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縦走・南アルプスフロントトレイル(Part1)【巨摩エリア】
峯川 正行

山行日 2018年11月23日~25日
メンバー (L)峯川、荻原、飯塚、清水、野畑、箭内、眞鶴

 南アルプスフロントトレイルというなんとも今どき風な名称のルートが数年前に早川町で整備を始めたそうです。南アルプスエリアの前衛地域という感じなのでしょうか。夜叉神峠~十谷峠~七面山~八紘嶺~安倍奥東稜~貫ヶ岳というなんとも味わいのあるルートです。カタカナだらけのルート名称でカッコいいルートと思ったら大間違いです!地味でイベント感を求めない人に適合していると思います!私はこのルート名称が立ち上がる以前に三峰の例会で夜叉神峠~ドノコヤ峠~櫛形山のルートを企画して歩いており、これがセクション1のルートとなります。この時はドノコヤ峠に立つことが目的でもあり、期待通りに誰にも会わない、静かなルートで読図もしっかり行うこともでき、とても充実した山行となりました。前置きが長くて申し訳ございませんが、今回はセクション2、セクション3の部分を歩く感じとなります。今回の山行の前座として、こちらも以前から偵察を行っていた南アルプスFTに対してクロスして東西方向に延びている湯島道(湯道とも言う)を利用して南アルプスFTに合流するプランとしました。湯島道も矢川(やんが)集落から早川沿いの西山温泉に抜けるルートで出頂ノ茶屋を経由して湯治のためにかつて多くの人々が歩いていたらしい。なんとも興味深いです。今回のメンバーは強力な布陣となり、なんとも楽しみになりました!なぜか荻原さんまで参加することとなり、私自身も今まで経験したことがないメンバーとなり、さらに楽しさ倍増となることを期待いたしました。
 木曜夜に都内を出発して、双葉SAで全体集合をして小宴会&仮眠、その後、六郷IC経由で下部温泉に向かいます。下部温泉には川を渡ると無料駐車場があるのでこの辺の山を歩く際にとても便利です。6時52分発甲府行の電車に乗車すべく駅舎で待機です。しかし今シーズンはなぜかこの下部温泉はよく来ました。30分くらい乗車して鰍沢口駅に到着すると予約していた鰍沢タクシーのジャンボタクシーが待機しておりました。今年の9月に直接営業所に行って予約していたので、しっかりと待機しておりました!
お天狗様から湯島道がスタートです!  ここから矢川集落の奥にあるお天狗様まで約30分くらいで到着しました。身支度して8時15分にお天狗様からいよいよ出発です!私にとっても久々の三峰での山行リーダーで気が引き締まります。
 10年前の偵察時には暗い植林帯のつづら折りのルートを登った記憶でしたが、どうも伐採されているようでなんか雰囲気が違うのです。獣害ネットが突然出てきて乗り越えるのが大変でカヤトの藪を登っていくと何とか植林帯の尾根にたどり着きました。958mPに到着したようです。ここからは尾根伝いに歩く感じです。地形図の点線では八町山を巻いて出頂ノ茶屋跡に向かいますが、最後のトラバースルートがやはり崩れているようで、八町山まで直登することに。この直登が本日の核心となりました。ザックが初日で重いので一歩一歩木を掴みながら登ります。踏み跡はほぼない感じです。頑張って登ると斜度が緩くなり、踏み跡らしきルートと合流して八町山に到着しました。三角点がありますが、眺望はありません。しばし休憩し、以前から気になっていた出頂ノ茶屋跡に向かいますが、たどり着くと、ただの暗がりの平地でした。ここにかつては茶屋があり、人の営みがあり、多くの人が往来したようです。どんな茶屋があったのかとても興味があります。
湯島道水平路の崩壊地  ここからはしばらく平和な水平路となります。まさしくこれが湯島道であり、なんとも眠くなってしまうようなルートです。陽だまりが暖かいです。出だしは沢沿いに入り込む所が少ないので、ルートも崩れているところもなく順調に進みますが、奥に入るにつれてだんだんルートが怪しくなってきます。想定していたのであまり気にはなりませんでしたが、一般ルートとしてかなり困難なルートになるかもしれません。
幕場の近くでようやく水場発見!よかった~  崩壊地の通過のことより、水場が本当にあるのかが心配になってきました。いくら奥に進んでも沢の音が聞こえてこないのです。沢といっても涸れ沢を通過するだけで、だんだん焦ってきます。これはもしかして、水を確保することが出来ずに撤退?ということも頭に浮かんできました。目の前に聳え立っていた源氏山も巻いて14時30分過ぎにようやく下部の谷を覗くと水面がなんとか見えました。かなりの少量ですが、水が流れているようでした。でも採取するのに相当時間がかかりそうです。各自一斉に水を採取します。ここでは牛乳パックが有効です!落差がないのでプラティパスでは水は取りにくいですが、折りたたみ式の牛乳パックは採取しやすいです!
 ここから薄い踏み跡をたどり少し上がると平な場所に出ました。ここが予定していた本日の幕営地ですが、茶碗やビール瓶の残骸などがあったりして、ここはかつての林業用の飯場だったようです。ビールケースまであり、かなり興ざめしましたが、これはちょうど椅子になってくれて助かりました!テントを設営する際にビール瓶のガラス片などがあり、地雷を除去するかのごとくチェックしてテント設営致しました。
かつての飯場でテント設営  ちょっと頑張れば山梨百名山の源氏山ですが、もちろん誰もいきません。またいつか来ることになるだろうということで、源氏山はお預けにいたしました。まだ時間は15時過ぎですが、16時を過ぎると暗くなってくるので急いで薪を集めます。今回は最新山道具?の軽量焚火台を持参してきました。沢以外では直火焚火を絶対にしたくないので、メッシュタイプで折りたためる焚火台を用意することとしました。出発日の前日になんとか家に届きました。この焚火台だと大量の水で消火をしなくても自然と鎮火してくれるので、安全で助かります。500gなので重さを気にせず担げます。秘密道具を使ってのささやかな焚火は、楽しいひと時です。これをするために人静かなこのエリアに来たのかもしれません。かつてはこの飯場でも焚火をしながら、多くの作業人たちがお酒を酌み交わしたことでしょう。でも一升瓶は捨てずに持ち帰ってほしかったです。
購入したばかりの軽量焚火台で楽しみます!  本日の夕食は人数も多かったので闇鍋としました。各自いろんな食材を持ち込んでの鳥だし醤油スープでの鍋となりました。眞鶴くんの豚バラブロック肉にはびっくりしましたが、これがとっても美味しかったのです!
 翌日は6時出発でいよいよ南アルプスフロントトレイルを歩きます。かつてのルートは幕営地の鞍部からトラバースで足馴峠を目指しますが、記録などを調べているとかなり崩壊して歩くことは難しいとのこと。実際に昨日見てみると確かに道型らしきものはなく、ただの急斜面になっておりました。ですので、当初の予定通りに小ピークまで直登することとしました。朝一の一登りはいつも辛いですが、ガスガスの神秘的な雰囲気の中、黙々と登ることができました。小ピークから足馴峠方面へ下っていくルートは踏み跡もあり、ほどなくして立派な道標を発見しました!まさしく南アルプスフロントトレイルで敷設された道標です。新しい感じの道標で足馴峠をさしています。西側方面に続いている踏み跡は西山温泉に続く湯島道だと思います。いつかこの湯島道も完踏してみたいものです。この道標をみて、緊張感が抜けてしまったのか、道標がさす方向に踏み跡があったので気にせず下っていくと、いくら下っても足馴峠と思われる台地がありません。方向的に問題ないと思っていたのですが、左隣に尾根もあり、みんなからもこれはおかしいという声も出て、やはり一本隣の尾根を降りておりました。皆様登り返しをさせてしまいまして大変申し訳ございません。私の気の緩みからの確認ミスでございました。早めに気づいて本当に助かりました。皆様の読図力に助けられました。少し登り返して隣の尾根が確認出来たところでトラバースして本線に乗ることができました。ちょっと下ると足馴峠です。ここにも立派な道標と味わいのある小道標がありました。伐採がされているところで、ちょっと整地すればいい幕場になりそうです。
ようやく訪れることができた足馴峠  さてここからは岡松山を目指して快適な尾根歩きです。多少の登りぐらいで淡々と歩け、藪などもなくとても歩きやすいです。途中、樹木の間から雪が被った南アルプスの稜線が見えてとても気持ちが良いです。赤石岳や荒川三山なども見えます。この稜線が南アルプスフロントトレイルという名称であることも納得できます!まさしく南アルプスの前衛エリアなのですね!岡松山はあまり展望がありませんが、しばし休憩をして倉尾山をめざします。雪が被った南アルプスの稜線を眺めながら気持ちよく歩いていくと倉尾山にあっという間に到着です。ここは樹木が伐採されていて見晴らしが最高です!富士山と南アルプスの主峰を多く眺めることが出来ます。ここにも南アルプスFTのしっかりした道標がありました。かなり長い時間休憩して、いよいよ十石峠への下りが始まります。
倉尾山は展望抜群!荒川三山も白い!  地形図で下りルートを見るとなかなか嫌らしいなあと思っておりました。かなり心して向かいましたが、下降点付近から虎ロープが敷設されており、わかりづらい下降ルートにすべて虎ロープが敷設され、皆さんなんとも興ざめな感じになってしまいました。しかし導かれているルートは、真っすぐに下降ではなく、トラバースしたりわかりづらいルートで、実際に地形図とにらめっこしてこのルートを確実に下れたかどうかはなんとも確信がもてませんでした。斜度が緩くなってくると虎ロープもなくなり、車道が見えてくると十石峠です。立派な看板もあり、富士川町側の十石温泉へ通じる道は通行止めになっていましたが、早川町側からはここまで車で来られると思います。
十石峠までくれば本日のゴールは近い  ここからは一般道になります。御殿山までの所要時間を記載した古めかしい案内板も出てきます。偵察済みの幕場までのだいたいの時間がわかり目途もたったので、ひとまず一安心です。ここからは、まったりトレッキングで御殿山まで一登りで到着です。誰もいなくて富士山を我々だけで一人占め!と思っていると、反対側から単独の男性がやってくるではありませんか!お話を伺うと千葉から来られたそうで、今日初めて人に会いましたとのことでした。しっかりと記入した地形図も持参されていて、このようなルートには慣れている感じの方でした。しばし、見飽きた富士山を眺めてから出発です。ちょっと先に御殿山の三角点を通過して、いよいよ幕場に向かいます。
南アルプスFTの道標が整備されています  10月末の平日に平須集落から富士見山を辿るルートがあるので、いい幕場を見つけるべく偵察に行ってきました。結果として偵察に行って良かったです。素晴らしい幕場であり、ある程度整地してきました。この先にしっかりとした幕場があるという安心感はリーダーとしての精神的な負担が軽減されてよいことです。先がわかってつまらないということを言う人もいますが、リーダーを何回かするとこの気持ちがわかるかと思います。平須集落への分岐ポイントである道標を見つけるとそこが幕場です。鳥居もあるような神聖な場所のようです。10月末に整地して枯れ枝などをすべて除去したサークル状の綺麗なサイトがまだそのままの姿で我々を迎えてくれました。誰も使ってないようです。(あまり人が歩かないルートなので当たり前です。)あっという間にテントを設営し、あとは昨日と同じような焚火台を利用した宴会に突入です。今日は倒木がいい椅子になり、とても楽しい宴会となりました。

整地済みの快適幕場で宴会

 翌日は明るくなってから行動を開始しました。バスの乗車を考えると、懐電歩行もすべきだったのですが、なんとかバスに間に合うだろうという思いから6時からの行動開始といたしました。幕場からちょっと登ると富士見展望台があり、ここで富士山とご来光と雲海を存分に楽しむことができました。
 なんとも気持ちのいい時間帯です。反対側には雪を被った南アルプスの稜線が目に入ります。ここからしばし歩くと富士見山に到着です。ここにも南アルプスFTの道標【セクション3・9】がありましたが、まだ埋設されていないのか地面に倒れたままでした。みんなで可哀そうな道標を一時的に立ててあげて記念撮影いたしました。

富士見山展望台からの朝焼けの富士山倒れていた富士見山道標を起こして記念撮影

 ここから先のルートは早川町でもまだ未整備区間のようで、この先、南アルプスFTの道標には出会うことはありませんでした。この先にある大天上(1,516mP)を目指します。8時前に大天上に到着し、広い山頂でしばし休憩しましたが、このころから早川町役場10時半発にバスに果たして間に合うのか?と思うようになってきました。林道歩きがどれくらいかかるかが問題ではありました。バスに間に合わなかったらジャンボタクシーを呼ぶことも考えましたが、かなりの出費なので、私と眞鶴くんだけがバス停までダッシュして、下部温泉に駐車してある車2台を回収してくる手段をとることに決めました。ここからしばらく下っていくとアンテナの増幅器などの人工物多くなってきます。また下山する尾根はもっと針葉樹が多いかと思っていたのですが、素晴らしいブナの大木もあったりして、最後まで我々を楽しませてくれます。
 そしてさらに下るにつれて終わりかけの紅葉も見ることができて得した気分でした。

圧倒的な存在感のブナの大木フィナーレを飾る晩秋の紅葉

 そして、チェックポイントであった鉄塔に到着して、しばらく下るとようやく林道に降り立つことができました。林道に降り立った時間は9時45分...バス出発まで45分...林道のうねうね状態を見るとギリギリかなあと。しばらくみんなと一緒に歩いていたのですが、地形図を見ながら距離を確認すると、このまま時速4キロほどでは到底間に合わないとようやくわかり、荻原さんから車の鍵を眞鶴くんに託して、私と眞鶴くんは林道を走ることに。林道走りなんて何年ぶりでしょうか。眞鶴くんは若いのであっという間に先に行ってしまいます。私もデカいザックを揺らしながら息を切らしながら夢中で走りました。ようやく集落に出て早川町役場までもう少しというところで後ろから眞鶴くんが登場するではないですか!どうも林道のヘアピン部分をショートカットした際に崖に出くわして、登り返すことになり、その間にゼイゼイ言いながら走っていた私が追い抜いてしまったようです。バスは発車予定の10時30分を5分ぐらい過ぎてから到着しました。そして予想通り、隣の山塊を歩いていたアッコさんパーティが乗車されていました!バス集中完了です!アッコさんパーティも充実した山行だったようです。下部温泉までまさかの満席状態で進み、車を回収してまた早川町役場まで戻ると皆さんがまったりしておりました。最近よく利用する下部温泉の温泉会館でさっぱりして、駅前の食堂でソースカツ丼を食べる予定でしたが、最近人気になったようで大混雑で我々はパスすることに。アッコさんパーティは全員お店でお食事中でした。羨ましい限りでした。
 今回は初めての南アルプスフロントトレイルの企画でした。まだまだ整備は道半ばという感じですが、まだ多くの人が歩くことがない状態で歩けて気持ちがよかったです。そして素晴らしいメンバーと3日間歩けて、天候にも恵まれてなんとも楽しい山行となりました。おそらく一人で歩いても楽しくはないでしょう~。次回は南アルプスFT第2弾として、七面山~八紘嶺を翌年の1月に企画することを帰りの車の中で決定いたしました!来年は南アルプスFTを完結させたいと思います。

〈コースタイム〉
【11月23日】 お天狗様(8:10) → 八町山(11:10~11:28) → 出頂ノ茶屋跡(11:42) → 源氏山登山道入口(十谷側)(12:06) → 崩壊地(13:25) → 水場(14:30~14:40) → 十谷/出頂ノ茶屋跡分岐(幕営)(14:50)
【11月24日】 十谷/出頂ノ茶屋跡分岐(6:28) → 独標(1,884mP)(6:55~7:00) → 足馴峠・湯島道分岐(7:10) → 足馴峠(7:28~7:33) → 岡松山(8:15~8:30) → 倉尾山(9:29~9:43) → 十谷峠下降点(9:54) → 富士山展望台(10:55~11:12) → 十谷峠(12:23~12:27) → 御殿山(13:06~13:23) → 御殿山三角点(13:26) → 堂平分岐(14:19) → 平須分岐(幕営)(14:28)
【11月25日】 平須分岐(5:55) → 富士見山見晴台(6:07~6:15) → 富士見山(6:38~6:50) → 大天上(7:48~8:05) → アンテナ(9:15) → 鉄塔(9:30) → 林道(9:45) → 塩之上集落分岐(9:55) → 早川町役場(10:30)

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