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岩登り・瑞牆山十一面岩
Joyful Moment、調和の幻想、山河微笑
小芝 泰規

山行日 2021年7月17日~18日
メンバー (L)小芝(泰)、眞鶴

 数年前まで瑞牆は上級者の岩場というイメージが強くて、気軽に近づけない場所だと思っていた。しかし、ここ数年は三峰の中でも力をつけている会員が増え、それに引っ張られる形で瑞牆に行く機会が増えてきた。そんな中で、力をめきめきと付けている若手からありがたいマルチピッチの誘いを受けて、瑞牆のクラック入門ルートに行ってきました。
 入門ルートとは言え、ルート中には私が苦手とするワイドクラックが必ず存在し、思い返しても年末年始の大堂海岸以来、まともにクラックに手足を入れた記憶がない。山行直前にジムで1回だけ復習をし、不安を抱えての出発となりました。
 朝6時前に植樹祭駐車場に着いた。すでに強い日差しが岩峰を照らしていて、今日も暑くなりそう。コンビニで買った行動食などをちゃっちゃとパッキングをし、さあ行こうかと話したところで、アプローチシューズを忘れたことに気づいた。のっけから何をやっているんだ!こうなると致命的な忘れ物がないか、すべての装備が心配になってくる。
 気を取り直してクロックス(っぽいサンダル)で歩き出すと、駐車場の出口で日帰りで岩場に来ていた荻さんに会った。今日は調和の幻想を登って早めに帰るとのこと。これから目指すJoyful Momentのアプローチ情報などをもらい、お互いの健闘を祈って別れた。
ホールド・スタンス共に豊富で快適  初日の「Joyful Moment(5.9)」は、十一面岩奥壁にあり、アプローチ道が方々の岩場へ分岐しているので迷いやすい。私たちも十一面岩は末端壁までしか行ったことが無かったので、コースタイムより1時間弱余計にかかってしまった。アプローチを知らない人同士で行く場合はきちんと下調べをした方が良い。
 このルートは合計5ピッチあるが、1~2Pは継続可能。2P目は簡単なバンドのトラバースで気の毒なほど短いです。ロープの流れも悪くなさそうなので繋げてしまいたくなります。ただし、2P目は中間部に1カ所ぐらいしか支点を取れないので、非常に簡単なピッチではありますが、万が一落ちた時にはそこそこ落下して、かつ振られる思います。ピッチを切っていれば、ロアーダウンで下まで降ろせるというメリットがあるので、そこは各々の判断で。
 1P目:取付きでギアラックを忘れていたことに気づいた!ので、申し訳ないが相方マンズルのをリード時に使わせてもらう事にしてクライムオン。左上するフレーク状のクラックで、体を外に出してフレークを掴みながら登った。
顕著な2本のクラックのうち、右側の方が登攀ライン  右足のヒールをフレークに引っ掛けて登ると快適で楽しい。忘れ物が多く、気持ちが焦っていたのか、ビレイ支点セット中にビレイデバイスを落としてしまう。予備があったので問題なかったが、ほんとにダメダメのスタート。
 2P目:短いバンドのトラバース。1P目終了点からすぐそこなので、繋げるか迷った。
 3P目:ここは直上するフレーク状のクラックで、ホールド・スタンスが豊富なので快適なフェースクライミングで始まる。後半は安心感のあるバチ効きのハンドで終わる。
 4P目:ワイドサイズで、クラックの奥にハンドとフィストが決まるので、そこを支点に体をクラックから外に出して登れた。手が決まらないと体を突っ込んでの奮闘的な登りになるかもしれない。このピッチがルートの核心。フォローだったので恐怖感ゼロだったが、リードでも3~4番がしっかり決まるので墜落の恐怖は感じないと思います。
 5P目:岩稜歩き+ちょっとハンド。全体的にカムを決めやすく、久々のクラックでも安心して登れました。コンパクトながら各ピッチに特徴があり、岩頭に突き出た時の景色もすばらしい好ルートでした。
 各ピッチのビレイポイントも快適で、手軽に瑞牆マルチを楽しめるおススメルート。三峰クラックメンバーでまだ行ったことが無い人には、是非トライしてほしいルートです。ちなみに終了点から取付きまでは踏み跡経由で10分かかりませんでした。

出だしはワイドっぽいが、バチ効きのハンドで始まる  Joyful Momentが思いのほか早く終わってしまったので、帰り道にある「調和の幻想(5.10a)」に行きました。このルートは朝見た時に1ピッチ目が濡れていたので、午後の方がコンディションが良かもしれないという期待もありました。結果として、2ピッチ目の途中までクラック内が濡れていましたが、フェース部分は乾いていたので朝一よりも快適に登れるようになったと思います。暑かったですが。
 1P目:途中ハンドジャムを交えて右側のクラックとフェースも使いながら抜けました。左右の壁にスタンスがそこそこあって、ステミングを使うとだいぶ楽になると思います。
 2P目:出だしのワイドっぽい部分を越えたフィンガー数手が濡れていた。女性には難しめのサイズかもしれないので、出だし1発目のカムはしっかり決めておきたい。
ワイドを前に嬉しそうなパートナー  終了点の支点が見当たらず、岩に長スリングを掛けてビレイしました。
 3P目:フェースクライミングで気持ちよくグイグイ登っていく。
 4P目:約2m程の木登りから始まるスラブ。慣れない木登りは壁を使いながら適当に登り、スラブをトラバースで往復。中間部のホールドが少ないので、リーチが短いと細かいホールドとスタンスを拾って緊張感のある1歩が必要です。スラブにボルトが打たれていますが、カムもしっかり決めましょう。
 5P目:長いフレーク。セカンドはレイバックっぽく登れますが、一般的にリードはカム6番をずらしながらの奮闘的な登りになります。
 私はセカンドでしたが、フレークの奥で右足のヒール&トゥが効いたのでそれほど苦はなかったです。最後は簡単なフェースで終了点へ。
 Joyful Momentより1グレード上がる感じですが、充実度はより高く、クラックをリード主体で登っている方にはおススメのルートでした。

燕返しのハングのすぐ左にあるコーナーが取付き  翌日は、左岩壁にある「山河微笑(5.10a)」に行きました。このルートは調和の幻想と同じグレードですが、印象としては少しグレードが高い感じで、ルートとしての面白さは3本の中で最も高かったです。調和の幻想を登ったら、是非トライしてください。

木で見えにくいが、見事なチムニー  1P目:じめっとしたコーナークラックを直上。小さくハングっぽくなったところを越えてから左側の右上クラックまでトラバース。あとはこのクラックに沿って立木があるテラスまで。
 2P目:岩が折り重なるように見える40mのチムニー。

木登りスタート。思いのほか緊張する  バック&フットでグイグイ登る。チムニーの抜け口のチョックストーンが邪魔だが、ハンドがしっかり決まるので思い切って越えられた。チムニーの奥にはハンドサイズのクラックが走っているので、ランナウトの恐怖はないと思われる(ここはフォローで登った)。
 3P目:2P目のビレイをしながらチムニーを見上げた時、ルーフとのコーナークラックがわずかに見え、スーと空に消えていた。ありゃ、恐ろしいクラックもあるもんだ。と思っていたら、それが3P目だった。近くで見るとルーフのクラックという事はなく、急なフェースとのコーナークラックだったが、迫力はある。ここは数mの木登りから始まり、フレアしたワイドクラックを3~4m登るところが核心で、クラックの奥にハンドを固定して体をズリズリ上げて登った。

3と4番。奥の細いクラックを使っても良いかも  ちょうどクレイジージャムの中間部のような感じで、コツを掴めば楽に登れると思うが、ちょっと大変だった。ハンドクラックに手が届けば、あとは快適。右側のフェースのスタンスを拾いながら登ると体が安定して楽だった。立木があるテラスまで。
 4P目:岩を乗っ越して右側に2mほどクライムダウン。やや不安定な場所で、カムでビレイ支点を作る。

フレーク状のチムニー  5P目:滑らかな岩が折り重なったクラックで優しい表情をしているが、奮闘的な登りをさせられる。
 体全体を使うのでザックは背負わない方が良い。ハンドサイズのクラックで始まり、徐々に広がっていき、腕やら腿やら、体中のフリクションを使って体を上げていく。終了点にビレイ支点は無いのでカムで作った。うる覚えだが、0.75~3番ぐらいだったと思う。
 終了点からはすぐ奥にある森に入ると、昼寝に良さげな大岩がある。
 その上でしばらく休憩した後、さらにその先の大岩を登り、山族`79黄昏ルートの終了点から懸垂した。
 今回はロープがダブル50m、カムは0.4~5番2セットと6番1個、ナッツ一式とスモールカムも適当に持参したが、ナッツ・スモールカムは1度も使いませんでした。また、ビレイ支点を岩でとる場所も数カ所あったので、長いスリングがあると安心です。
 ザックは、Joyful Momentではそれぞれが担ぎ、調和の幻想と山河微笑はフォローのみが担ぎました。調和は最終5ピッチ目のオフウィズスで邪魔になります。4ピッチ目のビレイ支点は昼寝が出来るほど広いので、そこに残置可能です。3ルートとも、ほとんどのビレイ支点はテラスになっていて、安定してピッチを切れます。
 山河微笑の2P目以降は背中を使ってズリズリと登る場面が多く、まだ新しいマンズルお気に入りのアタックザックが悲鳴をあげていました。最初からワイド登りになるところでは、ザックをハーネスからぶら下げて登りましたが邪魔です。食料はポケットに入れるなど、ザックの残置をお勧めします。
 当初は2ルートのみを登る予定で、自分的にはそれでも大満足でしたが、パートナーのやる気に刺激を受けて、楽しい1ルートをプラスできました。反省点も多かったですが、お陰で充実度の高い週末を過ごすことが出来ました。パートナーには本当に感謝です!

※Joyful Momentで落としたビレイデバイスは....返ってきました!自分たちより先行していたさわやかな2人組がおり、終了点でその話をしたところ、先に降りた彼らが見つけて我々のザックに縛り付けておいてくれました。この記録が彼らの目に触れるか分わかりませんが、この場を借りてお礼申し上げます!

〈コースタイム〉〈所要時間〉
■Joyful Moment(奥壁) 植樹祭駐車場 (2:20) 取付 (2:00) 頂上 (0:10) 取付
■調和の幻想(末端壁) 取付 (3:30) 終了点 (1:30) 取付 (1:00) 植樹祭駐車場
■山河微笑(左岩壁) 植樹祭駐車場 (1:10) 取付 (3:00) 終了点 (2:00) 取付

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