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雪山登山・槍ヶ
齊藤 慈宏

山行日 2018年12月29日~2019年1月1日
メンバー (L)齊藤(慈)、古屋

 4年ぶりの冬槍の挑戦。今回は中崎尾根から。
 計画をしたのは8月の終わり。今回は自分がリーダとなっていく槍ヶ岳である。今年の雪の状況は、天候は、メンバの力量や足並みは。色々気がかりはあった。そこに向けて11月から数々の訓練山行を計画したが、今年は過去に例がないぐらいの暖冬となり、計画が次々と潰れていく。
 メンバも雪不足による事前の調整不足や業務都合などで抜けていく。最終的に、古屋さんと2名となったが、これが功を奏す結果となった。1週間前にはようやく爺ヶ岳で事前の足合わせを行い、本番に向かうことになった。

【12月28日】
 数年に一度の暖冬から一変。Xmas前からは、数年に一度の寒波に見舞われ、前日までずっと真冬の寒気が入っている状態での出発。まずは、新穂高までの道路が気になるところ。松本ICに降りた際にも既に-4℃、かなり冷え込んでいる。幸い降雪はない。沢渡辺りまで来ると道路端に雪が積もっている。-7℃、ここから先が核心だ。
 安房TNを抜け平湯に着くと-8℃であった。慎重に下り新穂高に到着。雪をたんまり被った車が3台、到着したばかりの車が1台であった。車内で前祝を行い就寝。2名だから車中泊も快適である。

ロープウェイ乗り場でこの状態! 【12月29日】
 この日は槍平までの行程で、前日の寝不足もあるためゆっくりと起床し出発。新穂高ビジターセンタに登山届を出して入山。槍ヶ岳方面には、7-8パーティ程入っている様子である。ロープウェイ裏の駐車場から既に雪が沢山積もっている。
 1ヶ月前とは雲泥の差である。先行パーティのトレースに感謝をしつつ進む。穂高平で3パーティ休憩していた。軒の下で一緒に一本立てさせて頂く。
 白出沢までで2、3パーティを抜かす。白出沢からトレースが分かれる。涸沢岳へ向かうパーティもいるようだ。
 ブドウ沢辺りで先頭に立ちラッセルが始まる。各パーティで協力しながら先頭を進み、滝谷避難小屋に到着する。
 前回はここで下山時に落水をして痛い目にあった個人的に核心である(笑)。が、今回はしっかりとスノーブリッジとなり安心だ。
滝谷出合 前回は落水したが今回は安心!?  槍平への歩みも弾みがつく。ふと、前を見ると2名の登山者が軽装で下りてくる。聞くと前泊をしていたようだが、ビーコンがないことに気付いて探しに来たとのこと。途中ではそれらしきものは見当たらなかったが、見つかることを祈り別れる。お陰で、槍平までのトレースも確実となった。
 槍平に到着した際にはテントが1張あり、他には登山者は居なかった。お陰で、避難小屋の一番奥の良好な場所を取ることができた。
槍平避難小屋  3天はぎりぎり張れる広さである。後続のパーティは5天を張ろうとしていたが、柱にぶつかり張れず外に張ることとなった。我々も3名以上だったら同じく5天になる為、同様に小屋内には張れず外に張ることとなっただろう。
 結局外には4張、小屋内には2張、その他2名の登山者がテント無しで泊りとなった。
 小屋でのテントは暖かく快適であった。何といっても、翌日テントを濡らさずに撤収が出来ることが大きい。
 持ってきたシュラフも-20℃環境用のため、寝ていても暑いという贅沢な悩みであった。

【12月30日】
 前日に隣のテントの方はAG大学のOBで、外で先行して張っていたテントはAG大学の学生達で、OBの方から、「うちの学生がいるから、ラッセルは全部任せろ。だから、ゆっくり出てきていいぞ」と心強い言葉をいただき、お言葉に甘えてゆっくりと出発。
 中崎尾根にはこのAG大学のパーティ総勢8名程度と大阪S山岳会(5名)と我々の計15名の団体である。
 大阪S山岳会は、前の週の爺ヶ岳の前泊の際に同じところで泊まっていたことを思い出し、その話をした。そのパーティはBチームとのことであり、今回のメンバには先週のメンバは不在だが、これも何かの縁だと思った。
 中崎尾根への登りは、しっかりとしたトレースが付いていたが、尾根の取り付きの所で2つに分かれており、1つは沢をそのまま登っているトレースがあった。我々は、尾根を進むことに。そうするとすぐ上で4名ほど休憩をしていた。AG大学のOBの方である。すぐ裏では現役がラッセルしていて、ここが先頭であるとのことで、まだ小屋から100mも登っていない所で進むことができなくなった。30m程度上がったところで大阪S山岳会達も誤ったルートを進んでいたことに気付き合流して来た。
総勢15人での大ラッセル(笑)  先頭は、ふわふわの雪に悪い足場となかなか進まない。150m程度上がった所でAG大学のメンバが1本とった為、先頭交代となった。大阪S山岳会のメンバと我々の7名でラッセルをすることとなった。やはり、みんな苦戦をしている。あまり慣れていないメンバもいるようで、前の方が作ったステップを壊しながら進んでいるメンバもいたので、見るに見かねて足の置き方などを指導する。
 稜線が見えて来たことに、無駄な方向に進んでいることに気付いて先頭に方角が違うことを指摘して、北方向へトラバースするように話す。出発から4時間以上経過をして、ようやく中崎尾根に到着する。尾根に着いても雪はまだまだ沢山あり、傾斜はないけどラッセルに苦労する。平たい所や下りには大阪S山岳会のメンバに先頭をお願いして、急登や難しい所は、我々が先頭に立ち進んでいく。
 AG大学のメンバは、2,300m地点の広い所で早々にテントを張り、大阪S山岳会のメンバは行ける所まで進むとのことで7人で進んでいくが、14時過ぎに2,350m地点の適地でテントを張り出した。ここまでは曇天の吹雪ではあったが、少しずつ天候も回復してきて、たまに晴れ間も見えるようになったので、もう少しだけ進むことに。
 2つほどピークを越えた支尾根に3天を張るのに適地があったので、そこをテン場として、テントを張ることとした。
 翌日その先を歩いてみたが、ここ以上の適地はなかった。
 風もほとんどなく寒さもそれ程ではなく快適な夜であった。当初の計画では翌日は山頂に泊まる予定であるが、1日の午後から荒れるとのことで、31日はこのテン場をベースとしてピストンをすることとした。電波も入ったので、明さんに状況を送る。

穂先を望みテンション上がる↑↑快適なテン場でした

【12月31日】
 5時起床、雲一つない満天の星空が広がっている。テントの外では既にたくさんのヘッデンが動いている。尾根上にも動いており、大阪S山岳会のメンバやAG大学のメンバが行動開始しているのが見て取れた。また飛騨沢を登っている人や大喰尾根にも取付いている人がいた。
先行パーティを追いかけます  朝食を取り、早々に荷物をまとめて出発する。稜線上にはしっかりしたトレースが刻まれている。また先行は、大阪S山岳会のメンバとAG大学のメンバが団子になって、千丈乗越を直登している。トレースをお借りしてペースを上げて登って行く。
 千丈乗越の先で、大阪S山岳会のメンバに追いつき先に進ませてもらう。その他、男女2名のパーティもいた。3,000m地点で休憩しているAG大学のメンバに合流し、一緒に肩の小屋にあがる。途中スキーで飛騨沢を降りる姿を見つけ、雪崩を誘発しないか気を付けて見てみるが、幸いに雪崩は起きなかった。下方には登山者がいたため、雪崩を誘発したら事故になる可能性があった。
 肩の小屋の周辺は、雪はそれ程なく、槍も所々雪が着いているものの黒々としている。
 AG大学のメンバ・大阪S山岳会のメンバ全員が登ってくるのを待って、いよいよ本峰へアタックを開始する。
 既に山頂には数名の登山者の姿が見える。歩き慣れた夏道ルートを進む。一歩一歩確実に高度を上げ、ひとつ、またひとつとハシゴを越えてようやく穂先に立つ。ここまでの道のりに比べれば非常に簡単な登りであった。
 山頂にいた方に集合写真を撮ってもらう。
 しばらくは、自分と古屋さんの2名の貸切状態であった。2人で写真の取り合いをしたり、コーヒーを飲んだり、一服したりと各々に贅沢な時間を過ごす。

肩の小屋に到着本峰 雪は少ない
山頂への最後の登りやったー!
4日間ありがとう!山頂を貸切 ゆっくりコーヒータイム

 丁度大阪S山岳会のメンバがハシゴにかかったタイミングをはかって下山を開始する。山頂には誰もいないことを伝えすれ違う。
 下山は事前の下見で鎖がついていることを知っていたので、鎖伝いに降りる。そうすると下から登山者が鎖を頼りに上がってくる。ここは、下山ルートであることを指摘すると、夏道は通ったことがないので知らないと言う。そのパーティに追随して2名の登山者も上がってくる。ルートが違うことを指摘して正規ルートへ戻ってもらう。再び肩の小屋に到着。1本立てて槍を見ていると沢山の登山者がいる。自分達は貸切だったためとても運が良かったと思う。
 予想よりも早く穂先に立てたので、テントを撤収して槍平まで移動するため、早々に下山を開始する。
下山もサクサク♪  西鎌尾根は、数名の登山者があがってくる。下山は雪も良い感じに緩んでくれていたため、安全に良いペースで下山が出来た。結局、テン場まで1時間程度で着いたのではないだろうか。
 早々に荷物を撤収して槍平を目指す。中崎尾根経由での下山であったが、直ぐ眼下に飛騨沢を歩いている登山者がいることや、雪の状態が良いこと、樹林帯を歩けること等を加味してテン場から直接尾根通しに飛騨沢に出る作戦に変更。これが功を奏し、なんとテン場から1時間程度で槍平へ到着した。中崎尾根を歩いていたら3時間はかかっていただろう・・・。
 避難小屋にはまだ登山者も少なく小屋内にはテントが2張。小屋周りもデポのテントとなっていたので、避難小屋内に張ることが出来た。1時間ぐらい後に、大喰岳西尾根経由で下山(結局、飛騨沢を降りたとのこと)の大阪S山岳会のメンバも到着した。彼らの落ち着きを見計らって、お酒とおつまみをもって忘年会をすることにした。他の会との交流はいろんな新鮮な情報交換ができる為とても楽しい。
 この日もテント内は暑く、シュラフを掛け布団替わりにして寝るほどであった。

【1月1日】
 明けましておめでとうございます。
 4時起床。この日は午後から荒れる予報であるとのことと、古屋さんが槍見館の温泉に行きたい(14時まで)とのことで、早めに行動することとした。6時に槍平を後にする。トレースは沢山の登山者でとてもよく締まり非常に良いペースで下山ができる。
 あまりにも早く着きすぎると温泉の営業開始前になるため、途中途中で休憩をはさみ、錫杖や笠のモルゲンロートを楽しみながら、また、この4日間を思い出しながらゆっくりと新穂高を目指す。
素晴らしいモルゲンロートの下 下山できました  穂高平には、ショートカットが出来る夏道があり、これを使えばかなり時短が期待できることを記録として残しておく。
 槍平から3時間、9時前位に新穂高ロープウェイに到着した。
 先程までは、雲一つない素晴らしいモルゲンロートを見せてくれていた山々は既に雲がかかり、これから先の荒天をうかがわせる。
 ロープウェイでお土産を購入して、下山届を提出して車に到着した。出発した時には、5、6台しかいなかったが、止まるところもない位沢山の車があった。
 殆どが西穂方面だろう。その後、槍見館に行ったが、ここでは湯につかるだけの所しかなく、結局ひがくの湯を利用した。
 ここは、登山者向けの温泉施設になっていて、とても充実したサービスで快適な温泉であった。新穂高に行く時にはここを利用するのが良い。久しぶりの肉をたらふく食べて、帰宅開始をした。帰る頃には降雪が始まっていた。
 帰りは八ヶ岳PAでソフトクリームのおまけも付けて、若干渋滞にはまったが、快適な状況で帰宅が出来た。
 今回ほど色んなことがうまく回った山行は少ないのではないか。それ位すべてがうまく行った山行であった。
 最後に、4日間を共にしてくれた古屋さんには改めて感謝をしたい。本当にありがとうございました。
 お陰で、良いペースで進めることが出来たし、何よりも安全に4日間の山行を終わらせることが出来ました。
 また、今後もよろしくお願いします。

〈コースタイム〉
【12月29日】 新穂高(7:30) → 穂高平(9:16) → 滝谷避難小屋(12:00) → 槍平(13:45)(幕)
【12月30日】 槍平(7:00) → 中崎尾根(10:30) → 2,400m幕場(14:30)(幕)
【12月31日】 幕場(7:00) → 千丈沢乗越(8:10) → 肩の小屋直下(9:15) → 肩の小屋(9:30) → 槍の穂先(10:10) → 肩の小屋(11:00) → 幕場(12:30) → 槍平(14:10)
【1月1日】 槍平(6:00) → 白出沢出合(7:15) → 穂高平(8:00) → 新穂高(8:45)

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