山行日　1964年11月15日
メンバー　(L)宮坂、堀口

　四尾連湖という変った名の湖は山梨県の天子山塊の一隅にある蛾ヶ岳の懐に抱かれた静かな湖である。
　11月と1月と2度行ったので報告というつもりでなくご紹介したいと思う。
　新宿を夜行でなるべく遅く出発する。甲府で身延線に乗換えるのだが、身延線の一番電車が5時8分だから早く出発しても同じという訳である。もっとも早く甲府に着けばホームに待機中の電車にもぐり込んで寝る手もあろう。
　1回目は例会で参加者は堀口さん唯一人。始発電車が甲府を出て30分余り、市川本町に着いても11月中旬のこと故、まだ暗くて寒い。駅の事務室に入れて貰って朝食にする。ストーブが暖かいのでなかなか腰が上らない。
　やっと6時40分出発。駅から出て街道を右に曲り(甲府の方へ戻るように)4、5分で指導標により医院の角を右に入る。踏切を渡って小登りになる。南アルプスの櫛形山が大きな山容を現わしている。畑地の中を通り社宅だか町営住宅だかを右に見てやや狭くなった道を入って行く。真正面が目指す山である。小流れを渡っていよいよ登りとなる(一合目)。ここで言い忘れたが、小流れとは言ったが、この沢の水はとても飲めたものではない。四尾連湖に着くまで水はないから、駅で水筒に水を詰めて来るのを忘れぬよう。
　三合目辺りから富士川を隔てた南アルプスの山が次第にせり上って来る。一合目から約1時間、下から見て10本くらいの松の木の見える丸い小山が五合目である。ここまで来ればぐんと眺望が展開してくる。甲府盆地の向うに八ヶ岳がくっきりと浮かび上って見える。
　小休止の後、登りを続ける。七合目辺りから右へ転回を始め、前方に四尾連峠付近が見えて来るので元気づけられる。案外気にする程もなく四尾連峠(十合目)だ。左へ行けば大畠山を経て蛾ヶ岳への道である。目の下には四尾連湖の青く澄んだ水が一部垣間見られた。嬉しくなって思わずスタコラ走り下ってしまった。
　今日は全くの秋晴れで林の中から銀色に輝やくススキの穂波を通して湖水の全容が見渡せるようになると水明荘ともう一軒の宿が目の下に現れる。その間に点在するバンガローも好もしい限りだ。
　水明荘で昼食の後、再び四尾連峠まで登り返えし、大畠山へ向う。しばらくは林の中の楽な登りで湖水は見えないが、大畠山まで来ると、目の下に牛の目のように青く澄んだ四尾連湖の全容が見下ろせるようになる。ため息の出るような景観である。
　蛾ヶ岳の山頂からは本栖湖(見えない)の向うに富士山がくっきりと聳えていた。2時間の大休止の後、地図にはない道を中山へ向って下る。これは見当で下ったので中山へと思ったのが、尾根筋に道がなく、右の沢筋に道が見えたのでそれに向って下り、出た所は高荻であった。バスは通っているが、あと2時間程待たねばならないので、歩くことにした。中山辺りまで歩いて来ると犬を3匹連れた鉄砲打ちが小型トラックで通りかかり、芦川駅まで乗せてくれた。

〈コースタイム〉
市川本町(6:40) → 一合目(7:00) → 五合目(8:05～8:15) → 四尾連峠(9:20) → 水明荘(9:25～10:35) → 四尾連峠(10:50) → 蛾ヶ岳(11:15～13:20) → 高萩(15:20) → 芦川駅(16:30)

　2回目は1月23、24日である。土曜の昼間から5人で行ったので賑やかだった。今日も天気がよい。七合目辺りから上は積雪が現われる。水明荘でバンガロー1棟借りて泊る。コタツ付きで至極快適だ。
　湖水は暖冬で西側の陽当りの悪い部分のみしか凍っておらず、若い人が猫の額のような所でスケートを楽しんでいた。あんなに滑り廻って氷の薄い所で落ちやしないかと気をもんでしまう。
　翌朝はのんびり起き出して、蛾ヶ岳へ向う。雪も適当にしまっていて快適に頂上に立つことが出来た。帰路は再び往路を戻り、大畠山から水明荘へ直接下り、小憩の後、湖畔を半周して神社の横手から市川大門駅への道を下って行く。部落の中を通りぬけ寒風の吹きすさぶ長い長い飽きるような道だった。

〈コースタイム〉
四尾連湖(10:40) → 蛾ヶ岳(12:15～12:40) → 四尾連湖(13:25～15:00) → 小守神社(15:12) → 四尾連部落(15:20) → 藤田(15:40) → 市川大門駅(17:25)