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縦走・光岳~池口岳
鈴木 一彦

山行日 2021年11月5日~7日
メンバー (L)鈴木(一)、田中(雅)、金子

 なかなか登れない山はないだろうか。天気に恵まれない、ルートが壊れてしまった、などなど。理由は色々あるが、何度も計画してはピークを踏めずにいる。光岳、そして池口岳は自分にとってまさに「遠い山」だった。最初は3年前の残雪期にチャレンジ。今思えば少し無謀な挑戦だったかもしれない。その時は、後述するジャンクション手前の痩せ尾根で怖じ気づき、大岩を乗り越せずあえなく敗退。その後、計画を出しても、悪天に見舞われ実施できず、が2回ほど続いた。
 いつなら行けるのだろう。無雪期、天候が安定する時期となると、山に雪が積もる直前しかない。11月初旬に狙いを定め計画を提出した。誰が来てくれるかなと応募を待っていたところ、総勢3名のコンパクトなパーティーとなった。
 最初は一泊二日の計画だったが、かなりの強行軍になりそうだなと弱気の虫が騒ぎ出し、2泊に改めて実施することにした。登山口までもなかなか遠い道のり。新宿を21時にスタートして、登山口についたのは1時過ぎ。道中もくねくねの峠道を延々と走り、登山口に地元有志の方が設置してくださっている避難小屋に辿り着いたのは1時を回っていた。この小屋が快適で、畳敷きの立派なもの。これから始まる長い道のりに備えるには、これ以上の場所は求められない。維持してくださっている方々に感謝したい。
鮮やかに色づく  翌朝は6時過ぎに出発。これから歩く尾根はなだらかで長い道。紅葉の、最後のきらめきが残る樹林帯を歩く。苔むす倒木、鮮烈な黄色の葉、深紅の木々。退屈している暇などない会心の山歩きが始まった。あたりは静寂そのもの。命の気配が濃い豊かな森を歩いていると、少しずつ植生が変わっていく。このあたりの山は本当の意味で生きている。その証に「薙」の名を持つ地形が多い。隆起が激しく、斜面が崩壊してしまうのだ。登山口までの道のりである国道152号線が日本でも有数の酷道。この地域を貫こうとしている三遠南信道は未だ開通の見通しすらつかない。
これが大岩  いよいよ、一度敗退した大岩に到達した。今見れば、何と言う事のない岩だった。その後、少しの登りをこなして、池口岳に向かう道と光岳に向かう道の分岐に着いた。しばしの休憩の後、光岳方面に歩みを進めたが、そこからが本番だった。いきなりの急下降で3人の足並みは乱れる。それまでのはっきりした登山道は姿を消し、踏み跡なのか獣道なのか判然としないような場所もチラホラ。時間的にも押してしまい、どこかテントを張れるところを探そうと、間隔を空けたところ、自分と田中さんが金子さんとはぐれてしまった。結果から言えば10分程度戻ったところで合流できたのだが、むやみにパーティーを分けるべきではないと反省しきりだった。もう時間もないので、多少斜度はあったが強引にテントを張って食事にとりかかる。この日は寝不足と疲労もあり、さすがに大人しく就寝した。
難しかった窪地の最下部  翌日はいよいよ光岳へのアタック。まずは加加森山を目指して歩くと、何とも気持ちの良い草原が広がっている。どんな高規格のキャンプ場より気持ちの良さそうな芝生の広場。テントを張るなら、絶対にこちらがお薦めだ。その後、加加森山ピーク手前で休憩していると、この山行で初めて人と行き会った。単独行動でこんな山域に来るとは物好きな人だと思ったが、我々も物好きでは人後に落ちないなと思い直した。その後、エアリアに2,381pとある山を越えた。解説には「踏み跡もなく特に難しい」とある部分。たしかに明瞭な踏み跡はなかった・・・。正確には踏み跡はあるのだが、同じぐらいはっきりした獣道が錯綜している。我々も「窪地の最下部」とある手前ではぐれてしまい、コールと笛で何とか合流できたほど。その後、光岳ピークへの最後の登りに取りかかるが、ここでも踏み跡を見失って藪コギに突入してしまった。なんとか復帰はできたものの、かなり消耗してしまう。2,400mを超えたあたりから雪が出始める。つぼ足で行ける程度ではあったが、やはりアイゼンの携行は不可欠だろう。
念願のピーク  そうこうするうち、光岳山頂が近付いてきた。噂に聞く通り全く見晴らしのない山頂だった。だが、南アルプス特有のお団子型山頂標を目にした時には自分の中にこみ上げるものがあった。行きたかった山に行けた。この充実感は何物にも代えがたい。万感の思いを胸に下山に取りかかる。だが、下りも難しかった。途中でルートを見失って、急斜面をトラバースすること2回。加加森山に着くまで全く気が抜けなかった。
 テントに戻ってからは、互いの労を労っての宴会がスタート。金子さんの武勇伝を肴に杯を重ねて楽しい一夜を過ごした。
 翌朝は少し早めにテントを出発して池口岳のピークを目指す。笹原の斜面を登り詰めると、光岳方面に開けたピークに到着。これで宿願だった2山の頂を踏むことができた。
 あとは降りるだけ。長い尾根をゆっくり歩き登山口に到着。密度の濃い3日間を過ごして納得の山となった。
 だが、ここで話は終わらない。下山後、温泉に入って帰路についたが、車の燃料が心許ない。帰りは浜松周りと決めていたので、152号を南下したのだが、なんと土砂崩れで通行止め。指示された迂回路も通行止め。Googleマップで探し当てたガソリンスタンドはなぜか営業していない。このままでは車遭難。意を決っして三遠南信道に進んでスタンドのあるSAを目指す。そっとアクセルを踏むが、車の燃費計は絶望的な数字を示す。騙し欺し、走って、何とかSAに辿り着いたときの、みんなの笑顔が忘れられない。下山が核心どころか、車が核心という前代未聞の山行。それも含めて、登りたい山に登れた喜び、無事に帰れた安心感。本当に満たされた3日間になった。

〈コースタイム〉
【11月5日】 池口岳登山口(6:30) → 黒薙(9:30) → 大岩(13:00) → 幕営地(16:00)
【11月6日】 幕営地(7:00) → 加加森山分岐(8:00) → 窪地下端(9:30) → 光岳(11:00) → 幕営地(15:00)
【11月7日】 幕営地(7:00) → ジャンクション(7:20) → 池口岳(7:30) → 池口岳登山口(13:50)

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