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集中山行・甲斐駒ヶ岳
その2 尾白川本谷~甲斐駒ヶ岳
金子 隆雄

山行日 2019年9月27日~29日
メンバー (L)金子、永岡、野畑、坂井

 今回の集中山行は甲斐駒ヶ岳。甲斐駒での集中山行は何度か行っているが自分が甲斐駒での集中に参加するのは35年振りである。3日もかけるんだから集合時間に遅れる筈がないと考えていたがそんなに甘くはなかった。
 他パーティより1日早く木曜の夜に西国分寺駅に集合し中央道で今夜の宿の「道の駅はくしゅう」へと向かう。この道の駅は私の想像とはかなり違っていた。すぐ近くにコンビニがあって便利な半面、開けっ広げで明るくて車の出入りも多く、夜陰に紛れてひっそり仮眠しようという目論見は崩れてしまった。なんとか目立たない所を探し出して幕営し一杯やっていると、大武川へ行く快晴パーティがやってきた。少しの間一緒に飲んで下山後の車回収に協力することを約して別れた。

【9月27日】
まだまだ余裕な面々  駐車場は閑散としていた。車は数台停まっているが人影はない。そりゃそうだ今日は平日だもの。準備を整え7時過ぎに出発する。いつもと変わらない沢登りのはずなのに今回はやけに背中のザックが重い。いつもは持たないハンマーやハーケンを持っているからだろうか、それだけでこんなに重くなるとは思えない。何が余分なのだろうか。
 出発してわりとすぐに吊橋を渡り終えると登山道と分かれて渓谷道に進む。昔は尾白川に入渓するのに黒戸尾根を五合目まで登り、五合目の小屋(今は跡形もない)の裏から黄蓮谷に下降するのが一般的であったが、今ではもっと楽で早く入渓できるルートがあるので、このルートを辿る人はいないようだ。
今回の我々のルートは不動滝下まで渓谷道を辿り不動滝上から尾白川に入渓して甲斐駒に登頂するというものだ。
 尾白川はずっとゴルジュが続いているが渓谷道は整備されていて問題なく普通に歩ける。名前の付いている滝や淵などを見物しながらのんきに進んでいく。

こんなところ登れましぇん  出発して2時間半で不動滝の下の吊橋に到着した。この吊橋を対岸に渡ると多分、矢立石登山口から続く林道に出られるのだろう。吊橋は渡らずに右岸からの枝沢を越して不動滝の高捲きにかかる。が、こいつが曲者。こいつを越して入渓する人はあまりいないようで高捲きルートは判然としない。踏み跡はほとんど無く目印のテープも思い出したようにポツリポツリと出てくるだけだ。結局3時間を要してようやく沢床に降り立つことができた。
 さあ、これで本格的に沢登りができると意気込むも、そうは問屋が卸してくれない。まだゴルジュの中の巨岩帯は続いており、滝はツルツル、釜は大きくて深く、とても水線通しには進めそうにはない。
 左岸を捲いたがこれがまた恐ろしいほど急傾斜、トラバースできずに上へ上へと追い上げられる。いっそこのまま上へ突き進んで林道へ出ようなんてことを考えてみたがそれは無理なこと、林道まではかなりの高度差があってこの急斜面では登れない。
 ようやくトラバースできる程度に斜度が緩んできたのでしばらくトラバースした後に懸垂で降りる。やれやれホッとしたのも束の間、ロープを引いてもびくともしない。回収不能となってしまったのだ。なんだかんだとやっているうちに辺りは薄暗くなってきて日没が近づいている。ロープ回収はKGに任せて泊まる場所の確保に当たる。幸いにも懸垂で降りた所は少し斜めではあるものの4人が寝られそうなので整地してタープを張る。焚火もできてなんとか落ち着いた。場所は不動滝と鞍掛沢出合の丁度中間辺り。今日は全然進んでいないということだ、我々は今日一日いったい何をやっていたんだと心が折れそうだった。

【9月28日】
取り付くこともできない直瀑の連続  昨日はなかったことにして1泊2日のつもりで気持ちを新たにして出発する。少しの間はゴルジュが続いていて捲いたりしながら進むが、ゴルジュが終わると滝や淵などの阻むものがないので俄然スピードが上がる。またたく間に鞍掛沢出合だ。ここには整地された幕場がある。以前、鞍掛沢を溯行した際に泊まったはずだがあまり記憶にない。
 ここから滝場の始まりだ。最初の滝はナメ状で滝の真ん中に太いワイヤーが垂れている。ワイヤーを使わなくても登ることはできる。登ることができたのはこの最初の滝だけで、その先は取り付くこともできない直瀑が続くようになる。

ガスの中の超巨岩帯  しかし、こういった所にはしっかりした捲道が付いておりフィックスが張られている所もある。鞍掛沢から黄蓮谷の間は登れる滝は殆どないが最も楽だと言えるかも知れない。左岸に威圧するような大岩壁が現れると黄蓮谷出合も近い。午前中良かった天気だがこの頃から怪しくなりガスで視界が遮られるようになってくる。やがて黄蓮谷出合、この奥にあんな厳しい沢があるとは思えないように穏やかにガスの中から幻想的に出合ってくる。本流には噴水滝というのがあるはずだが水量が少ないせいか確認できなかった。
 やがて超巨岩帯が始まる。中流域にも巨岩帯はあったが、それとは比べ物にならないくらいの超巨岩が折り重なっている。巨岩帯は体力を消耗するだけではなく時間も浪費させられる。突破できるかどうかが離れた場所からは判らないので行ってみるしかない。行ってみて行き詰まって戻って、別のルートにトライして戻ってを繰り返して体力と時間がどんどんなくなっていく。
 出口が2つある隙間を潜り抜けるとそこに岩が折り重なってできた岩小舎があった。標高は丁度2,000mだった。今日は六合の小屋まで行くつもりで出発したが、もはや体力も時間も尽きてきているので今日はここに泊まることにする。通り抜けられるので閉塞感がなくていい。4人なんとか寝れそうで、中には平らな岩のテーブルまである。もともと此処にあったのか誰かが運び入れたものなのかは判らないがちゃぶ台を囲んでの宴会は最高だった。

岩小舎の内部

【9月29日】
核心部をリードするKG  この期に及んでもまだ集合時間に間に合うんじゃないかと思っていた。集合時間まで5時間もあるんだし。だがそれは出発して間もなく打ち砕かれてしまった。岩小舎のすぐ上にある2つの登れない滝を捲くのに手間取ってしまった。
 先ずは水線近くの突破を試みたが行き詰まってしまった。次にガレたルンゼから捲こうとしたが落石がひどくて危険なためここも断念した。結局は振り出しの岩小舎まで戻って大高捲きすることにした。落石が起きそうなガレを登って樹林帯に入ろうとしていた時、ロープを取り出そうとしていたKGがザックを落としてしまった。幸いに沢まで落ちることなく途中で止まったので回収はできたが、ここで更に時間のロス。
 樹林帯のトラバースを続けているとやがて踏み跡が出てきた。踏み跡を辿ってトラバースを続けて最後は10mほどの懸垂で沢に戻ることができた。降りた所は三俣になっており、左は傾斜の強いトイ状の滝が続いており登りたくない。右は水流のないガレで落石の危険が大きそうでこっちも登りたくない。残るは真ん中、こちらもトイ状の滝だが水流の右側が緩いナメ状なので途中までは登れそうに見える。上部はカンテの陰になって見えないので行ってみないと判らないが他にルートは見いだせないのでここを行くしかなさそうだ。カンテの右側に回ってみるとそこは10mほどの枯れ葉の詰まった急なルンゼと言おうか凹角と言ったらいいのかが続いていた。丁度中間辺りにハーケンが2枚打たれておりスリングが残置されている。記録を読むとよく出てくる核心部のようだ。ここはKGのリードで突破する。

3時間半遅れではあるが取り敢えず登頂  登れない男と言われ続けていたが、いつの間にかすっかり変身して頼れる男になっていたのだ。今回は色々と大活躍だった。
 核心部を抜けた上の滝が最後の滝でこれを左岸から捲くと水が消えてガレとなる。ガレを登っている途中で集合時間の11時を迎える。間に合わなかったか。携帯が通じたので集中できないことをメールする。
 樹林帯に入りしばらく獣道のようなものを辿ると登山道に出た。六合目の小屋はかなり過ぎていた。靴を履き替えて甲斐駒を目指す。無雪期のこのルートを歩くのは初めてである。鎖にすがって岩壁を登るなどなかなかにエグいルートである。
 ヨレヨレになりながら3時間半遅れで甲斐駒に到着した。もちろん山頂には誰もいない。こんな時間に人など居るはずがない。
 下山途中で暗くなることは確実だから長居はできない。すぐに使えるようにヘッドランプを用意して黒戸尾根の下山を開始する。五合目小屋跡の辺りで暗くなり懐電歩行となる。暗いとスピードが鈍り更に時間がかかるようになる。街の灯がきれいだ。
 22:30頃にようやく駐車場に到着。日向八丁尾根隊の激励のメッセージが残されていた、ありがとう。終電の時間ギリギリなので風呂なし、飯なしでコンビニに寄っただけで車を走らせ続けてどうにかこうにか帰宅することができた。

〈コースタイム〉
【9月27日】 尾白渓谷駐車場発(7:20) → 吊橋(不動滝下)(9:50) → 入渓(13:00) → 幕場(17:00)
【9月28日】 幕場発(6:35) → 鞍掛沢出合(8:50) → 黄蓮谷出合(11:45) → 岩小舎(泊)16:15
【9月29日】 岩小舎発(6:15) → 登山道(12:00~12:25) → 甲斐駒ヶ岳(14:30) → 七丈小屋(16:40) → 尾白渓谷駐車場(22:20)

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