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雪稜登攀・鹿島槍ヶ岳東尾根
石毛 恵
髙橋 俊介
梅田 尚子

山行日 2023年5月2日~4日
メンバー (L)高橋(俊)、梅田、石毛、他1名

 今年のGWは北アルプス後立山の代表的な雪稜ルートである鹿島槍ヶ岳東尾根に三峰メンバー3人と元三峰会員のTさんの4人で行ってきました。  これ以上ない位の好天の中、とても充実した3日間を過ごすことが出来ました。

【5月2日】快晴(記録:石毛)
 前夜Tさん宅に着いたのが23:30頃、そこから宴会が始まり、終了したのは恐らく3時頃。私は途中で宴会を抜けて横になったが結局あまり寝付けず。一日目の行程がこなせるか不安になる。
 朝5時に起床。寝ている俊介さんと梅ちゃんを起こす。どうやら半分酔っ払った状態のようだ。その後、なかなか起きないTさんに対して、梅ちゃんが「ドーン」と叫びながらダイブするという斬新な方法で起こしていた。
 早々に準備をしてTさん宅を出発。大谷原の駐車場へは8時前に到着した。停まっている車を見るとほとんど釣り師のようだ。入山者は少ないのかもしれないなと思いながら準備を整えいざ出発。
 天気は文句無しの快晴だが、全員寝不足の上、内3人は二日酔い気味で足取りが重いが、それでもこれからの行程にワクワクする。本日の目標は二ノ沢ノ頭まで。
 林道を15分程度歩くと堰堤横の取り付きに到着。スタートから急登を130m程上がると東尾根に乗る。この時点で俊介さんの調子が大分悪そうで、3人の後ろを遅れて付いてくるといういつもとは違う珍しい隊列に。
 東尾根は藪が酷い為、積雪期限定のルートだが、今年は雪が少ない為に下部は藪漕ぎが続く。重い荷物を担いでの藪漕ぎで、顔も傷だらけになるし、体力が削られて、とにかくしんどい。心が折れそうになったが、藪の隙間から見えた爺ヶ岳の美しさに気持ちが奮い立つ。
 そんな中、俊介さんから突然の回復宣言。どうやら山の神様に2回ほど捧げものをしたらしい。罰が当たらないと良いけど・・・
 1,750mを超えた辺りからやっと雪が出て来たので、アイゼンを装着。藪と雪のミックスルートを歩く。気温が高い為、雪はぐずぐずな状態だ。
一ノ沢ノ頭 爺が岳をバックに眺望最高!!  途中斜面をトラバースする箇所で目の前を歩いていた梅ちゃんが足を滑らせ滑落!!藪が出ていたことが幸いし10m程で止まった。声を掛けると「大丈夫」と返事があり、自力で上まで登ってきた。鼻の上に傷があったが大きなケガもなく、本当に良かったと胸をなでおろす。梅ちゃんは「2度と二日酔いで山には入らない」と誓っていた。(皆さんこの宣言忘れないでね)
 その後、本日一番の激藪を抜けると一ノ沢ノ頭直下の130m程の雪壁が見えてきた。雪の状態も悪いので念のためロープを出すことに。
 俊介さんがリードで50mいっぱいまで登っていく、フォローで登ってみると、雪はぐずついているが問題なく登れた。その後も念のため2ピッチ程ロープを出して登り、一ノ沢ノ頭へ到着。
 目標は二ノ沢ノ頭までだったが、一ノ沢ノ頭も幕場適地であり、4人ともヘトヘトなので、迷わずココを本日の幕とする事に決定。ブロックを積み、整地をし、テントを張って16時。風も無く、日が出ていてまだ暖かいので外で水作りと宴会を開始する。
 左手には爺が岳、右手には五竜岳~白馬岳そして正面には明日登る鹿島槍ヶ岳という最高の景色を満喫。
 日が落ちてからはテントに入り、Tさん特製の柚子胡椒風味の鶏鍋を美味しく頂き、呑んで歌っての大宴会に突入。リーダーからは「今日の遅れを取り戻す為に、明日は3時起きだから20時30分には寝るぞ!!」と指示があったが、20時30分になると「誰がそんなことを言ったんだ」「あと30分だけ続けよう」と、粘りを見せるが、前日の寝不足と初日の疲れから全員21時には就寝。
 「楽しくてテンション上がりすぎて、俺寝れないよ」と言っていた俊介さんだったが、消灯1分後にいびきが聞こえた時には本当にびっくりした。
 初日から色々あったけど、とにかく明日無事に登頂できることを祈り眠りについた。

【5月3日】快晴(記録:高橋(俊))
 昨日は計画より手前の一ノ沢ノ頭でテン泊してしまったため、3時起床5時出発。珍しく寝坊せずにみんな起きた。今日も天気予報通り快晴、圧倒的な威圧感がある荒沢奥壁と、いまから向かう鹿島槍北峰から伸びる東尾根が登攀意欲をそそる。
 二ノ沢ノ頭までは藪と雪のミックス帯。例年より雪解けが早いのだろう、雪稜というより半分以上藪漕ぎである。昨日の一ノ沢ノ頭までもそうであったが、重荷を背負っての藪こぎが思いのほか体力を消耗する。
急斜面 気の抜けないトラバースが続く  二ノ沢ノ頭で一本取っていると、第一岩峰から一人下降してくるのが見える。途中のすれ違い時に挨拶すると、
 「パートナーがロープを忘れて今からロープを取りに行ってくる。」
 「ロープ忘れるとか、マジでありえない。相棒がどうしようないクソバカなんすわっ」
 と、ブチ切れモードの女性であった。
 ロープ忘れるってどこに???駐車場??いまから戻って引き返してくる??相棒はどこ??などなど、クエスチョンマークだらけであったが、ガチギレしていてとても聞ける雰囲気でなかったので、我々は我々のペースで登っていく。

第2岩峰1P目  第一岩峰基部に到着すると、先ほどの相棒と思われる若手男性がテン場整地のため、ブロック雪をかきだしていた。聞くとぶなの会所属とのこと。すんごい怒られたんだろうな・・・と思われる感じの背中で哀愁が漂っていた。
 ここからロープを出す。浅いルンゼ状を右上し1ピッチで抜ける。その上部も傾斜の強い雪壁が続くがダブルアックスを効かせていけば問題なさそうであったので、第二岩峰までノーロープで進む。このあたりからはアドレナリン全開の雪稜モード。高度感もばっちりで、核心といわれる第二岩峰のCSがみえてくる。
 第二岩峰基部で再びロープを伸ばす。1ピッチ目は俊介リード。CS基部でいったんピッチを切る。
 2ピッチ目は、がっちゃんリード。ハーケンベタ打ちとの記録あったが、ベタ打ちほどはなく空荷で支点工作しフィックスロープを張った。後続も梅ちゃんを除いて空荷であがる。荷揚げに時間を要してしまったが、後続パーティーもおらず、貸し切り状態であったので、よしとする。
 ここから先はグランドフィナーレを飾るには申し分ないスノーリッジが北峰まで続く。このリッジ上では風に吹かれてしまうと、コンテで行っていても恐怖を覚えるだろう。
 無風快晴の中、鹿島槍北峰に登頂。メンバーと握手を交わし無事に登頂できた喜びを交わす。何度も鹿島槍には来ているが、なぜか天候に恵まれず、いままで登頂したことのなかった小生にとって非常に感慨深いピークであった。

頂上に続くビクトリーロード鹿島槍ヶ岳北峰登頂!!

北方稜線を望みながら  ここから南峰を経由して冷池山荘に向かうが、既に時間も15時を回っており北峰と南峰のコルに丁度良い感じの場所があったため、今日の行程はここまでとした。
 コルなので風の吹き抜け場所ではあるが、明日も天気よく暴風は吹かないと判断し早々にテントを張る。
 夕焼けに染まる剱岳北方稜線を見ながら、360度北アルプスの山々に囲まれて、同志と酌み交わす酒はサイコーである。今回の山行では「いいな~♪めっちゃ、いいな~♪」と、ずーーーーっと言っていた気がする。
 シュンスケ特製、水炊きを食べて就寝。

【5月4日】快晴(記録:梅田)
 いよいよ最終日。本日も快晴。核心は昨日越えたので、気持ちはルンルンお気楽モードだ。
 幕場から見えていた南峰へは、岩雪ミックスを越えて無事登頂!今回のメンバーは全員鹿島槍が初登頂ということもあり、思い思いのポーズで記念撮影大会がはじまる。

頂上ポーズ①頂上ポーズ②頂上ポーズ③ 四股ではなくY字バランス

絶景を横目に  撮影大会も一通り終わり、一息ついたところで再出発。ここから冷池山荘までは完全に夏道が出ているためアイゼンを外した。剱をはじめ北アルプスの絶景を眺めながら歩けるご褒美タイムとなった。
 途中の布引山で休憩しているとヘリが飛んでいた。冷池山荘そばから滑落したらしい。とても他人事とは思えない。下山後にニュースで軽傷だと知り、ほっと胸をなでおろした。
 冷池山荘を越え、赤岩尾根へ向かうトラバースポイントからはアイゼン装着。ここからまた気を引き締めなおす。トラバースは気温上昇により雪が非常にゆるくなっており、慎重に渡る。

赤岩尾根に向けて慎重にトラバース  怖いな~と思いながらも無事通過し赤岩尾根に乗ったが、この尾根がまた何とも歩きづらかった。バックステップの方が楽に下れて、バックステップと尾根下りを混ぜながら、2,300m地点まで到達。このポイントからは西沢に下りられそうだったので、下りづらい赤岩尾根ではなく、西沢で下ることに決定。ただ、西沢の雪渓に降り立つ手前の砂利部分が滑りそうだったため、ハイマツを支点に50m 1本で懸垂して西沢におりた。
 ここからはひたすら西沢を下る。雪崩や落石の危険があることから、先頭の俊介さんが休みなくずんずん進んでいく。何度となく休みたい気持ちに駆られたが、仕方なしに追いかけるように一心不乱に下った。だいぶ下りて、比較的平らになり危険が少なくなったポイントで俊介さんがようやく止まってくれた時はホッとした。
 ここからは雪が薄ーくなっており、雪が割れて沢にドボンしたり、岩にあたったりの恐怖のロシアンルーレットを通過し、林道手前の沢を通過するポイントまでやってきた。あとはスノーブリッジの上を通過するだけで楽勝だ。と思いきや、1週間前の記録で見た立派なスノーブリッジが見当たらない・・・最近の夏のような暑さでスノーブリッジが壊れてしまっていた。結局、少し上流側に行ったところで水深が少ないところを裸足になって渡渉した。

最後の渡渉 雪解け水が冷たい

 最終日は余裕のウィニングランと思っていたが、なんだかんだで内容の濃い非常に充実した1日となった。
 初日のプチ滑落ではじめはしょぼーんとしていたが、3日間終わって振り返ると、天候、景色、ルートすべてが大満足な山行だった。

〈コースタイム〉
【5月2日】 大谷原駐車場(8:00) → 一ノ沢ノ頭(15:00)
【5月3日】 幕場(5:00) → 二ノ沢ノ頭(6:30) → 第一岩峰基部(8:30) → 第二岩峰基部(11:30) → 鹿島槍ヶ岳北峰(15:40) → 幕場(16:30)
【5月4日】 幕場(7:30) → 南峰(8:10~8:30) → 布引山(9:20~9:35) → 冷池山荘(10:10~10:30) → 渡渉地点(14:40~15:00) → 駐車場(16:00)

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