トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ356号目次

縦走・上越国境稜線(白毛門~朝日岳~巻機山)
荻原 健一

山行日 2017年10月7日~10日
メンバー (L)荻原、内田

 このルートは28年前、私が大学一年生の時に40kgのキスリングを背負って途中まで歩いたことがある(正確にいえば逆ルート)。山を始めたばかりの当時の私にとってこのルートの価値や歴史など知る由もなく、重荷を担いでの藪こぎなど何の楽しさも面白さも見出せず、4年生が悪天敗退を決定したときの喜びと帰ったら早々に退部届けを出そうと決意した記憶のみが鮮明に残っている(結局4年間続けたが...)。
 それでも青春時代の敗退山行の味はホロ苦く、また長い年月を経てこのルートの価値が分かってくるにつれて再挑戦したい気持ちが高まり、自分を縛る意味で例会山行として企画した。平日休みが必要なことからたぶん単独になるだろうなと思っていたが、思いがけずウッチーが賛同してくれてパーティーを組むことができた。感謝したい。

【10月7日】霧
 昨日からの雨は朝の8時くらいまで降り続いたので、朝はのんびりとして土合駅を9時に出発する。おかげでいつもの寝不足はなく体は軽い。何度も歩いた白毛門への登山道をてくてく歩き白毛門、笠ヶ岳、朝日岳と順調に進む。この日は雨がぎりぎり降っていないが、雲は重くのしかかり時にはホワイトアウトするような天候で展望は得られない。今日の幕場は水の得られる朝日岳山頂直下と最初から決めていたので、この日は早々にテントに入って宴会・就寝となる。天気予報では明日から良くなるらしい。

【10月8日】晴れ(早朝は霧雨)
 今日は良くなるとのことで4時に起きてテントの外を見てみるが真っ白で何も見えない。そのうち良くなるよと言ってお茶を沸かしたり朝飯を食べたりするが、出発予定の6時が近づいて来るとガスが霧雨に変わり雨がテントを叩くようになる。すっかりモチベーションが下がってテントの中でウダウダする。結局出発は1時間遅れの7時になってしまった。それでも出発するころには雨も止み、ジャンクションピーク(JP)に着く頃にはガスも雲も一気にあがり360度の景色が拡がるようになる。JPからナルミズ源頭までは人気ルートのナルミズ沢のおかげで踏み跡があるので順調に進む。踏み跡があるのは源頭が突き上げているコルまでかと思っていたが、コルの先の大烏帽子山頂まで続いていた。
 さて、ここからがこのルートの本領発揮だ。大烏帽子山から先は完全な藪こぎで、いきなり厄介な這松、石楠花が体に絡んできて全然進めなくなる。しばらくして群馬側の湿原地帯に逃げ込み距離を稼ぐが尾根が細くなるとまた藪に戻らなければならない。コルまで下ると今度は檜倉山への登りとなるが、ここは激藪で突破するのに随分と時間がかかった。

ナルミズ沢源頭をバックに柄沢山はまだまだ先だ

 やがて山頂付近の湿原地帯に出てようやく藪から解放される。檜倉山頂付近のまっ平らな湿原、池塘は美しくこのルートの中でも一番の幕営地、まさに天国だ。池塘の水は澄んでいてそのまま飲んでも全く問題ない。っていうかとってもおいしかった。しかし天国は一瞬で終わり、ここからの下りの薮もなかなか手強い。背丈を超える熊笹の藪をかき分け、何度か石楠花に体ごと絡めとられては脱出する作業を繰り返すと柄沢山手前のコルに到着する。
 ここから藪は薄くなり柄沢山への登りに入る。そろそろよい時間になったので登りの途中にある標高1,680mあたりの平らな黄金の草原地帯で幕を張ることにする。ここの幕営地も素晴らしいところで、我々はいま上越国境稜線のど真ん中にいるんだということを心と体で感じられる場所で至福の時を過ごすことができた。

まさに天国!

【10月9日】晴れ
 今日は朝から快晴だ。幕場からしばらくは激藪で今日も最初から思いやられるがそれも1時間ほどで終了してその後は順調に進む。やがて柄沢山山頂。少々ガスが出てくるが今日の天気はこの後ガスと暑いくらいの日差しの繰り返しとなる。下りの藪は背丈ほどの熊笹であるが細い笹で柔らかいのであまり問題にならない、下が見えないので段差などでよく転ぶのを除いては。しばらくして柄沢山北のコルに到着。ここも素晴らしいところで黄金の草原と池塘が点在する幕営候補地だ。ただ檜倉山頂の池塘と比べると若干水が綺麗ではないので飲料用に使う場合は少々工夫が必要だろう。

柄沢山の北コル吹き抜ける風と草の音が心地よい

 ここから米子頭山までは薮はそれほど濃くない。いくつか灌木に遮られるケースがあるが、そういうときは決まって群馬側(稜線の東側)から行くとすんなり進めることが多い。「困った時の群馬側」を合言葉に進んでいく。米子頭山山頂付近の藪はもの凄く藪漕ぎというよりは藪乗りという表現の方が相応しい。一度落ちるとそのダメージは大きく、どのくらいかというと新雪の山スキーで転んだ時に立ち上がる労力より更にちょっと大変だと説明するとご理解頂けるだろうか?巻機山とのコルまでの下りもなかなかの激藪なので途中から群馬側の湿原地帯に逃げ込む。ここも黄金の草原地帯であり風に吹かれて草が流れていく風景と音が非常に心地よい。
 コルから巻機山への登りがこれまた激藪でこのルートは最後まで楽をさせてくれない。独標1,928mまで行けば踏み跡くらいはあるだろうという淡い期待も裏切られようやく藪から解放されたのは山頂直下30mであった。

巻機山への最後の藪漕ぎ

【10月10日】晴れ
 今日は避難小屋から桜坂駐車場に登山道を下るだけ。昨日降りようと思えば降りることもできたが、忙しい山行(ヘッデン歩行とか)はもうしないことにしているので予定通り避難小屋で一泊した。おかげで夕景色を楽しみ、また快適な小屋でのんびりと祝杯をあげることができた。下る途中、警察の方が3名登ってきて何事かと思ったが、道迷いがあったようで最終的には連絡が取れ事なきを得たようだ。桜坂駐車場からタクシーで越後湯沢に出て本山行を終了する。

〈コースタイム〉
【10月7日】 土合駅(9:00) → 朝日岳(15:00)
【10月8日】 幕場(7:00) → ナルミズ源頭(9:00) → 檜倉山(13:00) → 柄沢山手前の幕場1,680m(16:30)
【10月9日】 幕場(6:00) → 柄沢山の北コル(8:30) → 米子頭山(11:00) → 巻機山(15:30) → 避難小屋(16:00)
【10月10日】 避難小屋(6:00) → 桜坂駐車場(8:30)

トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ356号目次