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雪山登山・槍ヶ岳
鈴木 一彦

山行日 2022年12月30日~2023年1月1日
メンバー (L)鈴木(一)、梅田

 冬の槍ヶ岳に登る。考えつくこともなかった山行を、自分がリーダーとして計画するとは思わなかった。きっかけは前年の荻さんリーダーの同じ計画。参加を許されるか確信持てないまま申し込んだが、メンバーに加えてもらい、その時は深く考えることなく山行に臨んでしまった。悪天に阻まれ、まさかの1泊になってしまったが、「来年も頑張ってよ」と言われたことを真に受けて、リベンジを企ててしまった。
 5月には残雪期に同じルートを辿る偵察山行を実施し、本番に向けてメンバーを募ったが、梅田さんと2人だけで行くことが濃厚になった時点でだんだんと焦りを感じてきた。雪稜の経験もなく、果たして穂先に登れるのか? 11月の声を聞いてから付け焼き刃のトレーニングが始まる。直前に経験した岩場でのアイゼントレーニングが印象深い。そんなあれこれがありながら、あっという間に本番を迎えた。
 2週間前から天気予報をにらんで、当初は元旦をアタック日に定めた。前後2日間の余裕を持って日程を押さえていたため、気持ちには余裕がある。中崎尾根上で泊まる計画で29日出発を決定した。前夜泊は奢って温泉旅館で一泊。ここまで万全を期したのは初めてだ。ぐっすり休んで、軽やかな足取りで新穂高ロープウェイ登山口に向かう。長い林道歩きも完璧なトレースがあれば楽勝。槍平小屋には14時過ぎに到着してしまった。小屋は一杯で入れなかったが、気兼ねしながら泊まるよりも、、ということでテントを設営。3人用テントに2人なので快適だ。ラジオの天気予報を肴に軽く一杯やりながら今後の行程を話し合った結果、どうやら天気は31日が一番良さそう、しかもその後は悪化が早まりそうだということになり、槍平からの日帰りアタックに変更。宴会も短縮し、翌朝の2時起床を目標にまだ僅かに日が残っている時間に就寝した。
 翌朝、目標の3時には大分遅れてしまったが、3時40分に出発した。アタック装備だけなので足取りは軽い。しかも明瞭なトレースを追うだけなので迷うこともない。前年、重装備と急傾斜に喘ぎながら挑んだ中崎尾根も、今回はわずか1時間ほどで稜線に到達してしまった。スタートの遅れを取り戻してあまりあるペースに登頂への期待が膨らむ。まっくらな稜線をヘッドライトの明かりを頼りに進んでいると、槍ヶ岳、大喰岳あたりにチラホラと登山者の灯りがうごめいている。振り返ると滝谷あたりにも左右に閃くヘッドライトの明かりが。飛騨沢にも隊列を組んだ灯りの群れが歩みを進めている。満天の星空の下、山を目指す者達が、こんな時間から目標を目指していることに感動を覚えながら歩く。途中、完璧なトレースを付けて前日に登頂を果たした人たちのテント村を通り過ぎ、心の中で感謝した。日の出とともに山々は色づいてゆく。いよいよ千丈乗越だ。予定よりもかなり早い。遥か遠くに裏銀座、後立山が見える。どの山も真っ白。これが冬のアルプスか。我が目でこんな光景を見られるなんて思いもしなかった。そして見上げる「槍」だ。槍の肩までの急登も先を思えばあっという間。槍ヶ岳山荘から見上げた穂先はハシゴもはっきり視認できる好コンディション。登攀用具も必要なさそうなので、全て小屋にデポ。ピッケルだけを持ってアタック開始だ。快適に登って10時ちょうどに登頂を果たした。360度の大展望。今、自分は冬の槍ヶ岳にいる。何もかもがスムーズだった。感動と言うよりも、ほっとしたという印象が強かった。同じ時間に登頂した方々と写真を撮り合った後、下山の途に就く。下りは飛騨沢だ。ひたすら下るだけで、あっという間に槍平に帰り着いた。テントに戻ったら、もう飲むしかない! 前夜、我慢した分、2人だけだけど大盛り上がり。ラジオで紅白を聴きながら、カラオケ大会だ。さすがに行く年来る年までは持たなかったが・・・。
 あとは帰るだけ。予定よりも1日早い下山になり、余った日程で何をしようと話ながら車を目指す。駐車場に着いて下山報告を済ませて温泉に向かった。汗を流した後、東京で打ち上げしようという話になり、高速を走っていると、南アルプスの光岳チームも予定より早く下山した事を知り、合流しようという話がまとまった。笹山に向かったパーティーとは惜しくも合流できなかったが、帰京後の大宴会は互いに年越し山行を成功させた土産話で大いに盛り上がった。
 1年越しの計画。偵察山行など初めての経験尽くし。何よりも「行きたい」と願った山に登れる喜びを実感した、忘れることのできない山行だった。奮起を促してくれた梅田さんに感謝。

〈コースタイム〉
【12月30日】 新穂高温泉登山口(8:15) → 穂高平小屋(9:35~9:55) → 白出沢出合(10:45) → 滝谷避難小屋(13:25) → 槍平小屋(14:35)
【12月31日】 槍平小屋(3:40) → 中崎尾根(4:50) → 千丈乗越(7:30) → 槍ヶ岳山荘(9:00) → 槍ヶ岳(10:00) → 槍ヶ岳山荘(10:45~11:15) → 飛騨乗越(11:25) → 飛騨沢千丈乗越分岐(12:30) → 槍平小屋(14:40)
【1月1日】 槍平小屋(9:00) → 滝谷避難小屋(9:50) → 穂高平小屋(12:00) → 新穂高温泉登山口(12:55)

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