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沢登り・小出川(おいでがわ)柏沢
金子 隆雄

山行日 2020年9月19日~21日
メンバー (L)金子、永岡、和田、箭内

 仙北街道というのは秋田県の東成瀬村と岩手県の胆沢町とを結ぶ、1,000年を超える歴史ある街道である。大正時代に国道107号が開通して地図から消えて、そのまま消えゆく運命にあったが東成瀬村と胆沢町にそれぞれ「仙北道を考える会」、「仙北街道を考える会」が結成され、協力して復活に努力されている。
 と、これはネット上にあった情報の全くの受け売りです。今回はこの仙北街道を入下山に利用して小出川(「おいでがわ」と読むらしい。国土地理院のデータベースでは「こいでがわ」となっている)の柏沢を溯行しようと企てた。例会として計画した時点では岩手県側の大寒沢林道から入るつもりだったが道が悪いという情報もあったので比較的良いとされる秋田県側の豊ヶ沢林道から入ることにした。
 どっちから入るにしても首都圏からだと往復1,000km以上あるので遠いことに変わりはない。東北道は工事で車線規制され渋滞。まだ200kmほど残っているが力尽きて菅生PAで前泊。

【9月19日】 曇り一時小雨
 秋田自動車道から横手・湯沢道路に入り十文字ICで高速を降りる。降りてすぐの所にあるローソンで朝食を済ませ東成瀬村へ向かう。林道の入口が判るか不安だったがしっかりとした標識があり問題なし。林道も分岐には必ず標識があって従って進めば迷うような所はない。ただ道は悪く車高の高い四駆車でないと無理だと思われる。林道終点(=仙北街道のスタート点)は地図上の林道からは少し離れている。広場になっていて4~5台くらいは駐車可能だ。
豊ヶ沢林道終点  準備を整え歩き始めるが既に10時半近くになっていた。しかし、今回は日程に余裕があり1日の行動時間も短いので焦る必要は全くない。しっかり踏まれた良い道を少し行くと古いフィックスロープの垂れた急登になる。今回歩いた中では一番の急傾斜だ。だが短いのですぐに終わって、またなだらかになる。しばらく行くと小さな沢を渡るのでここで水の補給ができる。ここを逃すと小出川に降りるまで水は確保できない。道は起伏が少なく歩き易い良い道なのだが所々ぬかるんでいる。予想していたので沢靴で来たのは正解だった。
 林道終点から1時間半ほどで仙北街道の最高点である柏峠に到着した。予定通り柏沢を詰め上げればここに飛び出すはずとそっち方面を見やれば、ただただ茫漠とした根曲がり竹の密藪が広がるばかり。柏峠からは緩く下って行くだけだ。途中突然笹薮に阻まれた一角に遭遇する。あんなにいい道だったのに何故ここだけ藪なのだと不思議に思う。後で調べてみたらどうも意図的に藪を刈らずに残してあるようだった。この道を整備した人達のささやかなアピールなのだろうか。
 「中山小屋」の石碑が現れると小出川も近い。大高鼻沢の枝沢を渡るとじきに小出川の穏やかな流れに降り立つ。下流にはゴルジュや滝があるそうだが、ここから見える上流は平瀬とナメが続くとても穏やかな流れだ。
「中山小屋」の石碑  時間的な余裕はあるので幕場を探しながら釣りをしながら先へ進む。なかなか良い場所がなく、ようやく右岸に何とかなりそうな場所を見つけたのは16時頃だった。時間をかなり費やしたが1kmも進んでいない。藪を切り開いて整地すると良い幕場の出来上がりだ。暗くなり焚き火も燃え上がり、暖簾がかかって舟歌が流れ出すと居酒屋 三峰の開店だ。その夜、ワダっちはハンモックに寝たが夜中に少し雨が振りタープに逃げ込んできた。

【9月20日】 曇り
 時間はゆったりと流れている。なので出発も決して早いとは言えない7時。相変わらず平瀬とナメが続く癒やしの渓相を淡々と進む。あっという間に東山沢の出合まで来てしまった。時間があり過ぎるので1時間ほど釣りタイム。釣り女王が一人、気を吐いている。柏沢に入っても緊張感のなさは変わらない。1時間半ほど進むと今までの緊張感のなさを吹き飛ばすように巨大な滝が突然に行く手を塞いだ。これが柏大滝だ。40mとも50mとも言われるが目測ではどれくらいかよく分からない。釣り女王は臆することもなく釜で釣りに夢中だ。
柏大滝  柏沢出合から二俣の間に地形図上で二つの滝記号が載っているが、そのうちの下流にあるほうが柏大滝だ。この滝は手も足も出ず捲く以外に越える方法はない。捲きは右岸しか考えられず過去の記録でも全て右岸を大高捲きしている。更に厄介なのが滝の落口と同高度の右岸に広がる断崖の存在だ。落口と同じ高さでトラバースできないのでかなりな大高捲きになってしまう。
 先人の記録に習って右岸のルンゼより捲き始める。このルンゼはすぐに黒っぽい傾斜のきつい滝になる。ホールド、スタンスともに細かくぬめった感じのする滝だ。できれば登りたくないが滝の脇の草付き斜面は急傾斜でとても登ることもトラバースもできない。どうしようか決めかねて時間ばかり過ぎていく。結局、この嫌らしい滝を登り切るより道はないという結論に達しロープを出してKGのリードで登る。途中、ザックをデポして空身で登ってザックを引き上げる。後続はロープがあるのでザックを背負ったままでも何とかクリア。この滝を登り切れば傾斜が緩むので藪をトラバースして小尾根に上がって、この尾根を少し下って最後は上流側の斜面を灌木にぶら下がるように降りて沢床に戻った。この高捲きに1時間50分を費やしてしまった。
 やれやれと再び穏やかになった流れを進んで行くと二つ目の登れない滝が現れる。二俣のすぐ手前にある黒い幅広の8m滝だ。これは左岸を捲いた。割としっかりした踏み跡があったのでこれを辿ると容易に捲くことができた。後にも先にも捲きで踏み跡があったのはここだけだった。
 降り立った所が丁度二俣だった(とその時は思っていた)。時間も時間なのでこの辺で泊まる場所を探す。すぐに良い場所が見つかり藪を切り開いて整地すると立派な幕場ができあがった。昨日より平で広い。ここが本当に二俣なのかGPSで確認すると、僅かに右俣に入り込んだ所だった。どうりで急に流れが細くなったと感じた訳だ。まあほんの僅かなので明日二俣まで下ればいいやといつもの沢の夜が更けていく。燻っていた焚き火も勢いよく燃えだして満足な夜だった。

二俣手前の黒い8m幅広滝 これは捲いた

【9月21日】 曇り
 幕場から数分も下ると本来の二俣に着いて左俣へ進む。まだまだ沢幅も広く水量も豊富だ。ナメが続く穏やかな流れを進むと右から水量の多い枝沢が出合う。そこから僅かで奥の二俣だ。二俣から奥の二俣間はナメが続くだけで何もない。
 奥の二俣から右に入ると水量は減り、しばらくナメが続いた後に登れそうにない滝が現れる。小滝を真ん中に前後に10mほどの直瀑になっている三つの滝だ。この三つをまとめて捲こうとして右岸より捲き始めたが、思ったより滝と滝の間の距離があるのでまとめて捲くのは大変に思えた。一つ目の10mを越えたと思える所で一旦沢床へ降りた。続く小滝は難しそうではあるがロープを出して何とか登り切った。最後の10mは右岸からの捲き。かなり大きく捲いて懸垂下降3回でようやく沢床へ降り立った。この三つの滝を越えるのにかなりの時間を費やしてしまった。もう捲く滝はないはずと安堵していたがそうは甘くはなかった。
 三俣を過ぎると倒木が多くなり歩き辛くなる。沢は既に源頭の様相だが滝が次々に現れる。この沢の滝は全て黒くて堰堤のように垂直に落ちている。
源頭近くなってもまだまだ滝は多い  やがてまた登れない滝が出てくる。8mほどの末広がりの滝だ。この沢の滝は垂直に落ちているようなものが多いので小滝なら何とかなるが少し高さがあるともう登れない。この滝も右岸を高捲いた。捲いたのはこれが最後だった。
 最後の二俣を柏峠に出るために左へと入る。水が消えると太い根曲がり竹の藪となる。地図では僅かの距離なのだがなかなか飛び出ない。15時過ぎに柏峠の石碑から数mズレて道に飛び出した。もっとサクッといくのかと思っていたが意外と時間がかかってしまった。大休止の後、下山にかかる。後は緩い道を車まで戻るだけだ。何とか暗くなる前に車に戻ることができた。2日前にはなかった車が1台増えていた。
 なるせ温泉で入浴後に帰途に就いた。東北道は4連休の最終日は大渋滞だったらしいが、我々は3日目だったし時間も遅かったので渋滞はなかった。しかし、最終電車には間に合わずにワダっちと共にKGの家に泊めてもらった。KGありがとう。

〈コースタイム〉
【9月19日】 豊ヶ沢林道終点発(10:25) → 柏峠(11:50~12:05) → 山神(12:35) → 小出川(14:15) → 幕場(16:00)
【9月20日】 幕場発(7:00) → 柏沢(8:45~9:50) → 柏大滝下(11:15~11:30) → 柏大滝上(13:20) → 幕場(15:00)
【9月21日】 幕場発(7:30) → 高捲終了(11:30) → 柏峠(15:05~15:20) → 豊ヶ沢林道終(16:20)

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