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バリエーションハイキング・鋸
平田 淳

山行日 2018年6月2日~3日
メンバー (L)千葉(快)、下村、早川、野畑、平田

 初めて甲斐駒に登った2年前に山頂で見かけた標識と注意書きの看板。
 そこには「鋸岳(要注意)5時間40分」「危険 この先は鋸岳です。ザイル・ハーネス・ヘルメット等の装備を所持していない方は入山を控えるようお願いします。これまでも山岳遭難事故 死亡事故が発生している場所です」と書かれていた。
 それまで興味がなかった鋸岳だったが、標識と看板を読み終わった途端、いつか行ってみたい山となり、今回念願がかなった。

【6月2日】
 前夜22時、立川駅で集合。国道20号にある「たけち温泉」の看板がある角を目印に路地を曲がり、ここから釜無川林道へと入っていく。ドンつきが釜無川ゲート。24時に到着。ゲートといっても駐車場やトイレがあるわけではなく、路肩に車を停車。ここに車をデポして、タクシーで尾白川渓谷駐車場へ向かい、登山口に近い駐車場にテントを張り、1時間半ほどの仮眠を取った。
 4時に出発予定も、早めに準備が整ったため3時50分に出発。竹宇駒ヶ岳神社を経由して矢立石登山口から右ルートで日向山へ。矢立石登山口から登山道は樹林帯が続き、さほど暑くもなく快適。8ヶ月ぶりの山だったこともあり、この樹林帯の涼しさはなんとも有難かった。比較的緩やかだった傾斜が徐々にきつくなり、景色も笹とカラマツに変わったと思ったら山頂に到着した。山頂は開けておらず、三角点がポツンとあるだけ。三角点から登山道に戻り、しばらく歩くと樹林帯から突然白い砂地が目の前に広がる雁ヶ原。花崗岩が風化した白砂には太陽があたりまぶしい。また目の前には甲斐駒ヶ岳の雄姿を眺めることができた。
日向山から見える甲斐駒ヶ岳  ここからは細い日向八丁尾根で、見た目よりも急登を黙々と登る。途中、仮眠時間の少なさもあってか初めて歩きながら眠気に襲われ、ガムを噛みながら必死に睡魔と闘うもあえなくノックダウン。10分ほど仮眠を取らせてもらった。樹林帯での仮眠は本当に気持ちよく、会社での仮眠とは雲泥の差。すっきりとした爽快感のもと、また歩き始めた。駒岩分岐から少し下り、再び登り返して千段刈というなだらかな尾根を行く。カラマツ林でクッションの効いたフカフカで気持ちいい登山道が続く。木々におおわれていて眺望はいまひとつだが、時折木々の切れ間から見える甲斐駒ヶ岳は、深い谷から立ち上がる秀逸な姿を見せてくれる。駒薙ノ頭から再び登ると大岩山山頂。まったく展望がなく地味だが、しばし休憩。
 大岩山からは八丁尾根沿いに烏帽子岳に向かった。大岩山からはしばらくは緩やかな下りだが、鎖場から急降下が始まる。大岩山からの下りの最後は長い梯子。バリエーションルートとはいえ、登山道はしっかりと整備されており、ところどころにテープもしっかりとついているために迷うことはなかった。こんなに良い道なのに、なぜ地図に載っていないのか不思議なくらいだ。八丁尾根は樹木に遮られ、烏帽子岳手前まで視界はきかない。ようやく視界が開けてきて、出迎えてくれるのはまたまた甲斐駒。そこから岩尾根を進んでいき、烏帽子岳に到着。
鳥帽子岳  山頂には真新しい山頂標識があるが...よく見ると「鳥帽子岳」の文字!? "烏"ではなく、"鳥"と書かれていた。
 "えぼし"と思い込んでいただけで正しくは"とりぼうし"なのか、もしくは誤字なのか分からずモヤモヤ感を残しながらも、疲労のために深く考えないまま、ここで2回目の仮眠を取った。
 烏帽子岳から鋸岳~甲斐駒ヶ岳の稜線に向かう。すぐに分岐の三ッ頭に到着。ここにも真新しい標識があり、迷うことはなかった。三ッ頭分岐からアップダウンを繰り返し、砂礫地が見えてくると、六合目小屋まですぐ。
 2006年にリニューアルしたという六合目小屋の入口前には風よけなのか大きな岩があり、入口には吊り下げ式のスライドドアがついている。中に入ると広めの土間があり、奥に板の間があった。壁は石を積み上げコンクリートで固めているようだった。この日の利用者は三峰以外に1人だけだったために、寒さ対策で板の間にテントを張り、寝た。おかげでぬくぬくの中、爆睡した。
 今回の山行で唯一の水場が六合目小屋。男性陣が水場まで行ってくれた。水場へと下っていく場所にはピンクテープがあるそうだが、水場まではずいぶん下る&登り返しが思ったよりきつかったそう。

【6月3日】
 すっきりと晴れわたった中、六合目小屋を出発。前日通過した三ッ頭まで戻り、鋸岳に向かう。前日には気づかなかったが、三ッ頭分岐にある標識には「鋸岳 1.4h」と書かれていた。そんなに近い?! それとも「1.4k」の間違い? 近かったら嬉しいと思いながら地図を広げるも、どう見ても1.4h以上掛かるよう。そもそも「1.4h」って何分?パッと見て分かりにくい標識が逆に何とも味があっていい。
 三ッ頭からアップダウンを繰り返し、中ノ川乗越に到着。ここまで踏み跡もしっかりついており迷うことはなかった。ここでヘルメットを着用。中ノ川乗越からは岩尾根を右にした急なガレ場。岩が小さく砕けていて足元が崩れ、登りにくい。7月になると草付きになるそうだが、この時期は草がなく、落石に注意しながら登る。登り始めは右ルートが登りやすかったが、登るにつれ左側に草が生えており、左ルートに移動しながら岩稜を上がって第二高点。ここは眺望が最高で、甲斐駒をはじめ、これから向かう第一高点とぐるりと360度見渡すことができた。
 そしてここからが鋸岳の核心部と言われる第一高点までのルート。まずは第二高点頂上のごくわずか手前から、南西尾根方向の踏み跡を下る。第一高点方向と正反対の方向への下りとなる。下り始めは岩にうっすらとペンキで書かれているが、分かりにくい。大きく樹林帯を巻く形でしばらく下ると、大ギャップのルンゼ、ガレに取り付く。ここまではルートを見失うことがなかったが、ここにきてルートを見失う。ルンゼを登るのか、下るのか分からず、ずいぶん時間を要した。多くの登山者がルートを見失うようで、踏み跡があちこちに見受けられた。またルートとは異なる箇所に何本かロープが垂れ下がっているために、惑わされやすい。注意が必要。
大ギャップから鹿の窓へのルート  正解は大ギャップからのガレ沢の左岸側に20mほど下ると右側にルートが続く。ガレ沢の対岸下流にある登山道に向けてガレ沢を慎重に下降トラバース。なんとか鹿の窓直下へ取り付くが、斜度がきつく浮石も多いので、足元が崩れるなどして落ち始めたらなかなか止まらない。ここの下りが一番怖かった。
 対岸の登山道は岩のバンドについており、かなり狭い。ここを通過すると鹿の窓のルンゼ。鹿の窓のルンゼは初めは左側にある草付きを登り、途中から鎖をつかんでの岩壁登りとなる。岩が非常にもろく、とにかく落石が多かった。見上げれば鹿の窓が見えるので、それを励みに登る。最後は鹿の窓と呼ばれる天然のトンネルをくぐって山梨側に出る。
 なかなか天然のトンネルをくぐる機会はないだけに、高揚しながらも疲れがピークだったので、静かに喜びをかみしめた。
 山梨側を進むと小ギャップの下降が待ち構えていた。ここも鎖あり。はじめ半分ぐらいは急な草付きの踏み跡をたどり、途中から鎖を使用。20mほどをゴボウで下った。小ギャップの底に立つとすぐに岩壁の登り返し。やはり鎖が垂れていて危険はないが、一部手前に飛び出している岩があるので登りにくかった。
 最後はすっぱり切れた稜線を歩いてようやく鋸岳山頂に立った。白根三山をはじめ、遠くには北アルプスまで見渡せる360度の大パノラマを楽しむために、しばし休憩。

鹿の窓を通過やっと到着!鋸岳山頂

 鋸岳から横岳峠までは尾根歩きもあり多少楽になるが、基本的に飯場跡小屋までは急坂が続き、ひたすら下る。横岳峠を過ぎると展望はなく、シダの群落の中を下っていく。
 途中「富士川の水源」の看板があり、石の間から水が湧き出ていて、とても美味しい水だった。展望のない下りに飽き飽きしていただけに、「水源」の看板で少しテンションを上げることができた上に、美味しい水で乾いた喉を潤せた。
 水源から先は釜無川沿いを下っていく。目印があちこちにあるので、ここでも迷うことはなし。
 最後に釜無川を渡ると、飯場跡小屋が見えてきた。元大昭和製紙の飯場跡小屋は赤い屋根のログハウス風。施錠されていて小屋内で泊まることはできない。
 飯場跡小屋を過ぎると最後の最後に地獄の9.2キロの林道歩き開始。工事車両が通るために道路は舗装されているので歩きやすいが、疲れ切った足にはなんとも過酷な林道歩きを約2時間強続け、ようやく釜無川ゲートに到着。
 帰りは中央道の渋滞にはまり、立川駅に22時半到着。

〈コースタイム〉
【6月2日】 尾白川渓谷駐車場760m(3:50) → 日向山1,659.6m(6:48~7:00) → 大岩山2,319.3m(10:40~11:08) → 烏帽子岳2,593m(14:13~14:42) → 三ッ頭2,589m(14:55~15:00) → 六合目小屋(16:00)
【6月3日】 六合目小屋(5:22) → 三ッ頭2,589m(5:33~6:18) → 鋸岳2,685m(10:19~11:07) → 横岳峠1,986m(12:48~13:14) → 飯場跡小屋(14:30~14:35) → 釜無川ゲート924m(16:51)

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