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沢登り・金木戸川双六谷
千葉 快晴

山行日 2019年8月11日~15日
メンバー (L)千葉(快)、小芝(泰)、野畑、清水

 今年のお盆休みは上ノ廊下へ行こう!
 当初メンバーを募ったときは、行き先の上ノ廊下へ向けて早めから渡渉訓練を行い、目的を達成しようとの意気込みであった。しかし思いあがったのも束の間、良く考えてみたら思い当たる沢のベテラン先輩方は全員遡行を達成してしまっていてお付き合い頂けない。自分達で行くには力量がどうなのか?不安は募るばかり。結局、楽しみはとっておく事にし今年は沢の経験値を上げるべく双六谷へ向けて頑張る。という事で自分の中で考えが丸く収まった。それだけにメンバーで数回の訓練山行を行って達成出来た時の感動は一塩であった。魅力的なメンバーにも恵まれ忘れられない思い出の山行になったのであった。

【8月11日 晴れ】
 前日は道の駅上宝にて仮眠。早朝、車で金木戸林道ゲート終点へと向かう。お盆2日目の今日は既にゲートの駐車場は車が一杯。何とか少し下側に駐車する事ができたのだがさすが有名な大物沢。釣り師もいるであろうが沢屋パーティーは何組いるのであろうか。これからの3泊4日が楽しみで不安と期待を膨らませながら林道歩きをスタートさせる。まず暫くは良く整備された林道を歩く。広河原と呼ばれる取水堤まで歩くのだが、これが結構長い長い...。広河原を過ぎると道は整備された林道から一気に道幅が狭く荒れた様子になってくる。ここから打込谷付近までは昔の森林軌道跡の高巻き道を使う予定でいたが、下調べが足りず道筋を見つける事ができなかった。暫くは水線の近くをトラバースしながら高巻いていたが、道も悪く疲れてきたのと時間はタップリとあることからあっさりと水線に降りていき、ここで沢装備に着替え遡行のスタートとなった。
 大半が打込谷への森林軌道跡を利用しているのであろう、初日水線沿いを行くパーティーと出合う事は無かったが所々に先人の残置ロープなども残されていて有り難く利用させて頂いた。さすが渡渉系の有名な沢と言うべきか双六谷の川幅は広く、白く巨大な花崗岩に青い水面の景色には終始感動。癒されっぱなしであったが反面、平水時は問題ないが谷の幅と巨石から想像して、一度荒れ増水すれば人間の手ではどうする事もできないであろう、自然の脅威も同時に感じながら感慨深い時間を過ごす。何回ロープを出し水に飛び込み渡渉したであろうか、この山行の為に皆で手探りで訓練してきた成果は確実に出ていて、二番手三番手とロープ操作など実に段取りは手際良く何も説明しなくても事がドンドン進む。「これがチームプレイなのか~」自分自身まだまだ未熟だが生意気を言わせて貰うと、何か阿吽の呼吸のようなものを感じ嬉しく思った。何回か渡渉に失敗して水流に押し戻される時もあったがそこは水線を諦め大岩の巻道を行けば時間はかかるが安全に遡行を続ける事ができた。初日は特に難しい部分は無かったが敢えて言えば濁流に飛び込む勇気だけは必要であったかも知れない。
 これだけの規模の沢の渡渉はメンバー全員初めてで、ある程度スムーズに進んだとは言え遡行には結構時間がかかった。気付けば日も落ちてきた頃、情報通り打込谷手前の廃吊橋が見え今日の遡行は終了。右岸の吊り橋直下の河原状にタープを張り豊富な薪を使い宴会となった。明日から始まる沢旅に心を躍らせながら就寝。

激流のロープ渡渉エメラルドグリーンの水面

【8月12日 晴れ】
  朝起きて朝食の段取りをしていると、少し先に見える打込谷出合あたりでヘッドランプの灯りが見える。どうやら近くに先行者がいるらしい。道中先に進むと追い抜かす事になるのだがこの山岳会の4~5名パーティーのうち1名は足を怪我してしまったらしいが何とか遡行可能だとの事で、この先も抜きつ抜かれつ最終日まで全く同じ行程を歩く事になるのだがこの時点ではまだ全く予測していなかった。
 全行程で本日が核心。キンチヂミや廊下地帯の通過などが待ち受けている。水線の渡渉が難しい箇所は巨石の間に挟まったり乗越たり楽しい遡行が続く。
 「THE夏休み山行」という感じで沢の遡行は自由気まま、暑ければ水に飛び込み自分自身何だか童心に返ったようなはしゃぎようであった。
巨石帯をよいしょよいしょ♪  2日目半ば過ぎであろうか、一筋縄ではいかなさそうな悪場を見つけ攻略法を考えていると、どうやらここがキンチヂミではないか?遡行図を見てもどう見てもここのようだ。遡行図通り水線を行けなくはないが、丁度中間地点辺りに残置のハーケンにロープがFIXしてあり、しっかりしていたのでトラバースしながらコレを有り難く使わせて頂いた。
 今日も渡渉でロープを使い多少苦労した箇所は何箇所かあったのだが永遠と続く白い花崗岩とエメラルドグリーンの水面が終始癒してくれ忘れさせてくれた。どれくらい河原を右往左往したのであろうかほぼ予想していた通り本日の幕場の蓮華谷出合の幕場に辿り着いた。最初はまさか高台の真上に幕場があるとは思っていなかったのだが、なんと絶景の高台の上に一等地がありロケーションは最高。こんな眺めの良い展望の幕場は初体験なだけにテンションもあがり、サッサとタープを張り宴会に突入。楽しい時間はあっという間に過ぎ気付くと火の真横で寝入ってしまっていた。途中同じく火の横で寝ている野畑さんは起こしてはいけないかな?と自分はシュラフに入り就寝。

【8月13日 晴れ】
 朝起きると高台のせいかスーッと涼しい風が吹いている。稜線の上は強風なのであろうか。そんな事を考えながら遡行をスタート。暫くすると風も収まり今度は日が昇り始めいつもの蒸し暑い様子になってくる。こうなるとさっきまでの風が恋しくなってくる。もうこの先難しい箇所は無い。途中「六千尺の滝」という名前からは結構高度のあるような滝は名ばかりで大した事なく大岩から巻いて終わってしまった。遡行図には書いていないが六千尺の滝のすぐ先の左岸に刈り払いのされた一等地の幕場がありここはタープ2張位の規模があった。ここは近くに行けば踏み跡があるので直ぐ見つかるであろう。もう旅も終盤戦、抜戸沢の幕場に着く頃にはあんなに長大で巨石のあった風景もすっかり源流の雰囲気に様変わりしていた。と同時に足元の水中の岩も中々滑りやすく気を抜くとスッテンコロリンになり半身ずぶ濡れ状態になる始末。先を歩いていると後ろから転んだ時の黄色い声が聞こえてきて緊張感からも解放され遡行最終日の今日は賑やかな山行であった。
 沢は分岐を見送る毎にドンドン小さくなりいつの間にか岩魚の魚影も無くなった。遥か遠方に見えていた稜線も近くなり沢は一気に高度を上げていく。こうなるといよいよ沢も終盤。気付けば源流部の最後の一滴を見過ごしていて慌てて水を汲みに戻った。
 源流詰め部は藪漕ぎは一切なく、よく付けられた双六小屋に繋がる一本道は間違いようのない綺麗な道筋であった。この辺はお花の咲き乱れる草原地帯。お盆の双六小屋の幕場にタープを張る勇気はなく、双六池手前の気持ちの良い草原地帯に支柱を立てタープを張り少し早目の宴会に突入した。双六小屋までビールの買い出しも考えたが、そんな事よりも、浜辺に寝転ぶセイウチのように、気持ちの良い草原に寝転んで皆幸せそうに寝入ってしまった。

ハイ、ポーズ!すっごい気持ちの良い草原に寝転ぶ

 さすがは最終日、明日は下山だけなので軽量化と言わんばかりに各自残していたツマミやお酒のオンパレード。この天国の様な草原で寝転ぶなんて下界では中々ないであろう。その風景にも酔い知れる。途中夕立に遭うが、その後の夕焼けも絶景であった。緊張感から解放されこの沢旅で一番楽しい夜であったかも知れない。途中夕方頃、道中幕場も一緒だったパーティーも無事遡行を完了し双六小屋方面からこちらに向かって手を振っているのが見えた。無事でよかった。楽しい夜はあっという間に過ぎてしまった。

【8月14日 晴れ】
 昨日は幕を張ったのが早かった為か、まだ星空のあるうちに目が覚める。今日は少々行程は長いが一般道なうえに荷物は軽く気分も軽やかだ。朝食を食べ少し歩くとあっと言う間に双六小屋に到着した。丁度出発ラッシュの時間帯で登山道の外から歩いてくる我々はちょっと目立っていたのではないだろうか。格好を見て沢登りかと質問してくる人もいた。
 ここで全員揃って記念撮影。まだ歩き始めで寝ぼけていてよい笑顔が出来たであろうか。
 ここはお盆の一般登山道、一年で一番混み合うシーズンだ。賑やかな人ごみに紛れ気の緩んだ我々には下山路は水も浴びられず疲れからか少々長く感じた。

お盆の双六の幕場は大混雑双六池にて!お疲れ様でしたー!

 新穂高温泉に下山後は車を回収する為にタクシーを呼ぶ。何かの縁なのかずっと同じ行程を歩いていたパーティーの方とまた下山も同じタイミングであった。同じ場所に車を回収しに行くという事でタクシーをシェアする運びとなり同じ場所で車を回収。帰路に着くのであった。
 今回も頼りないリーダーであったが訓練山行も含め最初からお付き合い頂いた仲間には深く感謝したい。

〈コースタイム〉
【8月11日】 金木戸林道ゲート(6:00) → 広河原(10:00) → 打込谷手前の吊り橋(17:30)
【8月12日】 幕場(5:30) → 蓮華谷出合(16:00)
【8月13日】 幕場(5:30) → 抜戸沢(9:20) → 双六池の少し下地点(13:30)
【8月14日】 幕場(5:40) → 双六小屋(6:20) → 鏡平小屋(8:15) → わさび平小屋(12:00) → 新穂高温泉(13:30)

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