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八ヶ岳権現沢右俣正面ルンゼ
山越 勲

山行日 1962年11月3日~4日
メンバー (L)山越、小島(作)、渡部、花岡

11月3日 曇のち風雨(ミゾレ)
 清里より清泉寮経由地獄谷に入る。この谷には珍しくかなりパーティが入谷している。天候が怪しく今にも一雨きそうだが、正面ルンゼ出合までに降らなかったら登高と決する。両俣は右に入り、第一の滝が見参、正面を登る。続いて小さな滝を越すと岩壁を二つに割ったような正面ルンゼの出合だ。ルンゼに入って最初の滝は悪いので悪いのでKを除いてアンザイレンする。二番目は正面直登、更にもう一本越すと30mくらいのボロボロの岩壁が現れ、その下で二俣になっている。左本流はハングした岩壁の上から水滴を落とし、右も険悪な様相なので基部のバンドを伝って左岸の森林帯に入り、右の沢の上部を横断して本流に降りる。降りた所は右岸からかなり大きな枝沢が出合った少し上部だ。雪が降り始めたが気温が下がらないのでミゾレとなり最悪の状態だ。岩の凹みに集結し食事をしながら登高か否かを協議したが、ここからの下降も相当悪いので登高と決する。ガスが濃く天候回復の兆しもないので30mザイルに四人入って出発。10~20mくらいの棚が次々に現れるが岩に薄氷が張っているのでなかなかショッパイ。やがて沢は右に屈曲して上方がやや開ける。森林限界だ。スラブ状の凹角を雪に足を突っ込んで強引に登り切った所から詰めのスラブが上方に続いていた。乳白色のガスを通してバットレスが眼前だ。岩の部分は氷が張り詰めて登れないので左右の草付きをルートに選ぶ。急傾斜の草付きを強引に登るが確保点がなく、後に30mザイルを繋ぐ。60mいっぱいで不安定なテラスに出る。ここで後続を確保。ここからは傾斜も少し落ちてコンテニュアスでバットレスの基部に立つことができた。横殴りの風雨は激しく休憩は許されない。ずぶ濡れなので体温が急速に奪われていく。一刻も早く稜線に出ることが急務だ。基部のバンドを右に回り込んで雑木帯を直上する。腕の抜けるような急傾斜と疲労が甚だしいので慎重を期してスタカットに切り換える。幾度か怒鳴りあいながら見覚えのあるバットレスの頭に出た時はホッとした。ザイルを引き摺りながら縦走路に出てようやくザイルを解く。棒のようなザイルは携行できないので放棄して、権現岳直下の小屋に退避する。先着の避難パーティによってストーブが焚かれていたので暖をとり、シュラフに入る人達を横目で見ながらツェルトを被る。この日、同じ地獄谷の天狗尾根で一人の若人が不帰の人になった。
11月4日 晴のち雨
 虐げられた夜を過ごしても朝は楽しい。昨日の苦闘が夢のように感じられる。ザイルを回収して友達の待つ行者に行くWと別れて三ツ頭に向かう。途中昼寝を楽しんで甲斐大泉に下った。

〈コースタイム〉
11/3 清里(6:50) → 清泉寮(7:15) → 美しの森分岐点(7:40~7:50) → 地獄谷河原(8:20) → 権現沢出合(9:20) → 正面ルンゼ出合(9:45~10:00) → バットレスの頭(16:30) → 権現岳頂上(16:35) → 小屋(16:40)(泊)
11/4 小屋発(7:50) → 三ツ頭(8:35~9:00) → 天女山(11:15) → 甲斐大泉(11:45)


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