トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ358号目次

岩登り・北岳バットレス第四尾根
青木 綾子

山行日 2018年9月22日~24日
メンバー (L)青木、内田

 北岳バットレスは岩登りをする者なら誰もが知っている名の知れたクラシックルートだ。なんとなくかっこいい響きに憧れもあり、いつか登ってみたいと思っていた。昨年から何度かザイルを組んだ頼もしいパートナー、内田さんと女子ペアで挑戦する!

【9月22日(土)】
 06:30新宿発のあずさに乗り込み甲府へ向かう。甲府駅から広河原行のバスが朝9時に出るのだが、混雑しそうなので50分前に甲府着としたがこれが大正解。我々が到着した時は10人程だったバス待ちの登山者が、出発時刻にはディズニーランド並みの長蛇の列となっていた。立ち乗りの人もいる中、無事に1台目のバスで座席も確保でき約2時間で広河原に到着。
 広河原から大樺沢ルートを二俣に向かい、荷物をデポして取付きの偵察に行く。4尾根に向かうにはいくつかルートがあるが、一番易しく落石の危険が少なそうな5尾根支稜で行くことにした。C沢とD沢の間をうろうろして中間尾根の中に、上部へ向かう踏み跡を確認して偵察はここまで。二股で荷物を回収して白根御池小屋へ行くと、テン場も大混雑だった。ざっと数えて50張はあるだろうか。内田さんが目ざとくテントの隙間にスペースを見つけて、ギリギリ張ることができた。翌日に備えて早めに就寝。

【9月23日(日)】
 バットレス4尾根は人気ルートだけに混雑必至。予定を早めて2時半起床とし、3時半ヘッデンで白根御池小屋を出発した。偵察をしたおかげで薄暗い中でも順調にアプローチの尾根に入ることができた。樹林帯を抜けると草原に出て、目前にバットレス下部岩壁が広がる。振り返れば背後からは朝日が昇り遠くに鳳凰三山のシルエットを映している。5尾根支稜の取付きには前に1パーティー。ここで順番待ちがあるかと覚悟していたが意外と早く取付けそうだ。準備しながら先行パーティーの様子を眺める。学生風の若者2人組で、あまり慣れていないのか時間がかかっている。トップで登ったパートナーから、なかなかコールがかからずフォローの男性はロープをだるだるに弛ませたまま登って行ってしまった。あの二人大丈夫か。
下部岩壁から仰ぎ見るバットレス  下部岩壁は3ピッチ登ると緩傾斜になり、そこからコンテでルンゼを30m程直上すると横断バンドに出た。4尾根に行くには横断バンドの崩壊箇所をトラバースするのが結構怖いと聞いていたので心配したが、思ったよりしっかりしたバンドでほっとする。内田さんが先週行った沢の高巻きに比べたら、快適な一般道レベルだとか。但し道は狭く、不用意に歩くと落石を起こすので慎重に通過。一旦ロープをしまったほうがよかったかも知れない。
 この後横断バンドを右へ回り込んで4尾根下部のリッジを数ピッチ登り、4尾根の取付きへ...のつもりが回り込みすぎてガレガレのCガリーに出てしまった。ここからも4尾根取付きへは行けるので、そのままCガリー右岸を上へと登る。浮石だらけで一歩踏み出すたびに足元の石がガラガラと崩れて気持ちが悪い。この下のルートはきっと落石地獄だろう。50mほどCガリーを登ると左にヒドゥンスラブが見えた。左折の目印は岩に書いてある赤いペンキの「4」の文字だ。ロープなしでも登れそうだったが、念のため1ピッチ、ロープを出してようやく第4尾根の稜上テラスに出た。
 ほぼ同時に4組が取付きに到着。我々は安曇野から来た3人組に続く。奇数ピッチ青木、偶数ピッチ内田のツルベ。時刻は7:40。テン場を出発して4時間、やっと4尾根登攀が始まった!1ピッチ目、ハンドより少し広めのクラックに3番カムを決めていざ出発。なんだか石がツルツルして滑りそう。クラックに足を突っ込んだら安定したが、ぴったりハマりすぎて足が抜けなくなって一瞬焦った。
 順調にロープを延ばし4ピッチ目で核心の1つ三角形の小垂壁。この垂壁を越えてそのままリッジをたどるとハイライト、マッチ箱の頭だ。コルまで懸垂で20m降り、さらに1ピッチ進んだところで、前が詰まって小一時間待たされることになった。
渋滞中のマッチ箱のコル  とはいえ天気は穏やか、眺めもいいし時間もたっぷりあるしで焦ることはない。後続パーティーと話しながら気長に待つ。マッチ箱の頭で懸垂の順番待ちをしているおじさんは40年ぶりにバットレスに来たと話していた。当時は畳二畳もあるマッチ箱のコルでビバークできたそうだが、そのコルは1981年に大崩壊があって消失してしまった。後で写真を見たらマッチ箱自体、だいぶ傾いているような...。4尾根の最終ピッチだった枯木テラスの先も2010年の崩落で無くなってしまったし、マッチ箱もいつか崩れて登れなくなるのかも知れない。
マッチ箱のコルから、左上に城塞ハング  枯木テラスから先は、消失した最終ピッチの際を左にトラバースし、Dガリー奥壁の最終ピッチの城塞ハングに繋げる。内田リード。手が切れそうな鋭いリッジをつかんでのトラバース。高度感ありスリル満点だがフリクションもきいて足は決まるので見た目ほど怖くない。おいしい最終ピッチを譲ってもらい、最後は城塞ハングのチムニーだ。きついところは残置ハーケンにかけたヌンチャクを掴んでA0突破。終了点にて内田さんと握手を交わした。あー、楽しかった!!あっという間に終わってしまった気がする。
北岳山頂にて  クライミングシューズから登山靴に履き替え、北岳山頂までは30分の歩き。山頂はたくさんの登山客で賑わっていた。肩の小屋に宿泊するつもりだったが、3連休で小屋は混んでいそうなので白根御池小屋まで下りることにする。途中肩の小屋に立ち寄って飲んだ生ビールがうまかったこと!達成感と程よい疲労感とに包まれながら余韻に浸った。白根御池小屋の幕場に戻ってからは登ってきた4尾根を眺めながらまったりと過ごす。いろいろと事がうまく運んで充実の登攀だった。

【9月24日(月)】
 最終日は下山のみ。甲府でお風呂に入って、山梨名物ほうとうと、地元のお酒で完登の祝杯をあげ、ほろよい気分で帰京した。

〈交通〉
 新宿駅(6:30)-甲府駅(8:06)-特急あずさ
 甲府駅(9:05)-広河原(10:58)
 路線バス 2,050円

〈下山後の温泉〉
「喜久の湯温泉」400円 太宰治も新婚時代に通ったという、昭和の風情漂うレトロな温泉銭湯。甲府駅から徒歩13分。

〈コースタイム〉
【9月22日】 広河原(11:40) → 二俣(14:00) → 偵察 → 二俣 → 白根御池小屋(17:00)
【9月23日】 白根御池小屋(3:40) → 下部岩壁(5:30) → 4尾根取付き(7:30) → 4尾根終了点(12:00) → 北岳山頂(12:30) → 肩の小屋(13:00~14:00) → 白根御池小屋(16:00
【9月24日】 白根御池小屋(5:50) → 広河原(7:40)

トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ358号目次