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沢登り・金木戸川双六谷~九郎右衛門谷
内田 優生

山行日 2017年8月11日~15日
メンバー (L)内田 、永岡、荻原、古屋

【8月11日 】曇り後雨
崩落した林道の立派な迂回路  昨年の9月に双六谷本谷を計画したが、沢は直前の大雨で大増水となっており、あえなく入渓15分で敗退となった。今年はまだ行ったことのない黒部五郎に直接つめ上げる九郎右衛門谷を選択した。昨年の敗退メンバーに加え超強力メンバーの荻原さんが加わってくれ、もう成功したも同じものと呑気に構えていたら、直前で長寿台風の5号がノロノロと北上し、北アルプスにそれなりの雨をもたらしてくれた。金木戸ゲートまでの道すがら車中から眺める川はいたって穏やかで、増水とは無縁のように見えていた。登山口のゲートは車で溢れかえっていた。昨年は我々のみの入渓だったが、今年は相当数のパーティが双六谷に入っているようだった。途中林道が落石により崩壊していて迂回路が作られていた。
 昨年は広河原まで余裕で工事関係者の車が入っていたが、今年は道理で車が少ないはずだと納得。迂回路は快適に整備されていてとても歩きやすかった。広河原まで向かう途中、自然落石が発生しKGの数メートル先を岩が飛んでいったらしい(汗)無事でよかった。ようやく河原に降りられたのは16時を過ぎた頃だった。入渓ポイント対岸の吊り橋の下あたりを幕場に考えていたものの、先行パーティに既に取られてしまっているのではと気がかりだったが、特等席は無傷で残っていた。やった! ここに来るまで3パーティが引き返してきていた。増水と予期せぬ?泳ぎで敗退との事だった。昨年よりはだいぶ水位が低く、これが平水なんだろうと思っていたが、どうやらそもそも比べるものが間違っていたらしい。今回タープではなくテントを持ってきていたので、早速設営し焚き火を熾し軽量化で量を押さえたなけなしの酒をチビチビやり始めた。服が乾くくらい火が大きくなった頃ポツポツと雨が降り始め、無視して焚き火を囲んでいたら土砂降りになった。慌ててテントに逃げ込み宴会の続きをしたが、寝不足で疲れていたので、8時半頃にはお開きになった。

吊り橋の下の幕場、対岸には別パーティの幕場

【8月12日】雨後曇り
ロープ渡渉を繰り返して進む  5時過ぎに起床してのんびり朝の支度を整えていると、昨晩我々より遅くに幕場に到着したパーティも対岸で優雅に火を熾しており急ぐ気配は全くない。よもや彼らのパーティの中にも1週間の休みを取り、他メンバーのスケジュールも考慮せず、できるだけ沢にいたい!とワガママな主張をする輩がいるのか?と思ったが、どうやら敗退の決断をしたのでゆっくりしていたようだった。我々が出発する頃には来た道を引き返していった。そして、果敢に挑んで行った2人組パーティもやはり30分後には戻って来た。どうやら泳がずには突破できないようなので今回は諦めるようだ。昨日に引き続き、今日も朝一番から敗退パーティが続き、この先進めるのだろうか?と若干不安になった。対岸に渡り水線通しに進むことが困難ならばと、我々は幕を張った左岸をそのまま高巻き激流を越えようと試みた。吊り橋から踏み跡も辿れたので、もしかしたら激流時はこの道を巻いて越えるのかもしれないと考えたのだ。しかし30-40m上がったところで突如踏み跡は消えしてしまい、下を見ても懸垂で降りたところで、激流渡渉ポイントの真ん中に降りるのみで高巻く意味もないように見える。出だしから約45分を失いスゴスゴと幕場まで戻り、ここで泳ぎとスクラム渡渉の意志を固めた(といっても私がするわけでないが)。いざ対岸に渡り、右岸から入渓し進んでいくと、あれ?どこが敗退ポイントだったんだろう?というくらいあっけなく打込谷出合に着いてしまった。昨年はほとんど水面下に隠れていた飛び石も今年は出ているし、これはやはり行けるかも!?と気分が高揚した。打込谷出合は、左岸に幕場になる場所が広くはないが確保されており、焚き火の跡も残されていた。打込谷出合を過ぎても水量は減る気配もなく攻撃的な水流が続いていた。出合を過ぎて間もなく、本沢初めてのロープ渡渉が待ち受けていた。ここを末端交換三角法という渡渉方法で越えた。3人以上の時に有効な方法のようだ。まず安定感抜群のKGが渡渉して後続はその後直接ロープにカラビナを通し、さらに折り返してダブルとなったロープを掴みながら渡っていく方法で私には初めての渡渉方法だった。最後の渡渉者は対岸に渡ったビレーヤーが若干上流に移動して振り子で渡った。最も精通した荻原さんがテキパキと指示を出してくれたので助かったが、私を含め他メンバーは経験不足と勉強不足?で若干プロセスが曖昧な感じだった。
 午前中は予報通り天気が悪く、時折激しい雨に降られながら、その後もスクラム渡渉と数回のロープ渡渉を繰り返した。今シーズン初のスクラム渡渉をKGとしたが全く余裕がなく、自分が対岸に着いた際に早々に手を離してさっさと自分だけ岸に上がってしまい、KGを流れの中に置き去りにしてしまった。反省。雨は昼過ぎには上がり、雲の切れ間に狭い青空が覗いた。

青空と森深い渓エメラルドグリーンの釜を泳いで突破

 のんびり遡行していたので、センズ谷出合先の広河原に到着した頃には既に5時半をまわっていた。ここで今回1番の盛大な焚き火をして濡れて冷えた身体と服をからっからになるまで乾かした。今日はどのパーティに会う事もなく、ここで会わなければこの先も稜線に上るまできっと出会うことはないだろうと思った。

【8月13日】曇り後晴れ
朝からしっかり焚き火  当初の予定では昨晩には蓮華谷出合に着いている予定だったが、増水のため想定より遡行に時間がかかったため、昨晩はセンズ谷出合の先の河原泊りになった。当初の予定通り今日中に黒部五郎小舎に到着したいなら遅くても6時には歩き始めなくてはキビシイなと思い4時に目覚ましをかけた。しかし目覚ましをかけた当の本人は起きられず、今日も沢に居残りたいと主張を続けたKGは目覚ましの音に気がつくもサボタージュを決め込み起床は5時になった。山行開始当初から沢に2泊するか3泊するかの攻防戦があったが、ここであっけなく勝負がついてしまった。早起きは三文の・・・とは言ったものだなあ。
嫌らしいヘツリ  今日は朝から天気も良く、抜戸沢を過ぎると昨日程の激しい渡渉もなく、双六谷特有のエメラルドグリーンに輝く水面にイワナの魚影を見つけたり、支流の滝を堪能したりしながら気分良く歩いた。一か所微妙なバランスを要するヘツリ箇所が左岸にあったが、落ちても安全なところなのでヘツリのドキドキ感を楽しみながら越えると、難所?キンチヂミに出くわした。
キンチヂミに取りつき難なく突破  全員ザックを担いだままあっけなく越えてしまったので、これがキンチヂミだということは実は蓮華谷に到着するまで気が付かなかった。
倒木の多い蓮華谷出合  蓮華谷に到着したのは11時半頃だった。ここで泊まるにしても時間が早すぎて早々に酒が底をつく予感。一同で相談をして九郎右衛門谷まで入り幕場を探すことで合意する。
九郎右衛門谷F1を巻くルンゼ  九郎右衛門谷には致し方なくビバークしたというような記録しかないので、快適な幕場は期待ができない。しかし、それならそれで黒部五郎小舎まで詰めてしまえば、昨日の遅れを取り戻せる、シメシメと考えた。蓮華谷出合は流木があり少し荒れた風景だった。記録では蓮華谷を100mほど上がった左岸に快適な幕場があると書いてあったが、真剣に探していないからかどこなのかイマイチよくわからなかった。蓮華谷に入ると1時間もしないうちに九郎右衛門谷の出合に到着。
F1を巻いた落ち口でホッと一息  そのまま蓮華谷沿いを40mほど進んだ右岸の細いルンゼを詰めていくが、これが落石地獄で下に石を落とさないようにするにはかなり神経を使う。ここは全員くっつきながらの高巻きとなった。ルンゼを登りすぎると懸垂を何本もしなくてはいけないため、ガレガレのルンゼを越えた適当なところで、荻原さんが踏み跡もない藪を先頭で左にトラバースしていく。後続が続き尾根上の地形に乗ったところで、そこをさらに20mほど上がり滝の落ち口を目指して濃い藪をさらに左へトラバースしていくと滝の落ち口ジャストに降りることができた。ロープを出さなかったため、1時間強で高巻き完了となった。私は自分が藪漕ぎに付いて行くのに必死で、最後尾のKGがついてきているか確認することを怠り見事に藪の中に置き去り?にしてしまった。反省。それにしてもKGは「陸に上がった河童」を体現していた。昨日の渡渉ではあんなに頼りになったのにもはや見る影もナイ・・
1,940mあたりの素晴らしい幕場  さて核心も越えたので気を取り直して幕場探しを開始する。早々に1,940mあたりの右岸にちょうど4.5テントが張れるほどのスペースがあった。一段下がったところに焚き火のスペースもある。沢でいい場所さえ確保できれば、もちろん小屋の幕営地で泊まるより断然楽しい。沢で過ごす最後の夜は流れ星も見え、短い時間ではあったが焚き火にあたりながら満天の星も満喫できた。

【8月14日】晴れ後曇り
源頭部分、後ろは笠ヶ岳  本日の行程は北俣岳避難小屋までと決めていた。首尾よく6時前に出発し、小滝をグングンと越えていく。もうロープを出すような箇所もないので、おもいおもいに登りやすいルートで水しぶきを浴びながら滝を直登していく。標高が上がり沢が細くなると途端にブヨが出てきた。この沢は本当に最後まで水が絶えないので、水を担いで藪を詰めることもなく非常に気分が良い。
黒部五郎のカールへ進む  黒部五郎の頂上には上がったもののガスで周りの山々は拝めなかった。荻原さんとKGはGWのオートルートでのドロップインポイントを再確認していたようだった。その後長いアップダウンを繰り返して北俣岳分岐までやってきた。ここから大半の人は太郎平に向かうが、我々のゴールは飛越トンネルなので分岐からは左へと北俣岳避難小屋を目指す。ここからは点在する池塘となだらかな起伏の草原が織りなす美しい風景と裏腹に道は悪道そのものだった。えぐれてぬかるんだ道を避けるように左右の1mほど高い地点に細い道がついているがここもまたよく滑る。転ぶと1m下の泥のクレバスに落ちる。罰ゲームのようだ。しばらく進み木道が出てきてホッとするものの、この木道がまたホラーだった。釘が刺さりっぱなしになっていて、さらにその木道がシーソーのように動き、片側を踏むと釘がついたままのもう一方が自分めがけて飛んでくるという恐ろしい代物になっていた。ここでは絶対に転べないともう一度気を引き締める。
素晴らしい風景と恐怖の木道  最後に緊張感を強いられる道が終わると寺地山と小屋の分岐が出てきて、これを左に20mほど下ると避難小屋があった。誰もいなかった。今夜は貸切だ。小屋はいつ潰れてもおかしくないと思われる程ボロボロで、自己責任で使って下さいという文言が、また若干の恐怖をかきたてる。しかし中に入り宴会が始まるとそんなことはどこ吹く風だった。17時近くになってから、単独の男性がやってきた。つめれば何とかなりそうではあったが、既に宴会モード全開の我々を見て外にテントを張ることを決めたようだった。賢明かもしれない。本山行は自分としては極力軽量化に努めてきたので、ここに来て初めて満足のいく酒量にありつけ、久々に気持ちよく眠りについた。

【8月15日】曇り
 6時前に小屋を後にした。雨こそ降っていないが、視界不良で何も見えない。寺地山との分岐まで戻るとここにもテントを張れそうなスペースがある。分岐からさらに数十メートルほど寺地山方面に進むと、ここにもビバーク候補地となり得る割とフラットなスペースがあった。飛越新道はぬかるんでいて歩きにくいと地図にも書いてあったが、まさにその通りで早々に泥水が沢靴に浸水してきた。人が少なくて静かに歩けるが、あまりおススメはできない登山道だった。神岡新道と飛越新道の分岐で携帯が通じるという看板があり、ここでタクシーの予約をしようと試みるが電波が弱いのか、5回に1回くらいしか通じない。諦めてさっさと下る。飛越トンネルまであと30分ほどのところで電波が入ったので、ここでタクシーを予約した。濃飛タクシーは神岡から来るので1時間はかかるという。多少の待ち時間は発生してしまうが仕方ない。登山道は最後トンネルを乗越し、トンネル入口の脇にある登山口でゴールとなった。登山口には思ったより多くの車があった。この泥道を好んで歩く人がいるとは!(我々の場合は不可抗力)登山道脇にある側溝にキレイな水が流れていたので、タクシーを待つ間ここでドロドロになった靴や靴下をジャブジャブ洗った。毎週山に入っている身としては帰宅してからの仕事を少しでも減らすべく使えるものは全て使わないといけない。荷物を整理していると、たいして待つこともなくタクシーがやってきた。40分ほど揺られて金木戸ゲートまで到着。(運賃:9,080円)車を回収して平湯の森で汗を流し、途中渋滞に巻き込まれつつも帰途についた。今回リーダーとは名ばかりで、強力な沢屋メンバー達に引っ張ってもらい、憧れの双六谷を遡行することができ大満足の夏休みとなった。メンバーの皆様、本当にありがとうございました!

〈コースタイム〉
【8月11日】 金木戸ゲート(8:45) → 広河原(13:30) → 入渓ポイントの吊り橋(16:00)
【8月12日】 入渓ポイントの吊り橋(7:15) → センズ谷の先の河原(1,560m付近)(17:30)
【8月13日】 センズ谷の先の河原(1,560m付近)(7:00) → 蓮華沢出合(11:50) → 九郎右衛門谷幕場(1,940m付近)(15:00)
【8月14日】 九郎右衛門谷幕場(1,940m付近)(5:50) → 黒部五郎テント場(7:50) → 黒部五郎岳(11:30) → 北俣岳避難小屋(15:30)
【8月15日】 北俣岳避難小屋(5:50) → 飛越トンネル(9:10)

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