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雪山登山・奥利根縦走(巻機山~丹後山~平ヶ岳~尾瀬)
荻原 健一

山行日 2019年4月28日~5月4日
メンバー (L)荻原、永岡、眞鶴

 この山行を思いついたのは、昨年の2018年9月の利根川本谷遡行の時だ。無事に沢を詰めあげて丹後山から十字峡に降りる途中、巻機山への標識があったが、もちろん道はなく深い笹藪に覆われているのみだった。それは、無雪期はさすがに厳しそうだが、残雪期なら快適に歩けるのでは?という思いと、私のバイブルとなっている岳人100ルートに記載されている「利根川源流山地縦走ルート」が頭の中で繋がった瞬間だった。それから半年、GW山行企画として例会募集してみると利根川本谷メンバーの一人である永岡さんと期待の若手会員である眞鶴くんが手を挙げてくれて頼もしい限り。前半の天気予報はあまり良くないが予備日もたっぷり取っており、長期戦で臨むこととした。

【4月28日】快晴
 自宅を始発で出発。東京駅6:36発の新幹線で越後湯沢駅経由六日町駅へ向かう。途中停電のトラブルに巻き込まれ、復旧の見込みがないとのことだったので2時間以上停車していた上毛高原駅より直接タクシーで桜坂駐車場へ向かう。予定よりだいぶ出発が遅れてしまったが、今日は半日行動なので問題ない。5時間かけて巻機山避難小屋まで上がり幕を張る。今日はGW前半では最高の天気ということだけあって終始快晴で順調であった。

【4月29日】快晴、夕方より霧と強風
 今日からいよいよ縦走が始まる。昨日は多くの巻機山ピストンの日帰りハイカーとすれ違って挨拶が大変だったが、尾瀬に抜けるまで当分は静かな山旅が楽しめそうだ。
 巻機山から牛ヶ岳を経て丹後山へ続く尾根に乗る。真っ白で美しい上越、奥利根山域の山々に包まれながら誰もいない雪山を歩くのは堪らなく気持ちが良い。

巻機山(牛ヶ岳)山頂、全てはここから始まった!丹後山方面を目指す

 ルートを順調に消化して三ツ石山を昼前に越える。今日は三角点1,790.3mと小沢岳との間のどこかで幕を張る予定であったが、14時を過ぎてだいぶ風が強くなってきたので三角点から15分くらい進んだ風を防げる平坦地にて早々に本日の行動を終了する。

【4月30日】終日暴風雨
 予報では今日の夕方くらいまで天気は持つということだったが、昨夜から天気は急速に悪化。起床時間の3時に一旦起きるが、テントの外は暴風雨状態。しばらく様子を見ることにして再びシュラフに潜り込む。シュラフの中でウトウトしながら色々考える。予報では明日も悪く、このままここで2日間停滞するとさすがに尾瀬までは届かない可能性が高い。唯一のエスケープは丹後山または中ノ岳からの十字峡だが、これだと予定の半分程度。また来なきゃいけないなとか、GWの後半が暇になってしまうなとか、あまり建設的でないことばかりが頭に浮かぶ。8時くらいにテントの外に出てみるが、天候の回復は望めない感じ。でも全く行動出来ない感じでもない。天気の悪い今日と明日の2日間で丹後山避難小屋まで辿り着ければ5/2以降はしばらく天気が良い予報になっている。好天と食料の減ったザックで後半に距離を伸ばせば十分勝算はあるのでは?ということで、意を決して暴風雨の中テントを畳んで9時に出発する。小沢岳への登りあたりでは特に風が強く、大の男が風で転がされたり、動けなくなってしまう時もあったが何とかこれを越える。すると今度は小沢岳からの下りがホワイトアウトで全く進む方向が分からない。コンパスとGPSを確認しながら一歩一歩進んでいく。下津川山への登りは痩せ尾根だが、ここは藪が出ていたのでこういう天気のときは藪のほうが有難い。こうして悪天の中、一歩一歩進んで本日の最低目標であった独標1,712mに14時半頃辿り着く。今日はずっと東側からの風が強いので山頂の西側平坦地に回り込むと狙い通り風が弱い。テントも十分張れる状況だったので、ここで幕を張りほっと一息、本日の行動を終了する。

【5月1日】晴れ、昼前より雨、夕方から暴風雨
 3時に起床すると風の音が全くしない。外に出るとなんと満天の星空だ。天気予報では午前中は曇りで午後から雨、夕方から更に荒れるといった感じ。予報より良い感じで朝からテンションが上がる。予定通り5時に出発し、本谷山手前の1,770m小ピークの登りで少々の藪こぎを経て2時間半ほどで本谷山の山頂に立つ。昨日とは打って変わって順調だ。越後沢山への登りにかかったところで単独の爽やか兄ちゃんと交差する。初日の巻機山以来、3日振りに人に会う。彼は尾瀬からやってきて最終的に谷川岳まで行くと言う。彼も昨日の強風には参ったらしく、なんとか5時間ほど歩いて丹後山の避難小屋に逃げ込んだとのこと。我々が昨夜テントだったことに良く張れたものだと驚いていたが、あのような夜をどうやり過ごすかといことが長期縦走の成否を分けるのだと思う。ともかく尾瀬までの情報が得られたことは有難い。こちらの情報もお伝えしてお互いエールを交わしてそれぞれの道を進む。今度はすぐに5人パーティーが前からやって来る。彼等は十字峡から入り、昨日は小屋で終日停滞、これから巻機山を目指すとのこと。彼等も昨夜、我々がテントだったことを聞き驚いていた。我々としては、エスケープとして丹後山から十字峡までのルートが使えるということが確認出来たのは大変有難かった。越後沢山を越え丹後山への登りにかかる頃よりホワイトアウトになってくる。やがて雨が降り始めた頃、丹後山の避難小屋に到着する。まだ午前中だが天気予報はこれからどんどん悪くなる予定。昨夜は我々もテントも荷物も全てびしょ濡れで、メンバーにも疲れが出て来たことから今日は早めに終了し、小屋で鋭気を養うこととする。

【5月2日】暴風雪、昼前より晴れ
 昨日はたっぷり体を休ませ、テントその他も随分と乾かすことが出来たので本日は朝から晩まで歩くつもりで、張り切って3時に起床する。しかしながら小屋の外は暴風雨。そのうち気温が急激に下がってきて、みぞれから雪へと変わってくる。こんな状況で安全地帯の小屋から外に出る理由は何一つないので、しばらく待機ということになり再びシュラフに潜り込む。このまま天候が回復することなく今日一日停滞になれば、残りの日数は3日間。残り全部晴れれば行けないこともないが、そんな保証は何もない。携帯の電波も鳩待峠までは通じないはず、食料も燃料もぎりぎり持つかどうか、等々いろいろあってこの状況で勝負すべきか?あきらめて中ノ岳から十字峡に降りるか?非常に悩ましいところだ。そんなこんなで時間だけが過ぎていくが、天気が回復する気配は一切ない。ようやく10時頃になって雨が止み、風も少しだけ弱くなって来た(気がした)。視界は全く効かないが、過去の経験とラジオの情報から天候は多少遅れても必ず回復するという確信があったので、意を決して10:40に小屋を後にする。1時間ほどで大水上山の山頂。ここで視界が一気に開け、これから進む平ヶ岳へ続く尾根も見渡せた。尾根を下る途中、たっぷりの雪に覆われた懐かしの奥利根本谷源頭部が右側に見えて気分はアゲアゲだ!あっという間に藤原山、しばらくで「にせ藤原山」の山頂に到着。

歩いてきた稜線をバックに(藤原山)にせ藤原山への登り

 時間は15時を過ぎていたが、本日は出発が遅かったこと、明日以降も当分天気が良いことなどから伸ばせるだけ伸ばすことにする。結局18時前まで歩き、滝が倉山の直下で幕を張ることが出来て本山行の成功を確信した。

【5月3日】終日晴れ
 本日も3時起床の5時出発だが、メンバーの動きもだいぶ熟れてきて2時間だと時間が余ってしまう。明るくなるのを待って早めに出発する。今日はすべてが順調で剱ガ岳を経て8時半には平ヶ岳に着いてしまう。
 山頂から丁度2パーティー5名が降りてくる。中ノ岳方面を目指すようだが、「こんなところで人に会うなんて!」と、ずいぶんテンションが高かった。ここからの下りは尾根が広く、視界が悪くトレースもなければ結構ルーファイが難しそうだが、今日は条件が良すぎるので単なるスノーハイク状態でさくさく降りていく。白沢山を越え至仏山とのジャンクションピークに至ると登山者も多くなって来る。我々はここから景鶴山方面に進路を取る。山頂探しに少々手間取ってしまったが、山頂に着くと眼下には雪に覆われた真っ白な尾瀬ヶ原が!ここまでの長い道のりを思い出し、思わず感動してしまった。今日は山頂直下の平坦地に幕を張り、我々だけで贅沢な展望を独り占めする。

平ヶ岳山頂景鶴山にて

【5月4日】晴れ
 そして最終日はやってきた。幕場から与作岳を経て、約2時間で東電小屋へ。ここから先の尾瀬ヶ原はまだ雪に覆われており、誰もいない静寂な世界だった。
ようやく辿り着いた尾瀬ヶ原  気分良く歩を進めていくが、ご機嫌だったのは15分くらい。いつまで経っても変わらない景色とひたすら平らなところを歩き続ける単純作業に飽き飽きしてくる。2時間ほどで山ノ鼻へ。すでにへろへろだったが、ここから更に老体に鞭を打って1時間ほど登ると鳩待峠。感動の握手大会となる。

 2年前のGWの日本オートルートの時も思ったが、やはり今回も独りではとても踏破出来なかった。頼もしい仲間たちと、気まぐれながらここぞというときは味方してくれたお天道さまに感謝!

〈コースタイム〉
【4月28日】 桜坂駐車場(11:30) → 巻機山避難小屋(16:30)
【4月29日】 幕場(5:10) → 牛ヶ岳(6:40) → 三ツ石山(11:50) → 三角点1,790.3m東方1800m地点(14:20)
【4月30日】 幕場(9:00) → 小沢岳 → 下津川山 → 独標1,712m(14:30)
【5月1日】 幕場(5:00) → 本谷山(7:30) → 越後沢山(8:50) → 丹後山避難小屋(11:20)
【5月2日】 小屋(10:40) → 大水上山(11:30) → 藤原山(13:40) → にせ藤原山(15:20) → 滝が倉山(17:40)
【5月3日】 幕場(4:50) → 平ヶ岳(8:30) → 白沢山(10:10) → 大白沢山(12:30) → 景鶴山(15:30) → 景鶴山東方1,910m平坦地(16:10)
【5月4日】 幕場(4:50) → 東電小屋(7:10) → 鳩待峠(11:10)

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