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雪稜登攀・奥穂高岳南稜
甘川 由理

山行日 2025年4月26日~28日
メンバー (L)古屋、鎌倉、甘川

 年明け以来、山行の中止や敗退でなかなか思うように雪稜に行けておらず、もやもやしていた時に声をかけていただいた。

【4月26日】
 前泊地から沢渡駐車場に向かい8時半のバスで初めての上高地へ。上高地は山を始める前から来てみたいと思っていたものの、山を始めてからは逆にすぐ来るだろうと思ってなかなか来る機会がなかったので、ようやくといった感じがした。初めて上高地に来て、残雪期の奥穂に雪稜のルートから登るというのは、とても贅沢な気がする。
 初日は岳沢小屋までということで、かなり行動時間は短い。上高地の美しい景色に癒されながら、岳沢小屋へ向かう。上高地にはほとんど雪は残っていなかったが、高度を上げるにつれて雪が出てくる。沢沿いに出てからは少し風があり、締まった雪の上を登り続ける。「小屋がなかなか見えないね」と話しながら登っていると、なぜか小屋の先にあるはずの南稜取り付きが見えてきた。スコップの音がするなとふと左を見ると、小屋が!既に小屋より少し上まで登っていた。
 テントを設営して、南稜取り付きまで偵察へ。前の週に行った白馬主稜はかなり雪が溶けていて敗退したので、こちらはどうかと少し心配だったが、雪の状態はちょうどよさそう。クライムダウンの練習も少しして、テン場に戻った。事前の計画では、全装で南稜を登り、涸沢に降りるパターンと、軽荷で奥穂南稜から吊尾根と奥明神沢で岳沢小屋に戻るパターンのどちらにするか雪の状態などを見て、判断することになっていた。この雪の状態なら問題なさそうということで、吊尾根と奥明神沢を使うルートを行くことになった。翌日は朝早いので、早めに就寝。

【4月27日】
 2時半起床し、4時半にテン場を出発した。取り付きまでは30分ほどで、ちょうど明るくなっていた。基本は雪のついているところを登りながら、時々、岩や薮の部分を登り高度を上げていく。徐々に岩がメインとなり、トリコニーに到着。ホールドは豊富だったが、ロープはないので、慎重に登る。
トリコニーを進む  アイゼンで岩場を登るのも少しは慣れただろうか。トリコニー1峰はいつの間にか終わっており、何だか悪いところが多いなと思っていたら核心の2峰に入っていたようだ。かなり大きく1歩を出さないと届かないところはお助け紐を出してもらい進んだ。そこから少し進んでロープを出すべきか、やや不安なポイントへ。念の為、ロープを出すことになりしばらく休憩。リードの古屋さんが登っているが、難しそう。下からはよく見えないが、スラブ状の岩が登りにくそう。その先もよく見えない。やや左寄りから進んでしばらくしたところで、クライムダウンするとのこと。よく状況がわからないが?しばらくするとOKとのことだったので、アッセンダーで登る。最初から難しい・・・そして、下から見ていてどうするのかよくわからなかったスラブへ。
 古屋さんから左側からと言われたので、左を見るが左も右もよくない。右はツルツルなので、とりあえず左へ。左へある程度進むと、状況が理解できた。スラブをそのまま上に進むと実はその先は崖・・・トラバース気味に左へ進むのが正しかった。一息つけたかと思いきや、トラバースも難しかったが何とか安定したところへ。
 その後もリーチがほしいところはあったが、無事にトリコニーを通過。
 後は頂上に向かって登るのみ!快晴の中、八ヶ岳では見ることができないような雄大な景色を堪能しながら登る。雪も固すぎず、柔らかすぎず丁度いいくらいだった。「もし、早く降りれたら、今日中に下山もありかもね」などと話ながら進む。11時頃に山頂に到着!

リーチがほしい・・・奥穂高まであと少し!

 風がそれなりに強いので、写真を撮って早めに山頂から移動。山頂には多くの人がいたが、吊尾根方面に向かう人はおらず、トレースもない・・・かなり険しそうに見えるなとやや不安に思いながらも進む。風が強いのでなかなか休憩もできないが、不安定な岩場を慎重に進むしかない。体感ではかなり進んだつもりだが、ようやく見えてきたのは山頂のすぐ近くの南稜の頭。まさかほとんど進んでないとは。先が思いやられる。風が強いので、あまり休憩はできず、先に進む。夏道のはずだが、アイゼンだとかなり歩きにくく、岩に引っかからないように慎重に進む。かなり急な雪の斜面をやや下り気味にトラバースするところも多く、滑落しないように注意する必要があり疲れた。奥穂高に向かっていた時にはこのルートを登るとよさそうかなと考えて、リーダーが選択するルートと比べるなど、いろいろと考える余裕があったが、このころにはその余裕は消え去り、ただ前を追うだけになってしまったのが反省点だ。
滑落しないように慎重に  相変わらず風が吹き続け、なかなか休憩出来なかったが、何とかちょうどいい岩影を見つけて休憩。その後も夏道を追いながら下り気味にトラバースを続けるが、途中から夏道もよくわからなくなった。夏道らしきところが雪に覆われており、通れそうにない。まさかこんなところで、懸垂が必要になるとはという感じだっだが、松に捨て縄をかけ懸垂した。雪稜では懸垂支点も限られ、これまでほとんど予定外の懸垂はしたことがなかったので、勉強になった。
 重太郎新道との合流点を目指して進んでいたが、途中でよく考えると下山は奥明神沢だから、合流点まで行かずに直接前穂高に向かった方がよいことに気づく。降りてきたのにまた登るのかと、やや絶望的な気持ちになりながらも、とにかく登る。先頭を鎌倉さんに交代したが、鎌倉さんはどんどん登っていきがついていけない。とにかく無心で山頂を目指した。山頂は特に特徴もなく、ただ小高い丘の上という様相だったが、たくさんの踏跡があり安心した。
 ここからの下りは本当に早かった。踏跡は明瞭だったので、ルートはわかりやすく、雪の状態もちょうど良かったので、一部雪が固くなっているところを除きスムーズに降りれた。これまで登りに比べて下りは苦手で、前の週に行った白馬ではかなり慎重にゆっくりとしか降りれなかったが、疲れていたことで無駄な力や恐怖心がなくなったからかこれまでで一番早くスムーズに降りられた。とはいえ古屋さんや鎌倉さんのペースについていけた訳ではないが、それほど離れることなく下山できた。小屋が見えたところで、30分ほど長めに休憩して一息。明るいうちに下山ができそうでよかったと胸を撫で下ろす。
 奥明神沢の下降が簡単だったからよかったものの、吊尾根レベルの難易度だったらと思うとゾッとする。しばらく放心状態で食事もあまりしたくないほど疲れたが、とても充実した山行になった。
 翌日は上高地までゆっくり移動し、少し上高地でのんびりしてから帰京した。

〈コースタイム〉
【4月26日】 上高地(9:30) → 岳沢小屋(12:30)
【4月27日】 岳沢小屋(4:20) → 南稜取り付き(4:55) → トリコニー(6:55) → トリコニー終了(9:00) → 奥穂高山頂(11:00) → 南稜の頭(11:25) → 前穂高山頂(15:50) → 岳沢小屋(17:30)
【4月28日】 岳沢小屋(7:30) → 上高地 (9:00)

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