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雪稜登攀・旭岳東稜
内田 優生

山行日 2018年3月3日~4日
メンバー (L)内田、古屋、青木

 2月に旭岳東稜を計画したものの大荒れの予報であえなく断念した。厳冬期とは言えないが同じメンバーで日程が合う日を見つけて3月にリベンジとなった。
 旭岳東稜は今シーズン自分の目標としていた雪稜山行だった。昨年山蔦リーダーの元、登頂は果たしたものの、五段の宮で苦戦を強いられ左側の草付きを巻き、その悪い草付きでリードを頼まれたが自分の実力では無理だと固辞し、さらに上部では誰がかけたかもわからない残置の凍ったフィックスロープに頼りながらの登頂となった。これで登ったと言えるのか?と自分の中では完全な不完全燃焼を起こしていて、そして改めてリーダー頼りだったことに気が付かされた。レベルを落としても今の自分の実力に見合ったところをリードしていきたいと強く思うきっかけとなった山行だった。今年に入ってどうも金曜夜発が億劫となり土曜の朝出とする。前回同様、なるべく五段の宮近くまで進みたいと考えて出合小屋近辺には泊まらず、小屋の前を流れる沢で水だけ汲み稜線に上がった。稜線に上がるところで、YCCの3名が空身でトレースだけつけて降りてきた。今晩は出合小屋に泊まり明日空身で登頂とのこと。正しい判断だ。何故我々は縦走でもないのに、こんなに重い荷物担いでいるんだろうときっとメンバーの2人は思ったに違いない。リーダーがあまり考えていなかったのだ。寝過ごすリスクを考え、ちょっとでも進みたい思いもあった。 そんなこんなでツボ足でズボズボと沈みながらトレースを付けていく。あ~重い。天気も良かったので駐車場にワカンを置いてきてしまい失敗した。
稜線は想像以上のラッセル  幕場適地がそう多くはないこの尾根で、辺りは次第に夕闇につつまれていく。都内土曜朝発がここにきてきいてきた。若干焦りが出てきた17時半過ぎ、ようやく幕場となる場所に出くわした(2,155m)。両側はすっぱり切れ落ちているが2・3テントをぎりぎり張るスペースを確保した。無駄に疲れた1日が終わった。

 翌朝、3時半起床で5時半に出発。途中YCCの3名が軽やかな足取りで抜いていった。空身が恨めしい。五段の宮直下に幕を張れるという記録もあったが、五段の宮直下の急な斜面をさらに100m程下ったあたりも十分に開けていて幕場になり得るスペースがあった。ログを付けてないから正確ではないが2,350mあたりかな...結局幕場から五段の宮まで3時間程かかり8時半に到着。既に前のパーティが取り付く準備をしているので、我々はのんびりと休憩してルートを見極める。 風もなく空は濃紺の八ヶ岳ブルー。最高のコンディションだ。
五段の宮の全容  1時間程待って順番がまわってくる。昨年は1段目をリードしたが、その後2段目で完全に詰まり、そこから恐怖のトラバースで草付きの巻きルートに移動した。今回は直登に挑戦!1ピッチ目は1段目から3段目までロープを伸ばし、その後4段目と5段目を繋げるという2ピッチのルートだ。今回青木さんは初めてだったが、昨年フォローで一緒に登った古屋さんが今回はリードをしたがるかと思ったが、カメラのメモリーを家に忘れ、高価なサングラスを途中で落とし、さらには五段の宮直下で上から落ちてきた雪の塊を顔面に受け流血したことで、テンションがだだ下がりのようでどうやらリードする気はないらしい。ということで1ピッチ目は私がリードで行かせてもらう。
緊張の..1段目  昨年は1段目のルート上にあった木が根元から折れてなくなっていた...ルート上にあり邪魔と言えば邪魔だったが、昨年はあれにしがみついて乗越したので、今回は頼るものがない。1段目は一見ホールドが豊富にあるように見えるが、いざ登ると割と立っていて身体が強張る。前爪に全意識を集中させ、小さな凹凸に丁寧に前爪を載せてバランスを取る。途中足を大きく開きハイステップで上がる部分が今回の核心のように感じた。1段目を上がり右側の灌木でランナーを取る。2段目は左右両ルートがある。左側はブッシュを使った頼りない木登りになる。今回は雪が少ないので右側の岩場から登る。登り始めに右側の灌木でランナーを取り、すぐにカンテ状になっている正面に回り込み直登する。雪が少ないせいかそれほど難しくはなかった。3段目は岩の溝部分を直登していく。雪が少ないので岩が露出していて、小さな凹凸もしっかり出ているので、前爪とバイルがばっちり効く。ただ上部の乗越で掴んだ岩が完全に浮いていて焦る。岩が動いて掴めないので最後は若干左に寄り泥だらけの地面にぺったり手をつきフリクションで乗越す。前方に前のパーティがまだ2名いたので、後続の引き上げは前の2名が上がるまで待つ。4段目の取付きにはボルトにかかった残置スリングと木で支点が取れる。ここで前のパーティの2名が上がるのを20分程待って後続を引き上げた。

3段目を登る..F氏4段目に取りつく..F氏

 その頃になると下がっていたF氏のテンションも戻り、残りをリードするというのでお願いした。
 4段目は細い灌木を掴んで微妙なバランスで右側から斜上していく。割と岩が出ているので、スタンスを取るのに緊張を強いられる。再び稜線に乗ると5段目はリッジを直登していく。ダブルアックスと前爪で気持ちよく登れるが、おそらくリードは雪の処理で大変なのだろう。今期岩場をアイゼンで登っていくことには少し慣れてきたものの、ナイフリッジの雪処理はまだまだ苦手分野だ。
 全員登り終えて、最後の三角ピークを左上気味にトラバースして回り込む。昨年はここでロープを出したが、今回は前のパーティの踏み跡がバッチリなのでロープも出さずに済んだ。無事五段の宮を抜けるとすぐに旭岳の頂上となる。これでやっと昨年のリベンジが果たせスッキリした。

5段目のナイフリッジ旭岳頂上で歓喜のポーズ

 その後ツルネ東稜まで稜線を歩く間、何度も振り返り五段の宮を眺める。今登ってきたばかりなのに、よくあんなところ登ったな~と感慨にふける。その後ツルネ東稜を一気に駆け降りるつもりが、踏み跡に導かれ上ノ権現沢方面に向かっている事に気が付く。踏み跡もないツルネ東稜でまたラッセルになるよりは、近道となるこの沢を降りようということになり沢を一気に下っていく。途中小滝を正面から降りようとしたところ、足を滑らせ10m程緩い斜面をゴロゴロ回転して止まった。幸い怪我はなかったが、それを見て後続2名はきっちりとバックステップで降りてくる。賢明な判断ですね。つくづく下山が危ないんだと自分に言い聞かせ、気を引き締め直して出合小屋まで戻る。出合小屋から駐車場までの道は、いつものごとく、どんなに素晴らしい山行もすべて吹き飛び、もう数年ここには来なくてもよいと思わせる程、長く退屈で単調な道だ。毎回ヘッデンで景色もないから余計にそう思うのかもしれない。今回は全装で岩場を登りいいアルパインの経験にはなったが、次回は間違いなく空身だねと仲間と気持ちを共有して今期最後の八ヶ岳を後にした。

〈コースタイム〉
【3月3日】 美しの森駐車場(10:20) → 出合小屋(13:00~13:45) → 幕場(2,155m)(17:45)
【3月4日】 幕場(5:30) → 五段の宮基部(8:45~10:00) → 旭岳頂上(12:55~13:10) → 出合小屋(16:30~16:50) → 美しの森駐車場(18:45)

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