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沢登り・黒部川東沢谷
眞鶴 哲郎
澤野 穣
荻原 健一
永岡 恵二

山行日 2020年8月9日~14日
メンバー (L)荻原、永岡、澤野、眞鶴

【プロローグ】
 もともと今年のお盆の沢は、和賀山塊の「生保内川遡行~堀内沢マンダノ沢下降」の予定だった。しかしながら東北地方の北部は災害級の大雨予報。予報通りなら入渓すら出来ないことが確定的なので、ひそかに来夏あたりに行きたいなぁーと思っていたテンカラ天国の今回のルート(当初案は竹村新道ではなく伊藤新道下降の予定であった)をメンバーに提案し、全員から賛同を得られたことから、来夏ルートとのスワップ取引成立と相成った。
 以下はその日の竿頭を原稿担当とするルールに基づいて記載して貰ったものである(Day3まで)。

【8月9日 記録:眞鶴】
チーム黒部(A+B)  前夜20時新宿を出発し、扇沢。あさ、雨は降ってはいないが今にも降りそうな空で、長袖長ズボンでないと肌寒い感じだ。我々、東沢谷チームが朝の準備をしている頃、夜行バスに乗って着た上ノ廊下チームが到着し、「三峰チーム黒部」が出揃った。6時で無料駐車場は満車になり、電気バス乗車券売場には長蛇の列ができていた。我々チーム黒部は乗車券売場でもバス乗場でも列の先頭に陣取り、これからの天候、沢の水量、ルート取り、釣りなどの話題で乗車までの時間を使った。バスでは感染症対策なのか、席半分以下の乗客で扇沢を発車し黒部ダムに到着した。黒部ダムの一角でチーム黒部7人の記念写真を撮った。ある程度7人で歩くのかと思っていたが、間髪入れずに上ノ廊下チームに東沢谷チームは置いて行かれた。さすがAチームである。
 8:00我々Bチームはゆっくりと歩き出した。重い荷もありペースはゆっくり。まず平ノ小屋を目指す。平ノ小屋発の出航時刻の12:00を目標に歩いたが、10分遅れて到着になってしまった。そんな我々を往復してくる船にすぐに乗せてくれた。船頭さんのご厚意に感謝である。間に合ってないけど間に合った感じで良かった。あとは3回位休憩をとりながら歩き16:00奥黒部ヒュッテに着いた。本山行のアプローチ(黒部ダム~奥黒部ヒュッテ)が8時間だったわけだが、6日間の山行の中で最も疲れた1日となった。
釣ったのはマヅル君です  小屋でビールなどの食料買出しと東沢谷の情報を聞いて幕場に向かった。本山行では夜の宴会用のつまみはほぼ持参していない。ということで上ノ廊下のスタート付近で各々釣り開始。4人でテンカラを振ってみたがアタリはない。4人とも諦めて焚火をはじめビールも飲み始めた。ボウズで寂しくなるのは嫌だった私は保険として餌竿とブドウ虫を持参していたので、なにがなんでも釣ってやろうとオギさんが魚影を見たというポイントに仕掛けを垂らした。確かに黒い影がいた。一度バレたが1時間後、ビールを飲んで躓きそうになりながらも、もう一度同じポイントで、今度は仕掛けを少し深く長く流すと、ラインにテンションが掛かった!私は澤野さんから教わった「遅合わせ」を意識して一呼吸おいて竿を上げた。揚がってきた魚は大きく、顔が鮭っぽい、手で掴むと岩魚とは模様も違っていた。そう、ニジマスだ!
 行きの車内で盛りに盛り上がった黒部のニジマス。まさか本当に釣れるとは!しかも32cmある良い型だ。この夜はニジマス1尾を刺身となめろうにして酒の肴となり、そんなんで私が竿頭になったわけです。この記録を読んでくれた人にも黒部湖に来た機会には是非とも竿を振ってみてほしい。
 明日からの東沢谷の遡行?釣行?にも期待し、満天の星空の下で眠った。

【8月10日 記録:澤野】
 黒部川との出合から見る東沢谷は轟音とともにその豊かな水を吐き出し、滝がないことから釣竿片手に遡行出来るのではという淡い期待が消し飛ぶ。
 奥黒部ヒュッテ裏から登山道を少し進み踏み跡に導かれるようにして懸垂下降して谷に降りた。しばらくはその水量のため対岸に渡ることが出来ず、風化してボロボロの花崗岩に気を使いじりじりと水際を進む。

入渓直後は水勢が強い末端交換三角法によるロープ渡渉

 最初のスクラム渡渉ではあっという間にバランスを失いバラバラに流されそうになり改めて流れの速さと押しの強さを思い知る。その後もリーダーの飛び込みとロープ渡渉を2度経て更に前進。滝はなくとも予想以上に遡行が面白いものとなった。
 青空の下振り返ると来し方に立山の山々がそびえ立つ。谷の冷水でそうめんをすすり、贅沢な時間が流れてゆく。しかし私たちは遡行する為だけにここに来たのではない。遮るもののない谷で思う存分テンカラ竿を振る為に来たようなものだが何故か魚が走らない。テンカラ竿を振る全員が坊主。どうやらその激流で毛バリには反応が鈍いようだ。餌釣りに切り替えると何とか数匹の魚を得ることが出来た。だがここで一つ問題があった。釣れた魚が大きかったのだ。
何も知らずに酔いつぶれるS氏  大イワナの祟り・・・。知っている人は知っている。ろくなことが起こらない・・・。そしてあらゆる出来事を説明し解明し正当化出来る魔法の言葉でもある。
 二ノ沢を過ぎ3時前にはテン場を決めて明るいうちから宴会を始める。今年からテンカラを始め、たった1回の北海道でオショロコマを釣りまくり、もうテンカラは卒業すると怪気炎をあげるリーダーを中心に笑いが止まらない。荻原さんも永岡さんも真鶴さんも私も今日は毛バリでは坊主だったが明日は入れ食いだとばかりに意気揚々だった。
 山ほどの馬鹿話も時間も酒も薪もたっぷりとあったのに気が付くと全てが収縮して山に溶け込んでいくようだった。ふと見上げると満天の星空で漆黒の稜線の上にはさそり座のアンタレスが異様に赤く輝いている。まるで全て見ているぞと言わんばかりにぎらぎらと光っている。酔いが回り寝入ったあとでその毒針に私は両足を刺されたようだ。最終日残りあと2時間で急激に足が痛みだすことをこの時は知らない。決して私の体力が落ちているわけではなく、今思えばそれこそイワナの祟りだったに違いない。

まずは1匹!

【8月11日 記録:荻原】
 今日は真面目に歩けば3時間程度の行程を1日かけてゆっくり釣り歩くという本山行のメインDayなのだ。この日が雨であったり、坊主であったりすると来年もう一度やり直しということになってしまう。ドキドキしながら、朝目覚めると、とりあえずは晴天でリーダーとしてまずはホットする。三ノ沢までは真面目に歩く(30分ほどだが)。しかし昨日に続いて今日も水量が多い。三ノ沢を越えれば多少水量が減ってテンカラ天国になるかと思ったが、まだまだ激流の範疇で竿を持って単独で対岸に行くことなど、とても出来る状況ではない。それでも我慢出来ない面々は早速テンカラ竿を振り始める。しばらくは何の反応もなく、メンバーの顔も渋い。水温が上がって多少水量も減ってきた10時くらいからだったか?澤野さんのテンカラ竿に本日最初のイワナが掛かったのを契機に、メンバーのテンカラ竿が次々にしなり始める。私も2時間ほどで9寸2匹を含む5匹のイワナをテンカラのみでGetする。そう今日は誰が言い始めた訳でもないのだが、暗黙のテンカラ縛りの日なのである。

あっという間に大漁です!これから開店です

 メンバー全員がテンカラで成果を上げたタイミングで昨日に続いて今日もソーメン・タイムとなる。真夏の沢で食べるソーメンは最高だ!すっかり満足して、ちょっとだけ歩いてすぐに幕場となる。焚火は豪勢でイワナの天ぷら、刺身、なめろう、骨せんべい等のフルコースに加えて骨酒は腹に染み渡る!今夜も「居酒屋・三峰」はエンドレス。

居酒屋・三峰 営業中(3日目)東沢乗越

【8月12日 記録:永岡】
 薄暗い4時に起床し、6時出発。水量は昨晩の雨の影響はないようだが、霧雨の中、気持ちが乗らない。40分ほど歩くと、両岸が開けてきた。2,090mの二俣にピンクテープがあり、ご丁寧に東沢左と書いてあった。更に進むと、入渓者が二人いた。野口五郎岳からの沢を下ってきたという。優に自分たちの3倍は釣りあげていたようだった。2,303mの二俣は左右どちらも水量も同じくらいで、目的の東沢乗越に続くルート取りが出来そうだったところ、若干緩やかな右側をとった。すぐに水が無くなり、水を確保し、左側の方に向かって進むと、先ほどの二股の左側とぶつかった。そちらは2,500m位まで水があった。雲が晴れ、陽の光がでると、振り向き、遠くの黒部ダム、遡行してきた東沢を眺めて、息を整えながらのんびり登り、2,734mの東沢乗越よりも若干水晶小屋方向の登山道にあがった。
ハナビラダケ(バター醤油で食べました!)  しばし休憩し、水晶小屋にむかった。天候は変わらず、霧雨。小屋に着くと、リーダーと眞鶴2名は空身で水晶岳を往復。自分と澤野さんは小屋で暖を取りのんびり休憩。1時間ほどで二人は戻ってきて、直ぐに出発。鷲羽岳登頂コース(リーダー、眞鶴)と巻き道コース(永岡、澤野)に分かれ三俣山荘へ。巻き道コースは奥の廊下だ。三俣山荘と雲ノ平との分岐まではコースタイム40分ということだったが、ずいぶん時間がかかってしまったが、標高2,400mにイワナがいるのか?という検証の為、竿を出すことにした。結果はいることが判明した。
 三俣山荘に到着すると既に登頂コースの2名がおり、心配して自分たちを探しに行くところだったという。巻き道コース2名の探求心の為、二人には申し訳ないことをしてしまった・・・。
 幕場に到着しテントを設営すると、雨は激しさを増し、滝のような雨になった。暫くすると治まったが、断続的に激しい雨が降り続いた。明日の伊藤新道をどうするか?リーダーの判断は如何に!

【8月13日 記録:荻原】
今夜も開店! 居酒屋・三峰(5日目)  昨夜のバケツをひっくり返したような大雨に加えて今日も朝から雨。加えて三俣山荘に表示された雨雲レーダーがこれからの大雨を予想している。残念だが伊藤新道はあきらめ、一般登山道の竹村新道を使って湯俣に下ることとする。水晶小屋まではほとんど暴風雨状態。小屋でしばしの休憩をとり、カップラーメンやコーヒーなどを頂く。小屋から心と体の元気を貰って更に歩を進める。真砂岳あたりからようやく天気は回復に向かい、やがて眼前に尖った穂先を持つ槍ヶ岳がその姿を現す。黒部周辺は名だたる名峰が並んでいるが、やはり槍は目立つし、断トツでかっこいい!
 長い長い竹村新道をひたすら下って湯俣の晴嵐荘へ。下山途中にKGが採ってくれた「ハナビラダケ」のバター醤油焼きがやたらと旨く、今夜も「居酒屋・三峰」は大いに盛り上がる。

【8月14日 記録:荻原】
 すっかり明るくなってから、起きると空は晴天。ゆっくりとした朝を過ごして、晴嵐荘のご主人に昨夜の大騒ぎを詫びてから歩き出す。いつもながらに楽しいメンバーに恵まれて、黒部の自然を遊び尽くした6日間を振り返りながら、高瀬ダムを目指した。

旅の終着駅:高瀬ダムにて
〈コースタイム〉
【8月9日】 黒部ダム(8:00) → 平ノ渡(12:00) → 奥黒部ヒュッテ下の河原(16:00)
【8月10日】 幕場(7:00) → 二ノ沢先(14:30)
【8月11日】 幕場(7:00) → 標高2,000mあたり(15:30)
【8月12日】 幕場(6:00) → 東沢乗越(11:20) → 水晶岳・鷲羽岳 → 三俣山荘(16:40)
【8月13日】 三俣山荘(7:30) → 東沢乗越(11:00) → 湯俣岳(16:00) → 湯俣・晴嵐荘(18:40)
【8月14日】 晴嵐荘(8:00) → 高瀬ダム(11:20)

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