山行日 2020年9月19日~22日
メンバー (L)荻原、古屋、軽部
沢が盛んな(はずの)三峰山岳会において、下田・川内山塊の沢は長年の空白地帯であった。昨年、この空白を埋めるべく川内山塊の盟主である矢筈岳を発端とし日本海に注ぐ名渓:早出川(阿賀野川水系)の上流部周遊ルートを企画した。このルートは早出川中流部の泳ぎ主体による突破が必要なゴルジュ帯こそ通らないが、秘境ガンガラシバナ大滝や気の遠くなるような年月を掛けた滝の後退現象で出来たと言われるジッピなどを効率的に総なめ出来る早出川の近年のスタンダード・ルートになっている。昨年は台風予報の中、ガンガラシバナ大滝の取付きまでは行ったものの、花崗岩のスラブに囲まれ、ひとたび雨が降ればその名のごとく出水の極めて早い早出川から無事に生還出来る確率は低く、断念・敗退したのであった。1年経ってメンバーに多少変更があったものの、こうしてまたチャレンジ出来る幸運にまずは感謝である。
【9月19日】朝まで雨、のち曇り
前夜に東川口駅に集合し、東北自動車道・磐越自動車道を経て津川ICを出る。雨が降っていたので軒先のある場所を見つけて仮眠。翌朝、室谷集落の先の一ノ俣橋へ向かう。昨年10月の台風の影響で林道が一部崩壊しており一ノ俣橋の100m位手前の林道が広くなっているところに車を止め、いざ出発!
一ノ俣越えのアプローチは昨年経験済みなのですんなり行けた、と書きたいところだが、一ノ俣乗越に突き上げる沢の1本右の沢を詰めてしまい上部は藪漕ぎ。まぁ、30分ほどのロスなので気を取り直して一ノ俣乗越から赤ッパ沢を下降し、今早出沢の出合へと向かう。昨年は赤ッパ沢の1本隣りの沢を下りてしまい随分と時間がかかってしまったが、今回は踏み跡を外すことなく赤ッパ沢に入り、あっという間に今早出沢出合い到着する。水量は昨年よりはだいぶ多く感じるが、昨年が渇水という感じだったので、今回が平水かプラスアルファと言ったところか?
今早出沢は大半が河原歩きで特段の難所は無い。ゴルジュ帯のへつりや横滝の高巻きも難なくこなしてミニ横滝上の右岸の河原を本日の宿とする。ここまでは釣果(1匹だけ)も含めて全て昨年と一緒。でも大きく違うのは明日の天気予報だ(昨年は台風で今年は高曇り予報)。この天気予報と今回のメンバーなら明日のガンガラシバナ大滝はもう貰ったようなものだ!と期待に胸を膨らませながら、焚火と酒と僅かな早出川の恵みに包まれながら床に就く。
【9月20日】高曇り時々晴れ
本日は今山行のメインイベントがぎっしり詰まっている。ガンガラへ向かうアプローチでかるべっちが幸先よく今早出沢最後のイワナを釣り上げ、気分はアゲアゲでガンガラシバナ大滝へと向かう。右方ルンゼ出合から見るガンガラシバナ大滝は圧巻だ。また大滝を取り巻く四方の急峻な大スラブ群がこの大滝のスケールを一層際立たせており、もはや美しいを通り越して畏怖すら感じる始末だ。過去に登られた記録を知らなければ、これは人が登ってははいけない滝なのだと、自分とメンバーに言い聞かせて撤退してしまうところであったが、それでは今回の目的が一つも果たせないので、取付きで手を合わせてから登攀準備に取り掛かる。
このルートは6Pで抜けている記録が多く我々もその腹積もりで登攀開始。まず1P目だが、ここがこの大滝の核心となる。傾斜はそこそこあるがホールドが豊富で登り自体は簡単。但し、風化が進んだ岩は脆く、途中ランナーもほとんど取れないのでホールドが欠けるとそのまま大事故となるので慎重に登る。2P目は簡単。3P目は灌木と滑りやすいスラブのコンタクトラインを登るが、ランナーは灌木で小まめにとれる。4P目以降も難しいところはなく、ここでロープを解除。各自フリーで登るが最終ピッチの傾斜の強いスラブはちょっと嫌らしい。滑ると数100m行ってしまうので、シュリンゲを出してパーティー全体のリスクを最小限に抑える。ここを越えると無事にガンガラ登攀は終了。登ってしまえばあっけない感じは残るが、久々に本チャンの緊張感を味わうことが出来たし、またこの大スラブ帯に囲まれたロケーションでの登攀に、なかなか表現し難い喜びを感じることが出来た。
大滝上もそこそこテクニカルな小滝が連続するが、このメンバーなら特段の問題はなく、スピーディーに稜線まで詰め上げる。稜線直下と稜線上は藪漕ぎとなるが予想を超えるほどではなく、想定内の困難さでドゾウ平沢への下降点に到着。
懸垂用の残置シュリンゲがあったが傾斜はそれほど強くなく、灌木を掴み、お尻をつきながらズルズルと下っていく。その後しばらくは歩いて降りられるが、標高750mくらいから懸垂が必要な滝が連続して現れる。支点はいずれも灌木からとれ残置も豊富だが、命を預けるなら持参したシュリンゲを使う方が無難だろう。シャワー懸垂やチョックストーンの空中懸垂など全部で6-7回はやっただろうか?
暗くなり始めた頃にようやく割岩沢(早出川本流)に出合い、そこがそのままジッピである。時間があればジッピを泳いで突破してまた戻ってくるつもりであったが、もうすぐ暗くなるし、その前に全身ずぶ濡れで気温も下がってきているので、もはや泳ぐ気になれない。更に逆V字型のゴルジュ帯となっているジッピは暗く陰湿な感じでなんだか怖い感じ・・・。
と、いうことでここから歩いて30分ほど下流の右岸の幕場予定地へと急ぐ。ヘッデンが必要になる頃、ようやく幕場予定地に到着し、今日も焚火と酒(岩魚は釣る時間なし)と目的を達成した充実感に包まれながらの幸せいっぱいの夜を過ごす。
【9月21日】晴れ時々曇り(朝方に一時雨)
今日は竿を出さずに真面目に歩けば下山&帰京が可能なのだが、予備日が1日余っており、勿体ないので全員一致で予備日を使うことにする。今夜の幕場を赤ッパ沢出合先の左岸の極上物件(下見済み)としたので、時間はたっぷりだ。早速、幕場から竿を出しつつ出発だ。すぐに大物が掛かりその場で刺身とする。
その先はなかなか当たりがなく、しばらく進むと「ひょうたん淵」と思われる滝に行く手を阻まれる。高さは3-4mと言ったところか?両岸は傾斜の強いゴルジュで飛び込んで突破するしかないようだ。水流がそこそこ強く、水流によっては二度と浮かび上がれない場合もあるので、まずはザックを投げて問題ないことを確認してから空身で出来るだけ遠くに飛び込む。その後20-30m泳いで河原にあがり後続を待つが、いつまで経っても来ない。心配になって泳いで戻ってみると、メンバーの1名が飛び込んだ際に下にあった岩(水しぶきで見えない)に足をぶつけてしまい、もしかしたら骨まで行ってるかもしれないとのこと。とりあえず河原に上がって貰い、怪我の状況を確認するがつま先側には体重が掛けられないようだ。残りの2名で負ぶっていく訳にもいかず、テーピングで固定し、痛み止めを飲んでもらい、後は多少の荷分けとダブルストック(木で作成)で少しずつ進むことにする。
幸い割岩沢の下降は泳ぎと河原歩きが主体なので、怪我した足のかかと側に体重をかけることでなんとか進めそうだ。それでも登山道を下降するのとは訳が違うので、随分と痛みや不便、ストレスがあったと思うが、弱音の一つも吐かず本当に良く歩いてくれた。おかげで暗くなる前に予定幕場に到着し、焚火も盛大で温かい夜を過ごすことが出来た。
【9月22日】曇り時々晴れ
あとは一ノ俣乗越の山越えを残すのみなのだが、昨日と違って登りも下りもかなりの急傾斜だ。それでも登りは足への負担は少ないようで、かなり良いペースで乗越まで上がる。しかし乗越からの下りはさすがに厳しく一気にペースが落ちる。今日中に下れるか?との懸念も出てくるが、可能な限りの荷分けを行ったことで、ペースは回復。昼には無事に林道に到着し、本山行も終了となる。
【9月19日】 | 一ノ俣橋(8:00) → 一ノ俣乗越(11:30) → 今早出沢(12:30) → 幕場(17:00) |
【9月20日】 | 幕場(6:00) → ガンガラシバナ大滝取付(7:30) → 大滝登攀終了(10:0) → 稜線(12:40) → ドゾウ平沢下降 → 割岩沢(ジッピ)(17:40) → 幕場(18:10) |
【9月21日】 | 幕場(7:30) → 今出(14:30) → 赤ッパ沢出合の幕場(17:00) |
【9月22日】 | 幕場(6:00) → 一ノ俣橋(12:00) |