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雪山登山・黒法師岳
高橋 祐美子

山行日 2021年3月13日~14日
メンバー (L)鈴木(一)、瓜田、菊池、首田、高橋(祐)

林道の土砂崩れ。もう車では進めない。  南アルプス深南部。私にとって未知の山域であり、だからこそ行きたいと思った。結果的には2日間で30km歩くこととなり、またその道中も天候も変化に富んでいた。原稿が長くなるのも許して頂きたい。
 当初は寸又峡温泉より登山する予定だった。しかし、金曜夜から土曜にかけて南岸低気圧が来る予報で、天候の回復が早いと見込まれてかつコースタイムも短い西側の水窪側より登ることになった。
 金曜夜に集合し、浜松市内の漫画喫茶にて前泊。読書や動画鑑賞の誘惑に打ち勝ち、12時頃に就寝。翌朝は無料サービスのトーストとフライドポテトで炭水化物を補給。
 車で水窪ダム通過後しばらくして、土砂崩れに遭遇。本来のゲートまで5km以上手前でストップ。そもそも6km以上の林道歩きが必要だったところに、林道歩きマシマシ。雨がぱらつく中、覚悟を決めてスタート。
 林道を歩き始めても、崩落しているところはいくつもあった。歩き始めて30分くらい経った頃だろうか、突然、首田さんと私の10cmくらい足先を500mLペットボトル程度の大きさの岩が転がっていった。これが頭に当たっていたらと思うと・・・そこから先は壁から遠い方を歩こうと心に誓った。
 さて、歩けど歩けど林道は続くよどこまでも。しかも地味~に上り坂。リーダーの鈴木さんはジャンテンを担いでいるにも関わらずスタスタと歩を進め、残り4人も等間隔で続く。誰も遅れない。今回のメンバーは歩ける人たちばかりと思っていたが、やはり皆強い。そんな中で私一人が遅れるわけにはいかない、と思いながら頑張って歩いた。しかし、後から解ったことだが、メンバー全員同じようなことを思っていたようだ。ちょっとしんどいと思いながらもそれを見せない根性と体力を全員が持っていたのが凄いところ。
 そんなこんなで6kmほど歩いたところで、ゲートに到着。しかしここから6kmの林道歩き。風景のことはあまり覚えていない。豪快な滝などもあったが、誰一人歩を止めることもなく歩き続けた。一度立ち止まると歩き始めがしんどいから。終わりのない林道歩き。
 いや、終わりはあった。苦節4時間弱、12km。登山口から5分ほど手前の小さな休憩小屋に到着。屋根も扉もあり、雨風をしのげる。そこで大きめの休憩。目の前にはジャンテンが余裕で張れる広めの空き地。一瞬ここで張ってしまいたい誘惑にかられるが、それだと黒法師岳に行けなくなる可能性が。雨が少し収まるのを待ってから、再出発。
 登山道に入ると、いきなりの急登。すでに両足の親指にマメができていて、お尻のあたりが張っている。今回水づくりが望めないことから、ザックには水が2L以上。ゆっくりとしか進まない。とか言いつつ、ルーファイの練習として先頭を自分のペースで歩かせてもらっており、個人的には楽でした、すみません。地元のNPO法人の方がピンクテープを貼ってくださっていたが、たまに見失った。まだ自分は視野が狭いようだ。後ろを歩く皆さんに修正してもらいながら進む。
すき焼き。あー幸せ。  急登は一旦落ち着いたものの、「コシアブラ平」を過ぎたあたりから、さらに急登になった。雨の強さも増した。木の根など掴めるものは何でも掴んで、重い装備と滑る足元でバランスを崩さないように慎重に進む。アスレチック感覚で楽しかったが、疲れは確実に溜まっていて、途中から掛け声無しでは段差を超えられなくなった。前の方を歩く私や菊池さんがヨイショヨイショ言いまくる一方、瓜田さんは淡々と登っていく。ジャンテン分担の鈴木さんと首田さんはきつそう・・・ありがとうございました。
 登山口から2時間弱、ザーザー降りの中標高を500mほど上げたところで本日の幕営地「ヤレヤレ平」に到着。本当にヤレヤレだ。若干傾いているがジャンテンを張れるスペースを確保。入るとすぐにガソリンストーブを焚く。暖かい。ああ幸せ。濡れたものがどんどん乾いていく。最高。
 夜は菊池さんプレゼンツのすき焼き。牛肉800gにすき焼きのたれ1本、卵6個を割らずに担ぎ上げてくれた。肉のうま味とたれの甘みが胃に染みる。800gの肉も〆のうどんも一瞬で消えた。皆たくさん歩いてお腹ペコペコだった。

黒法師岳と駿河湾。  翌日は6時過ぎにヤレヤレ平を出発。歩き初めて30分くらい経ったところで、足元に雪。どんどん深くなる。トレースがあるわけはなく、ラッセル開始。幸い、雪は割と締まっていた。
 出発から1時間半ほどで、この山行の一番の急登「弁当転がし」に到達。「ヤレヤレ平」といい、この山域の地名には茶目っ気がある。弁当ではなく自分が転がらないように、体勢を低くして一歩一歩蹴りこんで上がる。
 出発から2時間弱、「弁当転がし」を乗り切ると、稜線に出た。誰もいない静かな雪原。そのころにはガスが抜けつつあり、丸盆岳や黒法師岳などの山々はもちろん、駿河湾がきれいに見えた。絶景。一方、これだけ太平洋が近いのに雪が積もっているのはちょっと不思議な感覚だった。

頂上!  休憩後しばらく進むと黒法師岳直下の取りつきへ。正解ルートがちょっとよくわからなかった。トラバースしつつ、徐々に高度を上げていく。時折、雪の下から葉が覗いている。この下には藪が生い茂っているようだ。藪好きな鈴木さんや菊池さんには申し訳ないが、雪のおかげで藪の上をすいすい進めて私は嬉しかった。
 出発から3時間ほど、午前9時10分に黒法師岳山頂に到着。お団子型の標識は、「黒」の文字までしか見えない。1m以上雪が積もっているようだ。マニア必見の「×」印の三角点も当然雪の下。「黒」の標識と一緒に記念撮影。12kmの林道歩きは辛かったが、みんなで一緒に雪に覆われたきれいな山頂に立つと、来てよかったと心から思った。
 30分ほど休憩したところで、下山開始。あっという間に下りていく。しかし、「弁当転がし」は難所であった。岩の上に雪が少し乗っているだけの箇所もあり、そのままでは下りられない。鈴木さんに補助ロープを出して頂き、クライムダウン。その後、紛らわしい尾根の分岐などもあったが、みんなでピンクテープを探しながら下山した。途中で雪がなくなり、アイゼンを外した直後、私を筆頭に数名が踵から足を滑らせた。特にぬかるんでいたわけではない。知らず知らずに歩き方が踵からになっていたのだろうか。
 黒法師岳頂上から2時間で「ヤレヤレ平」に到着。濡れていたテントもだいぶ乾いていた。パッキングをして下山。重装備に厳冬期用のいかつい靴、急登、しかも石がゴロゴロしていて、緊張しながら下山をした。「ヤレヤレ平」から1時間ほどで登山口に到着。
 しかし、忘れてはいない。ここから12kmの林道歩きを。行きとは違い緩やかな下りだが、3時間は歩くことに変わりはない。先行きが見えない不安ではなく、先が見えている絶望である。それでも歩かないと帰れない。ザックの重さ、足の裏の痛み、筋肉痛。車が見えた時の安心感たるや。

このうち24kmは林道歩き。

 すっかり日も暮れて、たどり着いた浜松餃子の店。皆ぺろりと平らげた。
 長~~い林道、ザーザー降りの雨、重装備での急登、雪。非常に変化に富んだ1泊2日であった。
 リーダーの鈴木さん、一緒に行ってくださった皆様、ありがとうございました

〈コースタイム〉
【3月13日】 駐車場(9:20) → 登山口(12:50~13:15) → ヤレヤレ平(15:00~6:15)
【3月14日】 弁当転がし(7:45) → 等高尾根分岐点(8:05) → 黒法師岳(9:10~9:45) → 等高尾根分岐点(10:30) → 弁当転がし(10:40) → ヤレヤレ平(11:50~12:45) → 登山口(13:45~14:00) → 駐車場(16:40)

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