バンドを、何往復もして結局門柱を直登した。ここを上がるとあと1段目の終了点まで5mというところでロープが終わってしまった。ここで支点を取り2人をむかえ、そのままラストの齊藤さんに先頭で行ってもらった。
 1段目の終わりまでほんの5mほどだと考えていたが、いつまでたってもロープがずりずり上がっていく。あいにくビレーしている位置から上が見えないので、状況が全く分からない。何度も笛を吹くが全く反応がない。そのうちにロープがピタっと止まったので、支点を取ったと判断して津田ちゃんに2番手で上がってもらう。滝のすぐ脇なので、お互い笛を吹いても聞こえないことが容易に想像できた。既にロープの末端は自分で結んであったので、津田ちゃんが上に着いた時点でロープを引き上げてほしいとお願いして送り出す。しかしまたしても、待てども待てどもロープが引き上げられない。たった30mなのに上で何が起きているんだろう?と不思議に思い、寒さから来る震えにも耐えられなくなったので、ロープを回収しながら歩き始めると、間もなく津田ちゃんが左岸の高巻きで悪戦苦闘しているのが見えた。2段目の滝は対岸に渡り左壁から取りつくとどの記録にもあるので、このルート間違ってないかい?!と思ったが、もう既にロープは左岸の藪をだいぶ上がっている。仕方なく自分も続き、密藪と格闘してなんとか齊藤さんの元まで行く。齊藤さん曰く遡行図の示す通り、滝の左壁に取りつこうと試みたものの、ハーケンも見当たらず濡れていたので、右の藪に逃げたというだった。うーん。せめて1段目の終了点のバンドで一緒に確認したかったなーと思ったが、このような状況ではリードの判断に従う他ない。その後、末端のロープをそのまま自分が引き藪を抜けて落ち口のトラバースポイントまで辿りついた頃には既に16時半近くになっていた。マズイ!と焦る気持ちを抑え、とにかくまだ日が出ている間に連爆帯を抜けることに集中する。しかしやはり心に余裕がなかったのか、地図で確認したにも関わらず三ノ字沢に入り込んでしまう。ここで日暮れ前の貴重な30分を失い、改めて連爆帯に取りつく。このころからビバーク地を探しながら歩くが適当な場所が見当たらない。増水には耐えらそうにない水流脇に1畳ほどのスペースを見つける。今晩から晴天の予報だし、最悪ここでもいいかと心が動いたが、やはりはやる気持ちを抑えきれず、この滝さえ乗っ越せば後はゴーロになり、もっと快適なビバーク地が見つかるかもしれないと都合のいい方に考えてしまう。しかしそのたびに裏切られ滝を登り切るとまた別の滝が現れる。連爆帯の後半にさしかかった頃、遂にタイムアウトで完全に日が暮れてしまった。無理なら懸垂で降りて先ほど見た1畳ほどのビバーク地まで戻ろうと考えていたが、戻るにも懸垂できる木も確かな灌木もなかった。万事休す。考えが甘すぎたのだ。ここまで刻一刻と暗くなっていく沢で精神的に追い詰められていたが、もう日も暮れ辺りも真っ暗になり、急ぐ理由もなくなった。大きく深呼吸して気持ちを切り替え、ヘッデンを最大級の明るさに灯して、あとはゆっくりでもいいから丁寧に凹凸を拾い確実な足場を確保してトラバースするのみだった。ゆっくり確実に今ある中で一番安全なルートを取ることだけに注力して進んでいく。1時間ほどヘッデン高巻きトラバースを続けると、ようやくゴーロ帯に突入した。そこからさらに40分ほど歩いていくと、突如齊藤さんがゴーロ帯の脇の樹林の中に(標高1,615mあたり)天国のようなビバーク地を発見。尾根レベルでは幕場の体をなしていないが、この状況下ではまさに天国そのものだった。傾斜のある狭いスペースになんとか2~3テンを張りようやく暖を取ることができた。キビシイ1日だったが、テントに入りガスを焚くと無事に夜をむかえられたことに心底ホッとした。その後もテント内では熱湯が入ったコッヘルがひっくり返ったり、ポールが折れてテントが崩壊したり、まぁ色々とあったがそれまでの道を思うとたいしたことでもないので割愛する。

【9月24日】
 翌朝、6時に出発する。特に危ないところもなく順調に高度を稼ぐ。最後のツメは何通りもある中で、なるべく仙ノ倉に直接つめ上げるルートを選んだつもりだったが、わずかに逸れて仙ノ倉北尾根に乗っかった。頂上に到着した頃には8時20分をまわっていた。
紅葉に染まった源頭部の藪漕ぎ  ここから肩の小屋までコースタイムで6時間。当初はコースタイムなんて縮められると高をくくっていたが、徐々に荷物が肩に食い込み、昨日からの疲労も溜まりどうにもペースが上がらない。これは集中には間に合わないな~と半ば諦めながら後半に差し掛かったところで、赤谷川本谷パーティが詰めてくるであろう谷を確認する。既に今頃は肩の小屋だろうなと思いつつ、モノは試しで「モートー!」と叫んでみると、なんと進行方向の尾根の先からモートーコールが返ってきた! 目を凝らすとKGらしき人の影がこちらに向かって手を振っている!集中を半ば諦めていたので、せめて1パーティと集中できたことがものすごく嬉しかった。赤谷川パーティと合流後、一緒に肩の小屋を目指す。肩の小屋に近づくと三峰隊の5~6名がこちらに向かい手を振り声援を送ってくれていた。皆が待ってくれていたことが心底嬉しかった。ラストスパートが効いたのか、なんとか25分ほどの遅れで肩の小屋に到着した。無事全員が到着すると明さんからスイカのご褒美が振る舞われた。まさに至福のひと時だった。今回のルートは自分としては軽く考えていたが、やはり計画が甘かったのだろう。メンバーの2人には不安な思いをさせてしまい申し訳なく思った。最近ようやく沢にも慣れてきてどこか慢心していたのだと思う。また初心に返り謙虚に山に向きあおうと決意を新たにしました。皆様本当にお疲れ様でした!

〈コースタイム〉
【9月23日】 土樽駅(9:00) → 大根下シ沢(11:20~11:50) → 西ゼン出合(12:50) → 大滝(14:00~16:30) → 三ノ字沢(17:10~17:4) → 標高1,615m(19:30)
【9月24日】 標高1,615m(6:00) → 仙ノ倉頂上(8:20~8:50) → 肩の小屋(14:25)

トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ355号目次