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沢登り・白石沢モロクボ沢
野畑 祐子

山行日 2018年6月24日
メンバー (L)齊藤、千葉(快)、竹中、渡辺(智)、平田、清水、野畑

 「デート沢?なんですか、それは?」
 大集会後の打ち上げで聞いた、初めての単語。今年沢登りデビューの私は、沢登り=過酷で真の山男・山女が命を賭して向かう先だと思っていたので、「デート沢」という違和感がある響きに耳を疑った。曰く、昔の岳人で『デート沢とは関係を深めたい異性[初心者]と楽しむために神様が用意したような渓をいう』という解説付きで、三大デート沢が紹介されていたらしい。いやはや、沢登りでデート...いったいどんな猛者カップルが、日常で飽き足らなくなりそこに辿り着くのか。
 なんとなく腹に落ちないままでいた頃に、例会山行でマスキ嵐沢・小川谷廊下の日帰り沢2日間の計画を発見した。小川谷廊下は言わずと知れた名渓だし、諸先輩方から「美渓だから一度は行ったほうが良い」と聞いていたので是非にと申し込んだが、マスキ嵐沢の方は全く知らない。調べてみたら、どうやら先の三大デート沢のうちの一渓が、マスキ嵐沢であるようだ。さらに、肝心の小川谷廊下が、天候の兼ね合いもあって西丹沢白石沢支流のモロクボ沢に変更になった。モロクボ沢も、マスキ嵐沢に負けず劣らずのデート沢らしい。然らば、2日間連続で実際にこの目でデート沢なるものを確かめるしかあるまい(マスキ嵐沢の記録は平田さんの頁をご参照いただきたいが、残念ながら天候が悪くデート気分にはならなかったことだけ記録しておく)。

【6月23日(土)】
 前日のマスキ嵐沢の遡行後、玄倉バス停で渡辺智世さんと清水さんを車でピックアップし、ビバークのために近くの広場へ向かう。その夜は生憎の雨だった。齊藤リーダーは、天候を見て小川谷廊下からモロクボ沢に転進するかどうか判断すると言っており、その夜もまだ迷っていた。全員、両方の遡行図・地形図を携帯しており、どちらに行っても大丈夫なよう準備していたが、雨量とメンバーの力量を鑑み、齊藤リーダーは最終的にモロクボ沢を選択した。
 タープから滴ってくる雨水に苦戦しながら、皆で竹中さんの作って来てくれたおでんと、持ち寄ったつまみとお酒で体を温めた。

【6月24日(日)】
 翌朝、平田さんの作ってくれたニョッキでお腹を満たし、モロクボ沢へ向かう。まずは車2台で用木沢出合へ向かい、メンバーを降ろしてから、1台を下山口となる西丹沢自然教室にデポした。この時にはまだ小雨が降っていたが、じきに止んだ。
 8時15分ゲート通過。入渓ポイントまでは、林道を15分程歩いて白石沢キャンプ場跡地と前後の橋を2つ越える。石垣の広場の右横からの入渓には下降はなく、すんなりと沢に降りられた。
 9時には本沢最大の30m大滝に到着した。
大滝を見上げる  ここは右岸を高巻くが、泥付のルンゼで悪い。リーダーの足の置き場を慎重に確認、記憶しながら、ロープを出してもらい、アッセンダーで順番に登った。途中雲が取れてきて、大滝に木漏れ日が差し込んだ。緊張の高巻きルートだったが、思わず「きれい!」と声が出る。滝の飛沫に陽があたり、きらきらと煌めく。脳裏に「デート沢」という単語がよぎった。まさに間違いなく、これは関係を深めたい人と共有したい風景だろう。言葉でも写真でも伝えきれない。
 そこからは、美しい釜を持った快適に登れる小滝が続く。概ね水流沿いを問題なく登れるが、3m程の滝でも苔で滑る箇所もあるので、初心者にはお助け紐をすぐに出せるよう用意した方が良い。足の置き場によっては、次の一歩に難儀することもある。
 気持ちよく進んでいくと、10時過ぎに石積みの堰堤に着いた。苔むすゴーロや快適なナメ滝を通過していく。女子たちのきゃっきゃとはしゃぐ声が谷に響く。途中、写真撮影をしたり、まだ寒いのに我慢して釜に浸かってみたりと、のんびりと楽しく遡行しながら、11時過ぎに970m付近のくの字ナメ滝に到着した。ここでナメ滝側の右俣に入る。並んで通り過ぎるメンバーがビートルズのアビイ・ロードのようだった。

くの字ナメ滝でのアビイ・ロード透明すぎて水面が見えない

苔むす谷  苔むす岩の谷は、すべてが緑の世界。苔の深い緑と木々の新緑。そして足元はどこまでも透明な水流。陽の光がきらきらと水面に映るが、透明すぎて水面が写真には写らない。
 そのままモロクボ沢の頭と畦ヶ丸避難小屋の間の登山道を目指し、右俣を詰めていく。高度1,100mあたりの二俣で、左右どちらに進むかを話し合ったが、左を選択。沢沿いを進んでいくと、足がかりの少ない岩盤急斜面の上に落ち葉が積ったいやらしい詰めになった。メンバーは横に広がり、土付きの斜面で直登する人、斜めにアプローチを取る人、とコースが分かれた。私は直登で岩盤地帯を早く抜け土付きルートに取付き、難なく斜面をクリアできたが、別ルートを取ったメンバーは滑りかけて上からお助けロープを出してもらったりしながら、何とか突破したようだ。
 急斜面を詰め終えるとそのまま登山道に出て、13時ごろに畦ヶ丸避難小屋にたどり着いた。今年の1月にもお世話になった、かわいい薪ストーブのある小屋。今回は日帰りなので、少々休憩してから、西丹沢自然教室への登山道を降りた。

 モロクボ沢は美しい沢だった。まるで絵本の中に飛び込んだかのような世界。確かに、「デート沢」という単語がぴったりだった。是非お天気の良い新緑の季節に、関係を深めたい人と行ってみると良いだろう。

〈コースタイム〉
ゲート通過(8:15) → 入渓点(8:30) → 30m大滝(9:00) → 石積み堰堤(10:00) → くの字ナメ滝(11:00) → 登山道合流(12:30) → 畦ヶ丸避難小屋(13:00) → 西丹沢自然教室(15:00)


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