山行日 2019年12月28日~30日
メンバー (L)荻原、小芝(泰)、内田、青木、永岡、千葉(快)
厳冬期の剱岳を登りたいと思ったのは、小幡さんリーダーで企画した2004年~2005年の正月山行のときだ。当時の私は35歳で気力・体力・経験・技術と全てが充実していたが、まだ3人の子供が小さかった。この正月山行に参加すると4年連続で正月に父親不在となることから、かみさんの猛反対にあって、参加を断念した。それからも何度か会で企画が持ち上がったり、自身がリーダーで企画したいと考えた時があったが、仕事・家族・その他諸々の条件のピースが完全には揃わず、正月の剱岳は挑戦することすら叶わない状況が続いた。それから15年、気力・体力以外のピースが全て揃う機会が訪れたので、リーダーとして企画してみることにした。結果、揃ったメンバーの大半は冬山、雪山の実力十分、いつものように事前の訓練を積んで厳冬期の剱岳(早月尾根)に挑戦してみることにする。
【12月28日】終日晴れ
前夜に東京駅八重洲南口に集合し、夜行バスで富山駅へ。ここから富山電鉄で上市駅、タクシーで伊折へ向かう。風呂セットや不要なものはタクシー会社にデポさせて貰う。
伊折からうっすらと雪を被った車道をテクテクと2時間半、馬場島に到着。
ここで山岳警備隊よりヤマタンを受け取る。馬場島の積雪は数センチといったところで、やはり今年は寡雪のようだ。あとは前日(27日)に上部で降った積雪量が気になるところだが、標高の低いここでは分からない。警備隊によると本日は我々の前に3パーティーが入っており、うち2パーティーは小屋を目指すとのこと。天気は明後日(30日)以降は、長期に亘って荒天が続く予想であり、アタック日は明日(29日)しか可能性が無さそうだ。メンバーと相談して今日はヘッデン歩行でも良いので、上げるところまで上げてしまおう、あわよくば早月小屋まで行ってしまおう、ということになる。しかし、寝不足で1週間分の荷物を背負っての初日の急登は中高年パーティー(1名除く)には、なかなかしんどい。
みんなヘロヘロだったが、それでも好天と先行パーティーのトレースのおかげで、17時頃には2,050m地点に到着し、テントを設営する。幕場は樹林帯で多少天気が荒れても風も防げる格好の適地だ。明日は長い行程になるが、少なくとも小屋まではトレースがあるので、暗いうちからヘッデンで歩き始めれば、時間的に登頂は十分射程圏内だ。加えて明日は終日好天予報。下山が暗くなっても大丈夫。今宵は皆、すっかり登頂した気分になって盛り上がる。
【12月29日】終日晴れ
今日は気合いを入れて3時に起床。昨日は暗い中でのテントの設営や水作りなどに結構な時間がかかり、4-5時間しか睡眠時間が確保出来なかったが、普段あまり仕事をしていないメンバーばかり?なので、全員体調はバッチリのようだ。5時前には準備もすっかり万端となり、予定通りヘッデンで出発する。ゆっくり歩いて40分ほどで早月小屋。ここで出発の準備をしている先行パーティー(2パーティー9名)に追いつく。初めて先頭に出るが、この先はトレースがないのでワカンを装着していると長野の山岳会パーティー5名が先を行ってしまった。それにしても彼らは速い。正確に言うと先頭の2名がぶっちぎりで強い。結局、我々は最後まで彼らに追いつけず、ラッセルは全てやって頂くことになってしまった(中高年パーティーとしては大変助かりました。有難うございました!)。
2,500mあたりで岩稜なども出てくるのでワカンを外してアイゼンのみで登ることとする。
2,650mあたりの急登をこなし(帰りは懸垂下降)、その後も急な雪稜や草付きを登っていくと獅子頭の取付きに到着する。ここはこの時期のセオリー通り直登して、頭から懸垂下降して夏のトラバース道に合流する。先行の5人パーティーも直登したが、次の4人パーティー(学生?)は左側からトラバースしていた。トラバースルートは雪が不安定だと滑落事故も多いところだが、今日は雪も安定していて問題なかったようだ。
獅子頭を過ぎると山頂までは一投足だ。やさしい岩と氷化した雪のミックスとなっている急なルンゼを登ると別山尾根に合流し、ここから距離にして50mほどで祠のある待望の頂上に到着する。
山頂は、風は強いが360度の大展望。剱岳の山頂は厳冬期以外は過去に何度も来ているが、これほど展望が素晴らしいのは初めてかもしれない。風が強くて体が冷えてしまうので、登頂の余韻に浸るのもそこそこにして下山にかかる。
別山尾根から早月尾根に乗る分岐からの下降は滑落事故が多いところなので、懸垂下降で慎重に降りる。獅子頭は別パーティーが登りで付けたトレースを使って巻いて降りる。その後も急な雪壁がいくつか出てくるが、後ろ向きになってピッケルを効かせながら慎重に下降。2,650mあたりのいくつもの残置シュリンゲがあるところで最後の懸垂下降を終えるともう安全地帯だ。
ゆっくり休憩をとって小屋まで各自適当に降りる。小屋で幕を張っている長野の山岳会(5人パーティー)に終始ラッセルして頂いたお礼を言う。山岳警備隊からウッチーが声を掛けられ、三峰山岳会の6人パーティーが登頂し、無事に小屋まで降りて来たことを報告する。結局この日は、3パーティー、計15名が登頂を果たすことが出来た。小屋から30分ほど下って、昨日暗い中頑張って設営した立派な幕場に戻る。勿論、夜は盛大な宴会となる。
【12月30日】昨夜遅くより雪、1,500m以下は雨
今日は下山のみなので5時頃にゆっくり起床。昨日、登頂した2パーティーは早々に下山し、我々が起きたころに幕場を通過して行った。その後2-3パーティーが降りてきたが、昨日は何れも小屋に泊ったようで、今日からしばらく天気が悪いので小屋組は全員下山します、と言っていた。テント組の1パーティー(3人組)のみ、天気が悪化する中、暗いうちからアタックに出掛けたようだ。
我々は7時半くらいに下山を開始。今日は低気圧が通過するので全国的に雨で気温も高い。幕場は湿った雪だったが、標高を500mも下げると雨に変わり、全身ビチョビチョになりながら降りていく。下山時は数多くの登ってくるパーティーとすれ違ったが、明日は寒気が入って強い冬型となるので、全身バリバリとなって、登頂を狙うのはかなり厳しい条件となるだろう。
馬場島で山岳警備隊にヤマタンを返却すると「三峰山岳会さんですね。登頂おめでとうございます!」と言われ何だか嬉しくなる。小屋の警備隊と常時連絡を取り合っているのだろう。予定では馬場島荘で風呂、打ち上げの予定であったが、部屋は宿泊客で満室御礼。ここまで来て全身ビチョビチョ状態でのテン泊は気が進まないので、頑張って伊折まで、もう2時間歩くことにする。もう林道歩きはいい加減にして欲しいと思い始める頃、ようやく伊折に到着。タクシーを呼んで上市へ。そこから富山駅に出て近くの健康ランドでの大宴会と宿泊で正月の剱を締めくくった。
今年は雪も少なく、天気にも恵まれ、また他山岳会の若人達のトレースにも助けられての短期速攻での登頂で、終わってみれば少々「あっけない」感は否めなかったが、それでも厳冬期の剱は剱。その後の天気を見ても、29日の登頂日を逃せば、少なくとも今の我々の力では登頂は無理であったろう。千載一遇の好条件下で登れたこと、そしていつものことだが、頼もしいメンバーに支えられてのルート完登を素直に喜びたい。皆さん、有難うございました。
〈参考までに〉
(ロープ)
今回は8mm×50mを1本持って行ったが、これで十分だった。
(懸垂支点)
今回の懸垂は全部で3回。すべて残置か先行パーティーが残して行ったものを使ったが、ハーケン、岩角用の長めのシュリンゲ(残置用)は持って行った方が良いだろう。また雪を掘りだしてハイマツの根っこにシュリンゲをかけて支点としたケースもあり
【12月28日】 | 伊折(8:00) → 馬場島(10:30) → 2,050m地点幕場(17:00) |
【12月29日】 | 幕場(4:50) → 早月小屋(5:30) → 山頂(10:30) → 幕場(15:00) |
【12月30日】 | 幕場(7:20) → 馬場島(11:00) → 伊折(13:15) |