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90周年記念山行・富士山 主杖流しルート
小芝 泰規

山行日 2023年6月24日~25日
メンバー (L)小芝(泰)、小芝(麻)、梅田、坂井、佐藤(功)

 2006年の岩つばめで主杖流し(執杖流し)の記録を読んで、いつか行ってみたいと思っていた。それから仲間との山行に夢中になっているうちに頭の片隅に追いやられてしまっていたが、90周年企画のテーマが「世界遺産」と聞いて、その記憶が一気に蘇った。
 一般的に主杖流しと呼ばれるのは6合目から山頂までのスラブ帯だが、その下の樹林帯の涸沢も遡行できるらしいので、今回は2日に分けて上下を繋げる計画にした。

【6月24日 曇り】
入渓後すぐに現れる20m滝  トイレのある高鉢駐車場に車を止めて車道を15分ほど上がると、左側の縁石が切り下がったところからひっそりと旧バス道が始まっている。現在は車が通れるはずもなく自然に返るままになっているが、比較的大きな造成の痕跡を目にすることもあり、遺跡巡りをしているような気持ちになる。途中道をショートカットしながら1時間半ほど歩くと、堰堤のある深沢入渓点にたどり着く。
 深沢は涸れ沢で水流を見ることはなかったが、溶岩流が作り上げた滑らかな沢床やナメ滝は水の流れを連想させる。身支度を整えて歩き始めるとすぐに20m滝が2つ連続して現れたので、まとめて左から巻いた。
水流のように波打つ岩が続く  しかし、この滝を越えるとまたすぐに25mほどの滝が現れたので、これは右側のルンゼから巻いた。高巻き自体大したことは無い。しかし沢床に降り立っても水が無いので、少々頭が混乱する。この調子だとヘッデン下山になりそうだと思ったが、そこからは緩い傾斜の溶岩スラブと積石に変わり、明るく開けた感じに変わったのでペースが上がった。
 途中で沢の前方が大きく崩壊した場所があるが、左右から難なく巻ける。3m程のえぐれた泥付きを上がる所が1カ所だけあったので、ロープをFIXした。その後は二俣を右に進み、順調に高度を上げて入渓から4時間程で主杖流しの取付きに到達した。
 その後はお中道を辿って富士宮口五合目まで行き、村山古道から駐車場に戻った。村山古道は苔むした樹林帯にある静かな登山道でよく整備されていた。

【6月25日 曇り/晴れ】
主杖流し取付きを見下ろす。まるで滑走路!  麓から富士宮口五合目登山口まで車で上がると、山開きしたかのような賑わいだ。昨日の道を辿って五合目から2時間ほどで主杖流し取付きまで戻った。樹海までまっすぐ下るスラブを見ていると平衡感覚がおかしくなってくる。上半身をスーっと樹海に引き込まれるような独特の感覚にとらわれた。
 主杖流しルートは登り始めて暫くは岩登りとまでは言えない程度のスラブをひたすら登る。ぐんぐんと高度を稼げてとても楽しいが、傾斜がそこそこあるので調子に乗って登りつづけるとすぐに息が上がる。
 楽しいスラブ地帯も上に行くに従い途切れ途切れになり、その間を埋めるように歩きにくい溶岩石の玉砂利と積石地帯が増えてくる。ここを歩くと落石を起こしやすいので、足場の良い溶岩地帯を選んで進んでいくと気象観測所が見えてきて、自然と剣が峰直下の登山道に飛び出すことができた。
 そのまま僅かに残る登山道を登り、無事に頂上へたどり着くことができた。
 今回は天候とメンバーに恵まれて2日間で無事にルートを繋げることができた。今まで知らなかった富士山の様々な表情を見ることが出来た充実の記念山行になりました。楽しい山行にしてくれたメンバーに感謝!これからの10年も山で里で楽しく遊びましょう!

スラブが切れてくると頂上も近い。祝90周年!気持ちよく登頂できました。

【メンバーから】
梅田:
 これまで富士山は何度も行ったことがあり、本当に面白くない山(失礼)だと思っていた。それが今回いい意味で大きく裏切られた。こんなに表情が目まぐるしく変わる山だとは思わなかった。下のバス道は浪漫が溢れていた。溶岩のスラブの迫力も凄まじかった。
 主杖流しの企画を出してくれて感謝です!

小芝(麻):
 ノスタルジックな登山道、連続する涸滝。迫力満点な溶岩と、そこに咲く可愛らしい花。目を凝らせば、雲海の先に見える富士山の次に高い北岳。2日間かけて歩いた主杖流しは飽きることがありませんでした。富士山という山の素晴らしさを改めて感じる事ができ、とても深く私の記憶に刻み込まれました。まさに90周年記念山行に相応しいルート!楽しいメンバーと行け、本当に良い思い出になりました。

佐藤:
 富士山には4回登っているが、高山病で剣ヶ峰までは行っていない。もう登る事はないと思っていた。
 溶岩の上を登り剣ヶ峰まで行くルートがあると知り、高山病の不安があるが参加させてもらいました。
 ダイナミックな溶岩スラブ、下部の大滝、古道を歩いて下山など、2日間、一般ルートとは違う刺激的な富士山を体験することができ感激です。また、とりつきまでのお中道、旧バス道など、リーダーの事前調査に感謝です。

坂井:
 変化に富んでいて(特に下部)いろいろな景色を楽しめる好ルートでした。ヘロヘロになっている時に見た、雲海に浮かぶ南アルプスの山々の美しさが一番印象的でした。一人足並みが乱れてしまいましたが、みんなと一緒に登頂できて良かったです。ありがとうございました。

【装備など】
 装備は2日ともラバーの沢靴で快適だった。初日の深沢は全て高巻き、懸垂下降もしなかったのでロープは10mで足りたが、今後の崩壊と万が一の敗退を考慮すると30mが良いかもしれない。アイスハーケンとチェーンスパイクも持参したが、無くてもOKでした。トップだけバイルがあると両岸の高巻き時に崖を突破しやすいかもしれません。滝の下部はほぼ崩壊していて、壁面が玉砂利状にザレているので登攀には不向き。
 2日目の主杖は落石に気を付けながらガンガン登れます。

〈コースタイム〉
【6月24日】 (下の)高鉢駐車場(6:00) → 旧バス道入口(6:15) → 深沢入渓点(主杖下部)(7:10~7:30) → 主杖流し取付き(主杖上部)(11:30~12:00) → 富士宮口五合目登山口(お中道経由)(13:00~13:30) → 高鉢駐車場(村山古道経由)(15:30)
【6月25日】 富士宮口五合目登山口(5:00) → 主杖流し取き(お中道経由)(7:00~7:30) → 剣ヶ峰(12:00~12:30) → 富士宮口五合目登山口(富士宮登山道経由)(15:00)

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