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沢登り・楢俣川ヘイズル沢左俣右沢
川口 修

山行日 2023年9月2日~3日
メンバー (L)川口、清水、飯塚

 今年の6月に澤野さんとナルミズ沢に行った際、同日三峰の別パーティがヘイズル沢に入っており、「行きたいな~」などと話をしたところ、「じゃあ行きましょうよ」と言っていただき、例会で募集することとした。早速ミーコさんから参加表明があり、直前のルームでヨーコさんも参加することとなった。これは賑やかになるぞ、と楽しみにしていたところ、残念なことに直前に澤野さんが体調不良で辞退となってしまった。結果期せずして今年7月の知床海岸ルートを一緒に歩いたメンバー3人での沢登りとなった。
 1日の夜、東所沢駅に集合、水上で前泊して朝5時に始動、コンビニで朝食を済ませ、6時過ぎには楢俣林道のゲート前に到着したが、すでに車が5~6台停まっており、沢装備のほか釣り師らしき人の姿も・・・さすが人気の沢である。ヘイズル沢には何パーティ入るのか、近くにいた若者3人パーティと挨拶を交わしたところ、やはり行先はヘイズル沢とのこと・・・幕場に一抹の不安を抱きつつ準備を整え6時半過ぎに林道ゲートから歩き始める。後々判明したが、この日はヘイズル沢に5パーティが入渓していた。
癒し系のナメが続く  連日酷暑が続いているが、標高もあり暑さはさほど感じない、このところの晴れ続きで水位の下がった楢俣ダムの景観に驚きつつ長~い林道を気持ちよく歩く。林道アプローチの長さがネックと言われるが、そこは7月の知床海岸ルートを3日間で完歩した面々、少々の長さの林道歩きは軽いウォーミングアップである。(単に東側の斜面に陽光が遮られてあまり暑さを感じなかったおかげか・・・)順調に2時間ほどでヘイズル沢の出合の橋に到着。そこからすぐに入渓せずに、さらに沢沿いに踏跡をたどり、踏跡の消えたあたりで装備を整え9時20分頃適当な斜面から入渓した。
 入渓した瞬間から歓声が上がる。見事な明るいナメ床が広がっているのだ。晴天の恩恵もあり、ひときわ明るいナメ床と澄んだ水にしばし見惚れる・・・美渓として名高いのもうなずける。ナメ床を基調とした穏やかで明るい沢筋が続く見事な癒し系沢である。
 遡行を始めると最初に「逆さくの字状」の10mの滝が現れる。これは右側を登り難なくクリア、これを過ぎるとどんどん滝が出てくる。美しいナメ滝の連続に歓声を上げつつ遡行を続ける。とにかく川床が美しい。 テンション高めで~  それほど難しい滝もなく、時折足を止めて明るい沢の景観を堪能しながら順調に進むと、少し深さのある小さなゴルジュにでた。「東京起点沢ルート100」の遡行図によれば「ゴルジュの出口3mは倒木を利用して上がる。」となっているが、出口付近にあったであろう倒木は流されており、ただ滝があるのみである。左岸の壁には足場はしっかりあるが、壁がかぶり気味になっていて見るからに難しそう、右岸はスラブになっているので、たいして距離もないから飛び込めば泳いで取り付けそうである。少し戻れば左岸側を高巻き出来そうだが、空身なら左岸のかぶり気味の壁が登れそうなので、ロープを繋ぎザックをおいて取り付いてみる。ゴルジュそのものは小さいので進めなくなったら、飛び込んで右岸のスラブに取り付いても上がれるだろうという算段である。壁はみたままのとおり、やや手前にかぶっているが、足はかなりしっかりしていて、進むのは難しくない、そのままジリジリ進んで上がることができた。右岸側スラブの上部に移動してまずは全員のザックを引き上げる。あとは後続もロープを使って右岸側のスラブに手繰り寄せれば難なくクリアできそうだ。最初にミーコさんがロープを繋いでゴルジュに入る。スラブの下まで引き寄せると簡単に上がってきた。どうやら今日の水流だと普通に泳いで右岸スラブに取り付くのが正解だったようだ。次はヨーコさんだ、すんなりクリアと思っていたら、ここでドラマが待っていた。ヨーコさんは今日が今年の初沢、しかも泳ぎも久しぶりらしく、明らかに背丈を越える深さのゴルジュに腰が引けて一歩が出ない。「ロープで引くので大丈夫ですよーっ」と声をかけても、躊躇いは拭えずゴルジュの入口で「いや~、こわい~」と右往左往が続く、ミーコさんと高みの見物である。数分の押し問答の末、意を決して入水、ロープで手繰り寄せると簡単に登ってきた。「意外と簡単だったね・・・」とのこと・・・。このミニゴルジュが今回の核心であった。(笑)
 その後の6mは、難しくないが、下部がヌメっていたためロープを使い安全第一で登り、二俣手前の15mは左岸から高巻いた。これが今回唯一の高巻きだった。これを越えるとすぐに二俣に出る。広くて気持ちのいい二俣でゆっくり一本取って左俣に入るとすぐに右沢への二俣が現れる。この右沢への二俣手前でもビバークの記録があるようだが、あまり幕場に適した感じの場所は見当たらなかった。
2段12mの上部  右沢に入るとほどなく2段12mが現れる。直登した滝ではこの12mの下部が少し難しかったように思う。落ち口付近に手ごろな木があったのでフィックスを張り順調に越える。
 その後も淡々と進みビバーク予定の1,400m手前に差し掛かると先行パーティがすでに幕を張って涼んでいた。少し上までみにいったがあまりいい場所がなくて戻って幕を張ったとのこと。3人で相談した結果、この辺りのビバークは難しそうだし、時間もまだ14時過ぎなので、次の1,600m付近にある第2堰堤のビバーク適地を目指すことにした。気を入れなおして遡行を再開すると間もなくこのルート最後の大きな滝でもある2段20mが視界に入る、すると左岸に平らな土地が・・・近くに寄ってみると広さとも十分でしかも滝を望める絶好のロケーション、幕場に最適ではないか!!ということで、ここを使わない手はない、舌の根も乾かぬうちにここでのビバークを決める。
2段20mこの下で幕となった  結果当初の予定通り1,400m付近での幕となった。早速タープを張り薪集め等のルーチンを済ませ、3時過ぎには開宴となった。その後、我々の幕場を横目に2パーティが滝を越えていった。いい幕場と天気に恵まれ、虫もほとんどいない。のんびり気ままに贅沢な時間を満喫する。日が暮れても空は快晴、焚き火とともに満天の星の下飲むお酒は最高である。思い思いに時間を過ごし気持ちよく眠りについた。
 翌朝は3時半頃起床し、焚き火と朝食と身支度をする。5時半頃には支度を整え、まずは目の前の2段20mに取りかかる。朝イチに高度感のある滝ということで慎重に登る。手も足もしっかりあり難しくはない、ただ後半のハイステップの処理にちょっとてこずるか、落ち口付近の適当な岩を支点にフィックスロープを張った。木を使う場合は少し上の方に行かないと適当な支点が取れそうもないので、その場合は30mでは足りないかもしれない。

朝イチの2段20m  滝を越えるとすぐに1パーティがビバークしていた。左岸側の藪を整地して幕場にしたようだ。さらにすぐ上の第1堰堤上の平らな箇所には最後に我々の幕場を通過したもう1パーティがビバークしていた。このパーティは年配の男性2人で、20mの滝を越えたのは17時過ぎと薄暗くなっていたことから、幕を張ったころには暗くなっていたのではないだろうか。その後は淡々と進み、1,600m付近の第2堰堤を越えるとそこにも1パーティがビパークしていた。ここも平らでいい幕場ではあるが、それほど広さはなく1パーティのみかな~といった印象。ロケーションとしても結果的に我々が使った幕場が一番良かったように思う。
 第2堰堤を越えると一気に斜度が増し、沢はどんどん細くなる。第3堰堤を越えると小川程度となり、最後のガレ場に行く前の補水をどこでするか見極めながら一気に高度を上げる。1,800mくらいで補水した後ガレた急登を稜線目指して詰めていく。ガレ場に入ると一気に眺望が広がり、眼下には楢俣ダムの全貌が、稜線の先には小至仏山の山頂や笠ヶ岳の特徴的な山容が目を楽しませてくれる。稜線直下には、ハイマツがあるものの背も低く密度も薄いため、藪漕ぎなしに10時前には稜線まで到達した。登山道脇でしっかり休憩の後、荷物をデポして小至仏山の山頂へ、眺望を楽しみ山頂で記念撮影の後下山を開始し、12時過ぎには鳩待峠に到着した。

小至仏山山頂にて記念撮影

 途中ミーコさんが予約してあるタクシーの時間調整をしてくれ、ほとんど待つことなくタクシーにて車の回収に向かうことができ、14時前には車を回収。湯ノ小屋温泉の湯本館でさっぱりして帰路に付いた。今回、ミーコさん、ヨーコさんが参加してくれたおかげで、非常に楽しい山行となった。

〈コースタイム〉
【9月2日】 楢俣林道ゲート(6:30) → ヘイズル沢出合(9:00) → 入渓点(9:20)~幕場(14:20)
【9月3日】 幕場(5:30) → 小至仏山(10:00) → 鳩待峠(12:00)

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