トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ361号目次

沢登り・魚野川本流
内田 優生

山行日 2019年6月28日~30日
メンバー (L)内田、古屋、千葉(快)、野畑、小芝(泰)

 魚野川の話は色々な人から聞いていたが、未だ未踏の地だった。せっかくならとネマガリダケにギリギリ間に合いそうな梅雨のこの時期に例会を出すことに決めた。出発前に熱帯低気圧が台風に変わり、週の半ばには本州にも相当の雨をもたらした。決行か中止かギリギリまで悩んだが、天気も完全にアウトという訳でもなさそうなので決行することにした。多分メンバーは誰も驚かなかったと思う。皆、初魚野川だったので敗退でもいいから行くだけ行ってみたいと思っていたようで安心した。結果として、沢は増水していたが、予定していたルートは完踏することが出来たので大満足の山行となった。

ネマガリ選定中 前夜、雨でも大丈夫なようにと屋根のある「道の駅あがつま峡」で泊まった。お陰でテントも張らずに一晩を過ごす事ができた。翌朝身支度を整え9時前には野反湖駐車場から地蔵峠に向かって歩き始めた。野反湖駐車場には休憩スペースを備えた建物があり、その中にトイレもあった。パッキングやら着替えは全てこの中でできたのでとてもありがたかった。そして歩き始めて1時間も経たずにネマガリ発見! 登山道沿いはあらかた取られているので、躊躇なくヤブへと分け入る。そうするともっといい代物がさらにその奥にキラーンと屹立していたりするので、危うくネマガリラビリンスへと迷走しそうになる。しかし我々の本来の目的は本流の遡行だ!とぐっと思いとどまる。

渋沢の橋を渡った所から入渓 何本もの小さな沢を渡渉して、徐々に高度を上げていく。天気は思った程崩れる様子もなく時折薄日も差し込んでいる。諦めずに来てよかった。だいぶネマガリに時間を費やしたので渋沢ダム到着は14時を過ぎていた。既に5時間は歩いている。かなりのスローペースだ。避難小屋に近づくにつれ雨も降りだし、いったん小屋に入り荷物を置いて入渓ポイントを確認しに行く。その間に雨足はさらに強まり、いざ入渓!という気持ちはポキッとへし折られる。時間は既に14時半を過ぎているし、メンバーのテンションも下がり気味なのがわかる。でもここまで来たので千沢との出合の幕場を目指して入渓することにする。正直この渋沢ダムの避難小屋が狭くてなんとなく清潔感に欠ける場所で助かった(失礼!)。ここが居心地の良いキレイな避難小屋だったら、ネマガリもたんまり採れたし、この雨の中、重い腰を上げることは到底出来なかったと思う。入渓支度を整え、いざ出発したのは15時近かった。入渓ポイントは渋沢の橋を越えた北側。橋のたもとに踏み跡があり、ロープを出さなくても降りられそうだったので、5~6mほどクライムダウンして河原に降り立つ。

左から千沢が出合う 沢はすぐに魚野川本流と出合う。やはり水量が多い。泳げば越えられるかもしれないが、いきなり全身ずぶ濡れになるのも・・と思い、右岸から高巻き懸垂下降で魚野川に降り立つ。しょっぱなからこんなんじゃ、この先の遡行は無理かもしれないと思う。その後はスクラム渡渉で無事切り抜け16時前には千沢出合に到着。

千沢出合の幕場(奥が農ポリタープ) 夢のような幕場は千沢に入り左岸にあった。薪も豊富にあり、誰かが定宿にしているのかブルーシートやエスケープ用?のロープも垂れ下がっている。一目で気に入り今宵の幕場とする。今回古屋さんが持参した農ポリタープなるものが大活躍した。雨でもそのタープの下で焚火が出来るので、今後は多少の雨でも遡行を諦めずに済むかもしれない。今後の三峰スタンダードになる事間違いナシでしょう。その晩はネマガリ汁からネマガリご飯と野畑さんが作るネマガリ三昧のディナーを堪能して眠りについた。

水量多めの桂カマチ 翌朝、3時半起きの5時出発。今日が核心だ。歩き始めてすぐに桂カマチに到着。

急流をロープで越える 水量はあるが断念するレベルでもないようだ。これなら行けるかもしれない!と気分が高揚してくる。しかしそう簡単には行かない。その後ロープを使い流芯を飛び越えるような渡渉や、激流をへつっていくような箇所が出たりもしたが、その都度がっちりと協力して笑いを交えて乗り越えていく。悲壮感はまるでない。気のおけない仲間との沢旅はルートが厳しくても気は楽で助かる。それにしても厳しい水勢となると、悔しいがやはり女性は手も足も出ない。が、口は出る?から不思議だ。

高沢出合付近は激流 8時過ぎに高沢出合に到着。高沢は急流と聞いてはいたが、もはや激流で人を寄せ付ける気配は皆無。当初ここを幕場に考えていたので、一同その轟音と水量にしばし茫然・・・。ここは左岸から高巻いて越える。昨日天国のような幕場に泊まれてよかったと思った。

幻想的な大ゼン その後しばらく進むと大ゼンに到着。ここは右壁から直登出来る。一応ロープを出して登っていく。今回ロープを出して登ったのはここ1箇所のみだった。

カギトリゼン直登に3度目のトライ! その後ゴルジュ帯は過ぎて、水流も穏やかになったので黒沢出合手前の河原で釣りタイム。古屋さんがすぐにテンカラで仕留めるが先が長いのでリリース。また歩き始めるとすぐにナマリ岩に到着。ナマリ岩の手前の右岸に砂地のいい幕場があった。増水時は注意が必要かもしれない。ここを通り過ぎ、しばらく進むと魚野川の代名詞でもある滝のオンパレードとなる。最初に出てきたのはカギトリゼン。写真とそう違うようには見えないが、実物は水量がかなり激しい。この水量ではとても自分が登れるようには思えない。小芝さんが左壁をトライするものの2回剥がされる。水量の比較的少なめの中心より右側のラインに移動しトライするが、やはり剥がされてしまう。しかしさすがの身体能力。落ち方が巧い。落ちると分かると受け身態勢?で、クルリと身を翻し怪我のないよう自ら釜に飛び込みリスクを回避する。皆が感心してこのことを伝えると、クライマーの自尊心を幾ばくか傷つけてしまったのか、「慰めはやめてくれよ!」と返されてしまった。本心から伝えたのだが、確かに落ち方を褒められてもね・・。結局ここは少し戻り左岸から高巻く。トラロープもあり、踏み跡もしっかりしているので、割と巻かれている滝なのかもしれない。ロープは30メートルなので、なるべく下れるだけ下り、そこから懸垂下降1回で滝の落ち口に降り立つ。結局この滝を越えるのに1時間半程を費やした。

素晴らしいナメ床 その直後に現れたイワスゴゼンは鏡餅みたいな曲線を描いた綺麗な滝だが、登れるラインすら見当たらない。ここも左岸から高巻く。懸垂はせずに踏み跡を辿ると自然と滝の落ち口に導かれた。今度こそ登りたいと思って出てきたスリバチゼン。ここは3-4メートル程の高さしかなく、なんとなく左岸をへつって右壁のあたりに取りつけそうだが、滝の下が深い釜になっていて、穏やかな水面の下には打って変わって洗濯機のような渦が見える。ゾゾ~。落ちたら洗濯物になって上がってこないかもしれないと思うと踏み切れず、素直に断念して左岸から高巻く。最後のヘリトリゼンは水流右を歩いて越えられた。全ての滝は登れるというイメージを持っていたからか、なんとなく消化不良で悔しい。また平水時にチャレンジしたい。

小ゼン沢出合手前の幕場 その後奥ゼン沢が右から入り本流をしばらく行くと、古屋さんが左岸に絶好の幕場を発見。小ゼン沢手前であるが一目見て気に入り今夜の幕場に即決。ここも釣り師の定宿なのだろう。若干ゴミや残置物が残っているところは気に入らなかったが、水流より1メートル程上で真っ平の適地。場所は標高1,336m辺りで時間は16時手前だった。結局この日は11時間行動となった。この日も雨に負けず火をおこし、時間はかかったが最後は盛大な焚火となった。焚火を囲み古屋さんが釣ってくれたイワナを快晴が刺身にしてくれ、残りは塩焼きで堪能した。

小ゼン沢上部の雪渓 最終日。またまた3時半起床。夜中激しくタープを叩く雨に、心配になった野畑さんは増水していないか沢を確認したらしい。他のメンバーはぐっすり寝ていて雨音にすら気が付かなかった。この日は予報通り朝から降られ、沢も一層増水していた。昨日のうちに核心は越えていたので、今日は小ゼン沢を詰めるだけ。歩き始めて25分程で燕ゼンと出合う。ここで小ゼン沢に入り進んでいくとすぐに直登出来ない滝が現れる。左岸の細い枝にトラロープがかかっているが、とても信用できない。ここは右岸から若干強引に高巻く。トラバースがちょっと厭らしく注意が必要。トラバース後は笹を掴んでクライムダウンで滝の落ち口に出る。その後しばらく行くと右岸にこれまた素晴らしい幕場を発見。プライベート感満載で、小ゼン沢を詰めるならここはいい幕場になると思った。その後も釣り師の踏み跡に導かれながら順調に高度を上げていく。1,630mあたりで雪渓の短いトンネルが出てきたが、水温はそこまで下がっていない。

藪コギゼロで五三郎小屋到着! 次第にブヨが顔にまとわりついてきて煩わしくなった頃、歩き始めてから4時間半でようやく五三郎小屋に到着した。増水のせいか最後まで源頭らしからぬ水流だったが、藪コギは一切なかった。五三郎小屋は遭難でもしてなきゃお世話になりたくはない代物だった(つまりボロくて汚い)。

天国のようなカモシカ平 稜線まで上がり沢装備を解き、あとは4時間程、野反湖を目指し稜線を辿ればよい。天気は回復基調で雨も止み空が明るくなってきた。カモシカ平に着くころには青空ものぞかせ、すっかり夏の縦走のような雰囲気になっていた。

野反湖キャンプ場を通り下山 三壁山を過ぎると野反湖を望む素晴らしい景色が広がる。だが道はぬかるんでいて最悪だった。雨が降ったからなのか普段からなのかはよくわからない。野反湖キャンプ場は素晴らしいロケーションで、今度は是非ここで5月に山菜山行でもしたいと思う。
 駐車場に戻ると15時を過ぎていた。今日も1日良く歩いたな~。久々に荷物を背負って歩いたらヘトヘトになってしまったが、 今回は天気とメンバーに恵まれ、予定通り遡行が出来て大満足の山行だった。魚野川はやはり噂にたがわぬ秀渓で、また季節を変えて再訪したいと思える沢だった。

〈コースタイム〉
【6月28日】 野反湖駐車場(白砂山登山口)(8:47) → 渋沢ダム 避難小屋(14:15~14:58) → 千沢出合(幕)(15:55)
【6月29日】 千沢出合(5:12) → 高沢出合(8:10) → 大ゼン(8:53~9:20) → ナマリ岩(11:06) → カギトリゼン(13:03~14:26) → 小ゼン沢手前(幕)(15:53)
【6月30日】 小ゼン沢手前(5:25) → 小ゼン沢出合(5:49) → 五三郎避難小屋(9:55~10:30) → カモシカ平(12:26~12:42) → 野反湖駐車場(15:14)

トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ361号目次