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雪山縦走・大笠山~笈ヶ岳~三方岩岳
野畑 祐子

山行日 2021年4月10日~12日
メンバー (L)野畑、千葉(快)、津田、大田、木村

福光上平線の崩落(ゲートから500mほど) 【前日まで】
 残雪期の笈ヶ岳縦走(ブナオ峠~大門山~大笠山~笈ヶ岳~三方岩岳)は岳人100ルートで知った時から気になっていた。ウェブで調べても、このルートの記録は古いものしか出てこない。人があまり入らない静寂のロングトレイルに心を奪われ、今シーズン最後の雪山はここに決めた。
 ブナオ峠まで行く県道福光上平線が崩落で通行止めであることは知っていたが、車は通れなくても歩いて通過できるだろうと思っていた。念のため管理センターへ電話確認したところ、法面崩落で入らないでほしいとのこと。諦めきれず下見に行ったところ、新たな崩落もあり歩いて渡るのはリスクがある状態だった。仕方なく、計画を桂湖大畠谷の吊橋から夏道登山道に入り大笠山へ登るルートへ変更した。

橋板のない吊橋 【4月10日】快晴無風
 金曜夜9時に新宿駅に集合し、2時半に道の駅上平ささら館到着、前泊。6時15分過ぎに市道桂線の冬季閉鎖ゲート前に駐車し身支度を整え、7時に出発した。ここから桂湖を越え大笠山登山口まで8キロほどの林道歩き。打越トンネル出口からデブリが道を塞いでいる箇所が出てきたが、通行に支障はない。今年は冬後半に積雪が少なかった影響か、春の陽気でふきのとうがかなり育っていた。
 大畠谷の吊橋は、冬季の間橋板が跳ね上げられており、橋ゲタに足を置きながら慎重に通過する。揺れないので無心で渡れば怖さはあまりないが、不安な場合は手すりのワイヤーで掛け替え通過もできる。

幕場から見た笈ヶ岳  橋を越えてすぐは整備されたハシゴと鎖が何段か続くが、雪もついておらず順調に高度をあげる。900m付近で雪が多くなったので、アイゼンを装着し雪を拾いながら登った。
 しかし、なんて良い天気なのだろう。空に雲はなく、風もなく、振り返ると眼下の桂湖がエメラルドグリーンに輝いている。照りつける日差しと前日の睡眠不足と久しぶりの冬山泊装備の重さとで、水ばかり飲んでしまう。
 前笈ヶ岳の後のコルを越え、1,552mピーク手前の広くて平らな場所に出た。ピーク越えはそれなりの斜度で、午後になり雪も緩んでいるので、この素敵な幕場で本日の行程を終了することにした。テントを張り、無風なので外にツエルトを敷き乾杯する。良い眺めだ。笈ヶ岳も明日歩く稜線もすべて見える。軽量化のために泡系を担がなかったことを悔やんでいたら、大田さんが貴重なビールを分けてくれた。喉に炭酸が染み渡る。翌日は3時起床5時出発と決め、16時半にはテントへ入り、津田さんのスープカレーで疲れた身体にスパイスを入れ、満腹になって19時半には眠りについた。夜の間も風には吹かれなかった。

【4月11日】快晴無風
 夜明け前に準備を整えて5時20分に出発。今日も行程は長い。向かう大笠山のモルゲンロートを眺めながら、一歩一歩足を進める。ここのところ新たなまとまった積雪はなく、予報通り金曜夜から気温が下がっているため、雪は締まっていてアイゼンがしっかりと効く。とはいえクラックは見ていて気持ちの良いものではなく、ルートを選びながら慎重に登っていく。大笠山避難小屋を経て7時20分には大笠山山頂へ到着した。小屋もベンチも雪上に出ており、ここで大休憩。来るはずだった大門山からの稜線、そしてこれから向かう笈ヶ岳への稜線。白く輝く雄大な白山、遠くには北アルプス。やはり稜線縦走は良い。一呼吸置き、笈ヶ岳に向かう。
 ここから笈ヶ岳へは300m高度を下げ、また300m登り返す。下りの南斜面はクラックだらけだ。割れたところは尾根のブッシュに逃げ藪漕ぎとなる。藪といってもそんなに濃くはない。

大笠山山頂クラックが多い

笈ヶ岳山頂にて  休み休み登り返し、11時20分には笈ヶ岳山頂へ到着した。
 笈ヶ岳山頂は狭いが、そこだけ雪がない不思議なピークだった。野生動物に削られたのだろう山頂標識を触り、改めて笈ヶ岳に来たのだと実感して感動する。素晴らしい眺め。自分の足で繋いできた稜線を振り返り、深山の空気を肺いっぱいに吸い込む。来てよかったと、心から思った。

核心となったテラスへの下降  笈ヶ岳から仙人窟岳へは、さらに240m程度下りて150mほど登り返す。途中、中宮温泉から冬瓜山経由で登ってきた男性2人組とすれ違った。山中に入って初めての人との遭遇だ。このような山で会うと、「この人も同志だな」という気がして、思わず笑顔になってしまう。本山行中に出会ったパーティーは、この一組だけだった。
 1,730m付近の冬瓜山尾根分岐で左尾根に入り引き続き下っていく途中で、雪が切れて5~6m程度崖になっている箇所があった。古い残置ロープがあるが、あまり頼りにならなさそう。10m補助ロープを出し手がかりにして、下の雪の狭いテラスまで一人ずつ下りる。下りてからさらに数メートル尾根の藪を漕ぐが古いトラロープがあった。そこを抜けて下から崖方向を見てみると、雪のテラスはついているのが不思議なほど浮いて見える。千葉くんが先に下りて皆をサポートしてくれて、とても心強かった。

笈ヶ岳と白山の展望が素晴らしい極上幕場  核心を越え下ったあとは登り返し。直登でふくらはぎがぷるぷるしてくる。遠くから目をつけていた1,720mピークに到達すると、目論見通り平坦で開けて眺めが良い最高の幕場。一目で気に入り、今夜の宿を決めた。本日も無風快晴で暖かく、とりあえず外で乾杯する。昨日より白山が近い。越えてきた笈ヶ岳を眺め、共に歩いてくれたメンバーに感謝しつつちびちびと呑んでいたら、あっという間に酔っぱらってしまった。木村さんが作ってくれた水餃子鍋が、優しい味で疲れた身体にしみる。明日も3時起床と決め、19時半に眠りについた。

美しい夜明け 【4月12日】快晴弱風
 最終日も夜明け前に準備を整えて5時20分に出発。今日は下山だ。朝日を浴びながら国見山へ進む。山中での夜明けは、日が差すと同時に温かくなり、太陽のありがたみを改めて感じる。

三方岩岳への登り返し  国見山までは前日同様、クラックに気を使いながら200m下り150m登る。その間に小ピークがあるので、縦走ならではの反復登り返しが待っている。途中何度かクラックを避け藪を漕ぎながら、国見山へ到着した。
 国見山から先は、どこで泊まっても良いような平坦な尾根が広がっている。これで終わるという気持ちで瓢箪山の先の展望台に順調に向かう。ここから三方岩岳までいかずに夏道の隧道を抜け白山白川郷ホワイトロードに下りようかと思って見てみたら、林道は雪崩跡もあり通行は難しそうだった。これ以上登りたくない気持ちが強く、なんとか下りられないか最後まで見ていたが、大田さんと千葉くんの意見を聞いて確かにこれは行けないと思い、三方岩岳へ登ることにした。

馬狩料金所前の橋崩落箇所  今日は風がそこそこあり、じっとしていると寒い。三方岩岳へ登り、そこから夏道上を辿ってホワイトロードの馬狩料金所へ下りる。雪がついている箇所はルーファイが難しく、途中少し道をロストしながら雪がなくなるところまで下りた。その先も一般登山道でありながらあまり目印はないが、踏み跡はきちんとあるので、辿れば難しくはない。タクシーの手配を12:30にしてしまっており、時間が迫っていたので、木村さんに先に行ってタクシーの人に待ってもらってとお願いした。木村さんはさすがのスピードで先行してくれた。道沿いの堰堤のある沢は、どん詰まった雪渓が崩れ雪解け水が流れている。タクシーが迎えに来てくれるはずの馬狩料金所は、最近の雪崩によって橋が流されており通行止めだった。料金所前の曲がった電柱もそのままで、崩落した橋の下の雪渓を渡って対岸の林道に渡る。そこから5分くらい下るとトヨタ白川郷自然学校があり、木村さんの姿が見えた。タクシーの運転手さんに遅れたことを詫び、みんなで乗車。遅れたにも関わらず運転手さんが笑顔でザックを積み込んでくれ、「こんな重いのを持って歩くなんてよくやるね~、こればかりはわからないわ」とぼやかれ、温かさに感謝するとともに、だからこそ人のいない深山は魅力があるのよ、と少しニヤついてしまった。
 タクシー20分ほどで桂線のゲート前につき、春の陽気のなかテントを干したりしてから愛車へ乗り換える。くろば温泉で汗を流し、五箇山無料観光駐車場向かいのしみず屋でご飯を食べた。みんなが食べていた山菜そば定食にはコシアブラなどのてんぷらがのっていてとても美味しそうだったが、私のとんかつ定食もかなり美味しかった。山行じゃなくてもまた行きたい。
 改めて、今回の縦走は本当に素晴らしい山旅でした。天気にも恵まれましたが、成し遂げられたのはメンバーのみなさんのおかげです。千葉くん、津田さん、大田さん、木村さん、本当にありがとうございました!!

〈コースタイム〉
【4月10日】 市道桂線ゲート前(7:00) → 大畠谷吊橋(9:30) → 1552P手前で幕(15:30)
【4月11日】 幕場(5:20) → 大笠山(7:20) → 笈ヶ岳(11:20) → 仙人窟岳手前ピーク1720mで幕(14:30)
【4月12日】 幕場(5:20) → 国見山(7:20) → 三方岩岳(9:40) → トヨタ白川郷自然学校(13:00)

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