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雪稜登攀・剱岳八ッ峰主稜
高橋 俊介

山行日 2021年5月1日~5日
メンバー (L)高橋(俊)、他1名

 このルートは十数年前に故・越前屋さん達と登ったことがあったが、パートナーであるT君がぜひとも登ってみたいとのことから日程調整しスケジューリングした。
 前日夜に扇沢に到着。やはりコロナ禍で例年にないほど空いている。明朝一番のバスに乗るべくビール1缶だけ飲んで仮眠。

丸山東壁を見ながら内蔵助谷を詰める。 【5月1日 黒四ダム~真砂沢出合下部C1】 曇りのち雷雨
 5時起床、早速準備して予定通り6時半のバスに乗り黒四ダムに到着。下降点が分からず小一時間ほどウロウロしてしまったが、ダムを下降し黒部川に降り立つ。下から見上げる黒四ダムは圧巻である。半分壊れた橋をアイゼン徒渉し黒部川沿いを歩いていく。うっすらと踏み跡はある程度で暫くは人が入っていない様相。途中、内蔵助谷出合で雪渓が崩落しており右岸を巻き分岐に到着。ここから黒部の巨人と言われる丸山東壁を左に見ながら内蔵助平に雪渓を詰めていく。内蔵助平は真砂岳から北東に広がるカールになっており、ここでゆっくり幕営しても気持ちのよいところだな、などと話していたら、このあたりから天気が急変し始める。あとはハシゴ谷乗越を経て剱沢に向けて下降するだけなのだが、突風が吹き荒れ始めて、突然の雷雨に。乗越に着いた時には雷で荒れ狂っていて、このままここに居たら明らかにヤバそうなので、方角だけ確かめて適当に沢筋を下っていく。駆け足で30分ほど下ると剱沢が見えてきた。ちょうど高台のところに幕営適地を見つけられたので、ここに泊まることに決定。小生のは比較的新しいウェアだったのでよく水を弾いてくれたが、T君のはかつて一緒に行ったネパール・アイランドピークの時と同じだいぶ年季ものであったため、下着まで全身ずぶ濡れで震えてしまっている。テント設営後、バーナーをつけたらようやく回復してくれたが、明日以降の行程が心配される。

【5月2日 C1停滞】 雪のち吹雪
 5時起床。テントから顔を出すとテント周りで20-30cm程度の積雪。昨夕の雷雨でT君のウェアはまだぐっしょりと濡れてしまっており、今日も悪天予報のため停滞とした。ちびちびウィスキーを飲みながらウェアを乾かすことに専念。午後になると再び雷鳴が響き渡り不安定な天候が続く。

ラッセルの中、剱沢を詰める。 【5月3日 C1~長次郎谷出合~武蔵谷出合上部C2】 曇りのち暴風雪
 ウェアも7割方乾いたし、風も止み時々雲の切れ間から太陽が顔を出してきている。ただ一昨日からの降雪で40-60cmくらいの積雪となってしまった。八ッ峰はまた次回にして今日は剱御前小屋に泊まり、立山縦走をして一乗越経由で室堂から帰ろうとこの時は話していた。
 スタートして早くもこの考えが甘かったと思い知らされる。数年前に雷鳥沢ベースで真砂沢滑走の周遊スキーに来たことあるので、おおよその地形は把握済み、剱沢を詰めて行くだけなのだが、沢筋ということもあり、吹き溜まりでは太腿ラッセルとなり、思うようにスピードが上がらない。トップが空荷でラッセルしある程度の距離をトレースつけたらセカンドと交代。延々とこの繰り返しで遅々として進まない。普通なら1時間ちょっとでテン場から長次郎谷出合までつくはずなのに4時間も要してしまった。ただ、曇りで視界も効いていたので、このころはまだ何とかなると思っていたが、平蔵谷を越えたあたりから風が強まり始める。夏道であれば30分も歩けば剱沢キャンプ場に着くはずであるが、武藏谷出合を越えた頃には風速20m/s以上の暴風雪になっていて視界も無く思うように前にも進めなくなってしまった。
 時間は17時半、お互いの意見を出し合った結果、選択肢としては以下の3通り。
① 剱御前小屋まで登り切る
② 剱沢キャンプ場まで登ってテント泊
③ 現在地近辺でビバーク泊
ここまでラッセルで登ってきた感覚とこの天候では1時間で100mも進めないと思案、二人で話した結果、体力あるうちにビバーク体制取ろう。と③を選択。大量降雪の中で沢中に泊まるのは雪崩の心配があるため、多少左岸を登った傾斜地に竪穴を掘ってビバーク体制を図る。無理くり穴の中にテントを張ったもののスノーシャワーがすさまじく、除雪が追い付かない。このままではテントごと潰されると判断し荷物を取り出してテント放棄する。しかもこのテント放棄し脱出している最中にスコップが雪で埋まってしまい紛失してしまう。テントのフライとT君のツェルトでスペースをなんとか確保したが、これも数時間でツェルトを雪が圧迫し始める。傾斜地であることも災いし絶えず上からスノーシャワーが降り注いでくるためすぐに埋まってしまう。T君のツェルトを台座にし、小生のツェルトを頭から二人で被り一晩しのぐしかないと決断。足は外に出し上半身をとにかくツェルトで覆う。このツェルトが飛ばされたら、いよいよヤバいので取り扱いに細心の注意を払い要所要所をカラビナで固定。銀マットを体中に巻き付けお互い寄り添って寒さに震えながら耐え忍ぶ。テントからの脱出時にヘッデンと行動食、万が一埋まった時のためのナイフをポケットに入れておいた。テルモスも雪で流されてしまい水がないのは辛かったが、行動食に入れておいたエネルギーゼリー飲料で補給できたのは良かった。翌日は回復傾向と天気予報で聞いていたので深夜12時頃には風が収まるかなと考えていたが、結局、一晩中吹き荒れ続けた。

ようやく晴れた剱岳をバックに。 【5月4日 C2~剱御前小屋C3】 晴れ
 一睡もできないまま4時を回るとようやく明るくなってきた。視界はあるものの風はまだ収まっていない。いつまでもうずくまっているわけにもいかないので、意を決してツェルトから抜け出す。
 スコップを紛失してしまっていたので、とにかく手で掘り起こせるものだけすべて回収して出発。今日も昨日と同じでラッセルが続く。風は相変わらず強いが晴れており剱岳がきれいに見えている。2時間ほど登ると剱沢キャンプ場が右岸に見えてきた。仮に昨日ここまで来れたとしてもあの風ではテントが持たなかったかもしれない。今日は数日振りの晴れなので別山乗越からスキーヤー達が歓声を上げながら滑り降りてくる。剱岳への登頂ルートを偵察にきた登山者も数名こちらに向かって下りてきて、ようやくラッセルから解放される。このGWは寒気の影響で天気が悪く、源次郎尾根も一般ルートも誰も登っていないとのこと。
 更に上り詰めること2時間でようやく剱御前小屋に到着。まだ10時半であったが徹夜+昨日から食事もろくに取っておらずヘロヘロだったため、小屋泊まりすることにした。
 小屋の乾燥室で荷物を出してみると、ロープ、ダウンジャケット、食器、テルモス、食料、水筒、スコップなどなど、雪で流されてしまっていたのであった。がっくし。。。

【5月5日 C3~室堂】 曇り時々雪
 小屋でビールと久しぶりの布団で爆睡して回復。今日は室堂に行くだけなので気が楽だと思っていたが、外は風速20-30m/sほどの暴風が吹き荒れている。ここはちょうどコルなので30分も下れば風は収まるはず。朝食後、フル装備で外に出て雷鳥沢を下っていく。T君は朝から調子が悪いらしく食事も喉を通らないので、雷鳥沢キャンプ場でT君の荷分けをする。ここまでくると雪から雨に変わってしまった。初日同様にT君のシェルから降雨染み出し、中の衣服を濡らしてしまって体が冷えてしまうようだ。ビショビショになってなんとか室堂到着。無事に帰ってこれて良かった。

 振り帰ってみれば、今回の山行ではピークを全く踏んでおらず黒部周遊の沢旅となってしまったが、個人的には非常に充実した山行だった。ビバーク判断や装備、天候など、もっとベストな選択肢があったのかもしれないが、非常によい経験になった。
 大学時代からの20年以上の山歴の中で一番厳しいビバークでした。やはり、ツェルトは大事ですね。改めて痛感しました。

〈コースタイム〉
【5月1日】 黒四ダム(8:00) → 内蔵助谷出合(13:00) → ハシゴ谷乗越(16:00) → 剱沢(C1)(16:30)
【5月2日】 C1停滞
【5月3日】 C1(5:50) → 長次郎谷出合(9:50) → 平蔵谷出合(13:00) → 平蔵谷出合(13:00) → 武蔵谷出合上部C2(17:30)
【5月4日】 C2(5:50) → 剱沢キャンプ場(8:00) → 剱御前小屋C3(10:30)
【5月5日】 C3(7:00) → 雷鳥沢キャンプ場(8:00) → 室堂(9:00)

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