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沢登り・大洞川井戸沢
千葉 快晴

山行日 2019年7月13日~15日
メンバー (L)千葉(快)、古屋、内田、早川

 大洞川支流には遡行対象の沢コースが幾つかあるが奥秩父の中でも奥深く中々手が出せない沢の1つにこの大洞川本流がある。背景には下山路が長いこととキンチヂミなどの悪場がある事が挙げられるであろうか。冒頭で書くのも何かと思われるかも知れないが、本来、井戸沢本流を遡行するつもりが車回収のためショートカットコースとなり、詰めあがりは奥新左衛門沢に変更となり仙波のタル方面への詰めとなった。沢山行リーダーをするのは今回で2回目。沢の技術を教えて頂いた頼りになる先輩方も沢山行に参加して頂いているので下手な所は見せられない。道中のルートファインディングや核心を突破できるのかという不安と緊張感に包まれ少々気の張った山行の幕開けとなった。

【7月13日 晴れ時々雨】
 前泊は道の駅大滝温泉。ここは奥秩父方面に立ち寄る時は温泉付きで結構利用頻度が高くお気に入りだ。車を走らせ雲取山の登山口のある三峰神社への林道を見送りスタート地点の鮫沢ゲートへ向かう。6~7年前の記録を見れば最奥の荒沢橋ゲートまで入れたらしいが今は林道が一部崩壊していてアプローチが少々長くなった。荒沢橋ゲートから先は舗装路はなくなり、ここからは少々荒れた廃林道を歩く。途中、廃林道から外れ、惣小屋谷への下降路があるのだが、この下降路への分岐点には立派なケルンの道しるべが作ってあった。
 我々はここで入渓準備を整え、惣小屋谷へ降り立った。丁度この辺りまでは晴れ間が覗いていたがこの後雲も多くなり徐々に怪しい雲ゆきになっていくのであった。
キンチヂミの滝  しばらく苔むした奥秩父独特の風景を楽しみながら歩いていくと最初に現れるのが「通らず」と言われるキンチヂミの序盤戦の様なかつて奥秩父の悪路と言われたらしい地帯を通過する。今日もそうだが釣り師が多く、この辺はトラロープや巻道がキッチリついていて、少々水量が多いので1~2箇所水線を行くのをためらった場所があったが、ここも水線を行けば特に問題なく終わってしまう。沢を右往左往と進んでいくとそこは突然現れた。そう山行前に写真で散々下調べしていた「キンチヂミの悪場」の入口のF1滝であった。丁度この辺りから雨がチラホラ降り始め我々の遡行意欲を蝕んでいく。ここは大高巻きの道もあるそうだがその道は見つけられず、左岸を少し登った先から太い丈夫そうな木を支点に12m程の懸垂で沢筋の滝の落ち口にどうにか復帰する。程なく栂の沢出合を見送り、更に椹谷を見送った先は河原状の快適な幕場が現れた。よく河原状の幕営適地と遡行図に記載があるがここは別格。河原の両サイドを含めればタープ10張以上は張れそうな平らな河原地帯が広がっていた。ここに幕を張れればさぞ快適なのであろうが、明日の行程を考えるとまだ先へ進まなくてはならない。結局この日はよく記録の載っている岩小屋の手前の河原に幕を張ることとなった。ここは釣り人への注意喚起の看板もありタープ2~3張りぐらい張れる立派な幕場であった。
快適なビニール製タープ  この日、幕場手前で仙波尾根から下降してきた釣り師の方と出会う。元沢屋さんなのだという事で幕場もご一緒させて頂いた。タープを張り終わる前から生憎の土砂降りになり釣り師の方は焚火を諦めていたのだが、古屋さん持参の沢屋の最終兵器ビニール製の手作りタープが出てきてタープの下で焚火が可能となった。このタープの凄い所は雨の下でも濡れる事無く気兼ねなく焚火が出来ること。作成するのに手間がかかるが使い終わったら捨ててしまえば良いのだ(勿論、沢中に捨ててきてはいけません)。お隣の釣り師の方も加わりこの日は共同の焚火で盛り上がった。

【7月14日 曇り時々雨】
バンドのトラバース中  朝、目を覚ますと生憎の雨。出発する頃には雨は止んだが、雲行きを見ると降ったり止んだり安定しなさそうだ。昨晩ご一緒させて頂いた釣り師の方は本日仙波尾根まで登り返し下山するらしい。朝一でお別れをし本日も行程が長いので先を急ぐ。
 初日で核心も終わり、初日程の緊張感はないがまだまだ油断はできない。そんな事を考えながら歩き出すも天気はどんより。朝方で水も冷たく気分も上がらないまま歩きだす。程なく遡行図通り岩小屋が現れ中ではビバークの痕跡がありゴミが散乱している。ここを過ぎると前新左衛門窪なのだが手前にあるF2ルンゼを登った先の登りが嫌らしい。右岸から巻くのだが取りつきが泥壁のようになっており結構斜度がある。ここはあまり良くないのでほんの少し手前の足元ボロボロの細いバンドをロープを出し強引にトラバースして越えていった。途中ランニングを取れそうな場所もなく岩肌の苔を剥がし持ち手を探し、ジリジリと1歩ずつかなりしょっぱいトラバースであった。このルートであっていたのであろうか?未だに謎のままである。ここを抜けると後はF5までは割りとスムーズに通過したが、途中で一箇所3~4m程のほぼ垂直の登りがあり念のためロープを出した。ここは残置トラロープが上部に巻き上げられていたので後続のために戻しておいた。
斜めになった幕場  冒頭でも記したが、時間的な制限と井戸沢本流よりも奥新左衛門窪の方が楽しいという記事を読んでいたのもあってメンバーと相談して奥新左衛門窪右俣を遡行することにした。もう恐れる滝もなく、わりと飽きさせない小滝の連続で中々楽しませてくれた。生憎この沢でのビバーク記録はなく水流の途絶えた1,800m付近の斜度の緩んだ笹薮にてビバークとなった。今夜も雨が降っていて、気を抜くと転がってしまいそうで中々に寝心地は良くなく薪もなく焚火はなしだが夜の宴会は盛り上がった。

【7月15日 曇り】
  後はこの沢地形を詰めるだけで稜線に出れる。斜めに張られたタープを回収し沢の詰めにかかる。稜線まで30分程で仙波のタル付近にて一般道に合流。そのまま東仙波までは一般道を進んだ。東仙波から先は仙波尾根を下降路に使う。現在は一般道ではないが地元山岳会の方が付けてくれたお手製の標識とピンクテープを頼りに何とか道を辿る。カバアの頭(1,960m)から「鹿の十字路」付近まで背丈が高く視界がきかない猛烈な笹薮の中の迷路を進むような形になるが、所々昔の標識やピンクテープもあるので基本は尾根上を歩けば問題ない。この不明瞭な迷い道も枯れ笹の生い茂る見通しのきかない上部だけで「鹿の楽園」辺りまでくれば道も明瞭になる。仙波尾根の末端まで降りれば、そこはスタート時の入渓地点になり後は元来た林道を戻るだけ。この林道がまた長いのだが...。
 今回は天気には恵まれなかったが、奥秩父の苔むした沢の雰囲気とずっと気になっていた仙波尾根を末端まで下降できてボリュームのある山行であった。お付き合い頂いた仲間には感謝感謝である。

藪を掻き分けて進む
〈コースタイム〉
【7月13日】 鮫沢ゲート(7:30) → 惣小屋沢出合(10:00) → キンチヂミ(13:10) → 椹谷と岩小屋の中間辺りの沢沿いに幕(14:30)
【7月14日】 幕場(6:40) → 奥新左衛門窪出合(12:30) → 1,800m付近(16:00)
【7月15日】 幕場(6:30) → 仙波のタル(6:46) → 東仙波(7:15) → カバアの頭1,960m(8:00) → 鹿の十字路(8:54) → 鹿の楽園(10:44) → 恐竜の背(11:10) → 林道(12:30) → 鮫沢ゲート(14:15)

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