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縦走・栂海新道
長浜 理枝

山行日 2022年8月11日~13日
メンバー (L)長浜

 ずっと歩きたかった栂海新道---・・・。
 4年前、白馬岳の地図を眺めていたら、「山から海へ」という面白いコンセプトを持つ栂海新道の存在を知り、面白そうだなと思うとともに、いつか歩いてみたいと思った。
 私が三峰山岳会の存在を知ったのは、ホームページに栂海新道の山行記録がいくつか載っているのを見つけたからだ。そこからなんとなく、この会が気になり、何度かルームを見学し、山のことなど何も分からないままに入会させてもらってから約3年が経った。
 そして今春、怪我をして思うように体を動かせない時に、自分のバケットリストについて考えていたら、いくつか浮かんだルートの中でも、栂海新道を歩きたいなと思い、実現するなら今年だ!と決心してしまった。そして、一人でも絶対行くぞーっと、心に決めて、リハビリに取り組んだ。
 そして、想定通り(!?)の単独行となったが、当初予定していた白馬岳の大雪渓からのルートだと、ソロでは難しいかもしれない・・・と思い、潔く蓮華温泉から日本海を目指すルートに変更。結果、朝日岳の癒しルートを満喫でき、大満足の山行となった。

【8月10日】
 この日は移動のみ。以前、蓮華温泉ロッジの野天風呂に入浴したため、今回は内湯に入りたかったのだが、コロナの影響で内湯は入れないという情報を入手。そのため、平岩駅近くの「姫川温泉 瘡(くさ)の湯」で汗を流し、ラーメンを食べ、バスの乗車時間までの2時間を潰した。
 平岩駅からは糸魚川バスに乗車し、蓮華温泉ロッジへ。受付時に、キャンプ場の周辺にタヌキが生息しているので、寝る時に荷物はテントの中に入れてくださいね、と言われたが私は何も紛失せず、特に問題なかった。しかし、後から聞いた話では、テントの外に登山靴を置いたまま寝てしまったら、タヌキが持っていってしまい、翌日の登山を諦めた人もいたとか・・・。

栂海新道への分岐点 【8月11日】
 隣のテントの物音で、自分が設定したアラームよりも早く目を覚ました。
 準備を整え、5時過ぎにはスタート。蓮華温泉キャンプ場から朝日岳の登山口は、見つけるのが少し分かりづらい。他パーティの方々と話をしながら歩いていたら、10分ぐらい道に迷ってしまった。登山口は、キャンプ場内を直進するのではなく、キャンプ場手前の看板から入っていくのが正解。次回からは、登山口は前日中に確認しておこうと反省・・・。
 山では、「念には念を。」の精神は大事だなと改めて感じた。
 蓮華温泉から朝日岳まで続く五輪尾根は歩きやすく、お花もいっぱいの癒しルート。
 至る所にある湧水も美味しく、歩いている人は皆、マグカップ片手に思いおもいの場所で休憩している。私も充分に休憩しながら朝日小屋へ向かった。
 途中、吹上げのコル付近で、手作りの看板に出くわすと、いよいよ明日から栂海新道の山行が始まるのだと思い、気持ちが昂った。
 朝日小屋のテン場に到着した後は、ラジオを聴きながらのんびり。
 今回、荷物を少しでも軽くしたくて、朝日小屋の売店をアテにしていたため、2日目用に冷凍寿司と赤ワインを購入。
 夕食後、早めに就寝し1日目を終えた。

親不知から扇沢まで歩く眞鶴さん 【8月12日】
 昨晩の就寝時には特に気にならなかったけれど、朝方にかけ徐々に風が強くなってきたようだ。今回、軽量化のためツェルト泊にしてみたが、そういえば稜線で張るのは初めてだったなと思い、少しドキドキしながらやり過ごした。
 山行2日目は、長丁場なので、2時に起きて朝食。3時45分からヘッデンをつけて歩き始める。朝日岳山頂に着く頃には少し空が明るくなってきた。
 アヤメ平付近から日本海側から登ってきた方々とお会いしたが、その中には眞鶴さんの姿も。
 眞鶴さんからは、直前に、日本海側から歩きますよーと連絡をもらっていたので、ルート上でいつかお会いすることは想定内だったが、やはり知った顔を見てひと安心。
 ルートは違うけれど、別パーティで小幡さん、橋岡さんもこの道を歩くのだ、と思うと、私も頑張って完歩せねば、という気持ちになり励まされた。
当初の予定では、2日目は栂海山荘で行動を終了する予定だったが、以前栂海新道を歩いた峯川さんから、栂海山荘で少し休んで体調が問題なさそうだったら、先に進んでおいた方が楽だよ、とアドバイスをもらっていたため、山荘に到着してしばらく休憩。体力的に問題なさそうだったので白鳥小屋まで行くことにした。
栂海山荘のステンドグラス  途中、黄連の水場で、少し沢を登って、チョロチョロと出ている水を1.5Lくらい汲み、下駒ヶ岳以降の急登を頑張って登った。ストックを2本フルで使って、なんとか登りきったが、道中、虻の猛攻にメンタルが削られた。
 黄連の水場でお会いした方が貸してくださった虫除け+木酢液のお手製スプレーは即効性があり、とても助かった。ありがとうございました。
 事前に確認していた地図では、白鳥小屋の手前で水場マークがあったものの、虻の猛攻に必死で抵抗していたので、うっかり水場をスルーして白鳥小屋に到着してしまった。白鳥小屋には他にも3パーティー、5名の先行者がいた。皆さん、山岳会の方のようでかなりの健脚・経験豊富そう。
 色々話を伺ったところ、白鳥小屋泊で水を汲んでくるなら、北又か黄連の水場。白鳥小屋から最寄りの水場は枯れていて、ここから1時間半の日本海側にあるシキ割の水場は出ているらしい、とのこと。
ここで自分の残水量を確認したところ、残り1L弱となっていたので、少し焦りを感じたが、他の方々もそのような状況のようだったので、まぁ大丈夫かなと無理矢理楽観視してやり過ごした。
 念のため、明日用の行動水をナルゲンボトルに入れて確保しつつ、それ以外をアルファ米などの調理に使ったが、我ながらこんなに水に気を使った山行は初めてだ。水に恵まれた昨日の山行とは全く様相が異なるので、単独行だと色々なところに気を配らないといけないなぁと改めて実感した。
夜は黄連の水場でお会いした方とお酒を飲みながらお話しして、早めに就寝。

青空と日本海ブルー 【8月13日】
 昨日は予定を繰り上げて白鳥小屋まで進んだので、今日はゆっくり5時スタートの予定だったが、3時前に目が覚めてしまった。そのため、予定よりも早めに起床し、緑茶とカロリーメイトで軽めの朝食。
 夜明け前の4時20分には、ヘッデンをつけてスタート。暗くて歩くのは少し怖いが、虫は明るい時に比べて少なく、涼しい。今回は軽量化のため、熊鈴を持っていかなかったので、ストックを叩き、音を鳴らしながら歩く。途中、トレランの人とすれ違った。
 最終日を歩ききるには心許ない残水量だったため、今日の核心は、「水の確保」である。昨日、色々な人から聞いた話から、おそらく水が出ていると思われるシキ割を探して歩いていたところ、沢の音がし始めた。地形図とスマホGPSを見ながら、やっと水場を見つけて安心した。この後は、もう大丈夫。
 朝早く出発したおかげで、思っていたよりも涼しく快適な下山ではあったが、暑さによるバテを避けるため、多めに休憩をいれながらゆっくり歩いた。
 途中、登山道から憧れの日本海が見えると嬉しさが込み上げてくる。
今年イチ美味しいビール  栂海新道の日本海側登山口に到着すると、栂海新道を開拓した小野さんの情熱や一緒にこの道を切り拓いてくださった方々への感謝の気持ちが湧いて胸が熱くなった。それと同時に、やっと自分の長年の夢を叶えることができたという感動が込み上げてきた。
 登山口でボケーッと突っ立ている私の様子を見て気になったのだろうか、車道を挟んだ駐車場にいたご夫婦が、大きな声で「どこから来たのー?お疲れ様!!」と声をかけてくれた。今の私には、「お疲れ様」の言葉が心地よく、とても有り難く感じられた。
 その後、なんとなく親不知観光ホテルの駐車場にあった自動販売機を覗いてみて見たものの、コーラやサイダーといった炭酸飲料は全て売り切れていて絶望する。
 最後の望みをかけて親不知観光ホテルの受付の方に、後ほどお風呂には入らせて頂きますが、その前にシュワシュワした物頂けたりしませんか?と聞いたら、ビールはありますよ、とのこと。もちろん有り難く購入させてもらい、冷たいビールとともに荷物を背負ったまま、日本海への長い階段を降りる。
 最後は、日本海の目の前で乾杯!!!
 汗まみれの登山服のまま、日本海に飛び込んで泳ぎ、久々の海を満喫した。
 親不知観光ホテルは少し古い建物だが、オーシャンビューのお風呂はとても素晴らしく、シャンプーリンス、化粧水や乳液など一通り揃っていたのが有難かった。
 入浴後は、ホテルの方に親不知駅まで送迎してもらった。送迎してくださった方の話しでは、今時期が夏の最盛期であり、石(翡翠)拾いに来る方も多いのだとか。車の窓から見える丸っこい石に覆われた海岸は、生まれ故郷のそれとは違い、目新しく映る。
 その後は、糸魚川駅近くにある民宿古畑へ。ツェルトや雨具など、装備一式を乾かせてもらい、翌日は雨飾山へ向かった。

この旅の終着点

〈移動〉
 最寄り駅~平岩駅:特急あずさ・JR大糸線
 平岩駅~蓮華温泉:糸魚川バス
 親不知観光ホテル~親不知駅:親不知観光ホテル送迎バス
 親不知駅~糸魚川駅:日本海ひすいライン
 糸魚川駅~東京駅:北陸新幹線はくたか

〈コースタイム〉
【8月11日】 蓮華温泉キャンプ場(5:15) → 朝日岳(13:30) → 朝日小屋(14:20)
【8月12日】 朝日小屋(3:45) → 朝日岳(4:40) → 栂海山荘(12:00~12:45) → 白鳥小屋(16:30)
【8月13日】 白鳥小屋(4:25) → 坂田峠(6:35~7:00) → 栂海新道登山口(9:40)

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