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雪上訓練(中級)・富士山
小芝 麻紀子
加藤 美和子

山行日 2020年1月25日~26日
メンバー (L)宮本、下村、内田、小芝(泰)、軽部、千葉(快)、野畑、山口(大)、加藤、木村、小芝(麻)

【1月25日】(記録・小芝)  今季二回目となる雪上訓練は富士山で行われた。今回は更なるスキルアップを目指した訓練だ。
 金曜の夜に中ノ茶屋で仮眠をとり、土曜の朝、車で馬返しの駐車場まで入る。馬返しの駐車場手前はアイスバーンになっていて、私が同乗していたレンタカーの2駆はスタッドレスをはいていても登れず、200mほど手前の路肩に車を止める。馬返しならぬ、車返しだ(笑)。
 駐車場まで歩き、他の参加者と合流。リーダーが挨拶をし、雪訓の場所である富士山5合目を目指して歩き始める。各合目には昔の賑わいを伝える説明看板が設置されている。看板を読んでいると、この登山道を今まで一体何人の登山者が歩いたのかを想像し、改めて富士山の凄さを感じる。歩き始めて3時間半ほどで、5合目にある佐藤小屋手前の道路に良い幕場が見つかり3張テントを張る。
 午後からいよいよ訓練開始だ。まずは佐藤小屋の先でビーコンの確認を2人1組になって行う。前回の雪訓で行ったこともあり、Send/Searchの使い方は問題ないが、講師からためになる話を聞く。この確認をする場合には、講師はSendから始めるようにとの指示。これはSend/Searchを交互にやると、最後はリーダーがSearch、メンバーがSendになる。通常の登山では、この確認後に登山を始めることになるが、メンバーはそのまま、リーダーだけSendに変えれば良いことになる。手慣れたリーダーが気を付ければいいだけなので、この順番がいいという。ちょっとしたことだが、勉強になる。
真剣に話を聞くメンバー達  ビーコンの確認が終わると、いよいよ雪上での訓練、と思ったが、佐藤小屋の周辺を見渡しても雪が殆ど積もってなく、登山道は砂利が剥き出しの状態だ。今年は雪が少ない様子。アイゼンをつけずに、ひとまず訓練ができそうな斜面を探す。とは言え、ここは富士山5合目。10分ほど歩くと、斜面は雪で覆われ、訓練適地を見つけることができた。
 まずは雪上でのアイゼンなしでの歩行練習だ。アイゼンありとは異なり、靴のエッジを利用して歩く。ダックウォーク、サイトステップと基本の歩き方を緩斜面で確認する。アイゼンなしの歩き方を意識したことがなかったが、教わると歩くことが楽になっていることに驚く。
 続いてはピッケルの持ち方を教わる。これまでは何となく持っていたが、場面によって持ち方は変わることを教わる。こういう基本中の基本を改めて意識してみるのは本当に重要だと感じる。
 その後は、滑落停止の練習をする。足を下にしたり、頭から落ちてみたり、仰向け、うつ伏せと様々な滑落をし、ピッケルを使って停止を試みる。仰向けから体を回転させてピッケルを刺すのは至難の業だ。実際に滑落した場合、停止できないかもしれない。改めて雪山の難しさを思い知る。反面、すぐに使えるグリセードで、滑りながらうまく降りていくコツも学ぶ。うまくできると、力をセーブして降りられそうだが、ツルツルと進むのが怖くてついつい肩に力が入る。それでも何度かやるうちにうまくグリセードで歩けるようになる。これは、明日の下山の時に早速役に立ちそうだ。
 最後はTスロットアンカー。教わった通りに作ったつもりが、ロープを繋いで引いてみると、支点にしていたピッケルがいとも簡単に抜け、宙を舞ってしまった。これを見たら、誰も私の作ったアンカーでビレイをしてもらいたいとは思わないだろう。練習がもう少し必要だ。
 16時に1日目の講習が終わる。盛りだくさんの講習で、時間が過ぎるのがあっという間だった。夜はテント毎にそれぞれの宴となる。私のテントでは講師の下村さんの海外生活の話で盛り上がる。こういう話をゆっくり聞けるのがテントの醍醐味だ。

【1月26日】(記録・加藤)
 昨夜からの雪がテントに積り、その重さで流れる音で目を覚ます。先輩が埋もれたテントの周りを雪かきしてくれていました。ありがたや。。。(爆睡していてすみません)。今回我々のテントの朝ご飯は個食。各自カップラーメン等で素早く朝食を済ませ、2日目の訓練へ。
 まずは、初日と同じ場所のあたりで、昨日行ったアイゼンを使わない場合の歩行を復習。斜面にツボ足でエッジを利用して確実に上り下りできるよう、繰り返し行うことによって、歩行に慣れ、現場における自信につながることになるため、反復復習が大切だと講師からのコメント。
 その後はアイゼンをつけ、基本的な歩行方法の確認とピッケルの使用方法を、シーン別に講師から教わる。残念ながら想定されるシーンの雪面が周囲にないため、それぞれの参加者が自分が目指す山のグレードにある雪面を想定して講師からアドバイスをもらう。
 場所を移動し、さらに先へ進むと、複数のグループが既に訓練を行っていた。この日だけで4グループほどがいたと記憶している。ほかのグループの雪面の状態は、遠目から見る分には不確かだが、我々が訓練を行った場所は、上にすすむと凍みて雪も積もっていない個所もあったが、下部は足を置けば沈むようなコンディションであった。ここでさらにアイゼンを装着した場合の歩行訓練を。上っては下り、その繰り返しで体に記憶させる。
 歩行訓練の後は、雪山におけるビレイを教わる。ピッケルを使用し、縦に雪面に刺す場合と、横に刺す場合とを行った。2名1組になり、支点を作った後に実際にビレイを想定してテンションをかけるのだが、あっけなくピッケルは抜けて自分も引っ張り降ろされてしまった。どうやら支点には問題はなかったが、ビレイをしている自分の体制が100%踏ん張りの利く体制ではなかったことが原因であった。新人の私に、ベテランの先輩がペアになってくれたため、講師の方が見ていない場面でもアドバイスをいただき、改善することができた。何度目かの道連れ滑落の後、ようやく止めることができたが、まだまだ実践には出られなそうにない。足場をしっかり作り、踏ん張りが効く体勢をとることはもちろん、テンションがかかったと同時にではなく、ある程度ロープを流し、自分にかかる負担を減らすことによってビレイが確立される。歩行練習と同様に、反復練習により身に着けていきたい。
 次に、スノーボラードを支点構築に作成する。個人的には、初めてのスノーボラード作成。雪質によりボラードの大きさを判断するのは、経験が必要となりそうだ。小さければ半径が自分の肘からピッケルの先まで、大きければ肩からのばしてサイズを調整する。
 ボラードは、ロープで引っ張られる際に負担のかかる上部の両端には、ピッケルや枝をさしておくことにより、パーティーで最後に懸垂をする者まで、なるべくボラードの形を崩さずに保つことができる。
 2名1組でボラード作成・懸垂下降を行った。我々のボラードは思ったより小さく出来上がったが、体重をかけても、足を滑らしてテンションをかけてもしっかりと支えてくれた。訓練の際に、様々な大きさで試すことが、現場においての大きな判断材料になる。2名の懸垂後、ボラードを見てみると、負担のかかっていた上部両端はもちろんのこと、その形に添ってかなりロープが食い込んでおり目視ができないほどであった。

雲海の上には青空ボラードの大きさはまちまち

スノーボラードでの懸垂下降  最後に3人1組になり、ロープでつながれたままの登攀を想定した上りをしながら、ビレイの再確認を。たった数十分、スノーボラードを作成している時間に、ビレイの際にロープをどう扱うかを忘れた私の脳みそは、きっと寒さにやられていたのだとそう思いたい。。。上がれる場所まで上がると、ビレイのためのピッケルが刺さらないため、下るが、ここで3人のうち誰かが滑落したことを想定して動く。再三のパートナーの仮滑落に、ピッケルの刺し具合もよくなってきた。うまく刺されば止まる、刺さるまでが肝心。講師陣は、それぞれのパーティーに対して、より強い力でロープをひっぱったりと、かなり走り回って荷重をかけていた。
 訓練をしていた場所には、そのころになると我々しかおらず、大人たちが走り回り転げる姿はなんとも面白い景色。他人の目を気にする必要がなかったのが幸いだ。。。(笑)
 個人的な話だが、雪山を始めたころは誰にも教わることなく、なんとなく装備だけが揃い、人の多いメジャーな山でトレースを歩いていたために、危険な目にあうこともなく楽しんでいた。それが少しずつ山のレベルを上げてきた際に、歩行がまるでだめだと相方にダメ出しを受け、すっかり自信を無くし、さらに急な斜面ではへっぴり腰になり、それが滑落の原因になることも知らずに怖がりながらトラバースをしていた時、ついに足を滑らせ20mほど滑落。訓練も何もしていなかった私の手からピッケルはいとも簡単に離れていき、必死で指を立てて体を止めようとしたことを今でもよく覚えている。
 今回の訓練で、基本的な歩行から滑落停止、ビレイまでを教わったことにより、訓練の重要性・有効性を強く実感することとなった。情報だけは多く手に入れることができるが、こうして実際に訓練の場を持つことが何よりも経験になり、自信になり、安全につながっていく。次の雪山山行が楽しみだ。

〈コースタイム〉
【1月25日】 馬返し(8:30) → 幕場・佐藤小屋近く(12:00) → 雪上訓練(13:00~116:00)
【1月26日】 幕場・佐藤小屋近く → 雪上訓練(08:30~14:00) → 馬返し(16:00)

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