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雪山登山・光岳~上河内岳~聖平
永岡 恵二

山行日 2017年12月29日~2018年1月2日
メンバー (L)永岡、金子、津田、青木、齊藤(慈)

 直前に計画者の荻原さんが体調不良で、参加できなくなり、急きょ、永岡がリーダーを務め、癒し系4人とガツガツ系の齊藤さんとでの山行となった。

【12月29日 晴れのち曇り】記録:津田
 前日は各々休暇を取るなり早退するなりして西国分寺駅に21時に集合。インターを下りた道の駅で仮眠し、朝5時起床、隣のコンビニで朝食を食べ、6:15に車に乗り込む。夏には易老渡まで入れるそうだが、この季節は一部の林道は一般車両通行止めのため、芝沢ゲートまでとなる。ここまでの曲がりくねった車道が長く2時間もかかった。到着した芝沢ゲート前の駐車スペースには、他に2台が停まっていた。ここで準備し8:30にようやく歩き始めた。
 易老渡までは舗装された道を歩いて1時間15分。12月頭に偵察に来たときは雪がなかったが、この日は雪が積もっており、直にコンクリートの上を歩くよりは気分がいい。
 易老渡の橋を渡って光岳方面の登山口に入る。重たい装備に体が振られるが、雪の下の枯葉で滑らないように体のバランスに気をつけてゆっくり登っていく。
 尾根に乗って標高を上げていくと、左手に兎岳が見えてくる。白銀に輝く山に心が弾む。途中から曇ってきて風が吹き抜けるようになり、1,800mあたりで冬用のヤッケとオーバーズボンを着込む。重たい装備のせいかひと月前より時間がかかり、さらに疲れでスピードが落ちてくる。トレースはあるものの雪もだんだん深くなってきて、最後は膝あたりまでのラッセル。もうそろそろ着くころだなと思った後に、まだコルと小ピークが出てきてがっかり。自分が相当疲れていて、ひと月前の記憶も辿れないことに驚く。なんと最後の15分ほどはヘッデンとなってしまった。
 易老岳での幕は今回も貸し切りで、全員疲労困憊の中ささやかに宴会を行って就寝した。

【12月30日 快晴】 記録:金子
 今日も昨日と同様に晴れ渡った良い天気だ。昨日は腰痛で散々だったので今日は留守番していようかとも思ったが、天気も良いし荷物も軽い高低差もそれほどないので行ってみることにする。当初の計画では光岳まで往復した後に茶臼小屋までとなっていたが、さすがにそれは無理でしょうということで今日は光岳往復だけとなった。ということになれば早出の必要もないのでゆっくりと7時半過ぎに幕場を出る。
 出発してしばらくは起伏の少ない樹林の中のよく踏まれた踏み跡を辿る。ルートが下りになり下っていくと踏み跡が途切れてしまう。先程光岳方面から下ってきた単独行者とすれ違ったので踏み跡がないということはないはずだが見つけられない。周辺には途中で引き返した踏み跡が錯綜している。もうラッセルするしかないと覚悟を決めてラッセルしていくとわりと直ぐにしっかりした踏み跡に合流し赤布も現れた。手間取ったのはここだけで後は迷うような所はなかった。
 踏み跡を辿ってどんどん下っていくと樹林の中に「三吉平」の看板が出てくる。ルートが登りになると樹林を抜け、開けた沢状の地形になる。振り返れば明日以降辿る稜線が遠望できる。やがて雪に埋もれた「静高平」の看板が出てくる。傾斜が緩んでくると木道のある平坦地となり光小屋が見え隠れするようになる。ダケカンバの林を縫うように進んでいくと光小屋に着いた。入ってはみなかったが2階が開放されているようだった。
 小屋の脇で休んでいると女性二人のパーティーが追いついてきた。彼女らは面平からの往復だとのこと。荷物が軽いとはいえ我々に比べればはるかに長い距離になる。休んでなんかいられないとばかりにさっさと行ってしまった。

光小屋 2階が開放されているようだ光岳にて

 小屋から山頂までは、ほんの一登りだった。山頂は樹林に囲まれて展望はまるっきりダメだ。西の方へ数十m行った所に南側が開けて展望が利く場所がある。今日は風もなく良い天気なのでのんびりしたいところだが時刻はもう13時を過ぎており帰りを考えるとのんびりもしていられない。写真を撮って下山にかかる。
 少し下ってからイザルガ岳へ寄っていくかどうかという話になる。齊藤さんと自分以外は偵察時に立ち寄っているのでパスするという。齊藤さんは行く気満々。自分は腰が痛くなる前にさっさとテントに帰りたいのでパスすることにする。齊藤さんは直ぐに追いついてくるだろうから先に行っていることにする。案の定、直ぐに追いついてきた。
 途中まで順調に下ってきたが三吉平を過ぎたあたりから腰痛で皆に付いていけなくなってきた。幕場まではもういくらもないはずなので皆には先に行ってもらった。ここを登り切れば後すぐだという希望観測的思い込みは見事に裏切られ行けども行けどもゴールが見えない。16時、何とか日のあるうちに幕場帰着となった。あー長かった。

【12月31日 曇りのち雪】 記録:永岡
茶臼岳山頂  今日は午後から天候が崩れるとの予報もあり、ほぼ茶臼小屋を目指す予定。しかし、予報が外れて快晴で風もないようなら、頑張って聖平までと思って出発。易老岳を茶臼岳方面に尾根を下って、少し登り返したところで、荷物の重さで思うように足が動かず、直ぐに茶臼小屋に決定した。前日のような真っ青な青空は見えず、曇りの中を進んだ。トレースがしっかり付いているので、迷うことはない。尾根の上り下りを繰り返し、樹林帯の中の喜望峰に到着した。風が強くなり視界もないため、すぐに茶臼岳に向かった。
 茶臼岳山頂は、記念撮影だけしてすぐに出発。小屋との分岐点でメンバー全員に聖平は諦めて、小屋に向かうことを一応告げて、尾根から小屋に向かう階段を下った。下ると風の影響を受けず、穏やかになったが、ガスで先が見えない。しばらくすると階段が雪に埋まっており、トレースもなく、深い雪を下った。樹林の先にうっすら小屋らしいものがガスの中から見えたと思ったら、パッとガスが晴れて大きな小屋を発見。
 一番乗りだったため、唯一ひとつだけ窓のある場所を確保し、早々に宴会スタート。

【1月1日 晴れ】 記録:青木
上河内岳目指してトラバース  2018年元旦、4時起床。夜通しうなり声を上げていた風は、いくぶん勢いを弱めたようだ。年越しならぬ年明け蕎麦を食べながら皆で相談し、とりあえず稜線まで出てみて、行けそうだったら聖平まで行こうとなった。外に出てみると、東の空がオレンジ色に染まり富士山が美しいシルエットを見せている。小屋に泊まった他のパーティの方々としばし初日の出の撮影タイムとなった。
 茶臼小屋を出発して前日に下った斜面を登り返していくが、強風であっという間にトレースが消えてしまう。稜線に立つと予想通り冷たく強い風が肌を刺してきた。強風ではあるが歩けないほどではないので聖平まで進むことに決定。予報では午後からさらに天候悪化するとのことで心配だ。小屋にいた他のパーティは畑薙ダム方面に下山したのだろうか。聖平へ向うのは我々だけのようだった。
 雪に埋もれたトレースをたどり、トレースのないところは地図を頼りにラッセルで進む。歩いているうちに雪煙の向うにだんだんはっきり見えてくる青空と、白い雪を纏った上河内岳。途中深雪にはまって体力を消耗したが、向うに見える明るい稜線に早く近づきたくて一歩一歩、重い足を踏み出す。ラッセルを脱して目指す尾根に乗ったころには晴天となり、360度の展望に皆で歓喜の声を上げた。
青空の縦走路を独占!  上河内岳は、3千メートル峰が連なる南アルプス山域にあっては目立たない存在だが、先端がきれいにとがって広く尾根を張り出した姿は、なかなか格好がいい山だ。
レースのような霧氷の下を行く  休憩を挟んで登り返し、しばらく歩くと上河内岳の肩だ。上河内岳の山頂まで往復30分だという。永岡さんと齊藤さんはここまで来たのだから(二度と来ないかもしれないし)登ろうと言う。天候が崩れるまえに少しでも早く前に進みたい気持ちもあり、最初は乗り気でなかったが、下で待っているのも寒いし先に歩いているのも不安なので全員一緒に山頂まで行くことにする。小屋に早く着きすぎてもやることないしね~、なんて話をしたが、これが甘い考えだったと分かるのは後程。上河内岳の肩にザックをデポし、空身で上河内岳2,803メートルを往復。今回の山行の最高峰だ。上河内岳の肩に戻るころにはだんだんとガスが濃くなり天候悪化の様相を見せてきた。

【道迷い その1】
 南岳2,702m地点から聖平までは下りとなる。ガスと強風で視界が悪く地形はほとんど見えない。尾根の西側を降りようとすると、切れ落ちた崖でとても歩けそうにない。ルートを間違えたのだろうか?1つ隣の尾根ではないかと方向を変えて進むが、しばらく歩いたところでどうもおかしいと気づく。地図に比べてなだらか過ぎるのだ。一瞬でも晴れてくれたら方角が分かりそうなのに、と気持ちは焦るばかり。本当にこっちでいいのだろうか。確信が持てないので津田さんが携帯のGPSで確認すると、どうやら別の尾根を下りてきたらしい。
 なんと便利なGPS。山では地図とコンパスが基本だが、初めての山で自分の今いる位置が分かるだけで心強い。しかもスマートフォンで見られるなんて便利な世の中である。もちろん機械に頼りっきりでは面白くないので、最後の手段で確認するためにお守り代わりで持っていたい。
 道迷いで右往左往して1時間ほど費やしてしまう。結論は、最初に下りようとした尾根が正しかった。初めから慎重に時間をかけて確認しておけばよかったと、後悔しても仕方がない。もう一度元の場所に戻り、地図をよく見て崖のない東斜面を降りていくと、登山道らしき場所にでることができた。聖平小屋への方向を指し示す道標も出てきてひと安心。晴れていたらなんてことのないルートも天候次第で難しくなることを改めて思い知らされた。
 この先は道標の示す方向にしたがって斜面をトラバースし、前方の尾根に乗るのがいいようだ。だがトレースは全くなく、斜面の吹き溜まりは深いところで腰まで埋まるほどのラッセルとなった。

【道迷い その2】
 ラッセルトラバースを終え尾根に乗ったところで、二度目の道迷いをしてしまった。2,561mの岩頭付近。あっちじゃない?こっちじゃない?とうろうろ。しばらく悩んだが永岡リーダーの細かい地図読みによって進むべき道が見えてきた。地図を見ながら、こことここに尾根があってこの沢筋におりればよいと...ふむふむ、なるほど。自分はそもそも酷い方向音痴なので、地図読みの大切さをしみじみ感じた。
 進むべき方向は分かったが、その先もトレースが現れたり消えたり。所々ラッセルを強いられ時間がかかる。今日は余裕で聖平小屋に到着するはずだったのに誤算だった。なんとか明るいうちに着きたい。
 ヘッデン歩行の心配が頭をよぎるころ、樹林帯を抜け、開けた場所に出た。聖平小屋への分岐だ。ここまで来たらあとわずか。5分ほどで聖平小屋へ到着した。
 聖平小屋は冬季小屋が開放されている。この日の宿泊は我々のみ。冬季小屋の存在はありがたいのだが、中も結構な寒さであった。外気-10度、中は-5度。小屋の中にテントを張るにはスペースが狭いので、ツェルトとテントをカーテンのように階段上から下げて小屋の一角を囲み、暖をとった。

聖平小屋 内部

 夏道コースタイムなら、4時間かからないルートを9時間。困難もあったが素晴らしい景色も見られたし、ルートファインディングもよい経験になった。順調すぎるより、こんなハプニングがあるからこそ山は面白いのかも知れない。

【1月2日 晴れ】 記録:齊藤
聖平分岐で丁度ご来光を望む、前日苦戦を強いられた上河内岳  起床 寒い...。前日、聖平小屋にて幕となったが、冬季小屋はテントと異なり密閉されていないため、とても寒い。風がないだけで外と気温は変わらないのではと感じる。早々に荷物を片付けて朝食の準備を行う。食当は津田ちゃん。2回目の食当だ。今日の予定は下山のみ。
 もう1日予備日があり、ガソリンやガス、食事など装備に余裕があるのだが、前日までの荒天での移動や本日も午後から荒れるという予報などを加味しての前向きな撤退である。
 聖平小屋から見る、聖岳は輝き我々の登攀意欲を掻き立てるが、心を鬼にして下山をする。
 聖平分岐で最後の聖岳を望み下山へ。
1,100m地点の渡渉ポイント、このケージの移動が今回の山行で一番きつかった?(笑)  下山を開始してしばらくは、藪道。
 うっすらと残るトレースを頼りに深雪ラッセルを行うが、すぐにしっかりとした道に出る。快調に高度を落としていく。
 標高2,000mポイントの苔平で一本立てる。このあたりまで来るとほとんどわかんも不要なくらいな道になっているが、アイゼンをつけるほどでもなく、ツボ足だとまだ少し不安が残るため、しばらくわかんでの下山を行う。
 1,800m付近でメンバーは、わかん→アイゼンへ。自分はツボ足へ。
 1,100mの渡渉ポイントへケージに乗って渡渉をおこなう。
 1回目は、津田・齊藤組。2回目は、青木・金子組。3回目はケージ(笑)
無事に駐車場へ到着、大変お疲れ様でした  ここまで降りられれば、ほとんど下山と思うが、実はここからがきつい。
 林道を10kmくらい歩く。しかも便ヶ島までは足元が悪く、こぶし大の岩がゴロゴロしている。
 初日に来た易老渡まで戻ってきてようやく一安心。最後の休憩をとり、駐車場までの最後の5.5kmの林道歩きに挑む。ここは心を切らしたら歩けなくなる可能性があるので一気に歩く。
 1時間かけて駐車場へ。
 国道までの林道運転も凍結箇所や急な登りなどがあり、ドキドキしたが、無事に国道へ。
 下山後は、遠山温泉郷かぐらの湯へ。帰りに寄った、駒ヶ岳SAでは雪がちらついていた。

〈コースタイム〉
【12月29日】 芝沢ゲート(8:30) → 易老渡(9:50~10:00) → 面平(12:30~50) → 易老岳(17:30)
【12月30日】 易老岳(7:35) → 三吉平(9:50) → 静高平(11:35) → 光小屋(12:10) → 光岳(13:00) → 三吉平(14:30) → 易老岳(16:00)
【12月31日】 易老岳(6:30) → 喜望峰(9:10) → 茶臼岳(11:15) → 茶臼小屋(11:30)
【1月1日】 茶臼小屋(07:15) → 上河内岳の肩(11:00) → 上河内岳山頂(11:20) → 南岳(13:00) → (道迷い約1時間) → 聖平小屋分岐(16:40) → 聖平小屋(16:45)
【1月2日】 聖平(7:40) → 西沢(11:10) → 易老渡(13:00) → 芝沢ゲート(14:00)

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