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沢登り・金木戸川小倉谷
内田 優生

山行日 2018年8月11日~14日
メンバー (L)内田、古屋、西村

【1日目(晴れ・時々雨、後曇り)】
穏やかな小倉谷出合を難なく渡渉  今年で3年連続の双六通いとなる。長い林道歩きも今回は小倉谷出合で終わりだと思うと、過去2年ほど気持ちは重くない。8時頃金木戸のゲートに到着すると、既に駐車場には車が8台停まっていた。まだ準備中のパーティに行き先を訪ねると2パーティは打込谷に入ると答えた。うち1パーティは9人の大所帯だったので、遡行する沢が同じでなくてよかったと内心思ってしまった。途中雨に降られながらも4時間ほど歩き小倉谷渡渉地点に降り立つ。なんとか泳がずにスクラム渡渉で越えられたらいいなと思って到着してみると水位は股のあたりまでしかなくおまけに全く流れはない・・なんとも肩透かしの渡渉が小倉谷の幕開けとなった。今回はだいぶ水が少ないらしい。これは物足りないと取るのか幸先がいいと考えるべきか。
4m滝の右ルンゼをショルダーで越えるイメトレ中  入渓してしばらくは巨岩帯を越えていく。小滝はどれも快適に登れるものばかりか、巻道に明瞭な踏跡がついている。しばらく行くと最初の難所4m滝が現れる。どの記録にもここは左岸のクラックをショルダーもしくはカムを決めて上がるとある。今回カムは持ってきていないので、初心に返り?道具に頼らず空身のショルダーで越えた。後続はお助けで上がってくる。が、その後のほんの1mのトラバースが若干厭らしい。ここも念のため空身で上がり、後から荷物を引き上げた。
5mの滝は手前右岸を巻く  次に現れたのは廊下状のゴルジュの先にある5mの滝。滝の左側にはボルダーのような岩が積みあがっている。ここもショルダーで上がったという記録も見たが、あっさり右岸を巻けそうだったので手前から巻いていく。
河原の石を全て取り除いた整地済み幕場(1,375m)  すると15mの横向きの滝が現れた。これを越えたら幕場を探そうと考えていたので本日の行動の終わりが見えてホッとする。ここは容易に左岸を巻けた。広河原に出ると幕場を探しながら進むが、思っていたほど適地は多くない。神戸の5人パーティが既に5つのツエルトを1,375mあたりの左岸に張り焚火をしていた。結局そのすぐ脇に我々もタープを張らせてもらう。すぐ横ではあったが、巨岩帯に挟まれご近所の様子はわからずプライベート感満載の夜を楽しめた。この夜は星がとても綺麗だった。翌日の晩にはペルセウス座流星群が見られると聞いていたので楽しみに就寝した。

【2日目(曇り時々晴れ、のち雷雨)】
辿り着けなかった極上のテン場(無念!)  翌朝神戸のパーティの少し前に出発する。歩き始めて15分ほどでひろたさんの記録に極上物件とあった右岸幕場が現れる。昨日ここの少し手前まで偵察に来ていたので、もう少し足を伸ばしていれば!と悔やまれた。この谷は全体を通して極上物件と呼べるものがさほど多くない印象を受けた。
唯一ロープを出して泳いだ20m淵  その後どの記録にも泳いで取り付くとある20mほどの淵と2条小滝が現れる。今回持参したフローティングロープは15mで若干足りないので、40mロープを繋げて古屋さんにロープを引いて先頭で泳いでもらう。彼はここを難なくクリアして側壁を上がっていく。西村さんが後に続き、最後の私は自分にロープを括り付け完全に引っ張ってもらい楽をさせてもらった。その後記録では側壁を登り懸垂で降りるとあったが、右岸をへつって滝の落ち口まで出る。最後の1mのへつりが落ちるとトイ状の滝に真っ逆さまだったので、メンバー皆若干の緊張を強いられたがここもなんとかクリア。
左から出合う大滝30mを見上げる  しばらくゴルジュ帯を進んでいくと右岸から30mの滝が落ちている。圧巻の一言。滝の落ち口に大きなチョックストーンのような岩が乗っていてそこから直接水しぶきが下まで飛んでくる風景が非常に豪快でしばし見とれてしまう。小倉谷の出合の滝はどれも素晴らしかったが、今回この滝が一番印象に残った。
左からへつり(そして落ちた)水流左を直登する  その後谷が左に曲がるあたりに深い釜を持った5m滝が現れる。ここは右岸をへつり赤いシュリンゲを掴み水流の左を直登と記録にある。赤いシュリンゲは今は青い捨て縄に変わっていた。これを掴み一段下に降りて右手で次の一手を探っているとき一瞬足が滑り瞬殺で釜にドボンと落ちてしまった。上がろうにも足場が滑っていて立ち込めない。すぐ後ろの西村さんにお助けを出してもらい何とか水面から引き上げてもらった。この右岸のバンド状をへつり回り込んでしまえば、滝はホールドが豊富で特に難しいところもなく直登できる。ここはロープを出さずに終わった。
深い釜を持った40m大滝は右岸から巻く  その後渓相が変わり美しいナメとなる。滝や釜のスケール感もすごいがナメもまたデカい!しばし癒されながら進んでいくと前方正面にどどーんと大きな40mの滝が落ちている。巻きは少し手前の右岸だが深い釜のギリギリまで近づき豪快に水を落とす滝の飛沫を浴びる。爽快だった。ここは豊野さんの記録に巻きは15分とある。素直に溝つたいに進むと階段状になる。階段状といってもところどころ外傾しているので、時おり左の笹を掴みながらガシガシあがる。歩きやすそうな溝はさらに上まで続いていたが、ふと右側に目を向けると草付きのバンドが伸びているので、辿っていくと灌木帯に入り明瞭なふみ跡に導かれて滝の落ち口に出ることが出来た。とても素直な高巻きで所要時間は20分程度といったところか。
二俣にかかる左俣の滝上段をロープを出して登る  その後ほどなくして二俣に到着。本流は右だがとても越えられないので左俣を登り右に戻るというルートだ。今回ここが核心の一つと考えて色々な記録を見ていたが、いざ滝を目の前にするとそう難しそうに見えない・・おそらく水量のせいだろう。下段の滝は若干ヌメっているものの、傾斜は緩いのでロープも出さずに上がることが出来た。そして上段は階段状になっていてほんの3-4m程なのだが結構立っているように感じる。落ちたら相当下まで行きそうなので、ここはロープだねとメンバー全員意見が一致。ビレイ用のハーケンを打ちこみ、緊張しながらも乗越すことが出来た。支点は記録にあった通り、10mほど先の灌木で取ることが出来た。今回ここが唯一登りでロープを使った場所だった。そして懸垂でロープを使用することはここまでもこの先も結局一度もなかった。念のためにと40mロープを持参したが、30mでも十分だったかもしれない。
2段40m大滝下段は右壁を直登、上段は右から巻く  その後8mのナメ滝を越えた後右俣に戻るのだが、この取り付きがわかりにくい。薄い踏み跡を辿り無理やり左岸を登っていく。踏まれているような踏まれていないような・・という傾斜を木登り状態で上がり尾根を乗越しそのまま反対側に降りようと試みたが、進行方向に木々がなく、濃い笹薮に覆われて傾斜が全く分からない。いきなり崖になっても最悪木があれば懸垂できるが、藪だけでは戻るにも立ち往生してしまう。2-3m降りてみたが一向に前が見えないので、安全を期してもう一度上まで上がり尾根づたいにさらに10mほど進む。相変わらず道は濃い笹薮に覆われているが、木々があるところを目指し降りていく。急激に傾斜が落ちるところを避けおおよその方角で藪コギを続けるとパッと視界が開けて右俣の沢床が目に入った。そう遠くない。最後は緩くなった傾斜に逃げてようやく左俣から右俣への移動が終わった。振り返ると当初降りようとしていた笹薮のあたりはやはり急に落ち込んでいてあのまま降りずによかったと思った。ちなみにこの藪コギで私が落とした沢バイルを西村さんが拾ってくれた。相変わらず落とし物多くて困っちゃうな~。その後息つく暇なく2段40mが現れる。下段は当初水流沿いに行こうと試みたが意外と滑る。というか滑って落ちた。仕切り直して下段は右壁をよじ登る。下段のテラスに上がる最後の1歩が手がなく、岩もまるっとしていて厭らしい。上段は右の踏跡を巻いて越えることにした。もはや直登しようという気力は私を含めメンバーにはない。
30m大滝を巻いた後の落ち口の一枚岩  その後遠くにまたデカい滝が見える。これが右岸を巻く30mの滝だ。ここの高巻きは取り付きがわかりにくくガレガレで厭らしかった。滝の水流左壁近くにあるルンゼを上がるのかなと思ったが、傾斜がきつそうで、さらに10mほど上がったところが立っているように見えるのでパス。結局滝のすぐ脇を避けて右岸の木が上から下に横たわった脇を直登していく。最初は良かったが、すぐにガレて足場が悪くなり非常に神経を使う。そして頼りにしていた木はほぼ折れて横たわっているだけで役に立たない!なんとかトラバースラインの高さまで上がり滝の落ち口を目指す。目を凝らして踏み跡を探すと今立っている位置より若干下にラインが見えたので、木や草を掴みトラバースダウンして滝に近づいていく。上から見ると当初パスした滝のすぐ脇のルンゼから踏み跡のラインが伸びているようにも見えて、ルート取り失敗したかなあとも思った。トラバースして滝のすぐ脇まで来たが、落ち口はもう一段上だった。岩を避けほぼ木登り状態で木を乗越して藪に突入。踏み跡のような踏み跡ではないような藪を漕いで傾斜が緩くなったあたりで下降するとドンピシャで滝の落ち口に降り立つことが出来た。降りたところは幕場候補に挙げていた一枚岩と平らな広場だった。うーん。幕場として悪くはない。が、薪が少ない。タープを張る立木を確保するのさえ難儀しそうだ。何より、「いいね!ここにしよう!」というほどテンションが上がらない・・メンバーも決めかねているのか、はたまた考える事を放棄しているのか結論が出ない。疲れてはいるものの時間はまだ14時半。見送る事にした。自分がリーダーの時は16時前の幕場は直感!それ以降は妥協!と決めているのだ。
素晴らしい幕場とナメの上の焚火  とりあえず奥の二俣を目指して歩き始めると手前の2、040mあたりのナメの右岸を1mほど上がったところに幕場候補を発見。疲れているので、奥の二俣まで行かずここを今晩の宿とした。
 その後1時間ほどで神戸の5人パーティがやってきた。リーダー以外はかなりお疲れのように見えた。彼らもここの小さな幕場を狙っていたようだが、我々が先に到着しタープを張ってしまったため、奥の二俣まで進むことを余儀なくされ、落胆した様子で通り過ぎていった。遅れ気味に最後尾を歩く一番お疲れのように見える女性のザックにはカムが何本もぶら下げられていた。なかなかスパルタな会のようだ・・その晩は雷を伴った豪雨となり、癒し系のナメはわずか1時間ほどでトイ状の滝?に変貌していた。1段高いところに幕場を設置出来て本当にヨカッタ! 楽しみにしていたペルセウス座流星群はもちろん見られず、むしろ浸水の心配をしながら床に就いた。

【3日目(曇りのち雨)】
15m滝の右壁直登は高度感抜群  朝起きると雨はやんでいた。7時過ぎに出発。15分ほどで奥の二俣に出た。昨晩ここに泊まった神戸のパーティは既に出発していた。彼らがツェルトを張ったであろうエリアが散在していて確かにいい幕場ではある。が、増水にはあまり耐えられそうにない。昨日の雷雨は大丈夫だったのだろうかとふと気になった。その後順調に高度を上げていく。もうロープを出すようなところはないと思っていたが、高度感のある15m滝が現れる。ここは左岸の壁をトラバース気味に登っていく。滑らないし階段上にはなっているのだが、なんせ切れ落ちているので体がゾワっとする。
小倉谷三銃士?@笠ヶ岳山頂  その後も連続する小滝を越えていくと、水流が細くなり、どんどんと傾斜がキツくなってきた。10分歩いては休みたくなるほど、足に乳酸が溜まっているのを感じる。笠ヶ岳は相変わらず雲の中だし、小雨は降って来るし、足元はガレてきて全く楽しくない。早く終わってくれ~と思いながら高度をあげていくと進行方向左側に白いペンキで〇というマークが見えた。これが現在は使われていない旧道で、この道を辿っていくと小屋に繋がるらしい。この楽チンルートを迷わず使わせて頂く。快適なトラバース道を歩くこと30分ほどで笠ヶ岳の小屋の直下に出た。すると笠ヶ岳頂上から神戸のパーティが下りてくるではないか。どうやら彼らは楽チントラーバースルートを使わず、このガスガスの天気の中、ガレガレの直登ルートで笠ヶ岳に詰めあげたようだ。そして今日中に下山すると言い小屋にも立ち寄らず下りていった。やはりスパルタ・・・ 一方で軟弱チームは今日はここまでとして小屋に泊まり宴会した後、翌朝下山した。今回の山行は天候が安定せず毎日少し降られたりしたものの、概ね核心部分は好天で抜けられたように思う。とても幸運だった。今回は水量も少なかったので、3人で力を合わせ割と難なく越えられたが、きっと水量が多いと全く別の沢なのだろう。また来たいかと聞かれれば勿論!と答えるが、あの長い林道を思うともうしばらくはいいかなぁ。あわよくば10年後くらいにバリバリの若手に引っ張ってもらい再訪したい。兎にも角にも、これで3年連続の双六通いに一応の区切りを付けることが出来た。

〈コースタイム〉
【8月11日】 林道ゲート(8:20) → 小倉谷出合前の広河原(12:30~13:15) → 広河原(幕)(16:30)
【8月12日】 広河原(幕)(6:35) → 20m淵と2条小滝(8:00) → 40m大滝(右岸巻き)(10:10) → 二俣(11:10) → 2段40mの滝(12:40) → 30m滝(右岸巻き)(13:45) → 落ち口の一枚岩(14:10) → 2040m 幕場着(15:20)
【8月13日】 2、040m 幕場発(7:10) → 上部トラバース道(10:45) → 笠ヶ岳山荘(11:10)
【8月14日】 笠ヶ岳山荘発(7:10) → 新穂高ロープウェイ(12:45)

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