山行日 2019年2月9日~11日
メンバー (L)内田、古屋、青木、軽部、千葉(快)
この時期の西穂高は過去2回計画したことがあり、1回目は一般道から挑戦したが独標で敗退。2回目は西尾根から計画するものの大荒れの天気で山行自体を中止。これで3度目になる。直前の天気予報ではまずまずの天気。ただ稜線の風20数メートルがちょっと気になる。敗退するとしたら強風が原因になるだろうと考えながらいざ出発。今回は普段からよく山に行く気心の知れた仲間だったので気持ち的にも楽だった。後はラッセルと天気が登頂を左右するのみ。
朝はゆっくりめに起き9時頃出発。気持ち的には早出としたかったが睡眠不足じゃラッセルもままならない。穂高平山荘に着くころには雪がぱらつき始めた。穂高平山荘からは牧場を南に突っ切り少し右に回り込んで傾斜の緩いところから尾根に取りつく。先週の踏み跡なのか途中まではうっすらとトレースが残っていた。
途中からはトレースも消えて想定通りのラッセル祭り。1日目の計画では2,340mを幕場と決めていたが、出発が遅かったので1,940mでもいいかなと個人的には思い始めた。実際1,940m地点に到着するとテントを何張も張れる程の幕場適地ではあったが、メンバーがもう少し上がろうというのでヒイコラ上がる。30分もしないでゴロゴロ岩(2,040m)に到着。 ここはゴロゴロ岩という名前とは裏腹にのっぺりとしたいい幕場適地だったが、せっかくなのであと100m高度を上げようと登り続ける。ところが、地形図的には幕を張れそうに見えた2,140mあたりは木が多く適地が見つけられない。なんせ今回はジャンテンなので、張る場所も極端に限られる。結局2,180mあたりを平らにならし今宵の宿とする。樹林に囲まれておらず風の通り道ではあるがこの際贅沢は言えない。初日の疲れを回復すべくモリモリ食べて飲み9時頃就寝。雪はしんしんと降り続いていた。
翌朝4時起床。思ったより風がない。星も出ている。これは期待できるかもしれない。今日は晴れるが稜線は相当な風との予報。雪稜や岩の核心部を控えた出発前の朝のピリッとした緊張感がたまらない。「期待と不安の入り混じった」とはこの一瞬を表すための言葉だと思う。ルート上は昨日の降雪でさらにハードなラッセルとなっていた。当初想定していた2,340mの幕場は確かにジャンテンも余裕で張れそうなエリアが点在していた。この先はどんどん急登になるので、ここでワカンからアイゼンに履き替える。第一岩峰のすぐ手前の2,400mあたりもよく幕場に使用される急登手前の最後の平らなエリアだ。ここを過ぎると急登が始まり、ほどなくして第一岩峰が姿を現す。
第一岩峰は右からも左からも行けるとあったが、左のルートの方が灌木が出ていて、右より登りやすそうだったので迷わず左を選択した。ロープを出すまでもなく、今までの急登の延長という感じで難なく稜線にはい上がる。稜線沿いはところどころ大きな岩で構成されていてそのまま進むのが厳しいので、その都度稜線直下の不安定な雪をトラバースする。このトラバースが緊張する。週の半ばに気温が上がったせいか、ところどころモナカ雪となっていて踏み抜きがある。急斜面のトラバースで踏み抜きなんて勘弁して欲しいので、時間をかけ慎重に行く。第一岩峰を越えると目の前にはジャンクションピークの急登が現れる。
思った程の急登ではない。池ノ谷ガリーで免疫がついたのかな?アイゼンもよく効く斜面を上がりきると稜線が北西尾根と交わるポイントに来た。北西尾根は北東側に巨大に発達した雪庇が覆いかぶさっていた。 正面にはジャンダルムから奥穂高岳と直下にはまだ雪に覆われていない穂高岳山荘が見え、後ろを振り返ると笠ヶ岳からずっと双六、槍ヶ岳まで全てが見渡せた。風も思った程強くはない。しばし最高の景色を楽しむ。目指す方向にはいくつかのピークを越えた先に西穂高岳の山頂が圧倒的な存在感でそびえたっている。まだまだ遠いが皆のテンションは確実に上がっていく。この高揚感が堪らない~。
その後2,738mのピークは南側をトラバースした。雪が浅いのか踏み抜くとハイマツが出てしまうところもあり、その場合は急斜面なのでハイマツを根っこから掴んでトラバースしていった。いったん安定したコルまで下りると目の前にそびえる岩稜帯が第二岩峰だ。ここは右側に回り込み小ぶりのルンゼを上がっていく。ルンゼには一部ワイヤーが岩づたいにかかっていた。 ルートはそのまま右斜めに上がり数メートルの岩稜帯を直上すれば終わりだが、若干アイゼンが入りづらく嫌らしいので今回初めてロープを出す。 岩稜を上がりきったピナクルにランナーを取り、そのままさらに上がるもののいい支点も足場もない。仕方ないので、若干不安定な位置でスタンディングアックスを決めると、かるべっちがバックアップでハイマツを掘り出しスリングをかけてくれた。ここで先程までだいぶ下に見えていた日帰り装備の後続パーティが、我々のかけたロープ脇をすり抜けてそのまますごい勢いで抜いていった。ヘトヘトの身には 空身に近い彼らがなんとも羨ましい...。全員無事に登り切りあとは頂上を目指すのみ!
頂上直下の岩稜は先ほどの第二岩峰と同じように右から回り込み直上する。ここもロープが半分雪に埋もれて垂れていた。最後10メートルを切ったあたりで、岩稜左側の雪のべったりついた傾斜の強いルンゼに入り急登を一気に上がるとそこが頂上だった。あんなに遠くに見えていた頂上に今自分の足で立っているんだと思うと感慨もひとしお。先程のパーティは速やかに下山し遥か彼方にいる。しばし頂上を独占して写真を撮り喜びを分かち合う。風は相変わらず強い。時間は既に2時を過ぎているので、明るいうちに降りようと下山にとりかかる。
下りは頂上直下からものすごい急登。ここはバックステップで慎重に下る。実は数日前に滑落して死亡者が出たというのは後で知った。 一般道でも侮れない。ピラミッドピークまで来てようやくザックを下ろして久々に飲み物と食べ物を口にした。相変わらず風はあったが、あたりは夕日に照らされ、谷は薄いピンクがかった雲海に覆われ遠くに白山がくっきりと見えた。寒いし疲れているけれどもずっと見ていたい風景だった。丸山を越えるとようやく西穂山荘が見え、大勢の人が滑落停止などの訓練をしていた。この2日間静かな山を歩いてきたのが、一転して賑やかなテント村へと下山し若干の違和感を覚えたが、ここは気持ちを切り替えありがたくお酒を買いトイレを使わせて頂く。既にロープウェイは営業を終了していたので、この晩は西穂山荘にテントを張り登頂の祝杯を挙げ翌朝下山となった。西尾根は長閑な牧場から始まり、激ラッセルの急登と岩稜帯、氷化した斜面のトラバースに稜線はモコモコのクリームのように発達した雪庇にナイフリッジと、目の前の景色が目まぐるしく変化する全く飽きさせない素晴らしいルートだった。そして仲間と力を合わせて達成した山はやはり格別だった。改めて仲間と天気に感謝!
【2月9日】 | 新穂高ロープウェイ駐車場(9:00) → 穂高平小屋(10:30) → 1,940m付近(13:40) → 2,180m付近(幕)(14:45) |
【2月10日】 | 2,180m付近(7:00) → 第一岩峰取付き(9:35) → ジャンクションピーク(11:10) → 第二岩峰取付き(12:30) → 西穂高岳山頂(14:05) → 独標(15:40) → 西穂山荘(幕)(17:00) |
【2月11日】 | 西穂山荘(8:20) → 新穂高ロープウェイ駐車場(10:20) |