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沢登り・八久和川(八久和ダム~出谷川中俣沢)
荻原 健一

山行日 2018年8月11日~15日
メンバー (L)荻原、永岡、金子、津田、千葉(快)

 今年の沢登りのテーマは憧れの大渓谷シリーズの2本(八久和と奥利根)。その他の沢は全てこの2本の為の"露払い"と言ったところか?早いもので今年もお盆の季節となり、そのうちの1本目がやってきた。
 八久和川とは・・・(豊野さんの解説本によれば)「朝日連峰の沢のなかでも群を抜いて遡行距離が長く、沢というよりは川と呼ぶ方がふさわしい渓である。下流部では美しいブナの森の間を豊富な水量をたたえて悠々と流れていき、大きな淵や長い瀞を作り出し、呂滝の潜水艦をはじめとする巨大岩魚たちをその原始の風景の中に包み込んでいる。そして魚の影が消える上流部に至ると遡行時期によっては雪渓処理技術を充分駆使したり、登攀的要素の強い連瀑帯を適切なルートファインディングで抜けて行かなければ、その源頭に辿り着くことは出来ない。」とのことで、是非源頭に辿り着いてみたい!と思った曲者5人衆で挑戦してみることとする。

【8月10日】
 21:30に東川口駅に集合し、車で出発するが東北道はお盆渋滞で遅々として進まない。結局、仮眠なしで夜通し運転することとなった。

【8月11日】
 仮眠なしで頭がボーっとする中、8:00にダム上流部の林道終点を出発する。二松沢先の徒渉点までの踏み跡はところどころ不明瞭でたまにウロウロする。最近は歩く人も減ったのか?思っていたより歩きづらく感じ、ずいぶんと時間がかかった。「二松ココ下る」のナタ目を無事発見し、八久和本流の川床に降り立つ。

有名な「二松ココ下る」のなためこれが八久和です!

 悠々と流れる水量たっぷりの本流をみて「ここが八久和かー!」と気分も盛り上がってくる。しばらくは水線沿いに問題なく進めて、程なくベンノ沢出合に到着。ここからは「ベンノ沢の先はゴルジュが厳しくなるので右岸のカクネ道という踏み跡へあがってカクネ沢へ」というトポのアドバイス通りに進む。ベンノ沢から上がっていく踏み跡はしばらく明瞭だが、やがて良く分からなくなってくる。高度計をみると既に150mも上がっている。さすがにこれは上がり過ぎだろうと思い、ザックを置いて1人で戻ってみる。しかしいくら探してもカクネ道らしきものが横切っている形跡は皆無。かなり上にあるという情報を見たという意見もあり、更に上にあがることにする。しかし行けども行けどもカクネ道は見つからない。結局標高差で350mほど上がってしまい、Bプラン(見つからない場合は尾根が分岐する標高860mまであがり、そこからカクネ沢に下りる尾根に乗り換えて下降)に変更する。カクネ沢出合の予定幕営地についたのは日が暮れる寸前の19時。昨夜は寝てないし想定外の大高巻きで全員ヘロヘロだったので、薪を集める気力もなく焚火なし(酒はあり)で早々に就寝。

【8月12日】
 幕場より踏み跡らしきものを使って2-3mほど高く上がると更に広いビバークポイントがあり釣り師ご用達のブルーシートなども残置されていた。但しここは水場が遠く虫も多そうなので盛夏よりは秋口あたりが快適そうだ。ここから踏み跡は不明瞭となり適当に藪を漕いで本流の川原に降り立つ。河原は広くどこでも歩けるといった感じ。長沢出合、芝倉沢出合と順調に本日の行程をこなしていく。小国沢出合より川幅が狭くなり、ところどころ激流となるとのことだったが、どれも大したことはなく簡単な泳ぎと徒渉で難なく通過する。この頃から前日は全く無かった岩魚の魚影がちらほら現れるようになる。あっという間に小赤沢出合で時間に余裕が出てきたので竿を出しながらの遡行となる。茶畑沢出合の滝壺は入れ食い状態で皆さんご満悦だ。大ハグラ石滝は花崗岩の白、淵のエメラルドグリーン、岩を咬む飛沫が美しいところだ。ここは水流沿いに簡単に通過。この先に出てくる長い淵は泳ぎの突破は困難そうだったので左岸より小さく巻く。ゴルジュ帯を抜け川原状になってきたので幕場を探していると程なく平七沢出合となり左岸の明るい砂地を幕場とする。ただし増水には耐えられないので逃げ道を用意する必要はある。幕場でもそこそこの釣果があり、今夜は岩魚づくし料理と盛大な焚き火で大いに盛り上がる。

【8月13日】
 今日は半日行程の休養日だ。しばらく行くと岩屋沢出合で天狗小屋からオツボ峰の登山道が横切るが、オツボ峰側は不明瞭で現在は廃道のようだ。更に行くとすぐにオツボ沢が左岸より豪快な滝で出合う。通常ここは左岸から巻くのだが、KGが泳ぎで行けないか空身で偵察したいとのこと。本流はすぐ先で大きく左折しているので姿が見えなくなるが、なかなか戻ってこないので少々心配になる。ようやく戻って来て話しを聞くとなんと泳ぎで突破出来たとのこと。泳ぎで突破した記録は見たことがないので大したものだ。但し左に折れてからの長い淵は30m以上あるようで5人がロープを使って突破するには相当の時間がかかると思われ、結局、定石通りに左岸より巻くこととする。次のゴルジュの先にはコマス滝があり、これはとても突破出来ないので右岸のウシ沢を上って明瞭な踏み跡に入り簡単に巻いた。巻きで明瞭な踏み跡があったのは後にも先にもここだけで八久和川の完全遡行の成否は天気に加えて高巻きのルーファイ次第と言っても過言ではないほど高巻き時のルート取りは難しく感じた。この後は広い川原となりやがて明るく開放的な素晴らしい幕場を発見。現在地を確認すると呂滝のすぐ手前で、予定幕場の湯ノ沢先まではコースタイムで1時間30分ほど手前となるが、明日その分だけ早く出ようということとなり本日はここで終了。幕場周辺での釣果もまずまずで今夜も楽しい宴となる。

【8月14日】
呂滝にて三峰旗を掲げる  今日は長いので5時半出発とする。すぐに呂滝。
中俣沢の下部核心となる12m滝  滝自体は大きくないが、その釜の水量と深い色に圧倒される。前日に糸を垂れたが当りはなし。名物の潜水艦にも残念ながらお目にかかれなかった。ここは右岸を小さめに巻く。湯ノ沢先の滝も同じく右岸から小さく巻くとあたりは草付と露岩、白い花崗岩の明るく開放的な景色が広がる。ナメ滝や通過可能な淵を楽しく遡行していくと西俣沢出合。ここから水量はぐっと減って大河と言われた八久和川も今ではただの沢となってしまった。中俣沢に入ると今までの渓相とは打って変わり滝登りを主体とする登攀的な渓となる。また滝のほとんどは大きく深い釜を持っており取り付くには泳ぎが必要だ。何回かの泳ぎと何回かの滝登りをこなすと下部の核心となるスラブに囲まれた12m滝が現れる。
上部連瀑帯の一部  ここは左壁を登るが見た目より悪く灌木を頼りに登る。その後も数え切れない滝を登り、泳ぎや高巻きも数回こなすと険悪な右俣出合の前に立ちはだかる連瀑帯となる。最初の8m滝は右壁を登るが最後の乗っ越し時の水流突破が厭らしい。この先の滝の突破は難しくトポ通りに右岸より巻くが、ルート取りを間違えるとスラブ帯や草付帯に入ってしまい、にっちもさっちも行かなくなるので神経を使うところだ。無事にほぼイメージ通りに高巻きを終えてほっとしたところで右俣出合。ここから見える中俣沢の上部連瀑帯は圧巻だ。
いよいよフィナーレです!  上部連瀑帯は見た目ほどでは無く、直登もしくは側壁を簡単に登っていける。最後の15m滝だけ唯一左岸より藪こぎで巻くが小さく巻けるので時間はかからない。この先はもはや源頭の様相で、これで八久和も終わりかな等と少々感傷的になっていたら目の前に大きなスノーブリッジが現れる。なかなか最後まで気の抜けない沢だ。幸いスノーブリッジはまだ厚くすぐに崩壊する感じでも無かったので、ひとりひとり下を潜ることにするがあまり気持ちの良いものではない。全員が無事に通過してようやく八久和川の完全遡行の成功を確信する。
 最後の草原を詰めあげると立派な狐穴小屋が見えてくる。稜線の登山道に上がり、後から登ってくるメンバーひとりひとりと握手を交わす。長年山をやっているが、何度やってもこの握手の瞬間が堪らない。そして狐穴小屋のビールもやっぱり旨かった!

【8月15日】
 今日は登山道のみの下山日。前日にタクシー会社から八久和ダムまでの送迎を断られて途方に暮れていた我々を見かねて小屋のご主人がひとはだ脱いでくれた。その関係で今日は大鳥登山口のバス停前の民宿で大宴会なのだ。時間はたっぷり余っているので途中の大鳥小屋で昼寝なぞしながらゆっくりゆっくりと下る。帰京する時間を考えながらの追われるようないつもの下山と違って良いもんだ。標高を下げるほどに反比例して上がっていく気温にヘロヘロになりながら、全員無事に泡滝ダムに到着して本山行も終了となる。皆さん、お疲れさまでした。そして今夜は大宴会だ!

〈コースタイム〉
【8月11日】 八久和ダム林道終点(8:00) → (ベンノ沢からカクネ沢までの大高巻きで4時間) → カクネ沢出合(19:00)
【8月12日】 幕場(7:00) → 平七沢出合(16:00)
【8月13日】 幕場(7:00) → 呂滝手前の広河原(12:30)
【8月14日】 幕場(5:30) → 狐穴小屋(16:15)
【8月15日】 小屋(6:15) → (大鳥小屋にて昼寝休憩あり) → 泡滝ダム(15:00)

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