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沢登り・生保内川~部名垂沢
荻原 健一

山行日 2021年8月7日~9日
メンバー (L)荻原、永岡、津田、眞鶴

 このルートは昨年のお盆に例会山行として出したものだが、東北北部は災害級の雨予報となってしまった為、今年のお盆山行として考えていた黒部の東沢谷の企画と入れ替えた。昨年の東沢谷の企画はテンカラ天国を堪能出来てまずは先勝。そして今年の和賀山塊・生保内川遡行~堀内沢下降が完結すれば入れ替え作戦は大成功となるのだが、我々の行く手にはトリプル台風が立ち塞がっている。さて結果は如何に?!

【8月7日 終日晴れ】
 前夜発で遠い遠い盛岡ICを目指す。宮城県に入ったところで力尽きて行きずりのPAで仮眠。翌朝盛岡ICを出て約1時間の下道で生保内川入渓地点となる大平トンネル出口の公衆電話に到着。いよいよブナの巨樹で有名な憧れの和賀山塊の沢への一歩を踏み出す。最初は大平沢の右岸に付けられたしっかりした踏み跡沿いに下っていく。20分ほどで生保内川に出合う。早速岩魚が走りはじめ気分はアゲアゲだ。出合からすぐのところで秋田新幹線の高架線が頭上を横切っている。この日は一日中川原歩きなのだが、ブナの森は深く悠久のロマンを感じながらゆっくりと歩を進めて行く。幕場予定地の少し前から竿を出しながらの歩行となり、夕食のおかずも確保できてまずまずの初日を終える。KG作の赤ちょうちんが夜の宴に花を添える。

原生林の中の穏やかな渓相さぁー、今日も開店です!暖簾と赤提灯のオブジェ?

ゴルジュ入口の4m滝 【8月8日 晴れ、夕方豪雨あり】
 今日は生保内川の核心となる日で滝の連続となる予定なので楽しみだ。出発して30分も経つと沢はゴルジュとなりすぐに4m滝となる。釜は深くまずは泳いでからの取付きとなる。ルートは右岸からトラバース気味に行くのだが、落ち口近くが見た目より悪く足場が無い。ここは残置ハーケンに体重をかけてクリアする。
 すぐに8m滝だがここも見た目より悪い。ルートなる右岸のスラブの傾斜は緩いが滑りやすく5日分の食料の入ったザックを担いで登るのはハードルが高い。空身で途中ハーケンを1本打ってロープをFIXしてから越える。その後もロープを出したり高巻き&懸垂などを繰り返し、期待通りの飽きさせない遡行が続く。岩魚もゲットし、ソーメン&刺身タイムも満喫出来た。9mトイ状の滝は予想に反し?釜やその水の色も含めて神秘的な場所でなんだか背筋が真っすぐになる。

生保内川の恵み1生保内川の恵み2
ソーメンと刺身と酒の3点セット神秘的な9m滝

 ここを左岸から巻いて越えると岩魚が走らなくなったのできっと魚止めになっているのであろう。滝上から少し歩くと幕場予定地の820m二俣となる。思っていたより良いところではなかったので、全員で大規模工事を完工し、素敵な幕場の出来上がりだ。集めた薪にも火がついて、いつものお尻乾かしタイムが始まるが、その頃から残念なことに本降りの雨となる。タープの下に移動し、本日食当のまんづるの味わいこくまろカレーを堪能したところで雨はバケツをひっくり返したような降り方に変わる。先日の光来出川の件があるので、ある程度の覚悟をして撤収の準備をする。やがて沢は濁流と化し幕場は沈没。すっかり暗くなった中、回収した荷物を突っ込んだザックを担いで左岸の一段高いところに避難。タープとロープは回収できず濁流に飲まれていく。避難場所は横になれるようなスペースは勿論無く、このまま座った状態で雨に打たれながら朝までか~、と思っていたら、やがて雨は小降りとなり1時間もするとすっかり止んでしまった。しばらくすると水も引き幕場も元通り。更に一時は濁流にすっかり飲み込まれてしまったロープは無事でタープは一部破れているが工夫すれば一晩くらいなら使えそうだ。こうして懲りない面々はまた元の幕場に戻って横になってスヤスヤと寝てしまうのでした。

【8月9日 雨時々曇り】
 朝起きてラジオを聞くと今夜から明日にかけて台風の影響による大雨予想が出ている。予報通りだと今夜の沢沿いの幕営はあり得ず、昨夜のこともあるのでさすがに呑気な我々でも今日中の安全地帯への移動を余儀なくされる。検討の結果、下山を一日早めて羽後朝日岳からの最短下山ルートとなる部名垂沢下降で夏瀬温泉に向かうことにする。出発してすぐの15m滝は予定通り左岸から巻く。本日核心となる10m滝はトポ通りシャワークライミングで登ろうとするが、昨日からの雨で増水しており、とても登れる状態ではない。ここも左岸から巻いて越える。その後もいくつか滝が出てくるがロープを出しての直登となる。ランナーは取りづらく滑落は許されないのでリードは相応の登攀力が必要だろう。最後の8m滝を直登で越えると沢は源頭の雰囲気となり草原とお花畑、藪漕ぎなしで稜線へと導かれる。部名垂沢方面の稜線に出たので、ここでザックを置いて数分で羽後朝日岳の山頂に到着。岳人マイナー12山としては昨年の丸山岳の登頂(袖沢北沢遡行~メルガ股沢下降)以来であり、生保内川の遡行成功と相まって感無量だ。ここから堀内沢(マンダノ沢)下降ではなく、部名垂沢下降になってしまうのが唯一残念ではあるが、稜線の風はいよいよ強まり飛ばされそうな勢いだ。雨も降り続けており、もたもたしていると部名垂沢下降も危ぶまれる状況なので先を急ぐ。
羽後朝日岳にて  山頂から部名垂沢への下降ポイントまでの稜線歩きは草原上にルートを取れば早いのだが、ところどころハイマツや灌木の藪を通過せざるを得ないところが出て来て、これが結構な激藪なのでそこそこ時間を取られる。それでも1時間ちょっとで下降点に到着。下降点は目印のピンクテープがあるのが有難い。ここからルンゼを下っていくが傾斜は急で滑りやすく、またメンバーにも疲れが出始めて来ておりペースは上がらない。歩いて降りられない滝は大抵は巻き道かFIXロープがありこれを使って降りるのだが、FIXは老朽化しているものが多く、自身のロープによる懸垂で処理するケースも出てくる。思っていたより荒れている感じがした。やがて二俣に着くとあとはガレた河原をひたすら歩いて降りていく。標高を下げるとメジロアブがうるさくなる。地図上の林道入り口手前でいくつかの堰堤を越えるのが時間との闘いになっている我々には厭らしい。そうです、時間は19時前、出来れば暗くなる前に沢を終わりにしておきたいのです。それでもヘッデンが必要になる19時頃には林道入り口についてほっとするのも束の間、林道はすっかり自然に帰ってしまっていて林道というよりは登山道。ところどころ不明瞭でヘッデン歩行だと更に不明瞭という感じ。案の定、地図上の林道が沢を横切るところが良く分からず迷いに迷って時間を大いにロスしてしまう。しかしながら、思い返すとここら辺りがメンバー全員が最も一丸となって事に当たった捨てがたい刻(とき)だったような気もする。その後も暗い中、小さなロス(ミス)を繰り返し夏瀬温泉に到着したのはなんと23時。初老の2名にはなかなかハードな山行となりました。

 堀内沢(マンダノ沢)を下降出来なかったのは残念だったが、いま下山してこの記録を書いていると、美しい渓で有名な堀内沢~マンダノ沢はやはり登ってみたいという気持ちが強くなってきた。次は堀内沢~マンダノ沢~下天狗沢~朝日岳~朝日沢下降あたりが面白いかな~などとつらつら妄想しながら筆を置くこととしよう。

〈コースタイム〉
【8月7日】 大平トンネル出口の公衆電話(8:30) → 標高600m地点(幕)(16:00)
【8月8日】 幕場(6:00)) → 標高820m地点(16:00)
【8月9日】 幕場(5:30)) → 羽後朝日岳(12:00~12:30)) → 部名垂沢下降点(13:50)) → 林道終点(地図上)(19:00)) → 夏瀬温泉(23:00)

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