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雪洞訓練・タカマタギ
鎌倉 季美恵

山行日 2023年3月4日~5日
メンバー (L)菊池、小幡、紺野、金子、小芝(泰)、長浜、橋本、鎌倉

 雪洞とは一体何なのか?かまくらのようなものかしら?鎌倉がかまくらに入る・・・フフッ。寒いギャグを心の中で呟いた。
 会に入りたての私は行けそうな山行はとにかく行きたかった。既にメンバーの締め切りはされていたが無理矢理入れてもらった形だ。

【3月3日】
 22時に東京駅集合の小芝車と新宿駅集合の菊池車の二手に分かれ出発をした。
 埼玉県を越えた辺りで高速道路の交通規制で深夜に大渋滞にはまってしまった、この時間からでは前泊で使用予定だった石内ユングパルナスに8人は定員オーバーで泊まる事は出来ないかもしれない、と言うことで小芝車チームは前橋の快活クラブで一夜を明かす事になった。菊池車は予定通り石内ユングパルナスで前泊をした。

【3月4日】
ワカン装着!ぐんぐん進みます  6時半に集合場所である土樽駅に到着。土樽駅の中を覗くと風が避けられる程度の9畳位の待合室がありここで前泊をする方も多いようで我々が到着したと同時に土樽駅から出発したパーティーが2組ほどいた。
 各々準備を整えて7時15分にスタート。まずは登山道まで公道を歩く。15分ほどして登山口が現れた、毛渡沢のすぐ横でわかりやすい入口だ。ここにも車を停める事ができるようで4台ほど既に停まっていた。ここから菊池リーダーを先頭に1列で歩いた。
 この日、我々より先に山に入ったのはスキーヤーの方のようだ。スキー板のトレースに合わせて歩くと踏み抜きが多くかなり体力を使ってしまうので早々にワカンを装着した。
一心不乱に掘り続けます  登山道から30分ほど歩くとやや急登が現れたが、菊池リーダーのラッセルのおかげでかなり歩くやすいトレースを後列者は踏む事が出来た。
 急登を越えると雪が絞まっていたので初心者の私を含めて数人で先頭を交代して歩いた。
 数回休憩を取って12時辺りに棒立山山頂のすぐ下に着いた。どうやらここが雪洞を掘る場所のようだ。どう見ても急斜面である、小さめなデブリが肉眼で確認できた。雪崩の危険性もあるのでビーコンをここで装着した。
 昼過ぎから天気が徐々に崩れ始め辺りはガスに包まれやや吹雪出していた。雪洞職人の小幡さんが早々に雪洞に適しているか先行して確認に行った。ゾンデ棒で雪の高さを大体測り、良さそうな位置に掘るため素早く足場を作った。
 この日は8名と大所帯、大きな雪洞が必要という事で3箇所から穴を掘り始めた。2人1組になり1人が掘りもう一人が掘った雪を斜面に落とす係だ。
 皆一心不乱で雪を掘り始めた、スコップを雪に突き刺しスノーブロックを作って掘り進める、1mほど掘ったところで異変に気付いた、奥底の雪は水分量が多く硬い雪になっていたのだ、ここからはスコップが思うように刺さらず掘れる量が減っていき少々苦戦を強いられた。
巨大雪洞で宴会!!  2時間ほど経った頃か、掘削メンバーの猛烈なスコップさばきによりついに3つの雪洞を開通させる事が出来た。
 16時頃、小幡さんのトイレ作りが始まった。まずは雪洞よりやや奥の斜面に1.5畳ほど雪を平らにして足場を硬めた。足場の周りにはスノーブロックで目隠しの壁が1.5mほどの高さに積まれた。そしてしっかりと硬くなった足場の真ん中にB4サイズほどの長方形の穴をスコップで堀る。最後にトッピングと称された便器の方向を示す小さ目なスノーブロックが添えられた!雪山でこんなにもトイレらしいトイレが建設されるとは思わず、この美しさに感動した。おそらく、このトイレはこの時、日本一の絶景トイレだったであろう!
 17時前に雪洞完成!メンバー全員が雪洞に入ると外の寒さが嘘のように暖かく、風の音も無く快適さに驚いた。雪の遮熱、遮音効果を身を持って体感する事が出来た。
 日も暮れた頃、皆で持ち寄ったお酒やおつまみをつつきながら談笑したり、水作りをしたり8名と大人数ならではのにぎやかな時間を過ごした。
 そして待ちに待った夕飯が始まった。この日のメニューは体の温まる鳥のダシの効いたお鍋。スープに野菜とキノコ、肉の旨みがしっかりと入り、身体にじわっと沁みる最高の夕飯であった。そして第二ラウンド用に味変として生姜のすりおろしを入れるという!身体がぽかぽかに温まる最高のメニューを長浜シェフが用意してくれたのであった。
 〆はお鍋のスープを使ったラーメン。最後まで美味しくお腹がパンパンになるまで食べてしまった。
菊池リーダーをケーキで祝います!  ここで小幡さんがガサガサと荷物をあさりロウソクを取り出した。お仏壇用だろうか、白く細長いシンプルなタイプだ。雪洞内の壁に施された棚にロウソクを設置し火を灯してからランタンの明かりを消した。すると心地よく揺らめく火の光で雪洞内は照らされて雪洞自体が大きくて優しい生き物に命が宿るような感覚を覚えた。小さな炎に生物のエネルギーを感じる体験は私だけであろうか。
 ロウソクを堪能した後は、恒例(?)の小幡さんのリサイタルコンサートが開催された、3曲ほど熱唱された小幡さんの力強い歌声は雪山と私の心に深く響いた!
 そして偶然にも前日に38歳の誕生日を迎えた菊池リーダーを、蒸しパンとみかんを美しくフュージョンさせた橋本シェフお手製の誕生日ケーキでお祝いをした。もちろんケーキに立てたロウソクは小幡さん持参のお仏壇用のロウソクだ。まさか祝われると思ってもいなかったというような驚いた菊池リーダー、甘いものは別腹である誕生日ケーキは一瞬で胃に消えていった。完璧なサプライズは大成功であった。
 21時頃、明日の予定を確認し就寝。
 雪洞内は暖かく、無音で個人的にはテントより快適に寝る事が出来た、しかし場所によっては天井から水滴が滴り終始水滴を浴びるポジションの方もいたようだ。

【3月5日】
最高の天気!さらば雪洞!  5時半に起床。まずは用を足すためにのそのそと雪洞を出た、そこで見たのは雲一つない絶景!日の出前の赤い空に谷川連峰のシルエットがまるで切り絵のようなコントラストでくっきりと映し出され、静かに太陽を迎えようとしていた。やはり家は南向きだ、とぼんやり考えながら絶景トイレから景色を眺めたのであった。
 朝食後、荷物を片付けて出発の準備をした。最後に雪洞の前で集合写真を撮り一夜を過ごした雪洞との別れを惜しみつつ7時半に下山を開始した。(メンバーの疲労度を見てタカマタギピストンはせず下山に変更された)
 この日の天気は最高であった、朝から雲は全く無く無風で太陽に照らされた白銀の山々がキラキラと輝いて美しさを際立たせていた。
 下山は歩く速度によって3パーティーに分かれた。最初に菊池リーダーが早めに下山し車を登山口まで移動させてくれていた、10時半頃私を含めた2パーティー目が登山口に到着、12時過ぎに最後のパーティーも到着した。
 片付けをしてから近隣の温泉、駒子の湯へ全員で伺った。2日間の疲れを温泉で癒し、行きのメンバーと同じ車にて帰路についた。
 今回の雪洞訓練では雪洞に適している場所や掘方を大まかに学ぶことが出来た。8人と言う大人数の雪洞だった事やトラブルもあり掘削作業にやや時間がかかってしまったが、実際ビバークに追い込まれた際は素早く雪洞を完成させなければならない、その為には日頃からスコップワークを身体に馴染ませもしもの時の対応策を常に頭に入れて行動しなければならないと感じた。
 初めての雪洞訓練では多くの事を学びベテランの大先輩達との交流が出来た山行となった。

〈コースタイム〉
【3月4日】 土樽駅(7:15) → 登山道入口(7:30) → 雪洞泊地(棒立山)(12:00) → 雪洞掘り開始(12:30) → 雪洞堀り終了(17:00)
【3月5日】 雪洞泊地(棒立山)(7:30) → 登山道入口(10:30)

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