トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ358号目次

縦走・201809_秋の北アルプス大運動会
齊藤 慈宏

山行日 2018年9月21日~24日
メンバー 齊藤(慈)

【9月21日】
 いよいよ、久しぶりの北アルプス縦走の始まりである。今回は、五色が原に行くことを目的にしており、今まで積雪期しか行った事の無い立山エリアを歩く事になる。無雪期の室堂や雷鳥沢や立山三山、劔と楽しみである。とはいえあまり慣れていないエリアなだけに、有事の際の対応等を考えると不安である。 そんな気分を胸に家を出る。
 今回は、新穂高まで夜行バスで入り、黒部ダムから大町に抜けて電車で帰宅するルートである。
 秋の長雨にあたったのか、出発日・翌日(21日)は荒天の予報。22日に槍ヶ岳へ行く予定であるが、丁度向かう時間帯が一番酷い予報となっている為、計画に不安が過る。 荒天予報からの不安のせいか、バスは空いているものの、寝るには苦しく途中のサービスエリアでの休憩などで都度起こされ良く眠れない状態で新穂高へ着いた。
 あまりバスでの山行に慣れていない自分にとっては辛い旅路となった。到着のバス停は、登山指導センタの前だった為、準備はスムーズに行うことが出来た。また、道路状況も良かったのか、予定よりも30分程早く到着してくれ、時間に余裕を持って準備を進める事が出来た。双六方面に向かうパーティは疎らで、双六小屋に着くまでに抜かしたパーティは3、4パーティといったところで、殆どが下山してくる登山者が多かった。すれ違う登山者は、あいさつをしてエールを送ってくれる。また、皆口々に、19日の好天を語っていた。よほど現在の天気とは雲泥の差で素晴らしい山行が出来たのだろう。今回は全体的に雨が先行している予定となっているが、果たして晴天の下を歩けるのだろうか...。今回この道を選んだ理由の一つは、いつかは狙いたい冬期双六岳への山行に際しての下見も兼ねてである。過去に5回は通った事があるが、その頃は冬期歩くなどは考えた事が無かった為、その様な視点で道を歩いていなかった。
ガスガスの鏡平、槍なんて全く見えません(笑)  今回は情報収集も兼ねて、冬期歩く事を想定して道を歩いて行く。冬に想いを馳せながら歩く登山道とは、またいつもと違う思いにかられ、長い林道も短く感じられるものだ。ワサビ平には10名程の登山者がおり、入山する者と下山する者が、軒で休憩をしていた。ワサビ平の標高は1,400m、小池新道は1,480mであった。小屋番によると、冬期に蒲田川左俣を歩く人はほとんどおらず、笠ヶ岳からの雪崩の巣になっていて、歩いてもバンザイラッセルになるとのこと。冬期に歩くには中崎尾根を歩き、西鎌尾根に着くか、同じく中崎尾根から鏡平の尾根に取り付くのが良いのではないかとのことであった(後で地形図を確認すると後者のルートはあまり無いかもと思う)。話を戻し、秩父沢、イタドリヶ原およびシシウドヶ原を過ぎ、鏡平手前の庭園に着く。この日は、湿度も気温も高い事もあり、かなり蒸していて、荷物も重いことも重なりペースが上がらず、バテ気味である。久しぶりの縦走は、事前のトレーニング不足もあり体に堪える。鏡平からの逆さ槍は有名であり、いつもならガスガスの景色にショックを覚えるが、今回は全くそんな意識が無かったので、特にショックも受けずに、到着したうれしさと共に鏡平に到着する。
ようやく双六小屋へ到着<BR>雨が写真に写るくらいの大雨でした  小屋番に冬期ルートの会話をするも、やはり冬期に鏡平経由の登攀は、おすすめ出来ないとのことであった(穴毛谷から抜戸に行くルートが良いとか?)。雨の降る小屋の軒で一本立てさせて頂く。休んでいると同じく下山途中の登山者も休憩に集まり、情報交換をさせて頂いた。
 この辺りは広葉樹が少し色づいており、黄色く色づいた葉が目に優しい。
 本来であれば、鏡平~弓折岳は、右手には西鎌尾根、後方には槍ヶ岳・穂高、左手には笠ヶ岳と眺望も良く歩きが楽しいエリアではあるがこの日は、全く何も見えないので、過去の記憶から天気の良い時を思い出しながら弓折岳を目指す。相変わらず湿度が高く、息苦しくペースが上がらない。弓折岳から先も風もほとんど無く霧中の中を双六小屋へと向かう。双六小屋が意識をできるエリアに到着し、自分が北アルプスに帰ってきた感を感じ、ホッとするも、なかなか見えない双六小屋にやきもきする。
 丁度12時に小屋に着いた。
 これから翌日までが雨のピーク。初日ということもあり、この日は、素直に小屋泊を選択する。
 小屋には、登山者も居らず、スタッフものんびりとしていて、快適な空間が広がっている。
 数少ない自分の小屋泊歴ではあるが、双六小屋はとてもサービスが良く快適なところであった。停滞や下山途中も含め、自分が到着すると、次々に登山者がチェックインをしてきて、いつの間にか、小屋が賑わっている。
 これから山に入るものと、入って来たものの情報交換・山談議など、楽しく、快適な時間を過ごさせて頂いた。

黒部五郎小舎、これはこれで趣がある?(笑) 【9月22日】
 当初の計画では、槍ヶ岳に行く予定であったが、空身とはいえ、夜中に出て、西鎌を一人で歩き槍に登頂するはとても無謀な天候であると判断した為、この日はゆっくりスタート。小屋のレーダをにらみつつ9時を過ぎれば少しは雨が軽くなると読めたので、8時出発目標で準備を行う。また、雲ノ平コースと黒部五郎コース2つのコースがあるが、前日に雲ノ平から来られた方の話を聞いて源流コースは危険なのと、昨日の自分の調子などを加味すると、源流コースを諦め黒部五郎コースへ変更することとした。
 雨は依然降り続くが、下山者もではじめている中で黒部五郎へ向けて出発をする。三俣蓮華の手前で、双六岳へ向かう女性ソロ登山者とすれ違う。お互いエールを送りあい別れる。その後、黒部五郎小舎までは誰とも会わず到着する。
だんだん晴れてきました!  過去には、新穂高から黒部五郎まで1日で歩いたことがあるが、改めて歩いてみるとその長さを感じる。
 黒部五郎小屋には誰もおらず小屋の入り口で休憩をさせて頂く。小屋からカールまでは小川となり、沢登りをしているようである。黒部五郎岳の取付き辺りから雲が切れ始め青空がうっすらと望めて来る。
黒部五郎岳に到着!この瞬間はガスだった 残念!  また、太郎平からの縦走者も、降りて来る。黒部五郎の肩に着く頃には、だいぶ晴天が広がり雲の切れ間からは、小屋方面の景色と、これから歩く薬師岳方面の景色が広がり、好天に胸を膨らます。
北ノ俣から太郎平方面、すっかり晴天に!  山頂にてカメラを拾得する。恐らく先行者のものだろう。電源は入るが、レンズが割れているとのことで、動作が出来ない。カメラはダメだろうが恐らくデータは残っているはず。データだけでもご本人の元に届けられればという思いで、ザックに仕舞い先を急ぐ。今日は連休初日で天気が回復傾向ということで、薬師峠のテン場の混雑が気になるためあまりゆっくりとはしていられない。時折、太郎平方面からの登山者はあるが、後続は居ない(双六小屋では殆どの登山者が黒部五郎泊りとの事で、太郎平に向かうと話しているのは自分一人だけであった)。
薬師峠のテン場はのんびりとした雰囲気でした  太郎平に着く少し前に、太郎平方面から単独の登山者が上がってくる。外国の方で、全身汗びっしょりである。時間は14:30。今から黒部五郎に向かうとのこと。かなり遠いけど大丈夫かと話したら、自分は朝の8時から歩いていて薬師岳も行ってきた所だから大丈夫だと話をしていた。逆に薬師岳に行ってきたから疲れていてダメなんじゃないかとも思ったが、そのまま別れて歩いて行った。
 太郎兵衛平にはたくさんの登山者がおり、洋服を乾かしているものや、昼寝をしているもの、初秋の晴天の元、食事をしているもの等のんびりした雰囲気が広がっていた。太郎平小屋で話を聞くと久しぶりの好天の週末でたくさんの登山者が来ているとのことある。いよいよテン場の混雑が気になり早々とテン場へ向かってみたが、着いてみたら意外と少なく快適なテン場を確保出来た。
 夜は冷え込むが、薬師岳のたもとで、夕日をのんびりと楽しみ、夜は、満天の星と月がとてもきれいに輝いていた。
 久しぶりに電波が入る場所であったので、会へ途中連絡を入れるも、充分な電波が届かず天気などが見られなかった。だが、翌日も好天が期待できる空であった。

薬師岳からスゴ・立山方面のビュー 【9月23日】
 いよいよ薬師岳越えである。自分も薬師から先は未知の道。とても楽しみである。会友が、夏に五色から薬師に抜けていたので、事前に様子を聞いていたがかなり長く大変だということで、気合を入れて行く。天気は快晴で、日本海からの乾いた北風が吹き付けるが、自分には丁度良い風で快調にペースを上げ、高度を稼ぐ。  前日まで、ペースが上がらなかったのは、湿度のせいかもしれないと改めて考えさせられる。3日目で高度にも順応してきたのと、初日のバス移動や雨移動の疲れがとれてきたのかもしれない。薬師岳山荘から空身の登山者がぞろぞろと出てくるが、彼らに負けずと高度を稼いで行く。山頂手前にはたくさんの登山者がいて、頂上を目指し渋滞が始まっている。  モルゲンを楽しみながら、薬師岳山頂に到着。まだ、日もあがっていなく、薬師岳特有の日本海側からの風が吹き抜ける。神社の岩陰で一本立てる。ここから先は未踏の地となる。
スゴノ頭と越中沢岳が眼前に聳える  気合を入れて、北薬師を目指す。前回薬師岳に来た時にはかなり悪そうなイメージがあったが、やはりあまり良くはなかった(笑)。
 極端なナイフリッヂと言う訳では無いが、昨日の朝の様な天候だとやばかったかもしれないと感じさせるような道である。前方に4名の男女混合の初心者らしきパーティがいる。足元の悪場に苦労しつつ進んでいる。彼らもスゴ乗越小屋を目指しているのだろうか...途中の稜線で先に行かせてもらう。北薬師から先は緩やかな長い下りとなる。高度を下げるとともに樹林が出てきて気温があがる。暑い...。また、スゴ乗越小屋からの登山者も上がってくる。手前1時間地点ですれ違った登山者は、そこまで、1時間15分で上がって来たと話していて、そこまで道が悪くないのかと思っていたが、スゴ乗越小屋までの道はその想像を超える悪さであった。なのでその人がその時間で上がって来たことに驚く。小屋の手前15分位のところで、大きなザックを背負った少年らしき登山者がいた。聞けば24歳とのことで、スゴ乗越小屋か五色まで行くか悩んでいるとのこと。 五色まで行けるのではと思ったが、それは後になってなるほどと分かるものであった...。その青年とは、スゴ乗越小屋で別れてしまったのでその後の動向は判らないが、五色では会わなかったので、スゴ乗越小屋泊りだったのだろう。スゴ乗越小屋で小休憩を挟み、スゴ乗越まで進める。
ついに五色が原がみえました!  眼前には2つの大きな山が立ちはだかる。スゴノ頭と越中沢岳である。スゴノ頭はかなり切り立っており、ここまでの薬師からの登りを含めるとかなり負荷がかかる。ヒートアップをしないよう、またバテ無い様に歩いて行くが樹林帯で風が通らず、気温が高く、バテを感じ始める...。途中途中で小休憩を挟みながら登るが辛い。 だけど、そんなときには自問自答で、"本当に自分の足はもう動かないのか? 手も使って登れないのか?"と問いかけゆっくりでもいいので自分自身を騙し騙し登る。 登っては、自問自答をし、手足を動かし、時間のロスをしないように心がける。ようようスゴノ頭に到着するも、まだ眼前には、越中沢岳の急登が広がる。すれ違うパーティからもこの先は垂壁のような下り(自分からすると登り)だったとのことで、やれやれと先が思いやられる。だが、ここを越えると五色に着けると思い、気合を入れて登る。そして、たどり着いた頂上の先には憧れの五色が原が広がった。
誰も居ない五色が原のテン場より立山方面を望む  後は、あそこまで歩くだけとここまでの景色とこれからの景色を眺めながら少し長めに一本取る。越中沢岳から鳶山も案外きつくいや、たぶんここまでの行程がきついのでバテがあるのだろうと気づく。また、朝から喉が痛く鼻水が止まらない。もしかしたら自分は今、風邪を引いているのではないかという事に気づき(笑)、アミノ酸とバファリンを飲む。バファリンはすぐに効き喉の痛みは治まった。鼻水は相変わらずであったが、何とかごまかしながら進んで行く。
 鳶山に着くと眼下に五色が原が広がる。沢山の池塘があり、とても素晴らしい景色を堪能できた。五色が原山荘は意外に遠く、もう少し最短距離があるのではないかという感じで登山道がついている(地図を見るとそうでも無い)。 お腹が空いたなーと思い始めた頃に五色が原山荘に到着をする。宿泊の申し込みをする時に、小屋番から、薬師峠から来たことにとても驚かれる。大抵の薬師からの登山者は、だいたい16時以降に到着するものが殆どで、この時間に来たものは珍しいとのこと。確かにテン場は、誰も居らず貸し切り状態であり、殆どの登山者は、15時以降に到着をしていた(室堂方面からも含む)。
 小屋番曰く、みんな越中沢岳でバテて到着が遅くなるとのことであった。 確かにあの2つの急登は、とても苦しかった...。
 また、小屋番に鷲岳に登れるのかと確認すると、現在は登山道は無く、冬しか登れないとのこと。午後に環境庁のお偉いさんが五色が原の視察に来られるとのことで、風邪気味な事もあり、午後は大人しく養生する事とした。
 誰も居ない五色が原を一人堪能し、昼寝をして、景色や空を見て翌日の天気を考えたりしてと、ゴロゴロとのんびり過ごした。

いつか登ってみたい龍王岳 【9月24日】
 五色が原の小屋番からは、立山は渋滞でかなりすごいことになっているとの話を前日聞いており、私の足ならば真砂沢ロッヂまで行けるけど、渋滞に巻き込まれると判らないので、早く出て、遅くても7時までに一の越に着くように行動をした方が良いとの助言を頂く。その為に少しでも早く出れるように準備を進めるが、真っ暗で慣れない知らない道を歩くのも危険なので手ごろな時間に出れるように調整をする。起きて空を見るとまだ、星が煌めいている。まだ今日一杯は持ちそうだ。早々に準備を行い五色が原を後にする。前日ののんびり生活が効いたのか体調も回復して、風邪の具合も良くなった。7時までに一の越到着を目指し歩き始める。
 ザラ峠の下りは、ザラと言われるだけあって、ザラメ状の荒い粒の砂の道である。まだまだ日の出までには時間があり、黒部の夜景がとてもきれいに映る。ザラ峠から獅子岳まで登りその後に龍王岳のトラバースでの一の越となる。獅子岳は前日見た通り急登が続く道となっている。取付きのあたりで山頂付近にヘッデンの明かりを確認する。先行者がいる様だ。先行者を追いかけて順調に高度を稼ぐ。獅子岳を越え朝日を迎える。鬼岳・龍王岳が眼前にそびえる。あれを登るのか?と目を疑うがすべて、巻きで越えていけることに安堵する。 龍王岳は、登ってみたかったなと。いつかクライミングで来たいと感じた。
本山行最高到達点の大汝山(立山) 3,015m  龍王岳を越えると一の越が見えてくる。丁度眼下には先行者2名を捕らえる。ようやく追いついた~と。
 一の越で休憩。小屋が開いている時期に初めて訪問。山バッヂを購入する。この旅、初のお買い物である。
 小屋の方に天気を尋ねると、「テレビでやってる通り、悪くなるよ!」と言われ、「いやもう3日もテレビも電波もまともに取れてないですけど...」と思う。だが、事前の予報と昨日のテン場からの空から、天気の悪化が予想できた。
 一の越から雄山への登りは意外ときつく4日目ここまで累計7,000m近くの累積の登りが足に堪える。だが、ここさえ乗り切り大汝山に着いてしまえば、基本は下るだけと自らに鞭を入れて歩く。
 立山エリアは、人気のスポットだけあって、沢山の登山者が歩いており、また、山頂から沢山の登山者が下りてくる。荷物の大きさに驚く方もいるが、みんな一応に励ましの声援をかけてくれることがとても力になる。
 雄山に到着し、神社へ参拝。初穂料を支払う(500円)。
 この日は、薄曇りの強い北風が尾根を吹付けている。雄山の峰本社にて安全登山のお祓いを受ける。が風で何を話しているか聞こえないし、とても寒い...。山行中のお屠蘇は、形だけ頂いて早々に大汝山に向かう。雄山から10分もかからないで、大汝山に到着する。今回の山行の最高到達点3,015m。
劔岳を望みます。反対側に小さく笠ヶ岳が...<BR>ずいぶん遠くから来たもんだw  ここまでの道のりの長さとこれ以上高度を上げなくていいという気持ちで達成感で一杯になる。
 山頂直下の休憩所で一本立てる。小屋のおじさんはとってファンキーなおじさんで軽快なノリで話しかけてくれる。
 「今夜から本降りになるよ~(笑)」「ここから懸垂で黒部平まで降りたら~。降りたらロープ切ってあげるよ~(笑)」と。
 時間的にもまだ、8時台なので、今から急げば今日中に降りられるかもしれないという一縷の光が見えてくる。だけど、計画を変えて室堂から降りるのだけは避けたい。出来る限り計画通り歩きたいと思い、最大限に急いで進む事にする。
 富士の折立は手前で荷物を降ろし空身で登る。体にバネが着いたように軽い。続いて、真砂岳・別山と進めていく。この辺はGWに良く歩いているエリアの為、GWとの景色の違いが楽しい。雪の無い劒沢はとても歩きにくいが、10時迄には劒沢を目指し降りる。
 劒沢小屋で、小屋番にここから真砂沢ロッヂ経由で黒部湖まではどの位かかるか確認をすると、遭対の方と話をして欲しいと案内される。遭対の方には、今夜から雨予報なので、出来れば今日中に下山をしたいが、可能かと確認する。今朝の出発地やここまでのコースなどを話をする。今の時期は、雪渓が壊れていて沢沿いを歩かないと行けなく、時間がかかる。普通の人だと8時間かかるから厳しいが6時間あれば行けるのではないかと言われる。今は丁度10時。最終のトロリーバスは17時にある為、1時間余裕がある。ここでしっかりと補給をしておかないと後半追い込めないと思い、補給を行い、劔沢を下る。意外と悪いのと、暑さのせいもあり、スピードが上がらない。雪渓を歩けそうな所があり、雪渓に降りるが、無事に戻れるか心配をしながら降りる(たまに滑って転ぶ)。前方に人の姿があるので、そこまでは進める事を確認し、少しは時間を稼ぐ。源次郎尾根の取付きを横目にしながら降りていくと前方に真砂沢ロッヂが見えてくる。ここまで30分程稼げたので、再度ロッヂで休憩を行い補給をする。休憩をすると作業帰りの人達と小屋番の人が集まって来たので、再度、ダムまで行くことを話す。小屋番は、6時間はかかるから止めた方が良いと話すが、私の後方を歩いていて歩きを見ている作業の方は、問題はないだろうとの太鼓判を押してくれた。劒測量100年記念のプレミア山バッヂを手に入れて、ハシゴ段乗越へ急ぐ。劒沢を越えてハシゴ段乗越へ。沢登り時々土着きの道が出てくる。上部のゴーロ帯を過ぎると急登となる。ハシゴ段というだけあって、乗越直下はハシゴが続くかなり崩壊しているものもある。
ついに感動のフィナーレの黒四ダム<BR>間に合って良かった~♪  時間は、12:45。ハシゴの連続帯にエリアに入る直前に真砂沢ロッヂに向かっている登山者に出会う。
 「今からダムに向かうのか?」と聞かれたので「はい、向かってます」と答えた所、「ここからはかなり距離があるので、(終バスに)間に合わないのではないか」と言われ、「何とか頑張ります!」と言って別れた。黒部ダムでのビバークは覚悟の上、間に合っても間に合わなくても、黒部ダムまでは歩かないといけないので、なるべく天気の良い時に歩きたい。出来れば今日中に降りたい...。
 尾根についてしばらく歩くと眼前に内蔵助平が広がる。歩くのが楽しみな感じのところである。登りの沢登りと下りはうって変わり枯れ沢である。砂地に大きなゴロタが転がっていて歩きにくい。しかも平坦な道が続くため、飽きる。そして長い。延々と同じような道をループしているかのように続く。バテも手伝い、スピードも出ない。いい加減泣きが入って来た頃に、沢音が聞こえてくる。出合が近くなってきた。源頭で水分補給を行い、内蔵助谷出合にたどり着く。15分程しか巻けなかった。だがここからのCTは2:30。終バスには完全に間に合う時間になった。内蔵助平からの道は意外と悪く崩壊している所などがある。疲れもMAXに達してきてここまできて、ケガをするのは馬鹿らしい、時間も余裕がある為、慎重に進む事にする。
 下の廊下方面からの出合が見えてきてこの悪路の終わりを感じホッとする。後は、ダムまでの道を行けば帰れる。時間も余裕がある為、出合で一本立てて最後の歩きをする。突如眼前に壁がたちはだかる。黒部第四ダムである。ようやく着いた。
 最後の渡渉を行い、ダムへの登りに取り掛かる。 そしてついに観光客を発見! ダムに到着である。時間は16時。予定よりも1時間巻くことが出来、最終前に着けた事はとても嬉しい。ダムにはたくさんの観光客がいて、ボロボロな恰好でヨロヨロと歩く自分がとても浮いている。ダム碑で到着写真を撮って頂き、扇沢へのバスのチケットを購入して帰路に着いた。

【総括】
 累積標高差15,000m。  距離70kmに渡るこの道のりを4日間で歩けた事にとても自分でも驚く。特に最終日は無理だと思っていた劔沢からの黒部ダムへの歩きはとても堪えたが、歩けて良かったと思う。  ハシゴ段乗越は足元が悪かったのでこれを雨の中歩くと思うと雨が降る前に通過してしまってよかったと思う。  劔沢や真砂沢ロッヂでの小屋番さんや遭対の方から、終バスに間に合うと背中を押して頂けた事もとても力になり、歩ききれた。  それもこれもすべて、2日目の朝の槍ヶ岳をやり過ごして、太郎平へ行った事がその後の成功に繋がったと思う。  3日目の薬師越えも天候に恵まれ、時間をかなり巻いて五色が原に到着をして、ゆっくり休憩を取れた事も大きく、4日目の頑張りに繋げられたのではと思う。すべてが登山の基本である早出早着を行ってきた事による恩恵であったと思う。
 また、稜線歩きや沢、VR、岩など、過去の様々な山行で皆様方と日々鍛錬を続けてこれたので今回の山行に耐えられた(ボロボロではあったが)のではないかと思う。改めて今日までご一緒してくれた皆さま及び、今回の山行を承認をしてくれた会の皆さんに感謝をしたい。
 一般登山道とは言え、今回は行程も長く、荷物も重く、無補給を目標に山行を計画をしてきた。
 初日こそ、降雨で翌日以降の影響を考慮しての小屋泊となったが、小屋では沢山の方と親交を深め、翌日以降の鋭気を養えたことが良かったと思う。また、槍ヶ岳を諦め、半日行程に余裕を持たせた事が、その後の行程に影響を及ぼしたと思う。
 ソロなので、事故らないように焦りを入れず、危険な所、悪い所では時間を使い確実に歩くように心がけた。
 秋の3連休で久しぶりに天候に当たった山行となり、沢山の人が山域には入っていたが、すべて自分が歩くタイミングはずれており、道中で登山者に会う事・渋滞にハマることもなくどこもスムーズに通過出来た事も大きい。
 たまたまではあったがここも計画がうまくはまってくれた。
 今回のルート取りで、なかなか次の計画が思い浮かばないが、また今後も継続して行って参りたい。
 最後に、黒部五郎岳で拾ったカメラは、下山後持ち主様へ返却することができた。SNSなども利用したが、カメラの中の写真を拝見させて頂きご本人を特定できる情報があったので(個人情報漏洩になるが(笑))、連絡を取り、送付が出来た。ご本人も小屋の方に連絡を入れていた様だ。山行中はそこまで頭が回らなかったが、小屋に預けるのが良いのかもと思う。
 ただ、小屋締めの際には、沢山の忘れ物と共に小屋の方が降りるので、小屋に連絡だけ入れておいて、こちらで対応をするのが、小屋にとっても煩雑にならずに良いのではないか。そんな意見も頂いた。 確かにそうだと思う。
 カメラの中には、沢山の本人の山行写真があり、ご本人が苦楽を共にしてきた映像やカメラなんだろうな...という事が伺い知れた。
 なのでご本人の元に返せた事は本当に良かった事だと思う。22日の天候を考えると無くしても気づかなかった理由も判るし、あの天候の中、登頂されたご本人の力量を感じた。
 自分も持ち主のような岳人になりたいと思った。

〈コースタイム〉
【9月21日】 新穂高(6:30) → ワサビ平(7:40) → 鏡平(10:00) → 双六小屋(12:00)
【9月22日】 双六小屋(7:45) → 双六岳(8:25) → 三俣蓮華岳(9:10) → 黒部五郎小舎(10:00) → 黒部五郎岳(11:40) → 太郎平(14:40) → 薬師峠(15:10)
【9月23日】 薬師峠(4:20) → 薬師岳山荘(5:20) → 薬師岳(6:00) → 北薬師(6:30) → スゴノ小屋(8:00) → スゴ乗越(8:40) → 越中沢岳(10:20) → 鳶山(11:45) → 五色が原(12:10)
【9月24日】 五色が原(4:15) → ザラ峠(4:40) → 獅子岳(5:30) → 鬼岳東面(6:00) → 一の越(6:45) → 雄山(7:30) → 雄山参拝 → 大汝山(8:00) → 大汝山休憩所 → 富士の折立(8:30) → 真砂岳(9:00) → 別山(9:30) → 別山見晴らし台 → 別山 → 剣御前小屋 → 劒沢(10:00) → 真砂沢ロッヂ(12:00) → ハシゴ段乗越(13:15) → 内蔵助谷(14:00) → 黒部ダム(16:00)

トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ358号目次