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沢登り・愛知川神崎川
鈴木 一彦

山行日 2022年8月20日~21日
メンバー (L)鈴木(一)、鈴木(章)、荻原、長浜、大瀧、平井

まだまだ元気いっぱい  本格的に山歩きを始めてからいく年も経っていないが、鈴鹿山脈、とくにイブネには毎年登っている。本当に何度登っても面白い山だ。山域全体が古くから人が手を入れてきた匂いが濃く、自然そのものを楽しむと言うより、人と森との関わりを楽しむ山域のように思える。今回は岳人100ルートにも選ばれている愛知川神崎川本流を遡行する。真っ白な花崗岩とグリーンの水がコントラストを織りなす。滝らしい滝は天狗滝のみで、ゆったり流れる瀞場を泳いで突破する真夏にぴったりの泳ぎ沢だ。自分はさほど泳ぎは得意ではないので、いざとなったらすぐ側にある登山道に逃げてしまおうというお気軽な感じで企画したが、会長の参加表明により俄然、水線を行く泳ぎメインの山行になる予感・・・。
 東京駅に前夜集合し、まずは東名高速で一路西に向かう。東海地区の前泊事情がよく分からないという事もあり、大分手前で刻んで足柄SAの「足柄浪漫館あしがら湯」で仮眠を取る。この施設は24時間営業。リラックススペースで横になることができる。ここで若干休んだ後、名鉄常滑線の聚楽園駅でアッコさんと合流。途中、コンビニに寄り、道の駅に着いたのは7時過ぎ頃。身支度を調え、ゆっくり8時に歩き出した。
 ヒルがうじゃうじゃいるとの事前情報で、皆緊迫の面持ちだったが、幸い林道は乾いており、特に被害に遭うことなく沢に下り立つことができた。愛知川は特に滝らしい滝がなく、ひたすらゴーロを歩くことになる。時折アクセントになるのが大きな淵。深さもあって、誰かが泳いで突破してロープを張り、後続はそれを頼りに流れを遡る。これら一連の流れは全て会長にお任せになってしまった・・・。
キャンプ場のような幕場  この日は前日までの降雨で川全体が水量を増しており、流れの圧力はなかなかの物。慣れない着衣での泳ぎという事もあり、メンバーはロープがあってもなかなか進めない。そんな難所に時間を消費してしまい、どんどんスケジュールが押していく。天狗滝には予定より大幅に遅れて15時過ぎの到着。当初の予定をこなすのは無理と判断し、ここからは幕場を探しながら進むことになる。いくつかめぼしい場所はあったが、ヒロ沢との出合にキャンプ場のような幕場を発見。何とか一晩過ごせそうな薪も見つかり、焚火で宴会が始まった。平井さんが頑張って担いでくれた肉タップリの麻婆春雨丼を頬張り、長かった1日が終わった。

道標はしっかりなんだけど・・・  明けて21日は早めのスタート。前日の遅れを取り戻すべく張り切って幕場を撤収したが、いきなりトラブル発生。準備に手間取り、隊を二つに分けたのが、失敗だった。自分がルートを間違って抜き差しならない状況に陥ってしまう。道は上の方にありそうだが、位置が判然としない。一旦、沢に降りて立て直した方が良いと判断し、グズグズの斜面を降りて、最後の数mを懸垂でクリアする。そのまま沢を遡ると大瀞と呼ばれる深くゆったりした流れに行き当たってしまった。ここで登山道への復帰を目指し比較的登りやすそうな斜面を選んで登り返すことにする。先ほどの斜面よりは随分マシで、ほどなく道に復帰することができた。その後も気を抜くとおかしな踏み跡に入ってしまいそうになる。何せ大昔から人が歩いているので、幾筋もの踏み跡が交錯しているのだ。平坦な地形に入るとその踏み跡すら散逸してしまい、僅かなピンクテープを頼りに進むことになる。水晶谷出合の少し手前でようやくパーティーが合流できたが、この時点で遅れはさらに拡大している。気持ちばかりはやってしまう。
未明の東京駅前に到着  またも事件が起きた。イブネ東尾根に取り付いてしばらくしたところ。ペースが落ち気味のメンバーが休憩している間、またも隊を二つに分けてしまったのが失敗だった。自分を含め先行した3名はイブネ北端に辿り着いて後続の到着を待っていたのだが、30分過ぎても気配すらない。コールしてみても返事はなし。少し下ったところで笛を吹いてみても、空しく時間が過ぎるだけ。たしか以前に歩いた時、間違って誘い込まれた尾根があったなとの思いが頭をよぎったが、後続メンバーの誰かがケガしたのか、まさか道を踏み外してしまったのかと悪い想像は止まらない。まずは分かれたところぐらいまでというつもりで来た道を戻ったが、影も形も見当たらない。「エラい事になった・・・」と悄気ながら山頂に戻ると、アッコさんが「連絡着いたよ」と、笑顔で迎えてくれた。後で聞いたところによると、案の定、最初に思い至った尾根に誘われ、かなり下降してしまったようだ。そんなこんなでイブネ山頂の平原にようやく6名が顔を揃えた。下山は日暮れになるのはほぼ確定。だが、焦らずに一歩ずつ進むことだけを考えて足を進める。
 イブネから銚子ヶ口までは、ほぼ同高度を数十メートル登下降する嫌らしい道のりだ。ここまでしなくても良い苦労をしている我々にとっては、どんどん体力を削られるしんどい道のり。一個一個のピークで休憩を余儀なくされてペースは一向に上がらない。それでも何とか銚子ヶ口中峰のピークに到達して、ようやく帰路の目処が立った。「このままじゃ何時になるか分からないな」とボンヤリ考えていると、モノレールの線路が見えてきた。思えば、疲れ切っていたのだろう。何も考えずに人工物を追っていったが、5分ほど歩いたところで、どうやら変だという事になる。慌ててGPSを取り出すと、降りるはずの尾根から大きく逸れている。もはや登り返すなんて考えることもできない。幸い、踏み跡は確りしているし、何よりモノレールがある。地形図ではこの先に林道の終点があり、そこまで降りれば何とかなるはず、、、。結果的には、この道間違いは我々にとってプラスだった。1時間ほどで林道に下り立つと、どんな崩壊した道が待っているんだろうという恐れが全くの杞憂に終わり、舗装路の歩きやすい道。林道脇の沢で水を補給して生き返ると、長い一日を終えるため駐車スペースに向けて再始動。結局、車に着いたのは日もとっぷりと暮れた午後7時過ぎ。自分と会長は、前週も真っ暗な林道を下山したことを思い出しながら、前のめりな姿勢を反省しなくては、とため息をついた。
 だが、山行自体はとても実りの多い物だった。道間違いの全てが山域の全容を事前にきちんと把握していなかったこと、集中していなかったことが原因。分岐では地図を取り出してコンパスを当てる、歩きながら地形を観察するという基本に立ち返らなくては。そして何より、アッコさんの矍鑠とした歩きを見習わなくては・・・。
 帰京は翌日4時過ぎでした。

〈コースタイム〉
【8月20日】 林道入口(8:20) → ツメカリ谷下降点入渓(9:15) → 白滝谷出合(14:40) → 天狗滝(15:20) → ヒロ沢出合(16:30)
【8月21日】 ヒロ沢出合(6:30) → 中峠分岐(8:30) → 水晶谷出合(10:00) → イブネ北端(11:37) → クラシ(13:42) → 舟窪(15:08) → 銚子ヶ口西峰(16:00) → 銚子ヶ口(16:30) → モノレール分岐(16:45) → 林道終点(17:45) → 林道入口(19:20)

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