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温泉山行・白馬鑓温泉
渡辺 守

山行日 2017年10月7日~9日
メンバー (L)永岡、渡辺(守)

 私はインドで1年半、中国で1年、合計2年半を海外で過ごし8月31日に帰国した。この間はインドでこそ毎朝ヨガと時々の水泳をしたが、中国では全く運動らしきものはせず、すっかり体力が落ちていた。その状態から、帰国してすぐに三峰への復帰に向けリハビリ山行を開始した。今回は早や5週目で第1クール終了という位置づけ。テント泊装備で一般道としては難易度が高いこのコースは健脚者が多く次々に抜かされ、さらに不慣れな高所では目がくらんで足が動かなくなることもしばしば。予想どおりの悪戦苦闘だったが、リーダーの心遣いで何とか無事に歩き通せた。
 1日目の7日朝は前日からの雨が残っていたので、猿倉で少し待ってから8時半に出発。霧雨の中、歩きやすい道をのんびり進み13時には鑓温泉に到着。小屋は解体され、大きな湯船だけが山中にあり煙を上げている。私は2度目、前回は日韓合同山行で平日だったこともあり他パーティーはいなかったが、今回はすでに数張、最終的には10張ぐらいになった。やっぱりここは極楽の場所、かけ流し温泉は温度が見事なほど丁度いい。山と温泉を見ながら、のんびり酒盛りといくつもりだったが、止むはずの雨が逆に強まり残念だった。
 翌8日は期待通り快晴で6時出発。きれいな紅葉で人も少なく気持ちよく、私はリーダーに大分遅れながら稜線まで2時間半歩く。そこから剱岳を見ながら核心の不帰キレットに進む。天狗大下りは身体のなまった老脚には応える。休み休み降り、一峰、二峰も慎重に進む。結局、唐松岳に着いたのは14時過ぎ、結構かかったがほぼコースタイムどおり。山頂は多くの人で溢れていた。

幕場より温泉風景不帰への道

 写真を撮って早々に小屋へテント受付にいく。ここの幕場は狭いので心配していたが、案の定スペースがほとんど残っていない。小屋のお兄さんは先に幕場を確保してから受付した方がいいとアドバイスしてくれるが、空いている幕場は結構下がった所にある。結構疲労しているので、とても小屋に登ってくる気がしない。親切かよく分からないアドバイスには従わずに、リーダーだけ先に幕場探しにいってもらう。私は、幕場料2,000円(一人1,000円!但しトイレ料付)、ビール4本2,400円(1本600円!)、水2.5リットル450円を支払い、リーダーを追いかける。有難いことによい場所を見つけてテントを張っており、その前にどかっと座り込む。
 剱岳を正面にさっそくビールで乾杯、私が立て続けに3本飲んで、そろそろテントに入りろうかと思った時に、それまでの無風が急変し突風でテントが飛ばされてしまう。あっという間にハイ松を越えて谷底に消えてしまった。なんとしたことか、テントに荷物を入れず、固定もしていなかったのだ。いかにもこの2人らしい。
 私は回収が無理と思い、小屋泊りか下山して八方尾根ビバークを覚悟して、のんびり片付けを始めたが、リーダーは責任感から(自前テントだからか)、さっそうとハイ松を分け入り、同じく谷に消えていった。危ないと思ったがビール3本も飲んでいて思考が鈍っていたのと、こんな状態では二重遭難になるだろうと、周囲のざわつきを気にせず片付けを続けた。ちょうど夕日のタイミングで上の小屋あたりで、大勢のギャラリーがリーダーの果敢な行動を見ていた。そのうちに、「テント飛ばされて取りにいっている人やめてください、私があとで取りにいきます」という、優しく親切なアナウンスが小屋から流れた。そのアナウンスが二度三度流れて、「飛ばされたテント回収している人、無事に回収できたなら手を振ってください」「了解しました、気を付けて上がってきてください」しばらくして、リーダーがハイ松をかき分け上がってきた。いつものように、なんとかなった。
 翌9日は6時半出発、小屋から少し下がった尾根からは、前方は不帰キレットから白馬まで、後方は五竜から鹿島槍までの素晴らしい景色が続く。八方池以降は大勢のハイカー、観光客でうんざりしたが、こんな素晴らしい場所はインドにも中国にもそうそうない。日本に帰ってきて良かったと改めて思った。来年は鑓温泉ピストンにして、名実ともに温泉山行にしようと話しながら、ゴンドラ乗り場まで無事降りた。温泉でまた感慨ひとしおだったが、帰りは早速中央道の渋滞洗礼も浴びた。

八方尾根に向け下山

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