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キナバル山登山とビアフェラータ
さとうあきら

山行日 2019年5月6日~17日
メンバー (L)佐藤

東南アジア最高峰のキナバル山(4,095m)はマレーシアのボルネオ島にある。10年以上前に三峰で行こうという話が盛り上がったが、結局山小屋の予約が取れなく、その時は断念した。退職して時間的にも余裕が出来たので一人で行くことにした。

キナバル山(4,095m)遠望  5月6日、ゴールデンウイーク最終日。さすがにこんな日に日本を飛び出す人はほとんどいない。コタキナバル行きの機内はガラガラで、6時間のフライトはエコノミー席を3人分占領して長く寝ながらのファーストクラス気分。到着した空港で現地旅行社にピックアップしてもらい、車で2.5時間のキナバル山麓のリゾート地、クンダサンのホテルまでおひとり様ながらミニバスで送ってもらう。
 今回のキナバル登山は2泊3日のコタキナバル発着の現地ツアーで、ビアフェラータ(low's peak circuit)経由で下山というもの。全食事、ガイド付きでMYR3,270(91,000円)と少々高額。単独客でもガイドはパーティ毎に付けることが義務付けられており、割高は仕方がないと涙を飲んだ。

 5月7日、登山初日。今日は途中の山小屋までの行程だ。ホテルで朝食後、キナバル公園入口までタクシーで送ってもらい、登山のためのIDカードをもらう。また不要なスーツケース等の荷物をここにデポする。担当ガイドは地元の30代の男性で、週3回程度登っているとのこと。8時15分、ティンポホンゲート(1,850m)から登山開始。途中には休憩用のあずま屋も多い。また登山者の食糧を狙う野生のリスも多い。これにひっかかれると狂犬病?のおそれがあるらしい。また途中には巨大ウツボカズラ(食虫植物)も自生していた。

登山口のティンポホンゲート(1,850m)、IDカードを見せ鉄扉を通過し登山開始登山道わきの巨大ウツボカズラ(食虫植物)

小屋前に到着 ビアフェラータの大岩壁をバックに  宿泊小屋の集まる場所(3,273m)には12時過ぎに到着。予定よりもだいぶ早く着き、昼寝などをして時間をつぶす。
 現在キナバル山への登頂ルートとして利用可能なのは当ルートのみで、すべての登山者はこの付近の山小屋に分散して宿泊する。メインとなるのはパナラバン小屋で、レストランが併設されているため皆が夕食をここで取る。自分はビアフェラータ登山者専用のペンダント小屋に収容された。こちらはベッド数わずか35床の小さな山小屋だが、一般登山者は宿泊しないため今回はガラガラで、他にフィリピン人2人組がいただけだった。また水やコーヒーもここは無料なのがうれしい。

 ビアフェラータはキナバル山下山路の途中、標高3,800m付近からバットレス状の標高差約400mの大岩壁につけられたルートを下るというマニアックルートだ。斜度は70度位のところもあり、ガイドにアンザイレンされ、さらに自身のハーネスからのカラビナを終始固定ロープに通しながら進むルートである。岩は花崗岩なのでフリクションが良く効くが、急斜面にはステップも埋め込まれており安全に進める。しかし高度感は半端ではなく、すばらしい大景観を堪能できる。
 なおこのビアフェラータ参加者は前日夕方、ガイドからのロープワークや支点通過の安全講習を受けなければならない。

ビアフェラータの案内図山小屋のレストランはバイキング食べ放題

頂上へは太いロープ(右の白線)が目印  5月8日、朝2時起床、パンと紅茶だけの朝食後、2時45分に昨日の一般道担当ガイドが来て一緒に登り出す。登山者全員(たぶん200人以上)が一斉に登りだすので登山道は激混み状態が当初続くが、1時間も登ると次第にバラバラになってきてだいぶ登りやすくなる。登るに従い登山道は土の道から岩の上を歩くようになり、一の倉沢のテールリッジのような雰囲気のところもある。しかし太いロープがずっと設置されており不安はない。

キナバル山頂上(Low's Peak 4,095m)は狭い頂上直下の岩床で日の出を待つ登山者

スリット付きカラビナを固定ロープの支点基部のプレートに通して中間支点を通過する 5時40分、頂上のLow's Peak(4,095m)に到着し日の出を待つが、あいにく雲がち。ご来光はあきらめて6時下山開始。40分ほどでビアフェラータのLow's Peak Circuit入口(3,800m)に到着する。ここで今までの一般道ガイドからビアフェラータ専門ガイドに引き継がれ、ガイドの持参したハーネス、ヘルメットを装着。さらにガイドとアンザイレンして出発した。大岩壁の高さは約400m。直ぐに傾斜は急になり、70度位のスラブに打ち込まれたステップを頼りにどんどん下る。その際の確保は2つ。一つは固定ロープ(金属製ワイヤ)に自分のハーネスからシュリンゲ経由で出たカラビナをかけること。もう一つはガイドとのアンザイレンで、そのザイルを中間支点に架け替えて行くこと。このような商業ルートのビレイはとても良く考えられており、支点通過がとても迅速にできるのには驚いてしまった。

 まずは自分のハーネスからのカラビナの中間支点の通過について。中間支点として岩に打ち込まれたケミカルアンカーには、まず厚さ5ミリほどの金属プレートが取り付けられ、その先に太さ12ミリ位の固定ロープが取り付けられている。一方自分のハーネスからのカラビナには間隙7ミリ程度のスリットが開いている。つまり自分のカラビナは中間支点アンカーのプレート部は薄いので通過できるが、ワイヤは太いのでスリットから外れないという単純な原理である。従来方法では自分のハーネスから2本のカラビナを出して、中間支点ではひとつずつ架け替えて通過するのだが、その必要がなくなり、スリット付きカラビナの向きを少し調整してプレートを通過させるだけで支点通過が出来てしまうのだ。これには驚いてしまった。この結果自分のカラビナは一旦固定ロープに入れてしまったら終了点まで外すことが出来なくなることも安全上好ましいと感じた。

アンザイレンロープを中間支点のらせん状の輪に通しているガイド  またガイドとのアンザイレンのロープも中間支点にひっかけるのだが、この支点構造が意外だった。支点には直径10㎝位のらせん状の金属製の輪があるだけで、そのブタのシッポのような輪は1周半ほど巻かれただけである。このらせんに合わせて両手で自分のハーネスにつながれたロープを入れると、その輪をアンザイレンロープが通ったことになり、万一客とガイド両方が一緒に落ちてもこの支点でぶら下がるということになる。このらせの輪へのセット、解除はとても簡単で、慣れると一瞬で完了する。このような安全施設が一ノ倉谷の南稜のようなメジャーなルートに設置してくれたらいいのにと切に思う次第だった。

展望抜群のビアフェラータ 岩にはステップが埋め込まれ安心  ビアフェラータはロングルート(Low's peak circuit、標準時間4~6時間、ルート長1.1km)とショートルート(Walk the Torq、標準時間1~2時間、ルート長390m)とがある。人気はこの大岩壁を下るロングルートで、今まで合わせて12万人が下ったとのことだ。今回経験したロングルートは大岩壁を約350m下るのだが、急傾斜部は固定ロープをつかみ、岩に打ち込まれたステップに足を乗せられるので怖くはないが、ステップ間が遠いのでヨイショという感じの体重移動となる。それにしても足元はスパッと切れているので高度感は抜群で爽快だ。途中には幅20cm位の板を渡したグラグラのつり橋、さらにはワイヤを渡しただけの橋もあり、フィールドアスレチックのようで面白い。大岩壁を下り切ると緩傾斜のブッシュ帯が200mほど続き、その後は再び良くフリクションの効くスラブを標高差100mほど登って終了となる。その先からは今朝通過したキナバル山への一般登山道に出て、往路を下るようになる。
 ちなみにこの大岩壁は11ピッチルートが何本かあるようだが、登攀許可が下りないため今は登られていないとのこと。山頂周辺の岩も同様でロッククライマーは指をくわえて見ているしかないのは残念だ。

落ちそうになるが、自己ビレイで止まった板床つり橋(L=10m)はグラグラ

ワイヤつり橋(L=6m)は案外しっかり でもコワい  今回はガイドとの2名パーティだったためどんどん進むことが出来、予定の半分の2時間ほどで終了し宿泊したペンダント小屋に戻った。そして遅い朝食。今度はスープやソーセージも出て一息。しかし食べ終わってもビアフェラータ終了が早すぎたため、一般道ガイドがなかなか戻って来ない。行動は常にガイド同行が義務付けられているため出発できないのだ。ダラダラしながらいると一般道ガイドがやっと戻って来て出発。3時間ほどで標高差1,500mを下り登山口のティンポホンゲートに戻ることが出来た。
 公園入口のレストランで遅い昼食、そして乗り合いタクシーでコタキナバルの安宿(Gaia95、一泊3,600円、結構キレイで快適)に3時半頃に送ってもらい今回のキナバル登山が終了した。
 翌日はマリマリ文化村というボルネオ島の民族や文化を紹介する観光施設を見学、その後はボルネオ島東側のマブール島を拠点にダイビングを楽しんだ。

首狩り族の末裔役の女子 マリマリ文化村にて
〈コースタイム〉
【5月7日】 ティンポホンゲート登山開始(8:15) → ラヤンラヤン小屋(10:30~10:45) → パナラバン小屋(12:20) → ペンダント小屋(12:25)
【5月8日】 起床(1:50) → ペンダント小屋発(2:45) → サヤサヤ小屋(4:00) → キナバル山頂上(Low's Peak)(5:40~6:00) → ビアフェラータ入口(6:40~6:45) → 板床つり橋(7:30) → ブッシュ帯(8:00~8:20) → ビアフェラータ終了点(8:50~9:00) → ペンダント小屋(9:20~10:00) → ティンポホンゲート登山終了(13:00)

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