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集中山行・苗場山
その3 縦走・信越トレイル
朴 明玉

山行日 2024年9月28日~29日
メンバー (L)朴

 信越トレイルは、全長110kmの裏山的な里山を中心としたトレイルです。
 そのうち、後付けで延伸された、森宮野原-苗場山の小赤沢3合目登山口区間は、山と言うよりは集落と集落をトレイル道で拾い歩くルートです。
 延伸区間は、ぐんま県境稜線トレイルとの接続を目指して白砂山まで伸ばす構想があったそうですが、佐武流山-白砂山間の激藪に阻まれて、苗場山までしか開通していません。
 稜線の縦走が好きな私は、信越トレイルは関田山脈パートだけ去年一気に歩き、延伸パートは歩くつもりはありませんでした。
 ところが、集中山行の集合場所が苗場山山頂となり、せっかく苗場山まで行くならば信越トレイルで行くか~、と思い立ちました。
 43km、累計登り2,800m強のコースに対して、日程が土日しか取れず、日曜正午山頂集合であるため、1日目は33kmをコースタイム倍率0.6で歩く必要があり、また、マニアックなコースのため、集中山行ですが一人で行くことにしました。
中津川。新潟ですが。
 興味のなかった延伸パートは、秘境中の秘境、秋山郷を五感で体感するにはうってつけでした。
 とくに、200年前に飢饉で村人が餓死し、村が消滅した甘酒村の跡地に立った時は、この厳しい自然環境に暮らしてきた秋山郷の人々の苦労が偲ばれて、言葉にできないほど胸が詰まりました。
 また、廃校となった小学校を再利用した宿泊施設・結東かたくりの宿の床が、ピカピカに磨かれて大事にされているのを目にして、明治から昭和の最初にかけての43年間もの間、僻地過ぎて教師を派遣できないとして、義務教育を免除されていた秋山郷の人々の、学校にかける熱い思いを垣間見た気がします。
 ここを歩いたことで、ブナ林の美しさだけじゃない、里と密接に結びついているのが特徴の、信越トレイルの隅々まで知ることができました。

甘酒村跡の慰霊碑  信越トレイル延伸パートは、山道と車道を行ったり来たりします。
 秘境の秋山郷において、車道区間の数少ない憩いスポット、大赤沢集落の山源木工で行動食のおにぎりを頬張っていたところ、ゆっくり通り過ぎた2台の車から視線を感じました。
 スモークガラスの車窓の向こうの視線とばっちり目が合った気がしました。
 しばらくすると、三峰のクライミングメンバーが私の元へ歩み寄ってきました。
 朝の大雨でクライミングを中止し、観光に切り替えたそうで、集中前日の思いがけない邂逅を喜び合いました。
 車で走り去る皆さんを見送った後、再びせっせと歩き始めます。
 小赤沢で、宿泊先の民宿のご近所の赤湯源泉かけ流し・楽養舘と、民宿の裏メニュー・熊肉のすき焼きを堪能し、1日目を終えました。

 2日目は苗場山アタックです。他の小赤沢コースのメンバーは小赤沢3合目からスタートするところを、私は0合目となる小赤沢集落から出発するため、万が一でも集中に遅刻しないよう、小雨の降る中、6時半出発にしました。
 やがて、小雨は上がり、晴れ間も見えるようになった頃、8合目で突如、草紅葉に彩られた金色の台地が目の前に広がります。
 天国のような光景に、この瞬間のためだけに歌詞を覚えてきた「天国のキッス」を歌いながら、木道を歩きました。
天国に手が届きそうな瞬間  結局早く着きすぎたようで、集合時間まで2時間、苗場山の先にある未踏の激藪区間の佐武流山-白砂山の妄想山行計画を立てたりしたりしながら、まったりと山頂で過ごしました。
 予定の正午を1時間弱回った頃、遅れていたメンバーも揃い、全員無事に集中できました。
 集合写真を撮ったなら、それまでの静寂なソロとは打って変わって、わいわい賑やかな下山の始まりです。私は赤湯温泉組に混ぜてもらいました。下りはガスガスで視界はありませんでしたが、1合下る度にパーティー全員揃って休憩し、皆さんの顔が見られたので飽きることはありませんでした。

〈コースタイム〉
【9月28日】 長野駅(5:10) → 【しなの鉄道】森宮野原駅(6:59) → 【森宮交通タクシー】 → 天水山松之山口(7:47) → 森宮野原駅(9:19) → 結東温泉かたくりの宿(13:20) → 小赤沢(15:55)
【9月29日】 小赤沢(6:28) → 小赤沢三合目登山口(7:24) → 苗場山(10:03)

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