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縦走・裏剱(室堂~欅平)
長浜 理枝
鈴木 章子
野畑 祐子
芦田 慶太

山行日 2023年9月15日~18日
メンバー (L)長浜、鈴木(章)、野畑、芦田

【プロローグ(コトの発端)】記録:長浜
 昨年、下ノ廊下を歩いてから、次は裏剱を歩いてみたいなと思っていた。それは黒部の圧倒的な自然美を目の当たりにして心底感動したから、ということもあるが、アッコさんの山行計画書を見ていたことも理由のひとつ。
 あ、さすがアッコさん、面白いルートにいくなぁと思っていたら直前で中止になったのが気になった。理由は骨折、とのこと。そこからなんとなく、頭の中にそのルートの事が残っていた。
 今年の大集会で、アッコさんに再会した際に、次回挑戦する時は是非同行させてくださいとお願いし、ご了承いただいた。
 コストカットのためにテント2泊、小屋1泊という今思えば、か弱い(!?)女性達には少々タフな山行計画だったかもしれない。有難いことに直前にバタコさんが芦田くんを誘ってくれ、参加してくれることになったことで、なんとなくこのパーティーメンバーのフォーメーションが固まった。これで重装備の歩荷を恐れることはない。リーダーをやらせていただく身としても、少し気持ちが楽になった。

【10月15日】曇り 記録:長浜
 シルバーウィークの立山黒部アルペンルートの予約をするのに頭がいっぱいで、夜行バスの予約を・・・と思った頃には、時既に遅し。気づいたら東京から扇沢へ向かう夜行バスの女性用シートにはもう空きがなかった。そのため、私は東京から信濃大町まで夜行バス、信濃大町から扇沢までは路線バスでの移動となった。寝酒に飲んだお酒がダメだったのか、夜行バスも信濃大町の待合室でも、ほぼほぼ一睡もできなかったのが辛い。横になれたら、しばらく寝たかったのだが・・・。
 信濃大町ではアッコさん、その後、室堂で芦田くんとバタコさんと合流。朝から駅弁屋さんとホタルイカ屋さんに笑わせてもらった。
 室堂に着くと下界よりもずいぶん涼しく、少し雨もぱらついているような気配だったので、各自軽食を食べたり雨具を着て身支度を整えた。
 室堂~雷鳥沢まではアップダウンなく、少し色づいている草紅葉や地獄谷の風景を楽しみながら歩くことができた。

秋の気配オコジョ初対面

 しかし、雷鳥沢から剱御前小屋までは急登・・・いつも以上にヘロヘロになりながら登った。(今後は、初日前泊のお酒を控えようと心に誓った。)
 夕食の食当はバタコさん。作ってくださった、きのことウィンナーのマスタード炒めや鰻茄子丼がめちゃくちゃ美味しすぎて疲れた体に沁みた。最初は重装備に怯えて全て個食でやり切ろうとしたが、やはり共同食にして大正解だった!!美味しい食事と楽しい話は山の生活を豊かにしてくれる。
 明日に備えて、初日は早めに就寝した。

【9月16日】晴れのち雨 記録:芦田
 4時起床。私は風下だったのでそこまでではなかったが、風上に寝ていたメンバーは風が強くてあまり良く眠れなかったそう。個食で簡単に朝食を済ませて6時に剱沢キャンプ場を後にする。ゆっくりと剱岳の険しい岩稜を左に見ながら、谷沿いのガレ場を下っていくと段々と雪渓が見えてくる。初めて間近で見る雪渓は、水の流れる音や雪の崩れる音が新鮮で迫力があった。

剱沢雪渓めちゃくちゃ怖い鎖場

 例年は雪渓の上を進むルートのようだが、今年は異常な暑さのためか雪渓がかなり溶けており、ハシゴやロープを使った岩場の巻き道を進んでいく。谷を降り進んだ先で、雪渓を横切る。一瞬で終わってしまったが、内心、崩れないかヒヤヒヤしていた。雪渓から離れてしばらく進むと真砂沢ロッジに到着。先に休んでいた2人組が、アッコさんが自分の体と同じくらいの荷物を背負って歩いていることにびっくりしていた。この2人組(通称タコ兄弟)とは、この後、下山まで何度も遭遇し、メンバーの一員かと思うほどに非常に仲良くなった。なだらかな沢沿いの道を暫く進むと、二股に到着。
二股吊橋手前の鎖場 ここから激しい登り。危険も特になさそうなので、各々のペースで進む。湿気も高く、汗を滝のようにかきながら登ると途中にベンチ。ちょうど休みたくなるところにあって嬉しかった。ベンチからは、剱岳の三ノ窓雪渓、小窓雪渓がよく見えた。タコ兄弟が先に休んでおり、この雪渓は氷河なのだと教えてもらった。再出発するも、急登は全く衰えず。途中で前方に小屋が見えるも、ここからが長い。汗まみれになりながらようやく仙人峠。仙人峠からは木道を交えつつ、しばらく進むと今夜の宿、仙人池ヒュッテ。小屋に到着後、しばらく待っているとハマコさんが到着。このあたりで雨が降ってきたため、ハマコさんが残りのメンバーの様子を見にいく。無事に雨が本降りになる前に全員小屋に到着。小屋にはお風呂があり、順番に案内された。最後の登りで疲れ果てた体に沁みた。その後、食堂で食事を作っていると、物珍しさとアッコさんの人望でタコ兄弟をはじめ、どんどん人が集まってきて、にぎやかな夕食だった。外は雨が降っているものの、翌日の降水確率が0%という予報を受けて、明日の逆さ剱を期待しながら眠りについた。

【9月17日】晴れ 記録:野畑
 前日の雨は夜半には上がり、翌朝にはすっかり晴れた。4時に起きて朝食を食べ出発準備をして、白んできた空を見ながら、小屋の目の前の仙人池逆さ剱ビュースポットに向かう。
 5時半ごろ剱岳に朝日が当たり始め、山頂からモルゲンロートが始まった。

仙人池に映る裏剱テイク3

 小屋から続々と人が出てきて、ピンクに染まる剱岳と水面に映った逆さ剱を見て歓声を上げる。しばし記念撮影をしたりしながら見惚れること15分。名残惜しいが小屋に戻って荷物を持ち、6時に出発した。
 阿曽原温泉までの行程は、一部登り返しはあるものの基本下りだ。一晩小屋の布団で手足を伸ばし、お風呂にも入らせてもらって英気も養っている。下の廊下が例年より早くこの週末にオープンしたとの情報を仕入れ、熾烈な幕場争いの話を諸先輩方から聞いていたので「一刻も早くテント場所を確保しなくては・・・」と思っていた。しかし、体力回復が追いつかなくなっている私は、早く歩ける自信がない。ここは、歩く力のある芦田くんとハマコちゃんに任せるしかない。仙人温泉小屋跡地までは全員で行き、そこからは2人にテントを託し先行して阿曽原温泉に向かってもらった。
 仙人温泉小屋跡地で休憩しようとしたら、見知ったスキンヘッドが2つ。昨夜仙人池ヒュッテの小屋泊で一緒になったタコ兄弟(アッコさん命名)だ。なんとも気さくに明るく話しかけてくる2人で、ここでもアッコさんのことを「あっこちゃん!」と呼び、アッコさんの手作り干柿を美味しそうにたくさん食べていた。この先ゴールの欅平まで、タコ兄弟とは深いご縁?で繋がることとなる。
 行程は基本下り、なのだが、あまりの晴天と標高が下がっていくため、なにしろ暑い。今年の夏は毎回熱中症になり苦しめられてきた。そのため今回は熱中症対策を万全にしてきたが、やはり暑いものは暑い。汗をポタポタ垂らしながら、なるべくゆっくり休み休み歩く。1,629mまでの登り返しはクリアし、今度は急坂の下りだ。ロープやハシゴが続き「これは登るのは大変だなぁ」と思いながらも、13時には仙人谷ダムに降りたった。
 休憩したのちに「はて、ここはどこからどう行くのだろう?」と思っていたら、なんと登山道出入口という張り紙が建屋の立派なドアに貼ってあるではないか!ドアを開けて入ると、そこは高熱隧道の世界。岩盤最高温度165度という灼熱のなかでの隧道建設工事は300人を超える犠牲者が出たという。本を読んでから来るべきだったと反省。トロッコの軌道を跨いでトンネルを進むと、程なくして外への出口がありまた登山道になった。
念願の阿曽原温泉  ここからはトラバース道で阿曽原温泉に向かうだけ!と思っていたのが甘かった。細かいアップダウンを挟みながら100m登りまた100m降りるという、いやらしい登山道だった。あとは急ぐこともないので、休憩しながら、ハシゴを確実に一歩一歩昇り降りし進んだ。
 阿曽原温泉に着いたとき、テント場から「おーいおーい!あっこちゃーん!」という声が聞こえた。なんと、芦田くんとハマコちゃんと一緒に、タコ兄弟が手を振って出迎えてくれているではないか!なんとも気持ちの良い元気な出迎えである。ホッとしてテント場所に降りると、思ったよりテントが少ない。2人は転びそうになりながらも使命感を持って急いでここまで来てくれたようで、なんだか申し訳ない気持ちになった。
 そのあとはお待ちかねの阿曽原温泉に浸かり、汗を流して、アッコさんの美味しい夕飯と杏仁豆腐に舌鼓を打った。(杏仁豆腐はタコ兄弟も一緒に食べた)

【9月18日】晴れ 記録:鈴木(章)
 今日で4日目 最終日だ。今日は、4人一緒に歩くことにした。此処まで、若者の力を借りて歩けたことを感謝している。
 新幹線の指定席を予約した芦田さんの時刻に合わせ、2時半起き、4時出発。暗闇の中、この時間に出発するパーティーも多い。
 ヘッドランプを点け、スタートは登りから始まる。しかし、この時間帯で、この蒸し暑さは、耐え難い。吹き出る汗にうんざり。今年、3回、熱中症をしているのが気掛り。水平歩道というが、梯子、鎖場の連続も有り、気が抜けない。体の小ささが悔やまれる。
水平歩道をゆく  焦る気持ちは全くないが、他のパーティーは我々をドンドン追い抜いていく。私は『亀』以下の歩行速度だが、辛いとか、帰りたいとか、後悔の気持ちは一切涌かなかった。
 折尾谷で一休み。大きな滝が有り、開放感のあるところだ。歩くのが遅い分、休憩は極力減らしたい。また、私には、歩き続けることに抵抗は感じない。とにかく前進前進、目標は12時着、12:34発のトロッコ電車に乗りたい。
 この道を歩くのは3度目?かな。記憶の有るところ、無いところ、道が新しくなったところも有った。14年前は仙人池~欅平駅まで5時間で歩いた。(池の平~欅平間 11時間)あの時は、これほど歩き難かったのだろうか。長い長~い水平歩道、それでも終わりがやってきた。歩き続けて6時間半、眼下に欅平駅が見えた。此処からが要注意、登山道は歩きやすくなったが、斜度のきつい下り階段、下りきるまで緊張が続く。芦田さんは、トロッコ電車の切符を買うため先を急ぎだした。
 野畑・私・長浜さんが最後の1段を降りるとそこは欅平駅。懐かしい景色が有った。更に、我々を追い越して行った数人の人が出迎えてくれた。
欅平にゴール!  私の後ろ姿は、大きなザックから、手足が僅かに出ている、立ち歩きをしている亀姿。印象的だったのだろうか、なんと!私は道中の有名人になっていたのだ。
 『スーパーばあちゃん ゴールに立つ!』
 こんな言葉が似合う、私がそこにいた。
 トロッコ電車は初めての芦田さんを乗せて、宇奈月温泉目指しゴットンゴットンと進む。4日間の山旅の終わりに似合う音と速さだ。皆さん本当にありがとうございました。
 入浴は、富山地方鉄道 宇奈月温泉駅近くにある温泉センターで(¥510)、食事は魚屋の食堂で。
 富山地方鉄道 新黒部駅で、彼らは新幹線・黒部宇奈月温泉駅に乗り換え帰宅して行った。
 歩きました。歩けました。何とか若者の力を借りて。
 昨年、計画をしたものの、出発3日前に自転車で転倒、膝の内部骨折。もう行けないなあと諦めていた時、長浜さんから同行希望。更に、野畑・芦田さんからも参加希望は嬉しかったが、テント泊。これは私にとって衝撃。三年間の、コロナ生活+骨折等で、重い荷物を持つこともなく四年間が過ぎ、山感も退化。今回全てが初挑戦。下記の歩行時間は私にとって怠けた結果の記録。何と、経験とか山感とかは消えていくスピードの早いこと。

私の歩行時間
(カッコ内 エアリアマップの歩行時間)
 1日目 4時間20分 (3時間25分)
 2日目 8時間30分 (5時間50分)
 3日目 9時間00分 (5時間50分)
 4日目 7時間20分 (5時間20分)

 下山して数日後、もう少しトレーニングをすれば、まだ、歩けるのではないか?と、もう一人の私が言う。
 次回は、『ウルトラ スーパー ばあちゃん』を目指して。
 山は、私が頑張ることを止めないだろう、きっと(笑)

〈コースタイム〉
【9月15日】 室堂(10:00) → 雷鳥沢ヒュッテ(10:40) → 剱沢キャンプ場(14:00)
【9月16日】 剱沢キャンプ場(5:55) → 真砂沢ロッジ(9:17~9:45) → 仙人新道ベンチ(12:14) → 仙人池ヒュッテ(13:50)
【9月17日】 仙人池ヒュッテ(6:00) → 仙人温泉小屋跡地(8:00~8:30) → 仙人谷ダム(13:00~13:20) → 阿曽原温泉(14:45)
【9月18日】 阿曽原温泉(4:00) → 大太鼓(7:25) → 志合谷(8:10) → 欅平(11:38)

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