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沢登り・成瀬川桑木沢~唐松沢
金子 隆雄

山行日 2021年7月22日~25日
メンバー (L)金子、大田、清水、坂井

 遠いことは分かっていたが実際に行ってみるとやはり遠かった。今回行った桑木沢は何処にあるかと言うと、秋田県の南の端で岩手県との県境に近い東成瀬村になる。栗駒山の北側になり、栃ヶ森山塊と呼ばれている。
 21日夜に東川口駅に集合し東北道を北上する。その夜は菅生PAまで、とても一気に目的地までは行けない。

展望台からのダム工事現場 【7月22日】 晴れ一時雷雨
 一関ICで東北道から降りて国道342号を西進し目的地を目指す。道はだんだん蛇行の激しい峠道になってきて、登り切った所が岩手と秋田の県境の須川温泉である。ここは栗駒山の登山口でもある。秋田側に入って更に30分ほど走るとようやく目的地の夢仙人大橋に到着する。
 橋の少し手前の展望台の駐車場に車を停めて準備をする。広い駐車場に他の車はほとんど停まっていない。この周辺は成瀬ダム建設の真っ最中で工事の様子を見られるようにこの展望台を造ったようだ。展望台には東屋はあるがトイレは設置されていない。数年後には桑木沢中流部より下はバックウォーターに飲み込まれて入渓がかなり難しくなると言われているので今のうちに行っておこうと遥々やって来たのだ。
 展望台から車道を10分ほど登り、橋の南端のガードレールを越えると小尾根上に踏み跡がありこれを辿る。フィックスロープも付いているが急傾斜なのでかなり厳しい。橋の下の河原に降り立つのにかなりの時間を要してしまった。一息入れてから溯行を開始する。
 すぐに左岸より合ノ俣沢が出合い、正面には壊れかけた吊橋が見えてくる。沢幅は広く水はゆったりと流れている。荒倉沢出合までは特段厳しい所もなく、こんな感じで進んで行く。荒倉沢出合からは少し沢幅も狭まりゴルジュの様相になってくる。とは言っても特別厳しい滝などがある訳でもない。雪渓の残骸辺りにはウドが生えていたので頂いていく。
堰堤状の滝  午前中は良い天気だったが唐松沢出合の手前辺りで雨が降ってきた。すぐ止むだろうと思っていたが本格的に降ってきたので雨具を着込む。左岸に岩小舎状の場所があったので入り込んで雨宿りする。雨は止む気配もなく雷鳴も轟きだして、こんなゴルジュの中じゃ逃げ場もないので心配になってくる。30分ほどでようやく雨が止んだ。水は少し濁り気味だが水量は増えていないので先へ進むことにする。
 今まで滝はほとんどなかったがようやく滝らしい滝が現れる。5mほどの沢幅いっぱいに水を落とす堰堤状の滝だ。右岸に釣り人のものと思われるフィックスが垂れている。しっかりとした木の根をホールドにできるのでフィックスは使わなくても楽に登ることができる。ただ水が濁ってきているので取り付きまで浅いのか深いのか分からなくなってきている。
 滝を越えて少し行くと再び雨が降り出してきた。先程の雨よりも激しい降りだ。予定していた幕場まではまだ1kmもあるのだが、これ以上の行動は無理のようだ。右岸の高台を雨に打たれながら整地してタープを張る。雨は15時半頃には止んだが間もなくして沢はコーヒー牛乳色の濁流になった。水量はあまり増えていないが、迂闊にも水の確保を忘れていた。少し下流の壁を伝って流れる水を集めて何とか賄うことができた。かなりの雨が降ったにも関わらず焚き火はよく燃えてくれた。

【7月23日】晴れ
 昨日は濁流だった沢もすっかり澄んだ水になり水量も平水に戻っている。天気も良く爽やかな朝だ。7時頃に出発する。かなり進んだ標高620m辺りでスノーブリッジが現れる。まだ十分な厚みがあり出口も見えていたので足早に潜り抜ける。その後は穏やかな渓相が続き、落差の少ない沢幅いっぱいの小滝がいくつか現れる。だが、油断しているとこの沢の岩は滑りやすいので痛い目に合うことになる。
 正午を少し過ぎた頃に680mの二俣に到着。右俣も左俣も滝で出合い一つの釜に注ぎ込む両門の滝となっている。本流は左俣のようだが我々は最短で唐松沢に降りるために右俣へと入る。出合の滝は登れないので左岸より捲いて越える。
 右俣に入ると今まで緩かった分を取り戻すかのように一気に高度を上げていく。滝もちょいちょい出てくる。標高750mくらいで出てきた5mほどの滝だけは登るのにロープを使用した。全体を通して登りにロープを要したのはここだけだった。標高800mくらいで2段15m程の滝が現れる。これを登るとすればシャワークライムを覚悟しなければならない。夕方が近づいているので一日の締めくくりにシャワークライムは気が進まない。滝のすぐ下で左岸から出合う水量の少ない枝沢に入ってみると少し奥に広くて薪も豊富な良い泊り場があったので滝登りは明日に先延ばしにして泊まることにする。その夜は空いっぱいの星空と焚き火を楽しんだ。

スノーブリッジのお出まし両門の滝となった桑木沢の二俣

【7月24日】 晴れ
 昨日先延ばしにしたシャワークライムだが朝一のシャワークライムも気が進まず捲くことにした。枝沢との中間尾根を登って捲いたが意外と時間はかからなかった。あとは下鉢山と1,056mピークとのコルを目指して藪を漕ぐだけだなんて考えていたが、そんな甘いもんじゃないと思い知らされることになる。
 どうにかコルには辿り着いたがまるで見通しが効かず地形図と実際の地形との照合もできない。当たりをつけて唐松沢に向けて下りだしてみる。傾斜はかなりきつく根曲がり竹にぶら下がるように下っていく。足元はズルズル滑って不安定で立っていることができなく行き詰まってしまう。左下方に白く河原のように見える所があるのでそこに降りてみる。歩いては行けないので懸垂で降りる。足場が悪いので支点を作るのにも苦労する。全員無事に河原状に降り立ったが、すぐ下は切れ落ちていて滝になっているようだ。水は流れていないので滝と言っていいかどうか、藪に覆われているので高さは分からない。懸垂で降りても途中でピッチを切れるかどうかも分からないので迂闊に降りられない。
 進退窮まるとはこういうことか、しばし固まってしまう。下るのが無理なら振り出しまで登り返すしかない。懸垂で降りた河原の左岸が小尾根状になっていて何とか登れそうだ。竹や笹藪だったら降りてきた所と同じで厳しいだろうが幸いに灌木だけだったので何とか登り返すことができた。
唐松沢で懸垂が必要な滝のうちの一つ  コルに戻って少し東に移動してから再び下降を開始する。やはり傾斜はかなり強いので今回は出だしから懸垂で降りることにする。両岸に灌木があり支点にすることができたので懸垂を繰り返す。8ピッチの懸垂でようやく普通に立って歩ける傾斜になった。水は流れていない涸れ沢だ。飲水も尽きて暑さで頭がボーっとする。
 下り始めてから5時間以上もかかってようやく唐松沢に降り立った。もうヘトヘトだったので何処に泊まっても良かったのだが、いい場所がなくて幕場を探しながら下降を続けた。唐松沢に二つある懸垂が必要な滝のうちの一つを降りてしばらく進んだ左岸に今日は泊まることにした。焚き火が燃えだし一杯飲んだらもう眠くなってしまって夕食前に寝てしまった。

【7月25日】 晴れ
 出発して間もなくもう一つの懸垂が必要な滝がでてくる。大きな釜を持つ滝だ。懸垂で降りて少し下ると雪渓の残骸と共に薄くて崩壊寸前のスノーブリッジが出てくる。これは潜るしか方法がなく足早に駆け抜ける。
 やがて桑木沢の出合、これより下流は初日に歩いているので何も問題ない。橋の下に到着し、橋まで楽に上がれるルートはないかと探してみたが見つけられず往路と同じルートを辿る。日曜日のためか展望台に停まっている車は増えていた。
 須川温泉の大露天風呂に浸かり、たっぷりと時間をかけた沢旅を終えた。

崩壊寸前のスノーブリッジ
〈コースタイム〉
【7月22日】 展望台駐車場(9:15) → 夢仙人大橋(9:25) → 合ノ俣沢出合(10:20) → 荒倉沢出合(12:10) → 唐松沢出合(13:10) → 幕場(14:00)
【7月23日】 幕場(7:05) → 桑木沢二俣(12:30~13:00) → 2段15m滝下(15:30) → 幕場(15:50)
【7月24日】 幕場(6:45) → 稜線上のコル(12:00) → 唐松沢(15:40) → 幕場(16:45)
【7月25日】 幕場(5:30) → 桑木沢出合(8:45~9:05) → 荒倉沢出合(9:50) → 夢仙人大橋下(12:30) → 展望台駐車場(13:10)

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