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雪山登山・仙ノ倉山北尾根~谷川岳縦走
内田 優生

山行日 2018年3月17日~19日
メンバー (L)内田、荻原、山蔦、早川

 仙ノ倉北尾根はこれで3度目になる。1回目は6年前にチャレンジしたものの、雪が安定せず雪崩の危険性があるとの判断でシッケイの頭を目の前に晴天の中で敗退となり、2回目は2年前に総勢8名で登頂した。しかし天候は悪く軽傷者も相次ぎ、その時の計画であった谷川岳肩ノ小屋への縦走は断念して平標へと抜けた。今年こそはと一念発起して、人数を絞り平日休み&予備日を取って臨むことになった。 仙ノ倉から谷川縦走の3月の記録がネットでもほとんど見つからず、一体どんな状態なんだろうとワクワクと緊張が入り混じった思いで出発した。 当初土合駅に車をデポしようと考えていたが、敗退の危険性があることや、土合駅にデポして電車で土樽に向かった場合一番早い電車でも8時半と出発が遅れる事などを考慮して、土樽駅に直接車で向かう事にした。 湯沢のインターを降りていつも入るセブンで食料を調達する。店内は相当な数の客でごった返しているが、ほとんどがスキーヤーとボーダーだった。土樽の駅でパッキングを終え7時過ぎに出発。当初は曇っていたが徐々に雲が取れてきて、いざ北尾根に取りつく頃には青空が広がり始めた。取付きから最初の数百メートルはワカンを装着して登るものの、急登でなかなかペースがあがらない。今回ギリギリでの参加となった新人の早川さんは体力に任せてグイグイと先頭で隊を引っ張っていく。後ろからのんびりとついていくと11時半には小屋場の頭に出た。ここで登山道は南東に向きを変える。 以前ここで、確か南西気味に直進してしまい来た道を戻った事を思い出した。

小屋場の頭で長めの休憩小屋場の頭から幕場適所が続く

 この頃になると、ありえないほどの青空が広がっていた。絶景を前に 疲れが吹き飛ぶ瞬間だ。テンションも最高潮に上がってくる。仙ノ倉北尾根の白銀の稜線は真っ青なブルーの背景とのコントラストで見たい!と切に願っていたので、願いが叶い最高の気分になってしまい、もうこの先の稜線歩きは曇りでも構わないとさえ思ってしまった。小屋場の頭を過ぎると途中若干の踏み抜きがところどころ出てきたが、ワカンを装着するには至らなかった。
シッケイの頭手前の発達した雪庇  本来の計画では1,400m辺りに幕を張ろうと話していたが、結局天気が良いうちに行けるところまで進もうという判断でシッケイの頭に上がってしまった。最後の数十メートルは急登でロープを出すパーティもいるらしいが、今回は慎重にキックステップを刻み上がることができた。本来ここは風が強くあまり幕場適所ではないようだが、この日は3月の谷川では貴重な無風快晴。ここまで誰ひとりにも会わずに来た。こんな絶好の登山日和に登らないならいつ行くの?と仲間と話しながらも、この素晴らしい風景を独り占めできる贅沢を存分に噛み締めていた。 シッケイの頭は平らで風さえなければ地形図上では絶好の幕場に見えるが、整地するには風に吹かれた雪が非常に硬くスコップが入らない。ここを幕場にするのは注意が必要かもしれない。この夜は皆上機嫌でのテント宴会となり、外に出ては満点の星空と湯沢の夜景を満喫した。

シッケイの頭で幕を張る

 2日目、4時起きで6時20分に歩き始める。既に最高の天気だ。 昨日稼いだ貯金のお陰で仙ノ倉の頂上まではあと300m程だった。 しかしこれがまたジワジワとくる登りで朝イチにはシンドイ。
 昨年の夏、東ゼンの沢を詰めて頂上に出る予定が今回と全く同じ北尾根に乗ってしまい、頂上と思ったところからまた最後の藪コギをするハメになったが、今回は豊富な残雪のお陰で快適に雪の絨毯を歩き、まず1座目のゴール!

仙ノ倉北尾根の最後の登り仙ノ倉山頂上で

 これ以上望めない最高のコンディションだ。 そしてこの先は記録が乏しい未知の世界! 緊張の面持ちで進み始めるとすぐに踏み跡を発見。極めて新しい単独行の踏み跡だ。 昨日かもしくは今日か・・おそらく平標から来たのだろう。稜線上の雪は非常にいい状態で締まっていて快適に歩くことが出来る。雪庇もそこまで発達しているようには見えない。昨年同じ時期に山スキーでこのエリアを訪れた荻原さん曰く、今年の方が雪は少ないらしい。 昨年の夏この稜線を歩いた際にはエビス大黒の頭が割と急な岩場だったので、そこでロープが必要になるかと思っていたが、しっかり締まった雪のお陰で難なくクリア。その後もロープを出す箇所もなく、急な下りはバックステップで降りれば全く問題なく、若干拍子抜けするほどコンディションが整っていた。このような状態は珍しいのかもしれない。

絶景の国境稜線エビス大黒の頭を眺める

 万太郎には正午過ぎに到着した。ここまで来ると日帰りのスキーヤーがチラホラ見えた。赤谷川源頭から来たのかな? 予定では今日中に大障子避難小屋あたりまで行ければ御の字と思っていたが、最終日の天気がイマイチなことと阿能川岳から歩いてくる金子隊と肩ノ小屋で合流したいという願いから、若干疲れが出始めているメンバーを見て見ぬふり?して肩ノ小屋を目指すことを宣言する。おそらく気持ちは皆同じだったと思う。ただ身体がついていかない。
万太郎山へ向かう稜線  オジカ沢の頭へ上がる最後の登りは重たい足を引きずり気力だけで登った。オジカ沢の頭から肩ノ小屋まではところどころ切れ落ちている箇所もあり、気を緩めず慎重に歩いた。最後の登りに差し掛かったところで、肩ノ小屋から男性が1人ずっとこちら側を見ているのに気が付いた。今日小屋に泊まる人のようだ。話してみると中には既に4人いてテントまで張っており、こちらも4人だと伝えると十分なスペースがあるかと心配していた。仲間なので心配ないですよと伝え、モートーコールで到着を伝える。無事感動の?再会を果たし、その後は即宴会に突入。先に水つくりを始めていた津田ちゃんや青木さんにこちらの分の水まで作って頂きヘロヘロな身体には非常にありがたかった。こちらは日程が短縮されたので、まだ余っていたお酒を提供する。これは紺野さんと金子さんには非常に喜ばれた。その夜は単独の宿泊者の男性には申し訳ない程の大宴会となった。お酒がなくなってもなかなか皆寝ようとせず、無事に2日間の縦走を終えた満足感に浸っていた。

肩ノ小屋を後にする

 土樽で車を回収し、いつもの岩の湯に浸かり湯沢でお昼を食べるころには天気はすっかり下り坂となっていた。 結局山にいた2日間半は無風快晴の稀有な天候となり、この時期の谷川では散々痛い目を見てきたベテラン勢に「40年に1度の天候!(おそらくさしたる根拠はない)」と言わしめた。40年に1度ならひょっとするともう1回くらい今回の絶景歩きを味わえる日が来るかもしれない。

〈コースタイム〉
【3月17日】 土樽駅出発(7:10) → 群大ヒュッテ前(9:15~9:30) → 小屋場の頭(11:30~11:45) → シッケイの頭の幕場 1,734m(15:50)
【3月18日】 幕場1,734m(6:20) → 仙ノ倉山頂上(7:40~8:00) → 万太郎山頂上(12:25~12:45) → 肩ノ小屋到着(16:30)
【3月19日】 肩ノ小屋出発(7:00) → 天神平ロープウェイ(8:30)

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